謎の商人ロールプレイ   作:誰かさん

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衝撃の新世界

 世界というのは不公平だ。

 実家の力、生まれ持った才能、そして歩む人生の縁に至るまで。全て、ものを言うのは努力ではなく運だ。人はどうしたって、生まれる前から持っていたものに敵わない。

 小人族(パルゥム)は、それが顕著な種族だった。

 自他共に認める最弱の種族。小さく、か弱く、他の種族に勝っている部分など何一つとしてない。それはステイタスの成長にも影響しており、歴史上、小人族(パルゥム)の第一級冒険者というのは驚くほど少なかった。これを超越できるのは、やぱり一部の天才――例えば勇者(ブレイバー)のような――だけだ。

 小人族(パルゥム)には、人間種族のような複数の大帝国はない。獣人やアマゾネスのように優れた身体能力も、ドワーフのような器用さと膂力も、エルフのような魔法種族(マジックユーザー)でもない。誤解を恐れず言えば、小人族(パルゥム)とは、小人族(パルゥム)だけのコミュニティ以外、どこへ行ってもお荷物だった。

 彼ら姉弟(きょうだい)は、夢を持ってオラリオへと来た。ここへ来れば、小人族(パルゥム)という後ろめたさから逃れられると思って。

 しかし、現実は非情だ。どこへ行っても、どこまで行っても、現実としてそびえ立つ。

 厄介なのは、彼らが全くの無能でもない、という点だった。

 Lv.2の前半でステイタスの成長が鈍化し、行き詰まる。よくある半端に才能がある冒険者の末路だ。

 正直なところ、小人族(パルゥム)は第三級冒険者になれる者も多くない。そういった意味では、彼はそれなりに才能がある方ではあったのだろう。だが、その半端な才能が、返って冒険者として諦めきれない執着に繋がっていた。なんとも皮肉な話だ。

 この格差は、覇気という力が冒険者の標準装備になってからも変わらない。いや、むしろ広がっているように彼は思えて仕方なかった。

 覇気の出力は、ステイタスを考慮しない。元の身体能力と精神力(マインドではない)の乗算で決まる。つまり、元の肉体が強ければ、それだけで有利なのだ。意思が出力方法、身体能力が馬力、そんな関係と言えば分かりやすいか。

 人間、獣人、ドワーフ。彼らこそ『覇気御三家』とでも言うべき種族。もう分かるだろう。小人族(パルゥム)の覇気適性は、ぶっちぎりで最下位だった。

 

「ああ、嫌だ嫌だ」

 

 素振りの手を止め、大量に流れていた汗を振り払う。

 いつも朝に行っている、日課の素振り。これをしていると、たまに後ろ向きな事を考えて鬱になってしまう。

 何度も繰り返した自問と達観。それでも繰り返してしまうのは、諦め切れていない証拠だ。

 何より嫌なのが――小人族(パルゥム)にさえ生まれていなければ、そんなことを思ってしまう自分自身。

 

「また変なこと考えてるの? 意味ないんだから、いい加減止めればいいのに」

「……ポット」

 

 声が聞こえた方を見ると、そこには片割れと言ってもいい姉がいた。

 

「仕方ないだろ。勝手に考えちまうんだから」

「それこそ集中してない証拠じゃない」

 

 などと言われてしまえば、ぐうの音も出ない。

 ポックとポットの姉弟は、すぐ毒を吐く事で知られていた。ポックはねじくれた皮肉屋で、ポットはいつも一言多い。そんなと所があってか、ファミリア内でも忌避される事がある二人だ。

 

「ポックはまだいいじゃない、能力持ちなんだからさ。私なんて、正真正銘無能力よ?」

「ありゃいいってもんじゃないだろ。こんなもんじゃ特にさ」

 

 言って、彼は訓練用メイス手の中で遊ばせた後、ぽんっと上に投げた。メイスは重力に従って落下――することなく、その場でふわふわと浮く。

 怪しい老商人に出会ったときは、ポックも胸を躍らせたものだ。これでオレも、と。しかし、今では大きな後悔がある。

 彼に割り振られた能力は、触れたものを浮かせる、ただそれだけ。特別な攻撃力も、圧倒的な支援能力があるわけでもない。ただ集団でのダンジョンアタックに便()()という、つまらないものだった。

