Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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とんでもないヤツを踏みつけてしまいパニックのまま森を駆け回る。
サフィのファインプレーで窮地を脱したかに思った矢先、二人はますます青褪めることに。
いよいよ森の魔力に取り込まれそうなとき、声をかけてきたのは魔女だった。


このぼったくり魔女め!

「わぁっ、逃げろ!」

 

 ゲイルが踏んだ何か分からない柔らかいモノ──それはルケシオン森に生息するジャイアントキキの尻尾だったのだ! 

 キキの一族と言えば温厚であり、危害を加えない限り襲ってくることは無い平和な種族として有名である。体の大きいジャイアントキキは特に、まん丸な目に違わず温厚を過ぎて鈍感であり、尻尾を踏まれたぐらいでは気付かないことも多い。

 

「もう! ゲイルのバカぁ!」

「んなこと言ってもよ──どあいててててッ?!」

 

 だが、このルケシオン森に住むジャイアントキキは一味違う。カレワラ森から流れてくる魔素の影響か、狂気的な好戦性を持っていて、目に見えたもの全てに体当たりせずにはいられない。

 何も無い状態でも爆弾のようなヤツなのだ。それが尻尾を踏まれた今、そのつぶらな瞳に怒りの炎が灯り、猛烈なスピードでゲイルたちを狩ろうと追い掛け回す。

 

「おいッサフィ、なんとかしてくれぇ!」

「無理よ! 謝りなさいよ!」

「どっちが狩られる側だっつーの──あだだだだ?!」

 

 背中に怪我人を背負っていたら逃げられるはずがなく、後ろからタックルを喰らいまくる。

 

「──?! ゲイル、止まって!」

 

 目の前には二人を拒むかのように谷が広がり、先も下も真っ暗で、はるか先に木がかろうじて見える。

 振り向くまでも無く、後ろからは追跡者が迫ってくる。

 

「チィッ。この子だけでも何とかしねえと」

 

 あたりをキョロキョロ見渡しているとサフィの視線に掴まれた。ギンと睨みつけられ、反応でギョッと小さくなった。

 

「ゲイル」

「はヒッ!」

「こっち向いて」

 

 こうなってしまうと、もう言われるがままにするしかない。サフィを怒らせると、とにかく手がつけられないのだ。

 きっと、下もよく見ず歩いてキキの尻尾を踏みつけたことを怒っているに違いない。

 

「目をつぶって!」

「はい!」

「こおおおぉぉぉッ──!!」

 

 気が集まり高まる流れを感じる。サフィは何をするつもりだろう。

 キキの体当たりの衝撃と共に聞こえてくる、竜巻のように気が集まってくる音。目を開けたいが、サフィに逆らったらどうなるか分からない。

 

「行くよ!」

「行くよってなに?!」

「いいから私に掴まって!」

 

 よく分からないが、背中の少女を抱きなおしてサフィの腰にしっかりと抱きついた。お尻が当たるとかそんなことは言いっこなしだ。

 さらに高まる波動の音。チラッと眇めた目で様子を伺うと、気が渦を巻きサフィを取り囲んで天に向かって吼えていた。

 もう維持していられる限界か、サフィの右手から溢れるように流れを作って迸る。

 撃つつもりだ──嫌な予感がして、親友に抱きつく腕をさらに強く締めた。

 

「超・エネミーレイゾン! はあああっ」

 

 辺りが砕けるような轟音と共に体が無理やり宙に放り出されたような腹がゾワっとなる感覚が襲う。とうとう目を閉じていられなくなったゲイルは、下を見て固まった。魔界へ繋がっていそうな深淵が大口を開けていたのだ。

 

「よっと!」

 

 谷を渡りきって余りある飛距離を、サフィは木の枝を両腕で掴んで無理矢理止める。

 とりあえず作戦は成功したらしいが、ゲイルは震えや涙が止まらない。おまけに上からはからかうような笑い声が降ってくる。

 

「何よ、男のくせに」

「さ、サフィのバカ! そんだけ気を集中したならそれでアイツをぶっ飛ばせばよかったんじゃないか!」

「あ……」

「あ、じゃねえよ……」

 

 今でも生きた心地がしない。出力が不足していたら、今頃谷底でぺしゃんこだったのだ。舌を出して笑う親友が、ゲイルには悪魔に見えた。

 

