謎の商人ロールプレイ   作:誰かさん

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内乱

 ベート・ローガはロキ・ファミリアの新参者である。他のファミリアから半ば追放される形で移籍しており、それはもう荒れ狂っている――というのも少し前までの話。今では空気に慣れてきたのと、幹部の面々に叩き潰されたのも手伝い、最低限の集団行動はできるようになっていた。

 当たり前だが、ロキ・ファミリアは古巣であるヴィーザル・ファミリアといろいろな事が違う。

 ファミリアの色とでも言うべきものは、主神と幹部によって変わる。ベートは前のファミリアで団長を務めており、つまりファミリアの大部分は彼の決定によって動いていた。そこから一団員となったのだから、当然勝手は変わる。

 かつては一日に三回のペースで誰かと衝突していたが、今では週に一回ほどまで減った(これは団員がベートを理解し、いちいち相手にしなくなったというのも大きいが)。

 つまりベートは、団長時代とは比べものにならないほど平穏で暢気な日々を送っていた。ほんの一週間ほど前までは。

 

「だっる……」

 

 そんな風に呟いているのは、慣れた私室でも、ホーム内の共用部でもない。借宿の一室だ。

 一年ほど前、ロキ・ファミリアの三幹部が黄昏の館をまるごと破壊した。正確に言えば主犯はリヴェリアなのだが、危機管理を怠って止めなかった二人も、罪状としては大差ないだろう。

 あくまで内々の推測でしかないが、推定Lv.12以上ではないかと思われる式神を召喚。ホームもファミリアもあっという間に壊滅し、なんとかアイズが足止めをしている間に送還する。この事実をベートが知ったのは、その日の夜にダンジョンから帰ってきてからだった。ちなみに、かつてホームだった場所に何もなくなった事を知った時、さすがの彼も愕然とした。

 

「あのクソババア、説教くせえが忍耐と分別だけはあると思ってたんだがな」

 

 まさか、甘い目測からホーム崩壊までやらかすとは思っていなかった。散々悪態をついてきたし、何度もババアと罵ってきたが、そういう所は信用していたのだが……。

 まあなってしまったものは、今更とやかく言っても仕方ない。今更追加で誹ったところで、事態が変わる訳でもないし。記録に残るレベルのやらかしをした割には、妙に満足げだったのだけは腹が立ったものの。

 おおむねやることのないベートは、慣れない部屋で慣れない惰眠をむさぼっていた。

 午後からはホーム再建の資材運搬班に入っているので、下手に出歩けない。ならば鍛錬の一つでもしたいが、ここはあくまで借り物の宿。黄昏の館みたいに広い訓練場があるわけでもないので、体を動かすのにも場所を選ぶ必要があった。

 借宿に泊まる事には慣れている。が、長居をするのはさすがに違和感があった。ホーム再建まではまだ数ヶ月、下手したら年単位の月日を必要として、考えるだけで気が滅入った。

 周囲の被害者に対しても、なるべく出費を少なくするため、団員ができることは可能な限り行っていた。それが、ホーム再建をさらに遅らせた理由でもある。

 先はまだまだ長い。終わりが見えるのはいつになるやら。

 

「ちっ。鈍るぜ」

 

 一度意識してしまうと、苛立ちが収まらなくなる。

 普段なら、こういう時は体を思い切り動かしていたが。窮屈である事が、こんなにもかったるいとは思わなかった。

 大きくため息をつきながら、椅子に思い切り寄りかかった。いっそ寝てしまおうかと考える。実際に眠れるかはともかくとして、無意味に苛立ちを募らせるよりは、いくらかマシな選択に思えた。

 まあ当然、そんな選択を取るわけもなく。椅子の軋みで遊ぶのを辞め、姿勢を戻した。

 

「……?」

 

 戻したはずである。にもかかわらず、椅子はぎしぎしと鳴り続けた。

 怪訝に思い耳を澄ませると、気がつく。鳴っているのは椅子ではなく、宿の方だと。

 

「ったく、どこの馬鹿だよ」

 

