Sランク冒険者の俺が、雑魚だらけの弱小Fランクパーティーに加入するわけないだろ!! いい加減にしろ!!   作:枩葉松

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第10話 おいでよ爆乳村

 

「あー、疲れたー……まだかよぉー……」

「その言葉、今日で十回目だぞ。いい加減にしろ、落ち着きのない子どもかっ」

 

 馬車で移動すること三日。

 俺は座席に浅く腰掛け、天井を眺めながらぼやいた。

 

 目的地は、北部の森の中に建つ古城。

 

 どうしてそんなところへ行くかというと、クロウはその古城周辺で仲間と仕事をし、帰って来た時にはおかしくなっていたのだとか。

 だからやつの父親は、古城かその周辺にいるやつが何か悪さをしているんじゃないか、息子はそこにいるんじゃないか、と予想している。

 

 ちなみに、クロウと一緒に仕事をした連中も、軒並みおかしなことを言い出して現在失踪中。

 どこでも好きなとこに行けばいいけど、せめて日帰りできる距離にしてくれよ。

 長時間の移動に耐えられるほど若くないんだ。

 

「道中聞いた話だが、クロウたちの他にも同様の症状を見せ失踪した者が何十人もいるらしい。古城のある方向へ、獣のような速度で走っていくのを見たという証言もある」

「はえー」

「何よりも奇妙なのが……クロウ、そして他の者たちは皆、周囲の知人友人を先生とやらに会わせようとしたそうだ。時には私財をなげうち、会ってくれ、一度でいいから話してくれと懇願したのだとか。それに誘われて会った者も同じような言動をとり、やはり失踪している……」

「ほえー……あっ、うんこ落ちてる」

「聞いているのかあなたは!?」

 

 怒鳴るヴァイオレットを一瞥し、俺は今日何度目になるかわからないため息をついた。

 

 聞いてる、全部聞いてるって。

 何かあることはわかった。

 

 俺の予想が正しければ、()()()()()()()()()()

 

 でも、ここで仮に俺が……Sランク冒険者が少しでも不安そうな気配を出したら、このパーティーの士気は地に落ちる。仕事に臨む前からそれは、流石にまずい。

 

 俺は支援職だ。

 こいつらをサポートするのが役目。

 士気の維持だって職務の一部。

 

 きっちり仕事はするぜ。

 金とか乳とか、貰うものもらってるからな。

 

「楽しみだねー!」

「……んふふ」

「なに食べようかなぁ!」

 

 向かいの席で話すエリシアとゼラ。

 やけに楽しそうなので、「どうかしたのか?」と俺は尋ねた。

 

「もうちょっと行ったら、あたしとゼラちゃんの故郷があるの!」

「……せっかくだし……寄りたい」

「だね! お母さんたちに最後に会ったの、もう一年以上前だし!」

 

 ふーん。俺にはよくわかんねえな、故郷とかねえし。

 ってか、仕事ついでに帰郷とかたるんでるなぁオイ。こっちは気をつかって、色々顔に出さないようにしてるってのによ。

 

 はぁー、結局あれか?

 真面目なやつが損するってやつか?

 

 この仕事が終わったら、たまには一発説教入れてやろう。

 仕事には緊張感が大事だってことを教えてやる。

 冒険者を何だと思ってるんだ。

 

 

 …………ん?

 

 

 お、おい待て。

 二人の故郷ってことは……。

 

 だ、ダブルSカップの原産地!?

 

 つまり、Sカップがいっぱいいるかもしれないってこと!?

 おいでよ爆乳村ってことぉ!?

 

 そ、そんなの……最高じゃん!!

 わくわく!!

 

「どいつもこいつも緊張感がなさ過ぎる……! ワタシがしっかりしないと……!」

 

 隣でヴァイオレットがブツブツ何か言っているが、俺は爆乳村が楽しみ過ぎてそれどころではなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

『ご、ごめんなさい、おかあさん!! ごめんっ……ごめんなさい!!』

 

 あたしは【火神の加護】を持って生まれた。

 その力を制御できず、小さい頃は何度もお母さんに火傷を負わせてしまった。

 

『こんな力、やだっ……! こんなのいらないよぉ……!』

 

 寝ぼけて発火し、怒って発火し、何もなくても発火し。

 そのせいで家は二度全焼し、お父さんはあたしに愛想を尽かしてどこかへ行ってしまった。

 

 友達もできず、当然ご近所さんたちからも避けられて、いつもひとりぼっち。

 

 どうしようもない現実を前に、あたしはいつも泣いていた。

 

『エリシアの力は、神様からのお恵みなの。いつかきっと使いこなせるようになるって、お母さんは信じているわ。だから一緒に、諦めず頑張りましょ?』

 

 火傷まみれの手であたしを撫でて、爛れた腕で抱き締めてくれたお母さん。

 おかげで勝手に燃えないよう抑えられるようになったし、友達もできた。

 

