Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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もうすぐシャニーの退院日。その日を迎えれば、安息の地ミルレスを出てルケシオンに旅立つことになる。
ゲイルたちはシャニーを診療所で留守番させ、大神殿に旅の安全祈願に赴く。
その間に、シャニーはとある人物と遭遇していた。


それであなたが救われるなら

 翌日、シャニーは男達が起きてくるのを待つため、夜明けと共に目を覚ました。

 外の井戸水でしっかり顔を洗うと、ぼさぼさになった髪を櫛で梳いて後ろでしっかりと結う。

 

「うー、このカッコだとさすがに寒いなぁ……」

 

 山の中の、さらに神の木の頂にあるミルレスは、その分標高が高い為に昼夜の寒暖の差が激しい。

 朝の身を切るような寒さは、クロップトップ1枚には堪えるものがある。まして南国育ち。汗をかくことは慣れていても、寒さにはからっきし。

 愛しの暖炉めがけて診療所の中に逃げ込み、両腕を擦って鳥肌を抑える。

 そうしていると、ふと何か人影が飛び込んできた。

 もう少し近づいてみると、それがまだ寝ていると思っていたゲイルとレイだと分かった。

 

「おはよー」

「やあ。早起きだね」

 

 何をやっているのだろう。近づいてみると、二人はピシッと坐っていた。足を組んで、背筋を伸ばす。印を結び、雑念を払うように呼吸を整えながら、ひたすらに坐る。

 厳かなレイの行動に興味シンシンだ。

 

「何やってるの?」

「ムの境地を手に入れる修行さ」

「修行? なんかスゴイね。なんかの儀式かと思ったよ」

「いや、日課だよ。毎日欠かさず続けるのが大事なんだ。集中力を高められるし、ゆっくりと考える時間は研究生活ではとても重要だからね。キミもやってみなよ」

 

 言われるがままに、シャニーもゲイルの横でレイをまねてみる。

 姿勢を整えて何も考えずにただ坐ってみると、何か心が研ぎ澄まされていく気がする。ルケシオンのことも、宝石のことも、フェンネルのことも。何もかもを捨て去って、気持ちを落ち着かせる……

 

「あーだめ! じっとしてるのは苦手なんだ」

 

 だが、すぐに苦痛へと変わり、体のあちこちにムズムズが溜まってぱっと立ち上がらずにはいられなくなった。

 

「やれやれ。その煩悩を乗り越える修行なんだ。ゲイルを見てみろ。こういう風に不変不動の精神が戦いにおいても大事なんだ」

 

 シャニーはゲイルの様子をのぞいてみた。背筋は伸ばされ、印を結んだ手先を目線がぼんやりと臨み……。

 

「寝てるよ? ゲイル」

「またかよ……」

 

 坐禅修行はとりあえず切り上げて、シャニーは二人に昨日サフィに話したことと同じことを打ち明けた。

 寝ぼけ眼にこぶを作ったゲイルだったが、シャニーが自分の探していた宝石の守護者だと知って、その目には俄然力が篭った。

 

「なんだって?! そうか、さすが俺のダチなだけはあるぜ! だったら、なおさら行かないとな、ルケシオンに」

 

 なんだかよく分からない納得の仕方だが、お願いするまでもなくゲイルはルケシオン奪還に更なる意気込みを見せた。

 力篭る突き上げられたゲイルの拳に向かって、シャニーも親指を突き立て笑顔で答える。

 

「そうだ、守護者なら宝石の使い方とか知らないか? なんかすげー力を持ってるんだろ?」

「えーとっね。その……」

 

 シャニーには苦い思い出しかなかった。指輪に宙から叩きつけられたあの思い出しか。

 色々念じてみたが、結局指輪の求めるものではなかったらしく、シャニーは何度も宙を舞った。

 どうやって指輪を使えばいいかなんて、結局分からずじまい。

 

「ごめんね。あたしもそれを考えてるんだけど、分からなかったんだ。それが分かってさえいれば、フェンネルなんか!」

 

