Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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ゲイルたちがようやくミルレスに辿りついていたころ、すでに先の一手を打つべくあの男が動いていた。
ただの偵察──そう自身に言い聞かせていたはずが、足は自然ととある場所を目指していた。


運命など叩き斬ってくれる!

 ゲイルたちがミルレスでつかの間の平穏を噛み締めているころ、帝都ルアスも同じように平和の中を歩んでいた。

 多くの人がごった返し、喜びも悲しみも全てを包む。

 毎日が猛ダッシュでするかのように過ぎていく首都の日々。繁栄の真っ只中で、いちいち誰が何をしているかなど気にしていられない。

 

 それを知っているかのように、騒がしい雑踏の中を頭からローブを被って歩く男がいた。

 真四角に切り出され隙間なく敷き詰められた石畳ではるか先まで続く、美しいほどの碁盤目に区画整備され洗練された街並み。白を基調とした街に映える、街路樹と民家の屋根のコントラストが街を明るく彩るが決して華美ではない。

 質実剛健──男はルアスの街並みを眺めては笑みをこぼす。

 

 露店や人のごった返す中央広場から横に逸れ、慣れた足取りで静かな住宅街へと抜けていく。

 そして、その男は街並みを一望できる高台まで歩いてくると、ローブをあげて帝都のシンボル──ルアス城を見上げた。

 鷹のような鋭い目が、一瞬緩んだ後に更に険しくなった。

 

「メルト、久しいな」

 

 その鋭い目は、自分の名前を呼ばれて即後ろへ睨みを効かせる。背後には、二人組の男が仁王立ちでまっすぐ視線を向けていた。

 

「……アタドイルク、貴様らか。よく俺の居場所が分かったな」

 

 相手が宿敵と分かり、メルトは振り向いて対峙するも、剣に手をかけることもなく腕組みしたまま。

 

「ええ、貴方ほどルアス色の似合う男もいませんからね。歩いていれば気付くと言うものです」

「……ふっ、戯言を」

 

 メルトはクレールの皮肉とも取れるお世辞を、流し目で切り捨てた。

 

「サルヴァトも大した事が無いな。すでにルケシオンは墜ち、我々は各地に侵攻を開始している。未来を見通せる力を持ちながら、何一つ現状を変えられないとはな。プロフィッ(預言者)トの一族の力もその程度ということか?」

 

 エズダーシアの侵攻は着々とその魔の手を広げている。

 あまりの戦闘能力の高さに、各地の自衛集団だけでは簡単に握りつぶされていく。先日制圧されたルケシオンも、まさにそうだ。

 千軍万馬で恐怖を知らないかのように見下ろすメルトの眼差しは、期待外れとでも言いたげ。

 

「未来は見るだけです。干渉してはいけないもの。運命を切り開くのは、今を見る人間達の力によるもので無ければならないのです。ルケシオンも死んではいません。そして、貴方も」

「巧言はそこまでにしておけ。現状を変える力、それこそが全てだ。貴様も我々に協力すればいいものを。その力を世界のために使おうとは思わないのか?」

 

 行く先を預言できているのに、それを用いて仕掛けては来ない。

 メルトには不思議──と言うより、腹立たしさを隠せなった。掌の上で転がされているわけだ。

 クレールはしばらく目をつぶって答えを返さなかったが、徐に目を開けてふいにカードを取り出すと、近くにあった家の窓縁においてタロットをはじめた。

 

「未来を知り、干渉することは、創られた未来に人々を閉じ込めることです。これは、セオ神と交わされた禁忌。貴方もそれはよくご存知のはず。セオ神の……勇敢の守護者である貴方なら」

「黙れ! ──何が神だ。何が守護者だッ。俺の中での神はとっくに死んだ!」

 

 怒声の中、クレールは静かにカードを引いていく。彼は10枚の大アルカナから数枚を残してカードをしまった。

 残ったカードは4枚の大アルカナ──預言が出た瞬間だ。

 

「貴方を過去、現在、未来の3つで分けたとき、このように預言されました。すなわち、法王、正義、そして……」

 

 1枚ずつ、彼は表を向けて見せ、最後のカードが表を向いたときメルトの眉が歪んだ。

 絵柄が逆向きのカードに記されていたのは、定職や定まった家を持たない放浪者──

 

「逆位置の愚者……ハッ、面白い冗談だ」

「誤りに気付き、正気に戻る……──果して冗談でしょうか?」

 

 最後に、クレールは残った1枚のカードを向けて見せつけてきた。この最後のカードこそ、タロットの最終結果。

 そこには、幸せと不幸が交互にめぐる運命の輪が記されていた。逆位置で。

 その結論に対して、クレールは何も言わない。言わずとも、カードが全てを物語っているからだ。

 

「宿命から逃れられない……だと?! ふざけるな! 俺は、世界をあるべき姿に戻す! 邪魔する者は全て斬る!」

 

 つい声を荒げてしまったメルトは、自分を戒めるようにローブを頭から被りなおす。

 口元でふっと愚かさを笑い捨てると、二人に向けて背を向けた。

 

「邪魔できるものならしてみるといい。ここで剣を交えればどうなるかぐらい、預言するまでもなかろう!」

 

 クレールは、最後まで見せ付けていた運命の輪を下ろすと、ふうっとため息をついた。

 

「やはり、貴方はまだ、民の事を愛しておられるのですね」

「フン、どうだか」

「私のできることは、こうして貴方の行く先へ先回りをして、考えを改めていただく為に説得することだけです」

「好きにするがいい! ──我が信念に一片の曇りもないわ!」

 

 メルトは懐から指輪を取り出すと、周りの木々が根本から引き抜かれそうな凄まじい気を放つ。

 クレールを守るようにアタドイルクが一歩踏み出した時には、爆発にも似た激しい光と轟音を残し、一匹の竜が雄たけびを上げながら空を凌駕していった。

 

「あれは……ヘックスタか」

「……ええ。メルトが変身した姿でしょう」

 

 神は善悪それぞれ6人おり、ヘックスタは『恐怖』を司る悪戦士の神だ。

 善の主神セオは勇敢を司る神。その守護者であるならば藍玉を(アクアマリン)持っているはずが、メルトの指にあった指輪には、その透き通った青色は無かった。

 追いかける間もなく、悪神の化身は晴天の果てに消えうせ、住宅地には再び平穏が戻っていた。

 

「彼はこの運命の輪に囚われているべき存在ではないのに……。急いで後を追いましょう!」

「すまないな。クレール」

 

 赤い不死鳥をカードから召還したクレールの後ろから、アタドイルクが声をかけた。

 

「どうされたのですか?」

 

 主の突然の謝罪に驚いたように、クレールは振り向いてきょとんとしている。

 

「いや、本来なら俺が始末をつけないといけないことだ。お前は本当なら……」

 

 そこまでアタドイルクが言ったところで、クレールは主にカードを見せ付けて黙らせた。

 カードに記されている神秘は、死者が蘇る最後の審判を意味していた。

 

「それは言わない約束のはずです。私は一介の預言者、そして貴方は1人の戦士。そう決めたではありませんか」

「……そうだったな。彼らの進化を見極めさせてもらうとしよう」




ルアスも個人的には旧BGMの方が好き。
帝都の威厳と言うより、下町の楽しい毎日!って感じの軽いテンポが耳に残る感じで。
蔵落ちするほどに露店がひしめき合ってた中央広場が今でも脳裏に浮かんできます。
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