謎の商人ロールプレイ   作:誰かさん

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さいきょーサイキョー

 ベル・クラネルは思った。なんかオラリオに来てから酷い目にばかり合っている気がする。

 まず、来て早々、いろんなファミリアから入団を拒否された。これはまあ、百歩譲って飲み込める。入団の際に必要な基礎知識及び技術がごっそり欠けていたというのは、明確にベルの落ち度だ。どこへ行ってもヒョロガリ扱いされたのは腹に据えかねているが。仕方ないではないか。鍛えても体が太くならない体質なのだから。

 そして、入団早々団長を押しつけられた。いや、団長を務める事そのものはいい。なんだかんだ、心は躍ったのだし。だが、ファミリアの団員として少なくない経験を持つ二人が、名目だけとは言え部下である。彼女らは、ベルが何かを間違えると、にまにま笑って観察しているのだ。はっきり言おう、クッソむかつく。

 挙げ句の果てに、初恋と憧れをダース単位の火炎石で木っ端みじんにされたことである。

 他はまだしも、最後だけはどうしたって飲み込めなかった。ベルは帰ってからむちゃくちゃ泣いたし、あれからヘスティアとアルフィア以外の女性と話すと、身構えるようになってしまっている。再度アストレア・ファミリアに行って、リューというエルフと遭遇したときは、崩れ落ちながら泣いてしまって心配させたものだ。さすがにリューというエルフは、カリストほど頭がおかしくなかったのは救いか(あんなのが何人もいてたまるかという話だが)。

 幸か不幸か、ダンジョン攻略だけは順調である。ヘスティア曰く異常な速度で強くなり、ステイタスだけならもうすぐランクアップできるほどの数値だ。

 これで冒険者としてまで駄目だったら、ベルは逃げていない自信がなかった。

 

「へへへ……やっぱり僕には冒険譚とONE PIECEさえあればいいや」

 

 すっかりこじらせてしまったベルは、今日も今日とて部屋でまったり過ごしている。

 物語は好きだ。最近は物語なら裏切ってこないという、かなり後ろ向きな好み方をし始めていたが。それを抜きにしても、彼はよく本を読む。

 ド田舎極まる故郷では、本くらいしか娯楽がなかった。だから彼にとっては、同じ本を、すり切れるまで読むのは当然だ。

 

「いつか、僕もルフィみたいに……」

 

 いつか至りたい自分を想像する。そういった時、モデルにするのは、決まって実在の冒険者だった。

 アルフィアが来てからは、彼女に上級冒険者の話を聞く機会が出てきた。こう言ってはなんだが、彼らの活躍はベルにとって、アルゴノゥトという物語より身近で現実味が持てた。

 とりわけよく話題に上がったのは、フレイヤ・ファミリアとロキ・ファミリアである。双方の主神はろくでもないながら、眷属は勤勉そのもの。何より英雄の階段を上らんという気概は、アルフィアをして舌を巻くほどだという。

 彼女が知るのは、まだ能力というものが影も形もなかった時代らしい。が、そんなことは関係なく、一人残らず偉大な先駆者だ。

 

「うん」

 

 小さく頷いて、ベルは本を閉じた。

 このままでは駄目だ。強く思う。ダンジョンか部屋に引きこもるだけの生活というのは、控えめに言って人間を壊す。このままではそれ以外何もできない奴になってしまうと、強い危機感を抱いて立ち上がった。

 オラリオには、穴蔵巡りなる蔑称が存在する。これはダンジョン攻略にしか興味がない冒険者を指す言葉だ。こういった人たちは、強くとも社会的に認められづらい傾向があった。扱いとしては物好きでやばい引きこもりである。さすがに二の鉄を踏む気にはなれない。

 

「でもそれはそれとして、エルフの人がいる所には近づかないようにしよう」

 

 心に固く決める。ベルに刻まれたトラウマは深く、克服の覚悟を決めるには、未だ時間が足りなかった。

 一度外に出ると決めれば、特に悩むことはない。ベルはあくまで恐怖心があるだけで、出不精なわけではないのだ。多分、女性エルフと遭遇したら、すっ飛んで帰りシーツにくるまって震える事になるだろうが。

 廃教会の外に出たところで、いきなり何があるわけでもなかった。それも当然で、ここらはほとんど人が寄りつかない区画である。治安が悪いのではなく、シンプルに何もなさ過ぎて。

 故郷でもの悲しいのには慣れているとはいえ、一度都会の喧噪を味わった身。こうまで何もないと、小さいながら不安を覚えた。

 