 これからば、あの時に貰った悪魔の実を食べない方が、まだ希望が持てたのではないかと思ってしまう。もしかしたら強い悪魔の実が食べられたかも知れない、それこそ自然系(ロギア)のような。そんな風に夢を持てた。

 夢は所詮夢。現実によって押しつぶされるもの。小人族(パルゥム)に割り振られるのは、どうあがいてもこんなものだ……そう言われているような気がした。

 

「こんなのが本当に羨ましいかよ」

 

 ぴん、とメイスを弾く。ゆっくり力に負けてゆっくりと揺蕩ったそれは、壁に当たって軽い音を立て、跳ね返った。

 

「全く、嫌になるよ。本当に全部、冗談じゃないっての」

 

 吐き捨てて、ポックはその場に転がる。ポットが眉をひそめた。

 

「ちょっと、汗も拭いてないのに転がらないでよ。ほらぁ、全身どろどろじゃない」

「どうせシャワー浴びるんだからいいだろ。あーあ、全く。能力は外れ、覇気はてんでものにならない、ステイタスもどん詰まり。ほんと、冗談じゃない」

「もう」

 

 文句を言いながらも、ポットはすぐ隣に座る。

 

「愚痴ったって仕方ないでしょ。ポック、言ってたじゃない。勇者(ブレイバー)みたいになるんだって」

「そりゃ言ったけどよぉ……」

 

 思い出されるのは、過去の情景。

 昔の話だ。ポックは、フィン・ディムナを嫌っていた。憎んでいるとすら言っていい。勝手に戦い、勝手に強くなり、勝手に小人族(パルゥム)の希望の星として立った。そんな彼が……妬ましくて仕方なかった。

 その考えが変わったのは、彼が四十歳を超えていると知った時だ。冒険者として何倍、もしかしたら自分の十倍もの時間を、努力に費やしていると知ってから。自分には妬む権利もないと理解した。

 だから彼はフィンを尊敬しているし、今では素直に憧れてもいる。ただ、それはそれとして、成長しない事に嫌気がさしてもいた。

 後はシンプルに、彼の能力が原作で活躍したのが、めちゃくちゃ羨ましい。

 

「やっぱ世の中ってクソだわ」

「……まあ、気持ちは分からなくもないけど。ほどほどにしなさいよ?」

 

 たしなめるが、実は彼女だって、ポックと似たような事を考えていると知っている。ただ表に出す事が少ないだけだ。これは彼ら二人だけの問題ではなく、小人族(パルゥム)とは大なり小なり、そういった厭世的なものを持っている。

 誰だって……一度は思うのだ。小人族(パルゥム)でさえなければ、と。

 いつも通り、行き着く先など一つしか無い無力感に苛まれる。今更訓練を再開する気にもなれずぐだぐだしていると、修練場を二つの影が横切った。

 

「団長。と、メリル?」

「ポットとポックですか。朝から勤勉ですね」

「お、おはよう」

「うん、おはよー」

 

 歩いていたのは、アスフィとメリルだ。

 アスフィは相変わらず、いつ気を抜いているのか分からない、ぴしっとした恰好。メリルは起きて間もないのか、ゆるい寝間着姿だ。気の抜けた恰好が恥ずかしいのか、顔を伏せている。

 ここはヘルメス・ファミリアの敷地内。誰が居たところで驚くような事ではないのだが。ここが第三修練場というホームの中でも裏手の片隅だ。そんなところにアスフィが木箱を抱えているとなれば、気になりもした。

 

「それ、何なんだ?」

「分かりません。朝になって、勝手口の方においてあるのをメリルが見つけました」

「えー。そんなの、とっとと処分した方がいいんじゃないの?」

「あう……えっと、とりあえず危険物ではないようなので、団長に相談しました」

「木箱に焼き印が押してありましたからね。偽造の可能性もないではないですが、それほど危険なものではないだろうという結論に至りまして」

 

