謎の商人ロールプレイ   作:誰かさん

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不機嫌な姉 上機嫌な妹

 ティオネは激怒していた。必ず、かの唐変木な小人族(パルゥム)理解(ワカ)らせねばならぬと決意した。

 しかして、ティオネの頭では肝心要の方法がとんと思いつかぬ。どれだけ頭をひねっても、良案からはほど遠いものしか考えつく事ができなかった。

 彼女はアマゾネスである。しかし、同時にアマゾネスの男女感からは些か遠い乙女でもあった。

 ただ意中の相手の子を孕めばいいという訳ではない。ティオネはあくまで夫婦(めおと)になりたいのだ。かといって、力尽くでどうこうもできなかった。アマゾネスは強い雄に惚れるものである。概ね、自分より強い雄を。彼女も例に漏れず、惚れた相手は自分をねじ伏せて見せた強い男児なのだ。

 それこそ昔は、幾度となく夜這いを駆けて無理矢理寝てしまおうと企んだ。先輩アマゾネスに習った、既成事実というやつを狙ったのだ。しかし夜這いを仕掛けた同じ数だけ、ねじ追い返されている。

 あれが上手くいかぬ。これも上手くいかぬ。何も上手くいかぬ。

 そうしてティオネは、日々鬱憤と獣欲を募らせていた。

 

「うーっ。うーーーっ!」

「もー。ティオネはうるさいなあ」

 

 月と星だけが煌めく空の元、ティオネはティオナに連れられて夜の街を歩く。

 当然、これはただの散歩ではない。夜な夜な現れては何かしらの能力を配って歩く、怪しい老人を探しての行為であった。

 『謎のファミリア』。どの神が主催しているか分からないために、そんな俗称で呼ばれている。何年も経てばそれは正式名称扱いとなり、今では誰も謎のファミリア以外の呼び方をしていない。

 このファミリアがもたらすものは、基本的に益しかない。多少諍いの種になる事はあるものの、些細な問題だ。そして趣味と娯楽に全振りであり、今では発表作品以外の動向を誰も気にしないファミリアだった。

 彼らの先兵は神出鬼没で、例外なく老人の姿をしている。他都市では知らないが、オラリオでは夜の、それも少人数の時にしか現れない。そのため、能力を持っていない冒険者はオラリオの人気が無い道をふらふらするのが当然になっていた。まあ冒険者だけではなく、恐れ知らずの一般人もいるのだが。

 ちなみに夜歩きをする者が爆発的に増えた結果、ランタンの需要が急増。彫金鍛冶や油売りが大分儲けているらしい。

 ティオナは流行に乗る性格だ。それが実利をもたらすなら、なおのこと固執する。だから暇さえあれば、夜歩きをしていた。別に彼女だけ歩かせて不安なわけではないが、ティオネがついて行く事も多い。

 

「そんなに嫌なら待ってればよかったじゃん」

「あんたに付き合うのが嫌でうなってる訳じゃないわよ」

「じゃあなんで怒ってるの」

「怒ってないわよ。ただムラムラしてるだけ」

 

 発情期というのはちょっと違うだろうが、ティオネはたまに、どうしようもなくムラムラすることがあった。こういうときは一発かましてすっきりするのがいい、と先輩に教わっていたが。残念ながら相手して貰えない。

 可能であれば愛しの団長のを搾り取りないのだが、どうしても受け入れて貰えないのが現状だった。

 かといってフィン以外の男とヤるなど死んでもごめんだ。好きな男以外のものが入ってくると想像するだけでも怖気が走るのに、まかり間違って孕んでなどしまったら……自殺ものである。避妊があまり信用できないものだという話を聞いてはなおさらだ。

 とりあえず自分に向けられたものではないと納得したのは、ティオナはあっけらかんと言った。

 

「よくわかんないんだけど、オナニーとかいうのじゃ駄目なの?」

「駄目ね。全然すっきりしないわ。やっぱ好きな人に挿入()れられてナンボなんでしょうね」

「ふーん。あたしそういうのよくわかんなーい」

 

