大事なものを全て奪った者達とけじめをつけなければならないのに、何をしている?
そんな彼女の心を見透かすように、レイが声をかけた。
「わーい、おねえちゃん、ありがとう!」
幼い女の子が、頭にシロツメクサで出来たティアラをかぶせてもらって上機嫌だ。
女の子はティアラを作ってくれたポニーテイルの少女、シャニーに抱きついて顔中の笑顔で喜びを弾けさせる。
「いいよいいよ。そんなので良ければいつでも作ってあげるからさ」
木にもたれかかって空を見上げるシャニーの周りには、たくさんの子供が集まって遊んでいる。
環境は変わっても、やはり子供は可愛い。一緒にいると怪我も早く治る気がした。
ミルレスに運ばれてから早2日。しっかりとした消毒と神の奇跡のおかげで、もう傷跡も分からない。
(こんなに高くて、きれいで、静かで、澄んでて……。こんなの、生まれて初めてかもなぁ)
楽園とも錯覚するこのミルレスの地で、木にもたれかかってぼんやり空を眺めていると、自分が何者かなど、どうでも良くなってしまうこともある。
(……ッ。今、あたし何考えた! ……──ふざけないでよ!!)
そのたびに、彼女は自分の指先を睨んだ。命を賭してでも、やらなければならないことがあるはずだ。
今を追い出し、悶々とこの先を考える。あのルケシオンの攻防の日からこんな事ばかり。
それでも周りを見渡せば、子供たちが遊んでほしいと集まってきている。
(ルケシオンの子たちは大丈夫かな……。いつまでも、あたしだけ楽してちゃダメだ)
子供に手を引っ張られながら、不安ばかりが脳裏をよぎる。
だが、子供と遊んでいるといつの間にか彼女も笑顔ではしゃいでしまっていた。子供たちはよけいに集まってくる。
「すっかり元気になったようだね」
後ろからの声に、シャニーは唇を噛んで表情が消えた。
医者に黙って診療所を抜け出し、こうして子供の相手をして寂しさを紛らわしている。果たすべき使命から逃げるように忘れて遊ぶ自分が許せない。毎日、いつも自分が許せない。
「えへへ。それほどでも」
それでも笑顔で医者に返事してみたが、どうやらレイには見破られているようだ。
痛いほどの視線にレイから目をそらし、花摘みしてみる。
「笑って遊べるまでになったなら、もう安心だ。あと数日で退院できるぞ」
レイの言葉に、気づけば反射的に彼のほうを振り向き、摘んでいた花を地面に放り出して立ち上がっていた。
数日と言わず、今すぐでも良い。彼女は手を結んで祈るようにレイを見上げた。
「ホント? 帰れるの? ルケシオンに」
「ああ。だけど、その前に話してくれよ。君の事」
◆◆
昼下がり。診療所のドアには休憩中の看板がぶら下がっている。
中ではゲイルら四人がテーブルを囲んでいた。茶が湯気を立てるものの、誰も手をつけようとはしない。
しばらくの沈黙の後、レイの視線に促されてシャニーが動いた。
「この前は本当にありがとう。助けてくれていなかったら、今頃あたしは死んでいたと思うと、感謝してもしきれません」
3人が黙って頷くが、彼らはその先を求めるようにじっと見つめてくる。一つ息を吸い込むと、シャニーは覚悟を決めた。
「あたしの住んでいたルケシオンは、エズダーシアのフェンネルって奴に攻め込まれたんだ。みんな圧倒的な戦力の前に散り散りになって……。生き残ったのはあたしだけ。あの戦力じゃ勝ち目はないよ」
きっぱり言い切った。勝ち目はない、と。
手を貸してもらえることはありがたい。だが、海賊同士の抗争の結果でもある。
一般人──友達と言って迎え入れてくれた人たちを、そんなことに巻き込めるわけがない。
ルケシオンほどの荒くれが集う場所を壊滅させる戦力と分かれば、そうそうはついてこないはずだ。
「君だけ? あいつら……ッ、許せねえ!」
ゲイルがいきり立って声が荒げる。
サラセンもエズダーシアの連中に完膚なきにまで壊滅させられた。
だが、サラセンはアタドイルク達のおかげでまだ全滅なんてことがなかった。それ以上に酷い。
「シャニーって言ったよな? 俺達もルケシオンに同行させてくれないか?!」
(えっ?! ど、どうしてそうなるの?!)