 そんな状況でフェンネルに指輪を奪われ、彼は指輪の力をしっかりと見せ付けた。

 途中まで互角に戦っていたように見えても、神の力を得た敵に防戦一辺だった。今思い出しても悔しい。

 

「お前、謝るの禁止な。お前は別に悪くないんだから。サフィだって守護者なんだって自信満々だったけど使い方知らないみたいだし」

「あ、自分の願いを指輪に向かって念じろって父さんからは教わった。でも、個人的な願いはダメなんだって。それをやって父さんはトパーズに目を潰されたって言ってた」

 

 偉大な海賊王でさえ、手の内にすることの出来ないほど強大な力なのだ。

 刺激が強すぎたか、物騒な話にごくりと固唾を飲み込んでゲイルは自身の目をさすり始めた。

 

「そうか。使い方は調べようぜ。それより、宝石とリングはなんとしてもエズダーシアに渡せないな」

「うん。絶対に。がんばろう!」

 

 朝から元気にハイタッチする二人の声を聞きつつ、レイは開院準備をしながら小さく笑っていた。

 

「やれやれ、アツイねえ。ま、そういうのもあながちキライでもないけどさ」

 

 

◆◆

 それから二日経った。レイから言い渡されたシャニーの退院の日は明日。

 彼女自身はもう大丈夫と体を跳ね回らせたが、ゲイルがそれを許さなかった。

 とは言え、彼女がいつまでもベッドでじっとしていられるはずはない。いつもどおり、診療所の近くの大きな木の下でシロツメクサを使ってティアラを編んでおり、周りには順番待ちをする子供たちが集まっている。

 

「シャニー。俺達は神殿に道中の安全を祈願しに行くから、じっとしていろよ」

「はーい、任せといてよ!」

 

 ゲイルたちは大神殿へと出かけていった。

 相変わらず、シャニーはシロツメクサを編み、また一人、ティアラを頭に載せてもらって喜ぶ少女が駆けていく。

 

「さあさあ、次にティアラが欲しいのは誰?」

 

 駆けて行く少女を眺め、嬉しそうに子供たちに呼びかけた彼女が正面を向くと、そこには初老の男性が立っていた。

 彼はシャニーの顔をまじまじと見つめ、そして感慨深そうにぽつりと漏らした。

 

「やはり……似ている。そっくりだ」

 

 言われた側にしてみれば、一体何のことなのかさっぱり分からない。

 

「あたしが誰かに似ているの?」

「ああ、お恥ずかしい話だがね。私の初恋の女性にそっくりなんだ。ほら」

 

 彼から手渡された古ぼけた写真を見て、シャニーは喉がキュッとなってすぐに反応できなかった。

 白黒の写真の中にいるのは間違いなく自分なのだ。潜入服を着ているところまで同じだ。年は自分より幾ばくか上のようだが、それでも別人と言い切れない面立ち。

 初恋の女性、そして古ぼけた写真。事情を聞かなくても大よそは理解できた。

 

「君の名前は? ピタだったりしないかい?」

 

 違うと言いかけたとき、子供が走り寄ってきて名前を大声で呼んだ。どうやらティアラの一部が解けてしまったらしい。

 名前を確認し、男性はうつろな笑いを浮かべてばつが悪そうにした。

 

「おじさん、名前は?」

「私かい? デイブという者だ。すまないね。変な事を聞いて」

「ううん。へーきだよ」

 

 事情を聞けば恋人同士で、ピタという女性と別れたのはもう数十年も前という。彼を助けるために単身ナイトカプリの軍団に突っ込みそれきりらしい。

 人違いだと覚悟していただろうに、きっと、すごい勇気を振り絞って声をかけたに違いない。

 

「そうだ。あたしのこと、ピタって呼んでいいよ」

 

 デイブは目を見張り、言葉にならない声を漏らしながら大粒涙をこぼした。

 

「ありがとう……ピタ」

「こんなのお安い御用さ!」

 