「人の多い所に行ってみようかなあ」

 

 とは思うが、ここはオラリオ。エルフ単一の里以外では、世界有数のエルフ比率を誇る都市だ。下手にふらついて遭遇してしまうのは怖い(なおベル的に、ダークエルフは別勘定だ)。

 

「……うん! 少しずつ慣らしていくべきだよね!」

 

 結局、ベルはへたれた。いざという時はいくらでも思い切れるが、逆に言うと追い詰められなければ思い切れない系男子だった。

 まあ、こういった場所にも利点はある。遊ぶには全く向かないが、散歩をするには丁度いいのだ。昼頃の本来なら人が賑わう時間帯でも、早朝気分を味わえる。

 ただし、日が暮れ出すと、ここみたいなへんぴな土地でも妙に騒がしくなる。うるさくならない程度に人が出入りするのだ。ヘスティアに事情を聞いてみたところ、オラリオはそういう場所だという、分かるような分からないような返事を返された。

 こうして実際に外へ出てみると、なんてことはない。やはり、変な印象をつけられてしまったせいだな、と自分を鼓舞した。

 

「本当に何もない所なんだなあ」

 

 余裕が出てくれば、改めて周囲に気を配れるようにもなる。

 廃教会の周りは、頑健な建物の廃墟が多かった。石やレンガとコンクリートで造られており、改築どころか、ちょっと掃除をすれば現役そうな建物がずらりだ。一体どういう事情でこのような状態になってしまったのかは知らないが、なんとも贅沢である。都会の財力というものを見せつけられた気がした。全くの妄想かも知れないが。

 何もないというのは、今のベルには心地よい。こうしていると気が大きくもなってくるもので、足取が早くなり、軽口も出てくる。

 

「お姉ちゃんも、たまには散策とかすればいいのに」

 

 アルフィアは、相変わらずなるべく知り合いとは会いたくないようだ。今のベルと同じくらい、余計な外出をしようとしない。

 本人はそれを、やろうとしていた事を成す前にいろいろあってリタイアしたせいだ、と語っていた。そのため、合わせる顔がないと。まあ彼女の場合、ただうるさいのが嫌いなだけで、知り合いがどうのはただの言い訳かも知れないが。

 ベルには理解しきれない話だが、結局何もしてないなら素知らぬ顔をしてはいけないのか、と思った。プライドの問題だというのは分かるし、どうせ言っても聞かない姉ではある。どこかで折り合いをつけられたらいいな、と思う。

 ぼんやり歩いていると、多少人通りが多い場所に出てきた。といっても繁華街ほどではなく、広い道にぽつぽつと人が歩いているという程度。

 その中でも気になったのは、頭に月桂樹の葉で作った冠をしている長身の男性だった。あれは草冠ではなく、ディアデーマというのだったか。ヘスティアが一部の神で流行っていると言っていたような、そうではないような。正直、さほど興味がなかったので朧気だ。

 その人と目が合うと、早足でまっすぐ近づいてくる。

 

「お前はベルきゅんだな」

「は、はい。そうですけど。というか、きゅんって……」

 

 なんかいきなりキャラクターが濃い人に話しかけられたな、と考える。むしろこれは、目をつけられたと言った方が正しいかも知れない。

 ともあれ彼は、ベルの様子など気にもせず、じろじろと見てきた。さすがにカリストほどの危険さは感じないが、それでもいい雰囲気とは言いがたい視線である。後は、ぱっと見ただけで分かる神様という事か。

 ベルはオラリオに来て、変な格好をしていたら神ではないかと疑うようになっていた。稀に現代人風の装いをしている神もいるが、大抵は古風でちょっと特殊な姿をしている。

 

「僕の事を知っているんですね」

「うむ、見込みがありそうな新人は随時チェックしているからな。まあ、今までのやり方ができなくなってしまった以上、あまり意味はなくなってしまったのだが……」

 

 どこか苦虫をかみつぶしたような顔をするが、すぐに表情を戻した。

 

「しかし……ベルきゅんはやり()()な。実物は写真で見るより遙かに……はぁはぁ……」

「なんか怖いんですけど……」

 

 いきなり息が荒くなり、瞳まで濡らしている神に、一応言っておく。それこそ、これがエルフ(トラウマ)だったらとっくに逃げていただろう様子だ。

 

「うぅ……、欲しい。どうしても欲しい! しかしクソッ、条約が!」

「ひぇ」

 