 頭の後ろで腕を組んでいるティオナが、少し恨めしく思った。未だ恋を知らない事に関しては、欠片も羨ましいとは思わないが。

 

「ねーねー、そんなことよりさ。能力を得られるならどんなものがいいと思う?」

「あんた、よくその話題飽きないわねえ。毎回してるじゃない」

「何回だってするよ。あたしね、怪しい老人に会ったら、ぜーったいロギア(自然系)が欲しいって言うんだ。呪術廻戦だったら無下限呪術と六眼の抱き合わせか呪霊操術!」

「めちゃくちゃ贅沢な事言うわね」

 

 どれも、神が言うところの権能級能力だ。

 ロギア(自然系)は覇気の登場で多少価値は下がっているものの、モンスター相手にほぼ無敵というのは一貫している。作るのが難しいのか数を絞っているのかは分からないが、使い手はほとんど発見されていなかった。

 ティオネも能力が欲しくない訳ではない。が、怪しい老人に接触したい理由は別にあった。めちゃくちゃに壮大で、ともすればティオナより贅沢な欲望が。

 さほど過大な期待はしていないが、正直なところ、もう他にすがれるものがない。現実的に考えて打開方法などないのだが、藁にもすがる思いなのは仕方ないだろう。

 

「ところであんた、こんな話知ってる?」

「なになに?」

「夜歩きをしている人間と、実際に能力を得られた者の比率。なんと驚き……」

「あーあー聞きたくなーい! そういう現実的なのはいやー!」

 

 両手で耳を押さえて、頭を思い切り振る。こういう所が面白くて、ついついからかってしまうのだ。

 暇つぶしに、無意味な抵抗をしているティオナをもっと弄ってやろう。そんな事を考えていると。

 

「……ん?」

 

 声に、ティオネでもティオナでもないものが混ざった気がした。低くて重くて、どこか軽薄な……これは、笑い声?

 

「ねえ、ちょっと」

「聞かない聞かなーい!」

「その話題は終わったわよ」

「やだーやだー!」

「聞け!」

 

 思わず頭を殴ってしまう。ゴン、と鈍い音がした。

 

「ったぁ~」

「ねえ、何か聞こえない?」

「何かって何が?」

「笑い声よ」

 

 二人して耳を澄ませる。さして大きくない、しかし思いのほか近くで、ひっひっひっ、という笑い声が聞こえた。

 あからさまに怪しすぎて、逆に怪しさを感じない声。こういう思わせぶりな神っているよなあ、という雰囲気のもの。そして、仲間から散々「こういう感じ」と教えて貰ったものでもある。

 気付いた時には、二人揃って声の方に走り始めていた。

 角を曲がってすぐの所、狭い路地裏をほとんど占拠するような形で、場違いな露天を開いている者の姿があった。

 

「おじいちゃ――」

 

 ティオナが全て言い切るよりも早く、ティオネが彼女を押しのけ、老人に躍りかかっていた。

 老人は一般人らしく、こちらの動きに全く反応できていない。どうでもいい。ティオネは短い距離を一跳ねで潰し、老人に接近し。

 そして彼の足下に、スライディング土下座を華麗に決めた。

 

「お願いしますッ! 知恵を貸してくださいッッッ!」

「……ひょ?」

 

 老人は半立ちになって、衝撃に備えている最中だった。魔道具か何かで、どんな攻撃でも届く前に消え失せられるというのに。こういった姿が、なおさら一般人の素人だという事を物語っていた。

 

「あの……」

「お願いしますッ!」

「いや、だから……」

「お願いしますッッッ!!!」

「…………。話は聞くから、とりあえず頭は上げてくれんかのう」

「ありがとうございます!」

 

 こちらを見て、若干引いている雰囲気を出しながらも聞く耳を持っている老人。その姿を見て、ティオネは確信した。この人は押しに弱い。どこまで押せるかは限度があるだろうが、ある程度なら勢いで要求を聞いて貰えそうだ。

 