 焼き印、という言葉に意味が分からず、ポックとポットは揃って近づいた。

 確かに箱の上部には、妙な焼き印が押されていた。ただし、見たことがない紋様である。

 こういった場合、通常は団旗、ないしは団旗を簡略化したものが押印されるものだ。しかしこの箱には、『SHUEISHA Inc. COMIC-TEAM』という模様が刻まれている。多分どこかの文字なのだろうが、あいにくと読むことはできなかった。あまり学があるとは言いがたいポックには、共通語(コイネー)と故郷の言葉くらいしか分からない。

 

「見たことない焼き印だな」

「おや、知らないのですか?」

 

 意外だ、と言うようにアスフィが声を上げる。

 

「これは彼の、謎のファミリアが扱う焼き印ですよ」

「謎のファミリア!」

「ウソっ!」

「本当です。メリルがわざわざ私を呼んだのも、だからです」

 

 わっと、一気に小人族(パルゥム)姉弟は湧いた。

 確かに能力の格差や覇気の適性に対して思うところはあれど、そこはそれ。ONE PIECEは大好きなのだ。呪術廻戦も面白いが、あれは登場人物が酷い目に遭いすぎて、読んでいてしんどい。最終的にすっきりさせてくれるONE PIECEの方が断然好みだ。

 

「えっ、じゃあなんだ、この中もしかして新刊!? いや、そんなわけないか。でも何だ!?」

「馬鹿ねポックは。そうならヘルメス・ファミリアにおいてある訳がないでしょ! もしかしたら悪魔の実か、新型魔導書のサンプルかも! うちには万能者(ペルセウス)がいるんだから、そういった話が来てもおかしくないわ!」

「どうでしょうね」

 

 興奮する二人に、アスフィは苦笑を返す。

 

「謎のファミリアの生産能力は十分です。私一人が増えたところで、劇的な向上は望めないでしょう。多分、別件だと思いますよ」

「なんでもいいって! 早く開けようぜ!」

「なんだろ! 本当に全然予想が付かない!」

「あの……わ、私も見たいです。一番最初に見つけたので」

 

 小人族(パルゥム)姉弟のみならず、メリルまでもが声を上げた。気の弱い彼女がこうして主張するのは、とても珍しい。

 

「その前に、まずはあなた達、シャワーを浴びてきなさい。さすがにその恰好でホームに入ってほしくありません。メリルも、顔を洗って着替えてくるように」

 

 はーい、と言いながら、おのおのが散る。見た目が子供みたいなため、余計にアスフィが保母みたく見えた。

 

「早く来ないと、私一人で先に見ますからね!」

「それはズリーだろ! 反則だ!」

「知りません。遅い方が悪いんです」

 

 ぎょっとしながら、三人は速度を速める。

 実はアスフィ、ヘルメス・ファミリアの中でもトップクラスのONE PIECEファンである。我慢の限界を超えたら本当に一人で開封するという悪い意味での信頼があったため、ことさらに急いだ。

 とりあえず部屋に突入して着替えをひっつかみ、シャワー室へと走る。バルブを全開にして一気に汚れを洗い流し、ちゃんと髪の毛を拭ききらずに、転がるようにして部屋を出た。

 脇目を振っている余裕などなかったが、他の二人も似たような様子だった。とだとだと来賓室(ロビーなどではいのは、まだ寝ている団員に配慮してだ)に飛び込むと、中ではアスフィが木箱の蓋を開けてる所だった。

 

「あーっ! ずっこい!」

「オレ達が来るまで待ってるって言ったじゃん!」

「反則です……」

「う、うるさいですね! 遅かったのがいけないんです!」

 

 顔を真っ赤にして反論してくるアスフィ。ただ、本人もフライングをした意識はあるのか、少々ばつが悪そうだった。

 ポックは早速木箱の中を覗こうとして、ふと蓋を見て気が付く。

 

「何それ、組木?」

「ええ。謎のファミリアが送ってくる木箱は、全て組木で蓋をされています。こちらとしては、わざわざ釘抜きを用意する手間が省けていいですが」

「うっわー、お金かかってるなあ。わっ、見てよメリル、断面がヤスリがけまでされてる。控えめに言って頭おかしいって」

「わぁ……これだけで値が付きそうな木箱ですね」

 