 男神は、いきなりキレたかと思うと、そこらにあった木箱を蹴手繰り始めた。情緒が不安定すぎる。ベルはかなり本気でビビった。

 周りに居た幾人かは、重々しい打撃音に驚くと、遠巻きに距離を置いてく。

 ベルだってできるならそうしたかった。さすがに面と向かって会話している、しかも神様を置き去りにして逃げるのはためらいが勝る。後から、余計な事は考えず即退散すべきだったと後悔するのだが。

 

「とりあえず落ち着きましょう。ね?」

「ふー……ふー……。そうだな、私としたことが。ともかく、横紙破りが駄目なのだから、正攻法なら何も言われんだろう。正攻法が何かは知らんが」

「何の話かは分かりませんけど、正攻法が何かくらいは知っておかなきゃいけないんじゃないですかね」

 

 なんだか、凄くヤバい神様に見える。それもちょっとやそっとではなく、ぶっちぎりで。

 彼は深呼吸を何度かした後、再びベルと視線を合わせて。ベルは、早まったことをしたかも知れないと思った。彼のねっとりとした視線は、生理的嫌悪と危機感をめちゃくちゃに刺激するものだったから。

 

「ベルきゅんさえよければ私のファミリアに入れてやってもよいぞ。いや、なれ!」

「い、嫌です」

「何でだよ!」

 

 なぜと言われても。その台詞で同意する人とかいるのだろうか。

 

「ならば要望を聞こうではないか! どうすれば私のファミリアに入ってくれる!?」

「藪から棒に言われましても……そもそも改宗(コンバーション)する理由こそないんですけど」

 

 神ヘスティアに対する義理立てというだけでなく、肉親が同じファミリアにいるのだ。スキルがあまり表沙汰にできないものらしいというのもあり、そういった意味でも改宗(コンバーション)は考えられない。ファミリアに残る理由は数あれど、去る理由など一つもなかった。

 というか、こんなの大なり小なり皆同じだと思うのだが。

 

「ぐぬぬぬぬ……。仕方ない、百歩譲って、私のファミリアに来ないのは許してやろう」

 

 どう考えても許して貰う必要はないのだが、話が長くなりそうなので黙っておいた。

 

「だからベルきゅんよ、とりあえず、ベッドの上で語り合おう」

「ひっ……!?」

 

 思わず悲鳴を上げてしまったのは、男の手が、ベルの尻を撫でていたからだ。しかもちょっと触れたという程度ではない。ねっとりじっくり、上から下へ舐るように。

 全身に走った寒気に従って、ベルは距離を取った。

 そのまま走って逃げなかったのは、神を相手に無体な真似を働いてはいけないという最後の理性が働いたから。それでも体は自然と後退していた。まあ、男はそれ以上の速度で、距離を詰めてきたのだが。

 ベルは初心で、年齢の割には情操教育を受けていない。それでも最低限の知識は持っている。故に、男が『ナニ』を求めているか程度は分かった。あるいは、分かってしまった。

 

「ぼ、僕は男ですよ!?」

「だからどうしたというのだ。愛の前には、性別など些末な事だ。人か神かもな」

「出会って間もないですけど!」

「だからこれから、時間を埋めようとしているのではないか」

「僕は普通に女性が好きです!」

「同じ話の繰り返しになるな。愛とは心のつながりだ。物的な接触は、本質とほど遠い。精神(イデア)が触れ合う為の前座でしかないのだよ」

 

 一見まともそうな事を言っているが、やろうとしている事は肉欲全開である。

 ベルには当然男色の趣味はないし、そういったものがあるという知識すらない。男はおぞましさこそカリストに劣るもものの、理解不能という意味では、むしろ上回っていた。

 ベルは焦って周囲を見回す。誰かに助けを求めようとしたのである。しかし、人っ子一人いない。皆、危険な雰囲気を察して、とっくに逃げていた。

 一歩下がる。二歩近づいてきた。二歩下がる。四歩近づいてきた。

 

「さあ、ベルきゅん。私が愛について、ついでに冒険者のなんたるかをおしえてあげようではないか……」

「ひいいいぃぃぃ!」

 

 ついに理性が崩壊し、ベルは走って逃げ出す。背後は確認しなかったが、追いかけてきているのは気配で分かった。

 冒険者と神。単純に足の速さで言うなら、前者が圧倒している。恩恵を持つ冒険者には、どうしたって神が勝つ方法などないのだ。ただし、それは直線距離を走る場合のみの話であり。

