Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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◆あらすじ◆
 マイソシア大陸、かつてメント文明と呼ばれる超古代文明が栄え、神の領域と言われる『創造』をも手中に収めていた。
 身の丈に合わぬ力を行使するがゆえに、摂理からの乖離は人間だけに止まらず、自然へ、そしてあろうことか神々へさえも影響を与えだした。
 神はこの愚行を憂い、人間の創造力を封印することで事態の収拾を図った。

────それから千年
 マイソシア大陸の時を刻むのは、アスク帝国支配のメタリアル文明に生きる者たち。
 王都ルアスを囲むように主要都市があり、ルアス王国騎士団長から任命されたギルド長らによってそれぞれ自治が行われている。

 どの都市の者も、かつての文明が興した知も卑も知る由はない。
 そう、ルアスで古代文明の遺物が発見されるまでは。
 ──人間は神に近い存在であり、創造的な能力を持ち得る
 ──また、対立と融合による発展を極めた時、人間は完全なる生命体となる
 遺物に記されていた古代文明の記憶が解き放たれ、運命の歯車はあらぬ方向へ再び軋むこととなる。

 まるで開けてはいけない魔法書を解いたように、同時期に現れた正体不明の戦闘集団──エズダーシア。
 彼らは古代文明と深い結びつきのある〝あるもの〟を求め、各地を侵略し始めたのであった。

 物語はそのような緊張とはかけ離れた、サラセンに住むとある少年から始まる。


1幕:不屈の男
全員ぶっ飛ばしてやるぜ!


「なぁ、いいだろ?! そろそろ! なぁ!」

「ダメじゃ! この痴れ者が! そこに座して己の愚を恥じておれ!」

 

 白の上下にターバンをした一人の老人が肩をいからせ、黄金色な土作りの神殿から出てきた。

 大陸の東に位置する砂漠の都サラセンは、今日も雲ひとつない快晴であり日差しが更に老人の怒りを煽る。

 その老人の下へ、短く切り揃えられた銀髪の若い女性が手を振りながら元気に走り寄っていく。

 

「おじい様、どうされたのですか? そんなに顔を赤くされて」

「おお、サフィか。なんでもないわい。どうじゃ、修行のほうは」

 

 老人の孫娘サフィだった。彼女はサラセンの長老であり、自らの祖父であるフォン老師の下で武の道を歩む修道士。

 彼女が双拳をすばやく連打すると、老師の真っ赤な顔に笑みがこぼれた。

 

「武の道を歩むのもいいが、そろそろ婿探しもしなければいかんぞ?」

 

 唐突な説教にサフィの顔が紅潮したのは言うまでもない。だが、その反応を楽しむこともなく、老師は赤い顔を更に赤くしながら神殿のほうを指差した。

 

「じゃが、アイツみたいなやつはわしは認めんからな」

 

 老師の指すほうを見て、サフィは何が起こったのか大方見当がついてしまったらしくため息をついた。

 

 幼い頃の遊び場、そして今は修行場である広い神殿。中までしっかり陽が入りながらもとても涼しい。

 その中を歩いていくとサフィににとっては見慣れた光景が広がっていた。幼馴染の少年……と言うのはガタイが良すぎる、ボサボサに尖った黄緑の髪が雑木林にすら見える山のような男が太い柱に縄でくくりつけられていたのだ。

 

 彼もフォン老師の門下生であるのだが、何をどう睨まれたのか、いつもひどく叱られてはこうして柱に縛り付けられている。確かにお調子者だし少々不真面目なところもあるが、サフィにとってはいい友達であり武のライバルだ。

 いつものように縄を解いてやろうと近づいた彼女の手だったが、その手は次の瞬間には拳に変わりラベンダー色の瞳に火が入った。

 

「……?! いってぇ! 何しやがる!」

「バカじゃないの? そんな神経してるからおじい様に叱られるのよ」

 

 なんともはや、彼はお灸をすえられていたにもかかわらず、眠りこけていたのだ。彼女はくどくどとお説教をしながら、少年の体を拘束している縄を解いてやる。

 自由になった体をありったけ振り回して柔軟を終えると、少年はその場に勢いよく座り込み、あぐらをかいた。

 

「ふぅー。助かったぜ」

「助かった! じゃないわよ。ゲイル、あんた今度は何したの?」

 

 縛られていた少年ゲイルは幼馴染に顔を近づけ、ディープブルーの目を爛々とさせてもったいぶる。

 

「俺さ、そろそろ世界を修行して回りたいんだよ。それを言ったらあのジジイ、怒鳴りやがった」

「へえ。でも、それだけでおじい様があんなにお怒りになるとは思えないけど」

 