 高級感があるわけではないが、細かい部分にまで行き届いており、一切の手抜きを感じなかった。

 オラリオでも同ランク品質の木箱がないわけではない。が、そういったものは、当然のように高級品だ。少なくとも、ばらまくのに使えるようなものではない。ましてやオラリオで一般的な木箱と言えば、壊れない事が一番で、たまに隙間が空いているものすらある。

 また、中に納められているものも奇妙なものだ。

 

「なんだこれ、細く切った紙を縮れさせたもの? こんなもんをわざわざ箱詰めにしてよこしたのか?」

 

 一応手に取ってみたが、やはり何の変哲も無い。ただただ紙だ。少なくとも、ぱっと見で価値あるものではなかった。

 一瞬、ポックの脳裏にからかわれているのかという言葉が浮かんだ。さすがにそれはないだろうと思うのだが。

 

「待って。中に何か埋まってる」

 

 メリルが小さな体を目一杯乗り出して、紙くずの中から何かを取りした。

 黒い奇妙な箱と、壁に掛けるためだろうフックのついた横長の白い布、最後にワンピースのイラストが描かれた平たい箱だ。ストロングワールドと、表題らしき文字が書かれている。言葉の意味するところは分からないし、そもそも本ですらなかった。

 

「なんだこれ」

 

 そう言わざるを得ない。

 確かに公式グッズというのはありがたいが、それにしたって用途が分からなかった。板に絵を描いただけでは、絵札以下である。

 

「この紙、つまり緩衝材だったんですね」

 

 メリルのつぶやきに、なるほどと思う。

 

「また豪華な使い方ねー」

 

 オラリオの紙生産量は世界でもそれなりの位置にあり、決して高価なものでない。が、逆に言えば安くもないのだ。必要な時に買うのは躊躇しないが、無駄遣いしようとも思えない。そんな値段で推移している。

 

「そうでもありませんよ。謎のファミリアは、大量に本を刷っていますからね。比例して端材も出ますし、その量は膨大なものでしょう」

「そういや忘れがちになるけど、本をアホみたいに生産してるのもあそこなんだよな……」

 

 仕方ないと言えば仕方ないのだが、どうしても『神秘』や『魔導』といった発展アビリティ持ちを大量に抱えた生産系ファミリアという印象が強い。道具さえあれば刷れる本より、どう考えても悪魔の実やら魔導書やらの方が貴重だからだ。それこそ万能者(ペルセウス)を団長として頂いているヘルメス・ファミリアだからこそ、より重みが正確に理解できる。

 

「しかし……これは本当に何でしょう? 魔道具……ではなく、これは魔石道具? 構造はシンプルで、それだけに無駄なく洗練されている。むむむ、これは参考になりますね。作った人は、とても優秀だ」

「あらら。技術者スイッチ入っちゃったわ」

「こんな大きい白い布、一体何に使うんだろう」

 

 女三人姦しくしている脇で、ポックは板の観察を続けた。正体不明の柔軟な板に一枚絵が描かれているだけでも、綺麗なカラーであれば悪くない気がしてくるから不思議だ。

 

(一体どんな素材でできてるんだろうな)

 

 木でも金属でもない、不思議な感触。とても軽量で、表面は酷く滑らかだ。力を入れれば簡単に曲がるが、かといって脆さは全く感じない。ちょっとしたバネみたく、形状を元に戻す。

 と、気がついた。板を軽く曲げていると、表裏がすれ違ってずれることに。

 隙間に指を入れてみると、ぱかりと開いた。どうやらこれは板ではなく、とてつもなく薄い箱だったらしい。

 

「アスフィ、何か出てきたんだけど」

「おや……。といわれても、それだけ見せられたところで、私に何が分かる訳でもないのですが……」

 

 開いて出てきたのは、穴の開いた円盤。これも表面にONE PIECEの絵柄がプリントアウトされている。裏面には妙な光沢があって、そちらにイラストはなかった。

 いい加減これが既存の関連商品ではないと悟ったが、かといって用途が分からない。

 

「あっ!」

 