「それはそうとして」

「あん? 何だよ?」

「さっきお尻触ったわよね?」

「──知らねえよ!」

「ウソ! 思い切り握って顔埋めてたくせに」

「なっ、な、何言ってやがる! 不可抗力ってヤツだろ! それよりここドコだよ?」

 

 知るわけないと言いたげな顔のサフィは、地図を広げてすぐに首をかしげた。今度はコンパスを開いたと思いきや、彼女はコンパスを投げ出してしまった。

 

「お、おい、これって……」

 

 ゲイルも固唾を飲み込んだ。あざ笑うかのようにまわり続けるコンパス。

 完全に、二人は自分の居場所を確認する術を失ったのだ。

 語るべき言葉も見つからず、しばらく道に沿って歩いてみるものの、どう考えても森は深くなっていく一方である。

 このまま歩いても、強い日差しと蒼い海が出迎えてくれるとは到底思えない。

 

 1時間ぐらいだろうか。それでもひたすら歩き続けていたが、ふと、後ろを振り返った時、ゲイルには見えてしまった。

 自分達の通ってきた道や景色が、ぐにゃぐにゃと曲がって溶けていき、次第に違う光景に変わっていく。

 

「さ、サフィッ、あああ、あれ! あれ見、見ろ、おい!」

 

 ゲイルは思わずサフィの肩をバンバン叩いて後ろを向かせ、サフィもまたその光景に絶句する。

 

「も、もしかして、ここって」

「もしかしなくてもカレワラ森だぜ、ここ」

 

 暗黒魔術師の住処であるカレワラ。世俗とのかかわりを絶つために、彼らの魔力で生み出された幻影の森だ。足を踏み入れた者は、魔力の中で次第に幻影の中に取り込まれてしまうという。

 ゲイルたちもその噂を知っていた。まさかそんな怖いところに、自分達が足を踏み入れようとは。

 とうとう、幻影の魔力がゲイルの肩をがっしりと掴んだ。

 

「うわぁ!」

「アンタ達、こんなところで何やってんの?」

 

 全身が突っ張ったようにブワッと髪の毛が逆立ち、悲鳴に仰天して飛び上がったサフィと抱き合ってしゃがみこんだ。

 だが、聞こえてきたのは威勢のいいの声だ。二人でそっと見上げてみると、やはり人間がいた。

 彼らより年上の女性が、驚きに目をまん丸にしながらも、呆れを含んだ苦笑いを浮かべて見下ろしていた。

 

「お姉さん、人間か?」

「……初対面の癖に失礼なヤツね」

 

 薄暗くてぼんやりしているが、白い羽根が特徴的な赤く長い帽子を上に押し上げて女性が睨みつけてきた。

 宝石をじゃらじゃらつけたピンクのローブに羽帽子……どうもこの人は魔女のようだ。

 

「あの、ここって……」

「うん? お察しのとおり、ここはカレワラ森だよ。こんなとこに来るなんて、物好きなのか……迷ったって顔だね」

 

 今にも泣き出しそうなサフィを一目見て、その女性はため息をついた。

 普通、何かの目的が無ければ決して人が立ち入ることのない森だ。人払いの魔溝をわざわざ越えなければならないのだから。

 

「お姉さん! 魔法でここから出してくれないか? 俺達困ってるんだ!」

 

 ゲイルが懇願するが、女性はチッチと舌を打って首を横に振った。

 

「ダメだよ。私は金にならないことはしないタチなんだ」

 

 思わず耳を疑ったが、ツンと高飛車な態度からして間違いなさそうだ。ショートボブは乱れなくきれいに手入れされ、ローブも装飾の宝石がチカチカで裕福なのだろうとは想像できたが、まさかこの場面で金を要求されるとは思ってもいなかった。

 

「いくらなら飛ばしてくれるんだ?」

「そうだね。私の貴重な時間を食ってるわけだし、魔力も消耗するし。20万グロッドでどうだい?」

「に、にじゅうまんぐろっどぉぉっ?!」

 

 20万グロッドという金額がどれだけ大金か。ちなみに小遣いは月1万グロッドだ。

 

「頼むよ。人一人の命がかかってるんだ」

 

 何度も何度も頭を下げ、ゲイルは背中に乗せている少女を、その魔女に見せた。

 暗くてよく見えないからか女性は目をしかめた後、手先から火の玉を召還してみせる。赤紫の髪の中で黄金の目が値踏みするように覗き込んできた。

 その火で意識の戻らぬ少女を照らし出した女性は面食らったようで、目をおっとさせ少女に顔を近づけた。

 