「ティオネぇ、何するのよぉ」

 

 背後では、鼻を押さえて涙目になっているティオナが、恨みがましい視線を送ってきていた。押しのけた拍子に、壁に当たりでもしたのだろう。

 

「ごめんね。でも先に話をするのは私だから」

「えー!? ずるいよ! あたしが楽しみにしてるの知ってるくせに!」

「うるっさいわね! あんたの用事なんてどうせ一瞬で済むんだから、譲りなさいよ!」

「はぁー!? じゃあティオネだってあたしの後でいいじゃん! ずるいんだぁーひどいんだぁー!」

「あぁん!?」

 

 言葉だけを聞けば、ただの姉妹喧嘩だが。実際はあらゆる種族でも最も血生臭いと評判のアマゾネスらしく、全力の殺気ぶつけ合いである。このまま取っ組み合いでも始まれば、匂いだけでなく実際に血が周囲へ飛び散る事だろう。

 当然、この事態に一番恐れを成しているのは怪しい老人であり。うさんくさい雰囲気を出すのも忘れて、慌てて止めに入ってきた。

 

「まあ待て待て、どちらの話も十分に聞くから。な?」

「じゃ、さっそく私からね」

「絶対に要望を聞いて貰うんだから」

 

 一瞬で気分を切り替え、笑顔になるティオネ。対してティオナは、ふくれっ面になってそっぽを向いてしまった。

 気が逸って(元から短気なだけとも言う)会話の優先権を奪ったが、順番が変わったからと言って何が変わる訳でもない。ましてや相談程度でどうにかなる可能性は低く、笑顔だったティオネの顔は、再び沈んだ。

 

「で、相談なんだけどね。意中の相手をどうやって射止めればいいかなの」

「ふむ、告白できないとかそういう話かのう。なら、力になれる事はないのだが」

「違うよ。ティオネは何度も告白してるんだけど、そのたびに振られてるんだ」

「なおのこと結果が出ているように思えるのだが……」

「ちょっと黙ってなさい! おじいさん、もしかして私と団長の事知らない? オラリオじゃ結構有名なんだけど」

「四六時中オラリオ(ここ)におるわけではないからなあ。儂もいろいろとやることあるんじゃよ」

「じゃ、最初から説明するわね。私の愛しい人は、フィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長なの。その人と結ばれたいんだけど、それには団長の『目的』が邪魔をしてるの」

「なるほど。そいつが大分難儀なわけだ」

小人族(パルゥム)の復権。自分が小人族(パルゥム)の希望となって、続く同族の標となる。ここまではいいの。問題は、そのために小人族(パルゥム)の妻を欲しがっている事。……多分だけど正確に言えば、小人族(パルゥム)の子供を産める番だけしかいらない事」

 

 これまでにも、やれることはやってきた。夜這いを仕掛けたり、誘ってみたり、周囲にお似合いだと言ってもらえるよう『説得』したり。

 時には、フィンに近づく小人族の女(メスブタ)を威嚇して追い返したりもした。さすがに怒られるため、暴力までは振るっていない。これに関しては実行する度に注意はされるものの、強く辞めるようには言われていなかった。なんだかんだ、ちょっと脅されただけで逃げていくような相手は、配偶者にふさわしくないと思っているのだろう。

 しかし、ティオネには小人族の女(ウジムシ)を追い払う事は出来ても、フィンの考えを改めさせる術はない。それができない限り、永遠の堂々巡りなのだ。むしろこのままでは、『小人族(パルゥム)の希望』にふさわしい妻を発掘させる手伝いにしかならないとも。考えただけで気が狂いそうだ。やってることがとっくに狂っているとか言ってはいけない。

 

「だから、団長に小人族(パルゥム)の妻を諦めさせる、何かいい方法がないかしら」

「その内容だと、お前さんではいかん理由がいまいち分からないのだが。ハーフではいかんのか?」

「おじいちゃん、本当にあたし達(アマゾネス)の事知らないんだね。アマゾネスはね、どんな種族と交わっても、絶対にアマゾネスの子供しか生まれないんだ」

「ピンポイントに難儀な種族だねえ……」

「そうなのよ。だから、なんとか団長に『私の方がいい!』って思わせる方法ないかしら? 惚れ薬とか、この際手当たり次第に近くの女を襲うようになる薬とか、そういうのでもいいわよ」