 仕方なしにと、ベートは腰を上げた。

 天下のロキ・ファミリアと言えど、所詮は冒険者――つまりただの荒くれ者集団だ。多少はお行儀がいいと言っても、状況を弁えず羽目を外す阿呆はいる。むしろ集団が大きくなればなるほど、そういった輩の割合が増えることを、元団長の彼は知っていた。

 少し注意でもするか、などと思いながら、部屋を出て行く。

 

「そもそも誰か止めろってんだ」

 

 音源は、どうやら一階らしい。

 この宿は一階に軽く食事をできる場所があり、他も従業員の為の設備だ。一般宿泊客が立ち入れるのはそこだけなので、迷う事もない。さすがに立ち入り禁止の場所で騒ぐほどの馬鹿はいないだろう。いたらまあ、粛正だ。

 階段の降りがけで、ベートは思わず固まる。

 一階と二階だけは吹き抜けができているため、階段を降りている途中で広間を見下ろせる。特に何があるわけでもない、一般的な建築様式の一つだ。

 ただ、彼が足を止めてしまったのは。騒ぎを起こした阿呆というのがロキ・ファミリアの三幹部であり、うち二人が身を寄せ合って怯え、もう一人が威圧しているからだった。

 理解を拒んでいた脳が動き出して真っ先に考えたのは、なるほどという事だった。

 ロキ・ファミリアの木っ端同士が騒ぎを起こしているのなら、双方にげんこつを落として終わる。第二級冒険者以上でも、多少騒ぎは大きくなるが、似たようなものだろう。しかし、頂点である三人の争いとなってしまえば、遠巻きになろうというもの。迂闊に口を挟めるものではない。

 この三人が喧嘩をしている所自体が珍しく(全員、それなりに大人ではあるのだ)、それ以上に、ガレスが激怒しているのは稀だ。一番忍耐強い彼に何をしたらここまで怒るのだ、と思う程度には。

 

「おい、こりゃあ何があったんだ?」

「あ、ベート」

 

 階段を降りて、一番近くにいた団員(名前は覚えてない)に話しかける。

 彼女は頬に手を当てて悩んでいた。説明に困ると言うよりは、状況を飲み込むのが困難であるという様子で。

 

「なんて言っていいのか、というか言っていいのかすら分からないんだけど……」

「その反応な時点で、ずいぶん馬鹿馬鹿しい事で喧嘩が起きたのは分かるけどよ」

「そもそもこれって、喧嘩って言っていいのかな。微妙なところ」

 

 なおさら訳が分からず、見守る。

 周囲は結構な騒ぎになっているのだが、当事者だ達はそれに気付かないくらい切羽詰まっているようだ。とりわけガレスは、全身から怒気を噴出させつつ威圧し続けている。初めて知ったが、彼は怒るとむしろ黙るタイプらしい。

 

「貴様らは、もう少し自重できると思っていたのだがな」

 

 ゴゴゴゴゴ……とでも音がしそうな、ガレスの威圧。その圧力は、実のところただの印象ではなく、実際に()()として放たれているものだ。

 黄昏の館(ホーム)が崩壊する前、覇気薬なるものが出回った。これは恐らく物語の進行に合わせられたもので、ドレスローザ編が佳境に入ってくる当たりに、それなりに習熟する者が現れるよう調整されたと思われる。覇気薬が導入された理由の一つには、間違いなくぽつぽつと自然系(ロギア)能力者が現れたことも理由だろう。

 出所は例によって、謎のファミリアだ。今回は本屋ではなく薬屋へ一斉に配られ、しかも覇気薬のレシピまで配布されている。渡されたのは大手から個人経営店まで均等で、つまり新人冒険者でも買える値段に抑えられていた。あくまでオラリオでの生産が始まっていない今のところは、だが。

 そんな事情もあって、現在ではオラリオのほぼ全冒険者が覇気使いである。あくまで理論上はの話ではあるものの。

 覇気薬はあくまで覇気の素養に目覚めさせる薬であって、飲めば自由自在に扱えるほど便利ではない(そんなものを謎のファミリアが出した試しもないし)。まあ、ここらは既存のものと一緒と言えば一緒である。

