Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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転移魔法でカレワラ森から脱出したゲイルたちの前に広がっていたのは──森だった。
ミルレスに飛ばしてくれと依頼したはずが、どう見ても町ではない。
どうやら転移地点がズレて、ここからもう少し歩かなければならないらしい。
そのわずかなズレが、新たな火種となるのだった。


参る! 応! 承知…

────………

 

 次に目が覚めたときには、周りは急に視界が開けて一面の緑が眼にまぶしい。

 だが、何かおかしい。どうも背が高くなったのか、それとも辺りに自生する木々の背が低いのか……いや、そういうわけではなさそうだ。

 とにかく、木々の頂が低く見えて、地面が遠い。途端、ぐらっときた。

 

「へ……? どわぁ!」

 

 まともに腰から落ちてしまった。

 魔法で飛ばされた先がどうも空中で、宙に放り出された形になってしまったようだ。あの魔術師がテキトーにやったに違いない。

 文句を言おうと周りを見渡すが、もう魔術師はいなかった。金も払えない連中を、丁寧に扱うつもりなどないということだろうか。

 

「親切にしてもらったのに、名前聞きそびれちゃったわね」

「ハッ、悪ぶってないで最初からやれっつーの」

 

 立ち上がったサフィは、空を見上げて手を結んでいる。ゲイルも心の中で感謝をつぶやいて歩き出した。これで、ミルレスに──アイツのところへ行ける。

 だが、現実は考えている以上に深刻だと、出発して数分ですぐ気付いてしまった。

 

「右も左も森、森、森! 空が明るくなっただけで、なんも状況が変わってねえ……」

 

 一体ここはドコなのか。それすら言わずに魔術師は消えてしまったのだ。

 それでも、気分的には空が見えるだけでも大分違う。コンパスを頼りに西を目指す。

 

 ミルレス──大陸の最北西に位置し、かつてのメント文明における最重要拠点で、ゆえに神々の力を全面に受けて最も衰退したと言われる町。

 今では旧文明の黄金時代を偲ばせる遺物や遺構が多く残された遺跡都市であり、静寂と平穏の象徴である。

 神々に仕える聖職者が多く住み、神々への信仰の最高峰として、中立都市でありながら世界中に影響力を与えていた。

 

 川を見つけたゲイルは、それに誘われるかのようにしゃがみこんだ。朝のドタバタから水を飲む暇なんか無く、喉はからからだ。

 

「かぁーっ! うめえ! もういっちょ」

 

 手ですくうなんて上品なことはしていられない。頭ごとせせらぎの中に突っ込むと、顔を洗うついでにそのまま水を掻き入れる。

 

「ちょっとゲイル、自分ばっかりやってないで──」

「ああ。分かってるっつーの」

 

 小言を遮り、肩に乗せた少女を川辺にそっと寝かせて改めて見下ろす。

 サフィが口元を覆っているのも無理はないだろう。明るい場所は凄惨さを浮き彫りにしていた。真っ赤な血の色に全身染まって元の肌の色が分からないくらい。

 清水であちこち洗ってやる。顔に出来た無数の切り傷が浮かび上がってきてますますむごい。

 

「よし、血は止まってる。あとはアイツに何とかしてもらうとすっか」

 

 酷い見た目だが、どうやら応急処置がうまく行ったようで一安心だ。となると、別の疑問がむくむく湧いてきた。

 

「にしても、ホント何したんだコイツ。武器も持ってないみたいだし」

「うん……。ルケシオンは危ないみたいに魔術師さん言ってたし、それに巻き込まれたのかな。私より年下っぽいのにかわいそう」

「それだけじゃない。荒くれ共はトドメを刺そうと必死だったし、あんな魔女とも顔見知りだなんて。一体何者なんだ、お前。おーい、早く起きろよ。コラ、コラ」

 

 どれだけ冷たい水をかけてやっても、声を上げることも、顔をしかめることもない。

 軽くシャニーの顔を平手で叩いてみるが反応がない。少しずつ強くなって彼女の首が振れだした。

 

「いってー!」

 