◆◆

 大神殿へと向かうゲイル達の足取りは力強いものの、責任感と立ちはだかる困難からか重さもずんと響く。

 仲間も増え、偶然とはいえ神の宝石やエズダーシアについて情報を得られた。

 今まで暗中模索していた旅の目的に、ひとつの灯が大きく揺らめいたのだ。

 目的がはっきりとすれば、何をしなければならないかが自然と頭を駆け巡り、その困難さを浮き彫りにする。

 

「まったく、あの子に手を出したら承知しないからね!」

 

 だが、今は別の意味で足取りが重かった。

 道中が説教で長く感じる。どうやらサフィはまだご立腹のようである。

 

「オレの理想と違ったからもう何もしないよ。それよりゲイルだろ? 仲よさそうだし」

「な! お前が俺を唆したんだろ! 服1枚って! ──ハヒッ?!」

 

 口争いを始める男二人の頭は、再び鷲掴みにされた。

 大の男二人が小さく小さくなり、青くなる二人の後ろからサフィが最終警告を発した。

 

「なんでもいいけど、今度あの子に変なことしようとしたら!」

「もうしません!」

 

 解放された二人の足取りは、少なからず速くなっていた。

 彼女を怒らせるととにかく怖い。それがよく分かっているから、彼女の前では二人はとても大人しい。

 ようやく三人を包む雰囲気から重さが抜けてきた頃、均衡を破る為かレイが口を開いた。

 

「希望の守護者、か。なんとなく分かる気もするな」

 

 守護者とは、指輪の持つ能力に敵う素質を持った者のみが就く事ができる。

 素質を持たぬものは、身につけることさえ出来ないという。

「そうね。何かオーラが違う気がするわ。ゲイルもそう思う?」

「え? そうだな」

 

 ゲイルの返事はあまりにあっさりしており、まるで会話が続かない。修行中は茶飯事でも普段はこんなことは珍しいことで、サフィはレイと顔を見合わせ、今度は別の話題を振ってみる。

 

「じゃあさ、私はどう? 友情の守護者って感じに見える?」

「うーん。よくわかんねーけど、どっちもイイ奴ってことは分かるぜ?」

 

 ゲイルには悪気は無かったのだが、サフィの拳がギリギリ唸っていることに気づいた時には遅かった。

 

「あんたに聞いたのが間違いだったわ……」

 

 こぶを作りながら、ゲイルはひたすら考えに耽っていた。

 

(くそっ、どうするのがいい? やんなきゃなんねえことは多すぎるってのに、どれもこれも手がかりが無ぇ……)

 

 自分自身も強くならなければならないし、守護者達の指輪の使い方も探さなければならない。

 今ある情報は、エズダーシアが各地に侵攻していること、ルケシオンには神のリングを持った敵がいること。

 そして、自分には二人の守護者が味方にいること。それぐらい。

 やはり自身を鍛えつつ、旅先で情報を仕入れる他はなさそうだ。

 

──そのためにも、まずは主神セオの加護を受けて、道中の安全を祈願しておかなければならない。

 

 と、レイに引っ張られてきたがまるで興味が湧かない。

 今日も大神殿は聖職者達の祈りで埋め尽くされており、長い礼拝の列を耐えてようやくセオ神の偶像の前まで来たゲイルは、その神の顔を見上げた。

 神々を束ねる主神。彼らが一体何をしてくれるというのか。

 

 礼拝を終え、神殿の外に出ようと外の光のほうへ体を向けた。

 これからミルレスを出て、はるか東のルケシオンを目指す。その道中には一体何が待ち構えているのだろう。

 不安と期待を胸に一歩を踏み出した、まさにその瞬間だった。

 

「? うわっ!」

 

 恐ろしいほどの轟音に、三人は神殿の奥に吹き飛ばされていた。

 轟音と揺れは一向に収まらず、ゲイルは意を決して神殿の外へ飛び出した。




ミルレスはルアスと並んで、たくさん室内を利用できる建物が設置されていましたね。
オルタナティブプロジェクトで東西の居住区が廃止となってしまいましたが、いいアジトでした。
一方で、ためしに使った事の無い家の中に入ってみた時に大勢がタムロしていた時の気まずさと言ったら……(-。-)y-゜゜゜
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