 そんなお母さんに恩返しがしたくて、ゼラちゃんと一緒に冒険者を始めて、色々あったけど今はちゃんと稼げてる。

 

 だから今日は、貯めたお金とちょっとしたプレゼントを持ってきた。

 あたしとお揃いの髪飾り……お母さん、喜んでくれたらいいなぁ。

 

「ただいまー! みんな、帰ったよー!」

 

 村の門をくぐって、目一杯声を張り上げた。

 

 石造りの家々が並ぶ、人口五百人くらいの故郷。

 いつもお爺ちゃんが門番代わりにこのへんに座ってるんだけど……おかしい、いないなぁ。

 

「静かすぎないか?」

「あぁ……少し妙だな」

 

 後ろから来たレイデンさんとヴァイオレットさんが、眉を寄せながら言った。

 あたしはゼラちゃんと顔を見合わせ、一緒に走り出した。

 

「ごめんくださーい!!」

 

 ドアをノックする。

 

「いるー!? いるなら返事して!!」

 

 別の家のドアを叩いた。

 

「お母さん!? あたし、帰って来たよ!!」

 

 実家の扉を開いた――が、誰もいない。

 別の家を周っていたゼラちゃんは、静かに首を横に振る。

 

 誰も……誰一人、どこにもいない。

 

「おい誰か、こっちに来てくれ!」

 

 ヴァイオレットさんの声に、あたしたちは勢いよく駆け出した。

 

 村の広場。

 その中央にいたヴァイオレットさんは、掲示板の方をジッと見つめている。

 

「どうしたの! 誰かいた!?」

「あ、あそこに人が……知り合いか?」

 

 掲示板に隠れるようにしてこちらをうかがう影が一つ。

 

 顔はほぼ隠れているが、その目元を知っていた。

 知らないわけがなかった。

 

「お母さん!? ど、どうしたの、そんなとこで……!? ほら、あたし帰って――」

 

 言いながら歩み寄った、その時。

 

 お母さんが、()()()()()()()跳躍した。

 何の加護もない、魔術も使えない、運動だってからっきしなお母さんが。

 

 太陽を背に、落ちて来る。

 あたしの元へ。

 

「いんみゃアあぁあ!! エリしアぁ!! おかえりィいいいい!!」

「っ!? ちょ、えぇ!? お母さん!?」

 

 あたしを地面へ押し倒し、身体を軋ませながら叫ぶお母さん。

 その力は凄まじく、まったく振り解けそうにない。

 

「な、何だ!? 何がどうなってる!?」

「あたしにもわかんないよ!! お母さん!! 話を聞いてっ……お願いだから!!」

 

 お母さんの目は焦点が合っておらず、涎を垂らし、一心不乱にあたしに襲い掛かる。

 わけが分からず、ただ頭の中を疑問符が埋め尽くす。理解不能な現実に吐き気を覚える。

 

 お母さんは……あの優しいあ母さんが、どうして?

 何がどうして、こうなったの……!?

 

「――【強制停止(とまれ)】」

 

 瞬間、お母さんは時間が止まったように静止した。

 あたしたちの声を聞いて駆け付けたレイデンさんが助けてくれたんだ。

 

「あ、ありがとう、助かった……あっ!! こ、殺さないで!! だめ、殺しちゃやだ!! この人、変になっちゃってるけどあたしのお母さんなの!!」

「わかってる、わかってるから。安心しろ、ただ動きを止めとくだけだ」

 

 レイデンさんは小さく息をついて、お母さんの周りをぐるっと見て、何か確信を得たような顔で頷いた。

 

「レイデン殿……これは一体、何がどうなっている。村人は? エリシアの母親は、なぜ正気を失っているんだ? それに、あの身体能力は……」

「……それを言う前に、先に謝っとく。俺はこの仕事の真相に、何となく予想がついてた。でも、間違ってて士気が下がっちゃまずいと思って黙ってた」

「謝罪をするということは、レイデン殿の予想が当たっていたと……そういうことか?」

 

 頷いて、お母さんの唇を開き、あたしたちに見るように目配せした。

 そこにあったのは……な、何これ? 牙……?

