彼らは昨日の報復としてやってきただけでは無いようだ。
狙われているのは──
「へぇ。メルちゃん。武の総本山だよね、ココ」
「はい。武を極めるべく、地方から屈強な者達が集う、と」
「そうなの?? なーんか、期待して損しちゃったよ」
炎のような紅蓮の長髪を揺らめかせた男が、欠伸をしながら魔力で宙に舞う。
その魔力で召還された隕石によって食い散らかされた町が火に包まれているの光景を眼下に、彼は目を細めた。
「うーん、なかなかのアートだと思わない? それじゃ、私は帰るからさ、後は任せたよ。メルちゃん」
「はっ」
メルと呼ばれた男は、緊張感に欠けたように口調が緩い赤の男と対照的に、鉄のような顔に静かな笑みを浮かべながら長髪の男に頭を下げる。
その視線がふと、刃のように鋭く睥睨した。
「やめろ!」
勢いのいい若者の声、そうゲイルたちが駆けつけたのだ。
彼らの目に映ったのは、髪もローブも焔なのか溶岩なのかと見紛うほど不気味にそれ自体が動いている魔人。
魔人はゲイルをその細く鋭い目で見下ろすと、そのまま熱気の中に解けた。
「消えた……?」
目の前で起きた事を理解するのに必死なゲイルたちにとって、考える時間はいくらあっても足りない。
だが、そんな時間を与えるものかといわんばかりに、見上げる空の下で剣がこすれる音がゲイルたちを呼び止める。
「ゲイルっ、避けて!」
サフィの高い声と共に飛んできた波動弾は、ゲイルを捉え損ねて向こうの業火に突き刺さり爆音を上げた。
「ふっ、少しは戦闘慣れをしているようだな」
目の前にいるのは、両手に騎士剣を装備した男。
ダークブルーの髪をカッチリとポマードで固めたオールバックを肩まで流す、無骨な顔と鷹のような眼光は武人そのもの。修道士のようにそこまでガタイがいいというわけではなくとも、黒光りする鋼鉄の重鎧から威圧感が迸る。
「聞け! 俺の名はメルト。貴様らは我ら同士へ危害を加えた。よって、制裁を下す」
周りに残っていた修道士達にとっては、全く身に覚えがないことで誰もが顔を見合わせて困惑を露にしている。
だが、ゲイルには昨日の出来事が鮮明によみがえり、そして嫌な予感は的中する。
「メルト様、あいつらです。昨日の連中です」
昨日コテンパンにしてやった奴らだ。どうやらメルトという男は上司らしい。
その報告を聞いたメルトの目つきは、更に厳しいものへと変わる。
「そうか、貴様か。探す手間が省けたというものだ」
臨戦態勢を整えるゲイルに向かい、仁王立ちのままメルトは居丈高に話し続ける。
「最後のチャンスをやろう。選ぶといい。そこの娘をこちらによこすか、ここで俺に屠られるか」
他の者が装備している短剣のような双剣とは違うものの彼もまた二刀流だ。その握る剣を更に強く握りなおすだけで刃がギラつき、炎を映してメラメラとまるで闘志が迫るようだ。
「てめえ……昨日は師匠で、今日はコイツかよ。何が狙いだ?!」
「質問する権利は貴様には無い。要求しているのは我々だ。どうするのだ?」
疑念は膨らむばかりだが交渉の余地はない。ただ、何かとてもよくない事を企んでいそうであるということだけは分かる。
親友を敵に渡せるわけなどないに決まっている。彼は無言のままサフィに目配せをし、彼女もまた臨戦態勢に入る。
「……そうか。武人に交渉など不要だったか。では、存分に見せてもらうとしようか!」
仁王立ちの彼から発せられた気は、それそのものが衝撃波となって二人を襲った。身を切られるような恐ろしい威圧を受け、足の震えが止まらない。
(や、やべえ……)
なかなか自分から攻めて行く事ができない。相手が長剣を装備しているから、リーチでは圧倒的に不利。なんとか相手の懐に飛び込みたいのだが、隙という隙が見当たらないのだ。
メルトの鷹のような眼は、微動だにせず獲物を睨んでいる。
このままではラチがあかない。ゲイルはサフィに合図を送り、巨体で地響きするくらい踏み抜きメルト目がけて突っ込んだ。呼応するようにサフィも風を切る。
「二人同時に側面を狙われれば、いくら二刀流でも防ぎきれないだろ!」
ゲイルは突っ込みざまにメルトへ怒鳴りかけたが、メルトに動じる素振りは無く、それどころか鼻で笑っているではないか。もちろん、一緒にサフィも手に気をためながら走りこんできているのは彼にも見えているはずだ。
「……いくら戦闘慣れしているとは言えど、所詮は……小童か」
メルトは剣を握りなおし、腰を落とした。
鬼神の剣が、戦火の中でゆらゆらと赤く揺らめく。
「喰らえッ!