 ともあれガレス、現時点でオラリオ最高の覇気使いであり。とりわけ武装色は、一時的ながらヴェルゴみたく武器を黒色に染めるほどだった。

 今も両腕を真っ黒に染めて、ぎしぎしと音が鳴るほど握りしめている。

 

「儂も大人の態度で見逃してきた。しかし、ものには限度があると言うことを知らんのか?」

 

 ひげすら逆立つのではないかと思える表情の奥から、歯ぎしりの音がひっきりなしに響いていた。なんというか、その、なんだ。シンプルに怖い。

 

「いつもいつも、何度も何度も何度もなんっども見逃してやった。気持ちは分からなく無いからな。いつか落ち着くだろうと信じて……しかし貴様らは、よりにもよってさらに調子に乗った。あえて言おう、舐めとんのか」

「いや、待つのだガレス。私達もその……調子に乗っていたことは認める。だから落ち着いてくれ、な?」

「ああ、全面的に僕達が悪かった。だから、話し合おうじゃないか」

「このボケども! 人がキレるまでそうしようと思えんかったのか!」

 

 あらん限りの怒声に、ひぃ、と二人が縮こまる。

 これは重症だな、とベートは判断した。我を忘れてまで怒るガレスもそうだが、周囲がフィンとリヴェリアを一切かばわないという点でも。ロキ・ファミリア内では、基本的に頭脳担当であるフィンとリヴェリアの意見が尊重されやすい。

 ただ、喧嘩の理由が何であったとしても、ベートは止めなければならいと義務感に駆られた。それは、曲がりなりにも団長を務めていた経験からのもの。いざというときは、自分が汚れ役を買ってでも行わなければならない。

 

「明けても暮れても能力自慢しよってからにィ! このクソどもがアァ!」

 

 そして、ベートは出しかけていた足をすぐ引っ込めた。だってそれは怒るのも仕方ないし、なんならベートだって怒る自信がある。

 オラリオは大漫画時代と言っていい。初対面の人間とは、まず漫画の話で打ち解けろとまで言われている程なのだ。ベートだって、斜に構えて「俺はONE PIECEなんかに興味ねーぜ」みたいな顔をしているが、実は隅から隅まで読み込んでいる。本当はワンピトークをしたくてたまらない。もちろん、呪術廻戦だって十回は読み返している。本棚にはどちらも全巻ぎっしり詰まっていた。これは黄昏の館が健在だった頃の話だが。

 さて。そんなあまのじゃくである彼が、別に能力や呪術を要らないと考えているだろうか。

 んなわけあるか! どちらであっても超欲しい! 漫画の技を再現したい! 動物系(ゾオン)幻獣種・モデル狼系の能力とか欲しくない理由がない! 持ってる奴とか無茶苦茶羨ましいし、自慢されたらぶっ殺したくなるに決まってる!

 

「つまりなんだ。あいつらは、ガレスがキレるまで自慢し腐った訳か」

「そうだよ。だから言ったじゃん。喧嘩かどうかも怪しいって」

 

 死ぬほど下らないし、概ね誰から見ても、ガレスの怒りは正当なものである。

 オラリオではその手の煽りで喧嘩が起きることなどしょっちゅうなのだ。原作に登場しなかった能力の持ち主が、登場した能力持ちを嫉んで、ちょい役噛ませ犬だったことを煽る事態が頻発している。それを止めようとしてやってきた治安維持系ファミリアの団員が、さらに煽られて事態が悪化。なんてことまで、頻繁ではないもののちょくちょく見られる光景である。

 まあつまり。

 聞いたことがなかっただけで、他のファミリアでも今回のような事はあったのだろう。誰も彼も、醜聞だから間違っても口にできないだけで。

 リヴェリアは元々、クソほど調子に乗っていた。なにせオラリオ全体を見ても、片手で数えられる程度しかいないウルトラレア(UR)能力持ちである。しかも、つい最近ホームをぶち壊した件で呪術の強制開示を迫られた後は、隠す理由がなくなったとばかりに、常時見せつけるように式神を侍らせている。

 対して、フィン。彼は能力を持っていながら、今まではおとなしかった。何せ直接的な戦闘能力が無いと目されていた上、原作未登場なのだから。しかしドンキホーテ・ドフラミンゴと同じイトイトの実という事が分かって、彼は弾けてしまった。