「この子もこの子で、発想がいちいち怖い……」

 

 目をぎらぎらさせているティオネに、若干引いている老人。

 こめかみの当たりを揉みながら、老人は少しばかり考え込み。ちらりとティオネを見た後、小さくため息をついた。

 

「そうだね、その男の気を変えるような事は出来ない。だが……」

「だが!?」

 

 ずいっと顔を寄せてきたティオネを、嫌そうに押しのけた。

 

「男の方はどうにもできないが、あんたの方ならやり様はあるさね」

「私の恋心を忘れさせるつもり? なら承知しないわよ」

「なぜそうなる。ではなく、つまりお主が確実に小人族(パルゥム)の子を孕めるようになればいいんだろう? そっちなら可能だよ」

「マジでぇ!? お願いします! はやく! すぐに!」

 

 相談しといてなんだが、本気でどうにかなるとは思わなかった。さすがは頭のおかしな技術を頭のおかしな方向にしか使わない、頭のおかしい集団である。

 めちゃくちゃに興奮するティオネを、なんだかもう面倒くさそうにしながら、老人。

 

「少しだけ待ちな。すぐに戻ってくるから」

「いくらでも待つわ!」

「あたしはすぐに戻ってきて欲しい!」

「変な奴のところに来ちゃったなあ……」

 

 やけにすすけた様子で、後悔すらもにじませながら。老人はまるで、風のようにほどけた。

 戻ってきたのは本当にすぐで、恐らく三分は経っていないだろう。手には、針と釘の中間くらいの尖った何かを持っている。

 

「それがそうなの?」

「まあね。こいつは、あんたの腹の方を改造する道具だ。ざっくり言うと、優秀な母体にするって所かね。例えばエルフとの子供ができれば、アマゾネスの身体能力と、エルフの魔法適性を、どちらも100%引き継いで生まれる。当然、男女どちらも子をなせるよ」

 

 ぱあ……ティオネの顔が花咲いた。フィンに惚れてかれこれ数年、初めて見つけた希望である。

 しかし、ここで飛びついてはいけない。これだけでも大きな前進だが、まだ弱い。あくまでスタート地点に立っただけである。優位と言うには、まだ必要なものああった。多分要求するだけなら呆れるだけで済ませてくれる人だし、言うだけならば無料(タダ)だ。

 が、具体的に何を求めればいいのか分からない。なので、言えることは一つだけだった。

 

「もう一声」

「あんたね、店先で値引き交渉してるんじゃないんだから」

「でももう一声」

「仕方ないねえ……」

 

 しかも通った。正直これは、ティオネも割と意味が分からない。

 老人は大きな針を手に持ち、何かごにょごにょと唱えた。傍目からは、何か変化があったようには見えない。無意味な行動ではないのだろうが。

 

「これで子供は、両親のスキルと発展アビリティを相続できるようにもなる」

「つまり……え? 意味わかんない、どういうこと?」

「あんたと夫のスキルが、絶対子供に発現するって事さ。発展アビリティとかいうのは、親が同じものを持っている場合、数値が高い方のものが優先されるよ。ああ、魔法を相続できないのはわざとだ。魔法スロットを圧迫しちまうだろうし、子供に有用かも分からないからね」

「いや、そういう意味じゃなくて。なんでできるのって意味だったんだけど」

「ん? まずかったかね。じゃあ無くした方が……」

「わー! 待って待って、そのままで! で、これどう使えばいいの!?」

「腹に刺せばいいだけだけど、その前に……」

「ふんッ!」

 

 何かをさせる前に老人の手を握り、無理矢理自分の腹へ突き刺させた。

 想像していた痛みはない。というか、刺さった感触すらなかった。何かが起こったようには見えず、腹と手の距離を開けてみると、そこにはもう大針は、はじめから存在しなかったかのように消えている。