 と、いきなりアスフィが声を上げる。

 手に持っていた魔石道具を弄ると、トレーが自動的に競り出てきた。

 

「恐らくここです! ここにその円盤を乗せるのですよ!」

 

 ふうん、と思いながら、ポックは箱ごとアスフィに渡した。こういった事は、彼女に任せた方がいい。

 が、その後の進展はなく。アスフィ、ポック、ポットであーでもないこーでもないと試行錯誤していると、メリルが気弱に声を掛けてきた。

 

「あの……中にまだ、こんなものが入っていたんだけど……」

 

 言いながら手渡されたのは、二冊の冊子。一つは『ONE PIECE 0巻』と表記されており。もう一冊は取扱説明書だった。

 

「あー……」

「んー……」

「ええと……」

 

 微妙な空気が流れる。

 つまり、焦ってあれこれせずとも、ちゃんと中身をしっかり取り出せば、迷う事など何もなかったのだ。

 これは恥ずかしい。特にそう思ったのだろうアスフィは、両手で顔を覆いうずくまってしまった。暫く彼女をそっとしておき、気を取り直すまで待つ。

 復帰したアスフィは、さらさらっと取扱説明書に目を通す。分かってしまえばこっちのものだとばかりに、テキパキと準備を終わらせた。

 

「ふむふむ。これは壁に映像を投射する道具で、布は壁が平面でなかったり白くなかったりした時の為のものらしいですね。そして、この円盤を入れ替える事で別の映像を見ることができると。なるほど、非常に合理的かつ機能的だ」

「にしたって、なんでわざわざ壁に……?」

「大きい画面で漫画を読む為とかかしら。確かに、見てみたくないと言えば嘘になるけど」

「私は、ちょっと楽しみかなぁ」

 

 すぐにセットを完了し、壁際に映像が映し出されて。

 

「えっ」

 

 誰のつぶやきかは分からない。もしかしたら、全員かも。それほどの衝撃があった。

 それは漫画ではなく、動画だった。絵が躍動感を持って動き、それに合わせて音も流れる。これが『アニメーション』という形式だと知ったのは、大分後の事だ。

 約二時間ほど、誰一人として声を出す事も出来ず映像を見続けて――。

 映像には、およそ求めているものの全て以上が詰まっていた。いや、それ以上か。

 躍動感などという陳腐な言葉では言い表せない動き。人々の話題でだけ、実際にどう動いているのだろうと語られていたものの答え。強大すぎる敵と、感動の物語。伝説の大海賊として立ちはだかる男。

 そして。

 そして……

 そして何より!

 オレのフワフワの実が活躍してる! というか超強ぇ! 全然浮かせるだけの能力じゃない! もう最強の一角と言っても過言ではないぶっ壊れ具合だ!

 今までポックは、能力は使いよう、能力者次第でいくらでも変わる、などという言葉はお為ごかしだと思っていた。ただのきれい事で、神の恩恵(ファルナ)を貰った以上、皆平等という妄言と同列だと。

 全然違った。全く同じ能力でここまでしている姿を見せられたのだから、疑う余地はない。つまり、ポックも同じ事ができるのである。

 

「うおっしゃあああぁぁぁ! オレの時代キターーーー!」

 

 きっちりエンディングを見終わったところで、ポックは突如、絶叫した。

 

「うわっ、うるさ!」

 

 隣に座っていたポットが、突然の大声に驚く。

 周りの様子など無視して、とにかくポックは拳を宙に振るった。

 

「シャッ! シャッ! シャアアアア! マジかよ最高じゃん! オレ大勝利じゃね!? こんなんもうSSRどころかURって言ってもいいだろ! うおおおおお! 怪しいじいさんありがとおおおおお! よくぞオレにフワフワの実をくれたああああ!」

「ポック、さんざん世界はクソだってこき下ろしてたじゃない。なんなら能力も」

「え、何それ知らない。そんな事言った覚えねーわ。どこにそんな証拠あんの、ないでしょ。なら言ってないから」

「うっざ……。何なのこいつ……」

 

 いつもの余計な一言でなく、ストレートに吐き捨てているあたり、本気で鬱陶しいと思っているのが窺えた。でもどうでもいい。だって今、めちゃくちゃ気分がいいから。

 本来ならば一時間でも二時間でも騒ぎ続けていただろう。それを停止したのは、思い出したからだった。0()()、入っていたもう一冊の小冊子を。

 

(まさか……まさかまさかまさか!)