 声を上げたのはゲイルだった。様子を見ていられなくなったサフィが、ゲイルの頭に拳骨を食らわせたのだ。

 

「もう! 何やってるのよっ。それに、魔女だなんて、失礼よ!」

「いやぁ……いじりやすい顔だな、と。わぁ、待てっ、待てって! 悪かった!」

 

 それからしばらく、辺りには助けを求める泣きそうな声が森の中にこだましていた。あまりの無慈悲さにモンスターは誰も近寄らない。

 

「さて、休憩も終ったし、ミルレスに急ぐわよ」

「うぅ……なんか逆に疲れたぞ」

「大丈夫よ。ミルレスにつけば、あいつが治してくれわ。その子のついでに」

「うーん。いまいちアテにならね……」

 

 関節技でボキボキにされたゲイルは、よろよろしながらシャニーを背中に乗せなおす。

 いい加減、サフィに頭の上がらない自分が情けなくて仕方ない。おまけに、さっきの魔術師には弟扱いまでされる始末。

 

(ちくしょー……。サフィのヤツ、今に見てろよ……)

 

 見つめる先にいる親友の顔は明るい。それを見ると、余計に気合が乗らなくなってきた。早くミルレスに着いて、アイツにこの役を押し付けたいところだ。

 

この子(シャニー)、どんな声してんのかな……──んっ?!)

 

 何の変化もない森をぼうっと歩いていたはずが、ビンッと直感が走る。平穏な森にあるはずのない視線が一つ……いやもっとだ。

 さっと後ろを振り向き、ゲイルは片手に剣を握り締めた。

 

「なるほど。この距離で感づくとは、なかなかやるな」

 

 後ろにいたのは、大剣を背負った三人の剣士。

 しかし、どう見ても人ではない。顔は兜で隠れて分からないが、背は低く尻尾がある。

 黒ずくめの剣士のうしろには、どこに隠れていたか目を疑うほどの似た格好の剣士達。

 

「てめえら、何モンだ!」

「我らはカプリコ。この森を掌握せし一族なり」

「げっ……カプリコって確か、ダリー連中じゃなかったか?」

「ゲイル、しかもこいつら、腕に自信があるみたいよ」

 

 またロクでもないヤツらに目をつけられたものだ。

 カプリコと言えば、執念深く見栄っ張りで強欲。他の種族ともたびたび抗争を起こす厄介な種族と聞いていた。

 殆どのカプリコは、性格は悪いものの戦闘力は低い為、そこまで大きな争いにはならないが、中には剣を駆使して戦う者がいる。

 

「左様。我らは、我らが長ロードカプリ様をお護りする親衛隊(ナイトカプリ)。挑み来る冒険家を幾度となく葬ってきた」

「んーで? んな桁外れに強いお前さんたちが、無害な俺らに何の用だよ?」

 

 相手が何者かどうかなど関係なく、縄張りに入れば容赦なく襲う様な手合いだ。どうやらさっき川辺で騒いだせいで勘付かれたらしいが、親衛隊まで出てくるのはどうにもクサい。

 

「お前たちに用はない。その背中の娘を置いていけ。そやつは我らが宿敵。十数年来の積年の思いを今こそ晴らしてくれる」

 

 どうやらこの盗賊、あちこちで恨みを買っているようである。

 だが、ゲイルはすぐに頭に何かが引っかかって、カプリコたちに笑って見せた。

 

「……何がおかしい」

「だって、考えてみろよ。十数年来の恨みって、こいつ14、5ってとこだぜ? 赤ん坊がお前らの宿敵だったのかよ」

 

 しばらくカプリコたちは動かなかった。さすがに理解できないはずがないだろう。

 明らかな人違いである。そのまま見逃してもらえると確信していた。

 だが、カプリコたちの一歩前に出ていた三人の剣士の目が、兜の間からぎろっと光った。

 

「どうかな。人間は魔術を使える。ネクロ教の教祖もそれで若返ったと聞く。我らの敵も幻術を使っていたし、そやつからも強い波動を感じるぞ。大方幻術を使って若く見せているのだろう」

「えぇ?!」

 