 

「あれ?」

 

 何事もなさすぎて、思わず声を上げた。が、変化は一拍おいて現れる。

 腹に変な模様が浮き出てきたのだ。これは、月と太陽だろうか。

 

「これでいいの?」

「あー、なにするんだい。せっかく少し能力をオミットしようと思ってたのに」

「しなくていいの! ということは成功なのね! 早速団長にアタックしないと!」

「ちょっと待ちな」

 

 正直、今すぐ飛んでいって団長を説得――もとい押し倒したかったが、その前に止められる。これが老人以外であれば殴り倒していただろうが、恩人のためなんとか理性が働いた。

 

「何よ」

「このことを言うのは、団長と主神だけにしといた方がいいよ」

「なんでよ。吹聴した方が外堀埋められるじゃない」

 

 今までは、小人族(パルゥム)ではないという拒否する理由があった。これは周知の事実だ。まずは外から意識改革をして、団長に迫るべきである。

 

「その場合、愛しの団長殿は、優秀な子を産めるからあんたを選んだって言う瑕疵が生まれるんじゃないかね。希望になりたいのに打算でまみれちまうってんじゃ、かえってあんたを拒否するかも知れない。そんなことになるよりは『愛の奇跡』とでも言って、小人族(パルゥム)とアマゾネス、両方の特徴を持つ子が生まれたって事にした方が、勝率が高いと思うよ。相手が見栄を重視するってわかってんだろ。あんたも相手を考慮しておやり」

「……なるほど!」

 

 正直よく分からなかったが、その方がいいならそうしようと思った。駄目なら改めて外堀を埋めればいいだけだし。特に損のない提案ではある。

 なんだか意味が分からないほど、未来が明るくなった。まさかフィンと結ばれるための、あらゆる障害が取り除かれるなどと思っていなかったし。これにはティオネもにっこにこである。

 

「はいはい、ティオネの用事は終わったよね! 次はあたしだから!」

「分かってるよ、忙しない子だね」

「ティオネにだけは言われたくないって。じゃあねえ、あたしは自然系(ロギア)が欲しい!」

「いや、あのね……」

「ちょーだいちょーだいちょーだい!」

「この子も話聞かないじゃないか……」

 

 うめく老人にまとわりつく妹を見ながら、ティオネは皮算用を始める。

 いくら同ファミリアとはいえ、ステイタスの詳細を知らされる事はない。しかし、ある程度の大枠くらいは分かるものだ。特にスキルの中では、周知させておかないと不都合があるものも存在するため。そうとは分からずとも、「あ、今スキルの影響を受けているな」と思うことは結構あるのだ。

 

(私のスキルは二つ。どっちもピンチの時に能力向上ってもの。単独(ソロ)でめちゃくちゃ強力。団長は、多分指揮関係スキルが中心よね。あんまり単独(ソロ)で性能を発揮するっぽいスキルの痕跡見たことないし。確か、数は五つだかって言ってたかしら。合計で七つのスキルを確定で持ってる? 何それ凄すぎ)

 

 普通、恩恵(ファルナ)を得た直後は、あらゆる能力がまっさらなものである。魔法種族(マジックユーザー)が最初から魔法を持っていたりするが、これは恩恵(ファルナ)とは基本的に関係ないのでおいといて。最初からスキルを持っているなど、レア中のレア。それが七つ。破格どころの話ではない。

 ティオネと、そしてティオナもまだLv.1の頃に思ったことがある。自分に強力なスキルがあればと。それが現実となるならば、価値は計り知れない。間違いなく、次世代ロキ・ファミリアの中核となるだろう。フィンもそう見込むはずだ。もしかしたら、本当に英雄となるかも。

 

(発展アビリティは私が四つ、団長が五つ……多分耐異常はかぶってるだろうから、八つがそれなりの数値で担保。やっば、これをLv.1でなんて、もう化け物じゃない)

 