ゲイルはマシンガンキック、サフィは大地の怒りを全力でメルトにぶつけにかかる。
息の合った二人の攻撃に時間差はない。いくら二刀流とはいえ、この連携攻撃を防ぐなど出来るはずがない。まわりの修道士は誰もがそう期待を込めた目で固唾を飲む。
「我が秘技の前に散れ!」
「ぐあっ」
豪快に振り回された二本の騎士剣が、殺意の烈風となって二人を襲う。余りある破壊力の前に、技を崩されるだけでは止まらずはるか遠方まで吹き飛ばされた。
あっという間の出来事。何とか上半身を起こすもゲイルは立ち上がれずにいる。
(ちっ、なんつー攻撃力だ……。それだけじゃねえ。あの攻撃タイミングを見切るだとか、どんなデタラメだっつーの……)
横を見ると、サフィは既に気を失ってしまっている。メルトのほうはと再び前を向いた、そこにはもう彼はいない。
「なっ!」
すでに彼は背後に回り、自分に剣を振り下ろさんと力をこめているではないか。
「敵の前で敵から眼を離すなど、語るに及ばん! 終わりだ!」
「待たんか!」
振り上げた剣に気弾が当り、剣はあらぬ場所を突き刺した。
覚悟を決めていたゲイルは安堵の気持ちで力が抜けそうになったが、それを堪えて叫ぶ。
「だめだ! 師匠、逃げろ!」
メルトは何も言わずにフォンのほうへ駆け寄り、剣を振るう。
その剣をひらひらとかわしつつ、拳を打ち込むフォンを見てゲイルは驚くばかりで掠れた声が漏れた。師匠があんなに強かったとは。
「おぬし、どこかで見た事があるな。はて、ルアスかどっかだったかの」
「貴様が知る必要はない。さぁ、あの娘の首にかかっているメテュスの柘榴石を渡せ」
「……やはりそれが狙いか」
「知れたこと。従えばあそこで寝ている娘の命だけは助けてやる。貴様の立場で、むざむざ死は選べまいよ?」
フォンは無言で拳を突き出し、その拳を受け入れるように剣を振りぬくメルトには嘲笑を浮かんでいる。
しばらく二人は演舞でも見せるかのように飛び回っていた。だが、周りの手下共が黙って見ているわけはない。
フォンを手下達が取り囲み、身動きが取れない。それを確認すると、メルトは剣をサフィのほうへ向けてゆっくりと歩き出した。
(クソッ。体が動かねえ……)
親友を殺そうと鬼神が近寄ってくる。止めなければならない肝心な時に何も出来なくてゲイルは歯軋りしか出来ずにいた。
「ふ、そこで見ていろ。仲間が死んでいく様をな。我々にたて突くとどうなるか、思い知るがいい!」
再び、メルトの剣が振り上げられる。
あの時、自分がこの連中に手を出してさえいなければ。後悔の念が過ぎる。
「待て!」
太い声が緊迫の場に響く。何か強烈な気を感じて上空を仰いだゲイルは堪らず目を見開いた。灼熱の不死鳥がこちらに烈風をまとって突っ込んでくるではないか。
二つの人影が空から散り、直後に不死鳥は地面を激しくえぐりながら雑魚共を蹴散らした。
多数の雑魚に囲まれていたフォンは、巻き上がる砂煙の中の人影を毒気を抜かれたような目で見つめている。
「おぬしは……」
「お久しぶりですね、フォン老師」
◆
「!」
高い音と共に再びメルトの剣は弾かれる。今回は予想外だったらしく、メルトの鋭い視線に生じた一瞬の焦り。
まるで歯が立たなかった彼を焦らせる程の手練……ゲイルは弾いた相手を見上げた。これまた双剣を手にした強そうな男だ。
なんとか立ち上がったゲイルは、お礼を言おうと男に近寄った。
「下がっていろ」
横目で睨みつけながら、いきなりの言葉だ。むっとしたゲイルは、ナックルを締め直す。
「聞こえなかったか? 足手まといだ」
「な! 俺だって!」
「そんな体で何が出来る。その娘を連れて後ろに下がっていろ」
言われていることは尤もなことだ。今の自分にできることは、サフィを守ってやることだけ。悔しいが、言うとおりにするしかない。
「貴様、何をしにきた」
メルトは距離を詰めながらも、仕掛けることなく男の出方をうかがっている。だが、それすら許さず、男は電光石火の勢いであっという間にメルトの剣を捉えて離さない。
「エズダーシアに語る言葉など、持ち合わせてはいない!」
互いの四剣が目にも留まらぬ早さで打ち付けあい、火花を飛ばす。そこを包んでいるのは誰も近づけない修羅の雰囲気。
(こいつら……つええ……)
世の中には自分の及びもつかない力を持ったものが山といる。たびたびフォンから聞かされてきた説法だが、こうして身をもって味わうと震えが来る。
向こうでも、フォンと共に剣を振るう紳士がおり、その腕前はなかなかのものだ。剣で敵をなぎ払ったかと思えば、巨大な不死鳥を召還しては遠方の敵を吹き飛ばす。
とうとう先に根を上げたのはメルトのほうだった。互いの渾身の力を込めたカータルシックルで、剣が吹き飛んでしまったからだ。
剣の打ち合いから離れ、それを鞘に収めつつ仲間を集める。
「まさか貴様がこちらに来ていようとはな。だが、こんなところで時間を浪費していて良いのか?」
「無様だ。吠えるな」
「貴様が油を売りに来ている間に、別働隊がすでに重要拠点の制圧作戦を実行している。陥落も時間の問題と言えよう!」
吐き捨てるように自分達の勝利を叫んだ後、メルトが何かを地面に叩きつけると凄まじい光が周りを覆い、視界が開けた頃には、あれだけの人数が忽然と姿を消してしまっていた。
「……。クレール、怪我人の救助を頼む。俺は長老と話がある」
「御意」
紳士は剣を手先でまるでマジックのようにぱっとカードに変えて懐にしまい、目の前で起きた壮絶な戦いに未だ立ち上がれずにいるゲイルへ手を伸ばした。
「さ、私の手につかまって。私はクレールと言います。大丈夫、私達はあなた方の味方です」
夜のサラセンは何度もお世話になったなあ。
だって、コマリク(蘇生薬)を売ってる貴重な街だったから。
とりあえずコマリク、コマリク→おか なフラッシュを思い出した
聖スキルなんて甘えなんだぜ