思惑は外れてしまった。ゲイルには、圧倒的な戦力よりもエズダーシアが皆殺しにした事のほうが耳に残ってしまったようだ。
シャニーは慌てて彼を止めようと言い訳を探した。
「で、でも! あたしみたいな盗賊の言うことを信じちゃっていいの? もしかしたらエズダーシアと手を組んでるかもしれないとか、そういうことは考えないの?」
「それはないわ。あんなに子供たちに好かれていたもの」
「そうだね。子供は素直だからね。悪しき心には敏感な子供があれだけ懐くのだから、君は悪い人じゃないということさ」
あいにく、嘘や言い訳を考えるのは大の苦手だった。昔から、デムピアスにでまかせを言っても通用した試しがない。
サフィとレイに、名案だと思って投げかけた質問もあっさり返されてしまった。
「シャニー。君と俺たちでルケシオンを取り戻そうぜ」
(どうしてみんな放っておいてくれないの? いやだよ、もう……)
山みたいな体で笑いかけてくれるゲイルの姿は、よりかかりたくなるくらい頼もしく映る。
悪いことだとは分かっている。だけど、全てを彼らに話すわけには行かない。苦しい思いをするのは、自分だけで十分だ。
「うるさいな! 分かったような口を利かないでよ! ルケシオンを取り戻す?? はぁ?! できる訳ないよっ」
「そんなこと、やってみなければ分からないだろ!」
立ち上がって怒鳴ったら、ゲイルも身を乗り出して即反応してきたが慣れたものだ。海賊団にいた頃は、屈強な荒くれを毎日相手してきたのだ。被せるように切り返す。
「足手まといって言ってんの! ほら、あたしの知ってることは喋ったよ。怪我を早く治してルケシオンに戻るんだ。寝かせてよ」
「勝手にしろ! サフィ、行こうぜ!」
ベッドに潜り込んで頭から布団を被って完全遮断しつつ隙間から様子をうかがうと、ゲイルがサフィの腕を強く握ってずんずんと部屋を出ていくのが見えた。
レイも一度は振り返ったがついに部屋を後にして、ドアの閉まる音が妙に心を締め付ける。
(ごめんなさい……でも、これはデムピアス海賊団の副統領として、ケジメをつけるしかないんだ)
一人になると、寂しさがこみ上げてくる。シャニーは頭の中で何度も謝罪の言葉を繰り返した。
◆◆
「ちょっとゲイル! あんなこと言ってどうするのよ!」
サフィに追求されるまでも無く、ゲイルは後悔していた。
せっかく、シャニーが心を開いて事情を語ってくれたのに。
ついつい、頭に血が昇ると抑えきれなくなってしまう。悪い癖だとは分かっているのだが……。
「仕方ないな。俺らだけでルケシオンに向かうか。あの状態じゃ説得なんてできそうにないし。レイ、お前も来るよな?」
「おいおい、冗談は勘弁してくれよ。オレはこの町唯一の医者なんだ。患者を残して旅になんて出られるわけないよ」
これはこれで説得のしようが無かった。
ミルレスに立ち寄ってあわよくば旅に同行してもらおうと考えていたが、その期待には無理があったようだ。
結局、今後もサフィと二人で旅をすることになりそうだ。シャニーから聞かされた敵戦力の規模が、今更ながらに脳裏をよぎった。
β当初は修道士もミルレススタートでしたよね。
あの頃は全CON修も珍しくなく、自然回復で済ます人も多かったから聖スタートだとなかなか活躍できなかった思い出
しまいにはSTRやらDEXにも振って詰むことになりました……って人、他にもいない?!