 運用が限られると思っていた能力の、降って湧いたような扱い方。しかも、そのレアリティはスーパースペシャルレア(SSR)である。それはもう夢中になっていたし時間があれば漫画の技を訓練していたし、そして自慢するようにもなった。どうだ、僕の能力は漫画であんなに活躍したものなんだぞ、という具合で。

 能力が悪党側だとか、ドンキホーテ・ドフラミンゴがとんでもないクズだとかいう意見は完全シャットアウト。フィンはそういうのが得意である。漫画は漫画、僕は僕。でもそれはそれとしてイトイトの能力はクソ強いぜ。まったく、カスみたいな主張だった。反吐が出るほど憎らしく、羨ましい。

 無論、二人には非能力者を煽る意図などない。ただ自慢したかっただけなのだろう。

 が、なら腹は立たないかと言えばそんなわけがなく。団長副団長だから言えなかったのであって、内心ビキビキ来てる者はたくさん居た。それこそベートも含めて。

 

「おう、儂を挑発しとるんだろう? なら言えすぐ言えほら言え。全力の拳をぶち込んでやるわ」

「すまん、本当にすまん! これからはやら……いや、控え……ううん、少しだけ減らすから!」

「僕もあれだ! ええと、あれだよあれ! 何か悪かったっけ!?」

「ぶっ飛ばすぞ!!」

 

 こそこそと、幾人かが誰にも気付かれぬよう逃げていく。その誰もが、いずれも何らかの能力を得られた者だった。流れ弾はご免だと言わんばかりに、そっと広間から消えていった。

 まあ、それに気付いていた者も少なくないのだが。憎々しく睨んでいる者もいるのを見るに、槍玉に挙げられている二人ほどではないにしても、似たような事はしていたのだろう。

 あくまで今タコ殴りにされないというだけで、後から報復はされるんだろうな、とベートは思った。

 

「ガレス!」

 

 遠巻きにしていた人垣から、影が飛び出る。アマゾネス姉妹の妹、ティオナだ。

 彼女は飛び出して両者の間に割り込む……かと思いきや、リヴェリアの背後に回って羽交い締めにした。

 

「そうだよ、一度くらい殴るべきだって! ほら、抑え込んどくからやっちゃって!」

「ティオナ!? う、裏切るのか!?」

「裏切るも何も、あたしだって腹に据えかねてるんだからね! ほら、早くやっちゃって!」

「よし」

「待てガレス! お前に覇気込みで殴られなどしたら、私程度では死んでしまうぞ!」

 

 ティオナの行動は、普段であればエルフから非難囂々の行動だが。今回に限っては、エルフ達もどこか苦々しい顔をするだけで誰も止めようとしない。つまり、それだけリヴェリアがアウトな真似をしてきたという事だ。

 この隙に逃げようとしていた、今日は妙に小物感が漂うフィン。しかし彼の行く先を、またもや褐色の姿が阻んだ。

 

「ティオネ!?」

「団長、すみません……。擁護のしようがありませんし、正直一回怒られた方がいいと思います」

 

 ティオナの姉ティオネ。もしくはヒリュテ姉妹のやばい方。フィンに盲目的な恋心を抱く女であり、フィンの事は、たとえ本人がノーと言っても肯定する頭のおかしな女だ。

 そんな奴すら敵に回ったという事実が、端的に状況を表している。

 人垣がじりじりと狭まっていった。誰も武器こそ持っていないが、拳くらいは固めている。

 フィンとリヴェリアは、揃って引きつった笑みを浮かべた。

 床が、パキ、と鳴った気がした。全くの気のせいかも知れないし、本当に鳴ったのかも知れない。しかし事実として、それは堰を切るのに十分なものであり。

 気付けば一斉に全員が躍りかかり、二人をボッコボコになるまで殴っていた。

 その日、ロキ・ファミリアの団結力が、少しだけ上がった気がしたベートだった。

 




時系列はマジのガチでミスってましたごめんなさい
そのうち修整するかもしれません

追記
一応修正しました
突貫なのでまだ問題があるかもしれません
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