「あれ、シャニーじゃないか。なんでアンタがここに?」

「この子、シャニーって言うのか? つか、知り合いなのか?」

「まあ、世の中には色んなツナガリがあるってことでいいじゃないか。アナタ達こそ、なんでその子を連れてるんだい?」

 

 二人はシャニーに出会った経緯を軽く説明した。

 カレワラ森に来た経緯には呆れ顔だったが、女性はシャニーを見つけたことは案外あっさり理解してくれた。

 いくら金の亡者でも、シャニーの負っている怪我の酷さには驚いたらしく仮面のように固まっている。

 

「な? 早くしないと死んじまう。だからルケシオンまで……」

「ダメだよ」

 

 カチンときた。知り合いが死にそうだと言うのに、そこまで金が大事か。

 もう我慢も限界だ。彼女に背中を向けると、つかつかと歩き出す。目でサフィに合図すると、踏ん切りのつかなそうに魔女に視線をやりながらも追ってきた。

 

「どこへ行くつもりだい」

「自力でルケシオンを目指す! アンタと交渉はムリだ。俺には金がない」

 

 背を向けたまま怒号で返す。どうせふっかけ過ぎたと思っているに違いない。

 再び呼び止められたが、無視して枯れ葉を踏み抜く音だけを聞く。

 

「……今ルケシオンにその子を連れて行けば、それこそアンタはその子を殺すことになる。それでも行くのかい?」

 

 ゲイルは足を止めた。魔女の口調は、口八丁に適当を言って欺こうとしているとは思えない。

 

(俺がこの子を──殺す?)

 

 再び向きを変えて魔女の元へ戻る。その目つきは語らずとも相手に要求を突きつけていた。

 その威圧に、魔女はふうっと大きく息をすると手を広げた。

 

「分かったよ。私もそこまでひとでなしの人間って訳じゃないからね」

 

 とてもありがたい言葉だった。でも、今度は別の疑問が浮かぶ。

 

「あれ、お姉さん、魔女じゃないのか?」

「さっきから失礼なヤツだね。親の顔を見てみたいもんだよ。あんな奴らと一緒にしないで欲しいね」

 

 どうやら魔女ではなく、人間であり魔術師のようだ。なら、どうしてこんなところにいるのか逆に気になってくる。それを聞こうと──ガツンと鈍い音と共に目に星が走る。

 

「いってぇー! 何で殴りやがる!」

「ホントに恥晒しなんだから! 謝りなさいよ!」

 

 よく分からないままサフィのガミガミを浴びていると、女性がため息混じりに混ざってきた。

 

「ったく。お姉ちゃん、弟のしつけぐらいしっかりしなさいよ」

「お、お姉ちゃん……?! 違いますッ」

「あぁ、すまないね。カレシだったかい」

「お断りよッ!!」

「あひぃッ?!」

 

 なぜかますますにサフィの怒りに火がついてしまい、鉄拳を浴びたゲイルはうんざりと自然鎮火を待つ。

 自家発電でもしているように収まる気配もなく、腕時計を見下ろした魔術師がついには割って入った。

 

「ところで、アンタ達さ。ルケシオンはダメなんだよ? どこへ行くつもりなんだい?」

 

 怪我人さえいなければ、それでも行くというところだが、今はそういうわけには行かない。

 行く宛てを探した時、ピンときてゲイルはサフィを見ると彼女もすぐ頷いた。どうやら考えは一致していたようだ。

 

「ミルレスへお願いします!」

「ミルレスって……大陸の正反対じゃないか。まったく遠慮がないんだから」

 

 目を閉じた女性は精神を集中させているようで、それまでのサバサバした言葉遣いと別人みたいに流麗な呪文を唱えだした。その呪文が力を増すたびに、足元には魔法陣が浮かび上がる。

 二人ともあっけに取られて声も出ない。魔法を見るのは初めてなのだ。

 三人は光の中に包まれていき、光が天に駆け上るにつれ意識がだんだんと薄れていった。




ホント、初心者殺しだったなあ、おはぎ。
まあまあ強そうな人が戦ってて、急に消えた……(やられて故郷に飛ばされた)
しばらくの沈黙、動き出すA.R.E!みんな逃げ出す!!どんどんみんな消えていくッッッ!!
その場で即席パーティ組んで、パーティ外からもヒールを飛ばして何とか倒した時の達成感!あの衝撃は忘れない。
グッバイ、おはぎ。フォーエバー、おはぎ。
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