 ベルが向かう先々に、男は先回りしていた。

 これが土地勘のなさと、目的地を把握されているというだけならばまだ分かる。しかし男は「ぬぅーん……私の勘が言っている。愛しのベルきゅんはこっちにいると」などという背筋が寒くなることを呟きながら、的確にこちらを探し出して来た。これに恐怖以外の何を感じろと言うのか。

 とにかくベルは、時間感覚がなくなるほど走った。ホームに逃げ込むべきかと考えたときには、既に帰り道を見失った後だ。

 荒れる息もそのままに、ここはどこだろうと考える。もうずいぶん長いこと、へんぴな道を走っていた。もしかしたら一生このままかもしれない、そんな思いすら浮かんできたところで。

 正面に人影が見える。背はそれほど高くないが、しかし細身の体にしっかり筋肉が詰まっているのが分かる獣人。ベルは一にも二にもなく飛びついた。

 

「た、たす……助けて下さい!」

「あぁ?」

 

 がたがたと震えながらしがみつくと、獣人の男は小さく舌打ちした。

 獣人の男はベルを振り払おうとしたが、その前に、近づいてくる何者かに気付いた。ひぃ、と小さく悲鳴を上げるベルにもう一度舌打ちし、建物と建物の隙間にベルを無理矢理詰め込む。

 

「おい、そこの! ……む、貴様はアレン・フローメルか。まあ誰でもいい、ベルきゅんを知らないか」

「誰だよベルきゅんってのは」

「我が愛しの君だ! 知らんなら知らんでいい。ベルきゅんやーい、どこだーい!」

 

 声を上げながら、足音と共に気配が消えていく。

 ベルは安堵から、ほとんど倒れるように這い出て、泣き出してしまった。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます……」

「反吐が出るほど情けない野郎だな。冒険者でもない、たかだか一柱に追いかけられたくらいで悲鳴まで上げやがって」

「だって……あの人、ぼ、ぼ、ぼくをおかすってえぇぇ……」

「……ああ、なるほど。事情は分かった。悪かったな、そりゃたしかに怖ぇわ」

 

 獣人の男性、もといアレンに頭を撫で慣れ、なおさら涙が溢れる。情けなさが止まらない。

 ベルがすんすんと鼻を鳴らしている間、以外にもアレンは付き添ってくれた。態度は徹頭徹尾忌々しそうにしていたが、見た目の印象よりもずっと面倒を見てくれる。まあ、そこには多分に、ホモの神に無理矢理関係を迫られたというのもあるだろう。

 

「とっとと泣き止め。うるせえのは嫌いなんだよ。

 

 と、とげとげしい言い方をしながら、壁に寄りかかって腕を組む。なんのかんのと言いながらも、待っていてくれるようだ。

 ベルはずびずびと鼻をすすり、目元を拭う。黙って待っていてくれる彼に、優しいなあと思った。これが姉であれば、鼻が折れる勢いでぶん殴られている所だろう。

 アルフィアにそうされてきた事に恨みなどないし、むしろ感謝している。今となってみれば、あれはあれで冒険者として身を立てるのに必要な事だったと分かるからだ。ただ、凄く厳しかったとは思うが。

 顔を拭き終わった頃に、先ほどの会話で気になっていたことを聞いてみる。

 

「あの、アレンさんって、あのアレン・フローメルですか?」

「他にアレン・フローメルなんていう名前した奴なんざ知らねえ」

 

 やたらに迂遠な言い方だが、恐らく肯定なのだろう。

 言葉に、ベルはぱっと表情を華やがせた。

 

「凄い! お姉ちゃんが言ってた、英雄候補だなんて!」

「英雄候補だぁ?」

 

 やや不快そうな顔をしたアレンに、ベルは慌てて訂正した。

 

「あ、ごめんなさい。お姉ちゃんが最後にオラリオを見たのは八年近くらい昔らしくて、僕もその頃の知識を、しかも聞きかじりでしかないんです」

「八年前……闇派閥(クソ)共が活性化し始めた頃か。チッ、それじゃあ仕方ねえか」

「お姉ちゃんからは、いろんな人の話を聞きました。暫定的に最強の座に立ったオッタルさん。高度な組織化で急速に力をつけていったロキ・ファミリア。フレイヤ、ロキ・ファミリアは劣るものの、新進気鋭のアストレア・ファミリア。他にもたくさん……」

「懐かしい話だな」

 

 この時ばかりは眉間の皺も解き、過去に思いをはせていた。

 

「でも、僕が一番惹かれたのは、アレンさんの話なんです」

「……なんでそこで俺なんだよ」

「だって、その、何というか……。これは僕の勝手な印象なんですけど、アレンさんは一番()()()()いました。誰よりも努力した人が、長い年月を掛けてついに頂点(最強)に立った。そんなの、憧れない訳がないです」