 何かしたんでしょう──そう言いたげな親友の顔にゲイルはむっとした。小さいころからずっと拳を合わせてきた間柄だけに、表情を見ただけで何を言いたいか分かる。彼は両方の掌をサフィに向け、何とか無罪を示そうと必死だ。

 もちろん、サフィは何かやらかしたのだろうと確信しているようたが、それ以上は追及しなかった。

 

「ま、いいわ。早く稽古に行きましょ」

「お、そうだな! さっき必殺技を編み出したんだよ。それ初めて喰らえるなんて、お前はとってもついてるぜ! 技の名前を聞いて驚け。爆裂フォンバスターだ!」

「はいはい……」

 

◆◆

 翌日、稽古を終えたゲイルはフォンからの言いつけでサフィと果物屋へ向かっていた。

 

「まったく、師匠は人使いが荒いよな」

「しょうがないでしょ。あんたはおじい様のところに住込みなんだし、家事の手伝いくらいしたっていいじゃない」

 

 1グロッド金貨を親指で弾いてはそれを掴む。広い広いサラセンの街は、買い物をするだけでも軽い修行だ。何せ稽古場である神殿からだと果物屋は町でも一番遠い場所にあるから、フォンは自分で行くのが面倒だからと押し付けたに決まっている。

 

 いつもの事だからそれはいい。気になるのは親のことだ。物心つくころにはすでにフォンの家で暮らしていたが、ゲイルには自分の両親がどこで何をしているか分からない。老師に聞いても決して教えてはくれなかった。〝一人前になったら教えてやる〟その一点張りだ。

 

「俺の親は、どこで何やってんだろうな」

 

 ボーっとしていると、自分が何のために生まれてきたのか分からなくなる事がある。生まれて早々親に捨てられて、物心ついたときには周りには拳しかなかった。そんな煩悩を吹き飛ばす為に、武の中で自らを鍛えてきた。

 

「あ……、ごめん、なさい」

「気にするなよ、そんなつもりで言ったんじゃないって」

 

 サフィは妙なところで気を遣うので疲れてしまうのではないかと心配になるときがある。親のことはどうこう出来ないのは分かっているのだから、彼女が謝る話でないだろうに。

 

 しばらくグロッドを弾く音が続く。

 両親を探す為というわけではないが、前からゲイルはサラセンを出て旅をしてみたかった。もう十分に修行は積んだ。自分がどれほど通用するのか、世界をまわって確かめたくなっていたのだ。

 

 グロッドに集中してはや何分か。弾いては掴むの繰り返しを延々と続ける。いつまでも続くであろうそのループを繋ごうと、グロッドを掴もうとしたその時だった。

 

「?!」

 

 突然強い力で腕を引っ張られ、あっという間に民家と民家の隙間に引きずり込まれてしまった。今もなお腕を掴んでいるのは、見慣れた自分よりしなやかで細い手……そう、サフィのものだ。

 

「なんだよ」

「シッ。あれ見て」

 

 サフィの指差すほうを見ると、そこは目指す果物屋だ。

 ボーっと歩いている間にこんなところまで達していたのかと思ったが、直感が何かを知らせた。よく見てみると、いつも朗らかな果物屋のおばさんの顔がこわばっている。その視線には……見慣れない格好の男が数人。

 

「あ、ちょっと!」

 

 サフィの静止など気にも留めず、彼は果物屋へと走り出していた。

 

 

「長老はどこだ?」

 

 男の一人がおばさんに顔を近づける。おばさんは恐怖に声が出ず、すくみあがってしまっていた。

 

「やむを得ん。少々痛い目を見たほうが口も開くってもんかな?」

 

 男は懐から刃物を取り出したではないか。さらに顔が青ざめるおばさん。こうなってしまっては、頭で考えるなんて体についていかない。

 ゲイルは即座に気を集中し、両手にそれを集める。青い光となったそれはぐんぐん大きくなっていき、そして──

 

「やめろ!」

「ん? ぐはっ」

 

 気弾イミットゲイザーを男に向かって叩きつけ、ゲイルは倒れこむ男の前まで走り寄る。

 残りの二人の男がゲイルに驚いたように見せたのは一瞬でもう剣を構えており、黒装束に身を包む彼らは修羅のごとくゲイルを睨みつけている。

 

「ほう、さすが武の総本山と言われるだけはあるな。気を扱える者がいるのか」

 

 目で合図をしながら、ゲイルを取り囲むようににじり寄る。

 

「お前にも聞こう。この町の長老はどこにいる?」

「あんなクソジジイのことなんか思い出させないでくれ」

 

 先ほどから男達の要求はただひとつ。フォン老師の居場所であった。物陰に隠れているサフィに来るなと視線で合図を送りつつ、懐へ手をやる。

 