 思わず顔がにやけた。

 フィンは表の顔に反して、かなり打算的だ。この利益は絶対に見逃せまい。という事は、後は感情の問題だけ。

 ティオネは、自分が小人族(パルゥム)であったなら、確実にフィンと添い遂げていた自信があった。つまり、残る問題はティオネの見た目がアマゾネスという事だけ。

 もう勝利確定である。今日の夜には床を一緒にしていてもおかしくない。

 

(うへへ……団長に受け入れて貰えたら、どんなプレイをしようかな)

 

 彼女にはもう、勝利後の事しか見えていなかった。いちゃラブぐちょドロデイズの始まりだ。マニアックな事をしてもいいと思っている。今から春本を読みあさって勉強しておかなきゃ。

 ティオネが気色の悪い含み笑いをしている間に、どうやらティオナの話も決着が付いたようである。

 

「えへへー、やったよティオネ! スナスナの実貰っちゃった!」

「まったく、なんて強引な子だい……」

「ごめんなさいね。この子って甘え上手というか、なんだかんだ甘やかしちゃうようなキャラらしくって。全く……能力を選んで貰ったのなんて初耳よ」

「あんたも人のこと言えないだろうが」

 

 老人に半眼の視線を向けられたが、気にしない。こっちだっていろいろと瀬戸際だったのだ。結果は存外の大勝利だったので満足しているし、後悔もしていない。やっぱ人生イケイケ押せ押せの上、ごねまくってなんぼだな、とすら思っている。

 ティオナが奇妙な果実に噛みつく。ろくに咀嚼もせず、一息に飲み込んだ。

 

「うーん、まずい!」

 

 言葉の割にはやたら嬉しそうだ。まあ、夢にまで見たという奴なのだから仕方がない事かも知れない。

 彼女はすぐに手元を確かめた。自分の指が砂となって崩れるのを眺めている。

 

「やったよティオネ! これであたしも砂人間だ!」

「相変わらず意味の分からない光景よねぇ」

 

 無茶苦茶なものであるが、害がないならそういうものだと受け入れるより他にない。

 少しだけ、自分も何かしらの能力をねだってみようかな、とティオネは考えたが。さすがにこれ以上は嫌な顔をされるだろうと自重した。限度を見誤ってロキ・ファミリアそのものに反感を覚えられてしまうのは、皆に悪い。

 

「ねえおじいちゃん、これどうやって扱えばいいと思う?」

「知らんよ。儂は能力者じゃないんだから。クロコダイルなりを参考にして、自力で探しな。どうせ可能性は無限大だ、自分だけの使い方を模索するのも一興だと思うよ」

「だよねー。えへへ……」

 

 放っておけばスキップでもしそうな様子で、ティオナ。

 姉妹そろってにまにまとしていたが、はっと気がついて、老人の方へ向く。そして、一言。

 

「おじいちゃん、ありがとね」

「本当にお世話になったわ」

「全くだよ」

 

 疲れをにじませて、老人が軽く手を振ってきた。この頃には、ポーズでしかなかった怪しさがすっぽり抜けている。

 

「今日はやけに疲れたから、もう帰らせて貰うよ。あんたたちも、まあ……ほどほどに頑張って生きるんだよ」

「めちゃくちゃ頑張って生きるよ!」

「私の人生は、これからが本番だから」

「だろうと思った」

 

 にっと――今度ばかりは素直な賞賛を乗せて、老人は笑った。直後、先ほどと同じように、風のように姿を消す。

 静けさを取り戻した夜に、ティオネとティオナは同時に帰路へつき。

 なんだか今夜は、いつもより月光が明るい気がした。

 

 

 

 

 この数日後、ロキ・ファミリアの団員同士が結婚するというニュースが流れたり。

 一年ほど先には、アマゾネスのような褐色の肌を持つ、小人族(パルゥム)ほどの双子が生まれたり。

 そんな事があったが、もう少し先のの話である。

 

 




彼はスキルと発展アビリティの価値をいまいちよく分かっていません
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