「何が努力だ。最強は俺だった、そんだけの話だろ」

 

 などと悪態をつきながら、アレンはそっぽを向く。しかし不思議と、表情から険は感じなかった。むしろ、どこかちょっと親しみやすくなったようにすら思える。

 

「その様子なら、冒険者としてオラリオ(ここ)に来たんだろ。それならなおさら、それならなおさら、逃げてばっかいんじゃねえよ。夢()()見に来たんなら、好きにすりゃあいいがな。せめて邪魔にならねえよう、隅の方を這いずってろ」

「う……無様な姿を見せた後じゃ信用してもらえないかもしれませんけど、これでも対モンスターの成績だけはいいんですよ。恩恵(ファルナ)がない状態でモンスターを倒した事だってあるんです。……一番弱い奴ですけど」

「ほー、そりゃすげえ」

「あっ、信じてませんね?」

 

 小さく鼻で笑われて、ちょっとショックを受ける。

 まあ、言葉だけではあまり信用されないのは知っていた。ベルは見た目が貧弱で、とりわけ武勲の類いは信じて貰えないのだ(それこそ、小人族(パルゥム)の方がなんぼか強そうとまで言われたことすらある)。ゴムの体を最大限利用して手段を選ばなければ、結構いけるものなのだが。

 が、どうやら。アレンが笑った理由は、別な様だった。

 

「ただのフカシとは思ってねえよ、ベル・クラネル」

「あれ? 僕、名乗りましたっけ?」

 

 姓まで名乗ることは稀なので、かなり違和感がある話ではあった。

 

「自覚がねえみてえだな。お前の事は、ほんの少しだけ話題になってる。見込みのある新人の一人としてな。噂と見てくれが結びつかなくて、今まで気付かなかったが」

 

 そう言われて、ベルは顔を赤くする。憧れの人に名前を覚えて貰っていた。それがたまらなく嬉しい。もしかしたら、これで見せた醜態もチャラになるのではないだろうか。……いや、それは無理かな。

 ただ、嬉しいのは本当だ。

 これも聞きかじりの、勝手な印象でしかないが。アレン・フローメルは、最初強くもなんともなかった。それどころか、誰にも期待されないような、その他大勢の一人。彼にあったのは、強くなろうとする気持ち、ただそれだけ。

 そんな彼が強くなるには、苦難しかなかっただろう。何度も挫折しただろう。ベルが考えるより壮絶な経験だって、いくらでもあったはずだ。しかし全てを乗り越えたからこそ、今のアレン・フローメルがいる。

 だからベルは、いつか自分も同じように。そう思ったのだ。

 

「その、知ってて貰えて凄く嬉しいです!」

「うるせえ叫ぶな。アポロンが戻ってきたら、まためんどくせえ事になるだろうが」

 

 ぺしんと軽く頭を叩かれる。そんな事すら、どこか誇らしかった。

 

「面倒見てやるのはここまでだ。後は、せいぜいテメェで頑張れ」

「あの、もしかしてこれからダンジョンに行くんですか?」

 

 そう思ったのは、彼が軽装ながらも武器を携えていたからだった。

 話を聞く限り、本来の得物は槍だ。今装備しているのは、恐らく投擲用の短剣十数本と、妙に曲がりくねった鉄の刃。一人でダンジョン攻略に行くような装備ではないが、かといって街中を散策するだけにしては物々しい。だから、もしかしたらダンジョンへ行くのかと考えた。

 

「あぁ? だったら何だよ」

 

 ここで初めて、アレンは本気の不快さを見せる。かなり強く圧力も掛けられた。

 が、ベルはこの程度で怯んだりしない。アルフィアには常日頃からもっときついものを浴びせられているし、少しでも怯んだら拳が飛んでくる。故に、ただの脅しでしかないと分かっている圧力など、ものの数ではなかった。

 

「け、見学させていただいてもよろしいでしょうか!?」

 

 純度百パーセント、期待だけを込めるベルに対し。逆にアレンが面食らう。

 何秒かたじろぎ、その後もなんとか言葉を探しているようだ。しかし最終的に出てきたのはため息だけで、考えていたあらゆる言葉が外に出る事はなかった。

 

「……邪魔したら殴り飛ばすからな」

「ハイ!」

 

 まるで、というかまるっきり子分といった様子でついて行き。

 ベルは密かに思った。悪いことばかりではなく、こうしていいこともあるんだなあ、と。

 

 

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