 

「……吸血鬼(ヴァンパイア)……」

 

 ぽつりと、ゼラちゃんが呟いた。

 それを聞いて、レイデンさんは「その通りだ」と返す。

 

「ちょっと待て! 吸血鬼……人間の血を吸い眷属にする厄介なモンスターだが、やつらは太陽の下じゃ活動できない! 見ろ、今は昼間だぞ!?」

「そうだな。日の光を浴びたら、やつらは灰になっちまう。眷属だって、例外なく。――でもそれは、A()()()()()()の吸血鬼の話だ」

 

 その言葉に、あたしたちの背筋は自然と伸びた。

 レイデンさんは面倒くさそうに頭を掻いて、忌々しそうに舌打ちをする。

 

「十五年前……俺は、〈竜の宿り木(おれたち)〉は、ある仕事を受けた。特異個体(ネームド)不死の王(ノーライフキング)〟――首都を占領して全住民を眷属化し、ここは自分の領土だと宣言したS()()()()の吸血鬼の討伐だ」

 

 小さい頃、話に聞いたことはあった。

 

 曰く、一夜にして一つの国が一体のモンスターに乗っ取られたと。

 曰く、そのモンスターは不死身で誰も勝てず、だけど〈竜の宿り木〉が討ち獲ったと。

 

「仕事は上手くいった……でも、当時の俺たちじゃ完全には殺し切れなかった。奴の不死性は想像を絶する。全身を潰して、灰にして、塵にして……それでも何十年か、何百年かすればまたどこかで復活するだろうって言われてたんだ」

「つまり今回の事件は、その吸血鬼の仕業ということか?」

「だと思う。ちょっと()()()()()()()のは気になるが……あいつの力は他と比較にならないから、こうやって眷属にされると正気を失うんだよ。太陽を克服してるってのも、特徴として合致する。目的地の古城に近づくにつれて失踪者が増えてたから、一番近いここの住民が全員眷属化されてたっておかしくはない」

 

 ふと、お母さんの方を見た。

 剥き出しになった瞳には、今、何が映っているのか。あたしは胸が苦しくなり、そっと手を添えてお母さんのまぶたを下ろす。

 

「も、戻るの……? お母さんは……村のみんなは、元に戻せるんだよね!?」

「安心しろ。当時も奴を完全に無力化した時点で、眷属にされた連中は元に戻った」

「そっか! うん、ならよかった!」

「……でも、それ、倒せたらの話……」

 

 ゼラちゃんの現実的な一言に、あたしは視線を伏せた。

 

 この一ヵ月でCランクになった。

 お母さんに誇れるくらいには強くなった。

 

 ……けど。

 

 まだ、足りない。

 まだあたしは、レイデンさんとヴァイオレットさんの足を引っ張ってばかり。

 

 こんな状態で、Sランクなんて倒せるわけがない……!

 

「――メソメソするなよ、鬱陶しいなぁ」

 

 と言って、レイデンさんはあたしとゼラちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でくり回した。

 乱暴でちょっと痛いけど……でも不思議と、優しさが伝わってくる。

 

「眷属にしてからわざと家に帰して、理性が続く限りショボい勧誘活動やらせて……今の奴は、当時よりも明らかに弱ってる。つまり今が、絶好の叩き時ってことだ」

 

 不安を拭うよう語って、「それによ」と快活な声で言い加えた。

 

「お前ら、俺を誰だと思ってるんだ」

 

 見上げると、彼は笑っていた。

 いつもの軽薄で余裕たっぷりな笑みを浮かべていた。

 

「こちとら経験豊富なSランク冒険者様だぞ。お前らの乳がまだまな板だった頃から、不死だの無敵だの全知だのって化け物ぶっ殺して、稼いだ金でどんちゃん騒ぎしてきたんだ。――うだうだ言わず、いつも通りついて来い」

 

 パシッとあたしのお尻を叩いて、愉快そうに笑いながら歩いて行った。

 手をポケットに突っ込んで、ふらふらと。これからSランクモンスターの元へ行くというのに、何の緊張感もない。

 

「……二人とも、気づいているか?」

「「え?」」

 

 ヴァイオレットさんは、そっとあたしたちの肩に手を置いた。

 その青い瞳は、ジッとレイデンさんの背中を見つめていた。

 

「凄まじい闘気だ……きっとレイデン殿は、怒っているのだろう。敵を殺し切れなかったことを、かつての自分の未熟さを、それによって被害を出してしまったことを……!」

 

 言われてみると、確かにいつか酒場で感じたような気迫がにじみ出ていた。

 

 それを押し殺して、あたしたちが不安にならないよう普段通り振る舞う。

 その心遣いに、強さに、本当にすごい人なんだなと改めて思う。

 

 ――あのひとについて行きたいと、自然と足が前へ進む。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 俺は怒っていた。

 もうこれ以上ないってくらいに怒っていた。

 

「エリシアの母親、すげー美人だった……しかも、やっぱりSカップだった……!」

 

 こうなれば、きっとゼラの母親もSカップだ。

 小さい村だから親戚とかも多いだろうし、おそらくそいつらもSカップだろう。

 

 〝不死の王(クソヒル)〟が……乳のデカい女から自由意志を奪いやがって。

 許さねえ。絶対に許さねえからな。

 

 ――爆乳村は、俺が取り戻す。

 

 




 乳のデカい、が重要です。
 この男、乳がデカくなかったら(ry
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