(こいつら、相当ヤバそうだ)

 

 男達からは殺意が痛いほどに伝わってくる。一体何者なのか気になるが、相手の眼つきはそんなことを考える余裕を与えてはくれそうにない。懐からナックルを取り出すと、晒しを巻いた拳でそれを握り締めた。

 

「!」

 

 まさに一瞬だった。男の一閃を間一髪で避ける。髪の毛を散らせながら、ゲイルは得意の拳を相手のみぞおちへ打ち付けた。鋭い視線も、鍛え抜かれた拳の前には虚ろに崩れる他に術がない。

 

「バカめ!」

(しまった……!)

 

 ゲイルの背後からは、もう一人の男の蔑み混じりの声と共に、剣がうなりを上げて迫ってくる。思った以上に男達の動きは軽快だ。剣使いであるが戦士のような鈍重さはない。

 修道士である以上、敵の攻撃は受けて立つ。身を切らせて骨を絶つ精神こそが流儀だ。

 だが……今の体勢では明らかに危険すぎた。

 

 ────ッ

 

 男は剣を振りかぶったまま時が止まってしまったではないか。

 何が起こったのかと男の後ろへ視線を向けたゲイルははっとした。男の後頭部へサフィがまっすぐ拳を伸ばし、拳と男との接点からはうっすら煙が上がっている。

 拳から人差し指を出して男を突っつくと、そのまま男は倒れこんでしまった。

 

「ふふ、どう? おじい様直伝の大地の怒りは?」

 

 先ほどゲイルに倒された男がよろめきながらサフィを弱々しく睨む。もう立ち向かってくる素振りの無い虚ろな眼つきは、突然に見開かれたかと思うとサフィの胸のあたりにその視線は集中し始めたではないか。

 

「な……っ、コイツ、どこ見てるのよ!」

 

 サフィの怒鳴り声に我に帰った男は、完全にのびてしまった相方二人の傍まで歩くとしゃがみこんだ。やはり戦う気力は残ってはいないようである。

 

「おのれ……子供と思って油断したわ。だが、次会う時は容赦せん。小童共、覚悟しておれ!」

 

 捨て台詞を吐きつつ、男は懐から何かを取り出して地面に叩きつけた。何かが弾ける音と共に飛び出した閃光は、男達の姿を影もろとも消し去ってしまうに十分だ。

 目を開けると、そこにはいつもどおりの光景が戻っており、おばさんが腰を抜かしていた。

 

「もう大丈夫だぜ、おばちゃん。……ん?」

 

 おばさんを立たせ、ふと視線を外したその先に見慣れないものが飛び込んできた。

 どうやら男達が装備していた剣のようだ。拾い上げて眺めているとサフィも覗き込んできて首を傾げ始めた。

 

「珍しい剣ね。戦士の大剣でも騎士剣でもないし……ダガーでもなさそうだわ」

「あぁー。落とすなら珍しい食いもんを落として行けよな」

「あ、あんたねえ……」

「え、だってよう、深く考えたって仕方ないじゃないか。おばちゃんを助けた。それでいいじゃん」

 

 なぜサフィが呆れているのはよく分からないが、良い事をすれば腹が減るに決まっている。お礼と言っておばさんからもらったオマケの果物を頬張りながら、ゲイルは伸びをしつつ願望を空に叫んだ。

 

「あぁー、旅してえ。世界中のウマいもんが俺を待ってる!」

「……あんた、もしかしてそんなことをおじい様の前で言ったんじゃないでしょうね?」

「えぇ!? どーしてわかったんだ? お前、いつのまに魔術師になったんだ?」

「……」





【挿絵表示】


ゲイル=ウィンドミル(18歳男 クラス:阿修羅)

本作の主人公格。武の総本山サラセンで修行に明け暮れていた。
師匠であるフォンとは血の繋がりはないが、拾ってくれた彼に深い尊敬の念を抱いている。
その割に行動はお世辞にもまじめとは言えず、いつもフォンに叱られてばかり。
ただ、正義感は人一倍強い熱血漢でもあり、咄嗟の判断力は優れている。

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サラセンと言うと、オルタナティブプロジェクト以前か以後か、どちらを思い浮かべますか?
私はあのモンスターに支配された夜の街のイメージがすんごい強いです。
ネクロ教を信じろ!来世で復活するのだ!で有名な(?)アレです。
β時代のとにかくキャラが弱いなかで、試練を乗り越えた者達が集う修羅の町……そんな記憶。

……ここまで書いておいて、小説の舞台はオルタナティブプロジェクト以降の黄金の砂漠都市です。
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