 ゲイルは後ろで寝ているシャニーを見返した。弱りきった体からは、波動なんてちっとも感じない。大体、たとえ盗賊が幻術を使えるとは言っても、こんな状態でそれができるはずがないだろうに。

 カプリコたちは、盗賊と言うだけで決め付けているに違いなかった。

 

「で、どうするのだ? 返答によっては容赦はせぬ」

 

 聞くだけ無駄というヤツだ。回答代わりにゲイルはたっと走り出した。

 彼をかばうように、サフィも遅れて走り出し、カプリコたちの目つきが変わる。

 

「逃がすか! 参る!」

「応!」

「承知……」

 

 剣士たちの号令と共に、後ろで待機していたカプリコたちも一斉に地を蹴る。

 さっきのジャイアントキキほどのスピードはないが、もう連中がザッザと横目に映る。風のように駆け抜け、演武みたいに統率の取れた動きはかなりの手練か。

 ゲイルは片手でシャニーを抱え、残った右手に握った剣で突破口を作っていく。

 

「ったく! 今日はメシがウマそうだぜ!」

 

 彼らの狙いは背中の少女。一太刀たりとも浴びるわけには行かない。怪我の身には申し訳ないが、強行突破はやむをえない。

 サフィも後ろから追いかけてくるナイトカプリらを気弾で迎撃しつつ、ゲイルの後を追う。

 

「おい、サフィ! カレワラ森で使ったアレを使え!」

「ムリよ! 動きながら集中できないし、気力も回復してないよ」

「あんな出力は出なくていい! 奴らを撒ければいいんだ!」

 

 この戦力差なら逃げるが勝ち。

 無理と言われてもやってもらうしかない。サフィだってこの状況を打破するにはそれしかないのは分かっているはずで、「早く!!」と急かしたらようやく覚悟を決めたらしい。

 彼女は拳に気を集中させ、蒼い波動がどんどん右手を包んでいく。

 

「くっ……波動を維持できない……」

 

 サフィの掠れるような声に振り向けば、手先からどんどん気が放出されているのが見えてゲイルも焦りが募る。彼女のフォローをしようにも、スピードを落とせばシャニーが危ない。

 

「もう無理! ゲイル、ぶっ放すわよ!!」

 

 後ろ目でサフィを一瞥してみると、半身になって右手を後ろへかざし、握っていた拳を大きく開いていた。蒼い閃光を掌の中心から放散させながら、照準を合わせているようだ。

 狙うとすれば、あの三人の剣士のど真ん中か。

 でも、いつまで経っても発射音がない。もう一度サフィに目をやったから、焦りと疑問にぐるぐる頭をかき回された。彼女は手を下ろしてしまっていたのだ。

 

「どうした?!」

「だって、彼らが……」

 

 後ろを振り向くと、彼らは予想以上に小さく映った。

 しかもどんどんその姿は小さくなっていき……もう追いかけてこない。ぴたりと止まって、自分たちが逃げていく様子を眺めているだけ。

 

「ふぃ〜、助かったぜぇ──って、いててて?! な、なんだよッ」

「あれ!」

「あん……──ッ」

 

 肩をバンバンやられ、サフィに指差すままに上を見上げたゲイルは、思わず口があっと開く。天まで届こうかという高大な木々が行く手にそびえ立っていたのだ。

 心服させ、畏怖の念さえ覚えさせるその壮大さに、二人は思わず息を呑んだ。それはミルレス町を形作る〝神の木イメトリ〟であったのだ。

 全ての生の源、そう言い伝えられてきた神の木の上に作られた、神に最も近かった町。そこへ、二人はたどり着いたのだった。




カプリコってたしか人間を憎んでいるって設定だったと思うけど、β当時はよく理由が分からなかった。
だけど、少し後になってその理由が判明してしまう。
何かって……ほら、『焼肉マッチ』
モンスターに火を点けて、適度に火あぶりにしたら焼肉ナイフで焼肉にしてしまうというアレ!
レベル1でも使えるからレベリングが出来て副産物(こっちがメイン?)の肉も小遣いになるというね。
(火を浴びせてくるなんて)そら、(憎まれるのは)そうよ。おーん。
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