 

 ほとんど飛びつくようにして、0巻を確保する。

 中身を開いてみて。彼の予想であり期待でもあるそれは、大当たりだった。

 

「キター! ワンピース前日譚!」

「えっ!?」

「うそ!?」

「私にも見せて下さい!」

「やめろっ! オレが最初に見つけたんだぞ! 順番守れ!」

 

 思わず声を上げてしまったせいで、仁義なき奪い合いが始まる。ポックは彼女らを、全力で蹴り払う。

 皆は間違いなく、何者にも代えがたい仲間だ。これがダンジョンの中であれば、それこそ自分の命を賭してでも守った事だろう。しかし今は、まごう事なき敵である。

 本を大事に懐で守りながら、メリルを掌で押しのけ、執拗に脇腹を狙ってくるポットを蹴り、ステイタス差で無理矢理ねじ伏せようとしてくるアスフィをぶん投げる。端から見れば子供の取っ組み合いでも、本人達は至って真剣だった。だって、ONE PIECE新刊(数量限定)を最初に読む栄誉など滅多に得られないものなのだ。

 戦いは長く続かない。

 まず体力のないメリルが、続いて高レベルなれど純戦闘職ではないアスフィが脱落した。残った姉弟で骨肉の争いが勃発し、両者がぐしゃぐしゃに殴り合う。

 勝負を決定づけたのは、ポックの執念、そしてはからずとも0巻という人質を取っていたからだった。

 顔を殴られすぎたせいでぼこぼこに腫れ上がっているし、瞼だって半分塞がっている。それでも……いや、だからこそか。胸を張って言うことができた。

 

「俺の――勝ちだ!」

 

 それは、世界で一番誇れない勝利宣言だった。

 小冊子の話は短い。だいたい単行本に入っている話の、一話か二話分の間といったところだろう。だが、その分とてつもなく濃密で……。

 

「うっ……うぅっ……。ぞっがぁ、シキはなんだがんだロジャーがずぎで、だがら許せなかっだのがぁ……」

 

 ぼろぼろ涙を流しながら、何度も何度も本を読み返す。

 金獅子のシキは、紛れもなく悪党で、この上なく海賊だった。しかし、彼には彼の信念と感情と歴史がある。動画の中だけで語り切れなかったそれが、この短い話の中で溢れていた。

 その後。

 意識を取り戻した三人から、めちゃくちゃ袋叩きにされたが、ポックは満足だった。だって、進むべき道を見ることができたのだから。満足の中には、出し抜いて一番最初に本を読めた優越感が混ざっていた事は内緒だ。

 ちなみに小冊子は、後日大量に送られてきた。なにせ一箱に一冊しか入っていなかったせいで、送られてきた全ての場所で喧嘩が起きたからだ。一時はギルドがなんとかして謎のファミリアと繋ぎをつくり、直接大量生産を依頼するという話まで上がったほどである。などという流れは、まあポックにはあまり関係がないい事か。

 ともあれ彼は、この日よりより一層邁進した。もう脇目を振っている暇も、余計な事を考えている余裕もない。とにかく能力を鍛え上げ、いっそ偏執的なほどにダンジョンへ潜った。

 目的は至ってシンプル、金獅子のシキの強さを再現する事。

 無論、そんな事は無理だと分かっていた。なにせ、自分より遙かに高ランクな者達がこぞって修行しても、原作には遙か届かないのだから。だが、今ではこう思う。それが努力を怠る理由にはならない。

 それから暫くして、彼は執念でLv.3へと至り。半ば主神ヘルメスを脅すようにして、自分の二つ名を『金獅子』にするよう求めた。念願が叶ったとき、彼は「名前負けしてる」だのなんだのと陰口を叩かれまくっても全く気にせず。それはもう、気絶するほど喜んだという。

 




ポックとポットはコミック版限定キャラクターらしいです
一応オリキャラではなく原作キャラ
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