Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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ちょっとちょっと!いきなり何でこんな状況なのよ、説明してよヴァン!!
ほんとにサイテーサイアクな奴だけど……ほんのちょっとだけ気になるし、敵が同じ〝アイツら〟なら迷う事なんてないさ!
筋を通す相手には、こちらも短剣を掲げる──それが義賊デムピアス海賊団の掟ってね!


黄昏の電撃戦

 誰もが振り向く。女を担いで雑踏を歩けば無理もないか。

 好奇の視線をかいくぐって城門を後目に東へ向かうと、騎士だけが知る抜け道からヴァンは仕事場へと戻ってきた。

 他の騎士たちは、ヴァンが珍しく詰所に来たので何事かと落ち着かない様子だ。

 

「お、何だよ、そのコ。お前のガールフレンド……なわけないか」

 

 いつも会話をかわす連中が寄ってきて彼を冷やかしにかかった。

 そんな話に彼が付き合うはずもなく、ヴァンは一度シャニーをソファへ横にすると、倉庫へと入っていった。

 

「ちぇ、ドライなヤツ。にしても、このカワイ子ちゃんは誰なんだ。あいつが真っ当に盗賊を引っ張ってくるとは考えにくいがなぁ」

「んー……。なんか見たことある気がするんだよな」

「俺もだ。ちょっと調べてみるか」

 

 彼らは資料庫へ入っていき、入れ違いでヴァンがポケットの中をまさぐりながら戻ってきた。

 シャニーの指先に手をやり、自分のマナを跳ね除けようとする力の弱さを確認すると、彼女を担いで詰め所を後にした。

 

 陽が沈み始めると同時に、城の門は閉ざされた。

 祭の開催期間中は恒例となっている場内の一般公開も陽があるうちだけ。観光客がいなくなると、一気に城は静まり返る。

 その静寂を突き破るかのように、騎士が血相を変えて廊下を疾走し、詰所へ飛び込んだ。しばらく前に資料庫へ入って行った騎士だ。

 

「おい! さっきヴァンが連れてたパツキン。あれ、海賊王の娘じゃねーか!」

 

 騒然とする詰所は、騎士の持つ一枚の手配書に視線が注がれていた。

 海賊王と言えば、かつて騎士団が討伐しようとして返り討ちに遭ったルケシオンの英雄で、その娘も例に漏れず、騎士団内ではブラックリスト入りしているのだ。

 

「あいつ、何考えて──うわ?!」

 

 武器を取ってヴァンの後を追おうと駆け出した騎士は、出入り口で何者かとぶつかり、勢いよく転んでしまった。

 

「よう、久しぶりだな。元気だったか?」

「だ、団長……」

 

 その場にいた騎士達は全員、出入り口に立つ男の顔を見て絶句した。

 男がその偉丈夫に不釣り合いすぎる人のいい笑みを浮かべていたのは最初だけ。

 双剣を抜き、鷹のような目で突き刺した彼はそれだけで場を敗北感に陥れた。

 

「俺が用のあるのは、お前ら騎士とピルゲン、そして国王陛下だけだ。緊急事態を街に流す必要はないぞ。要らぬ混乱の元だからな」

 

 

◆◆

 なにかとてもいい香りに意識を引き寄せられるように、シャニーは目が覚めた。

 やたら眩しいと思ったら、西陽が部屋に突き刺さっている。かすむ目を細めて周りを見ると、そこは宿屋でもルアスの市街でもない。ただ共通しているのは──

 

(またヴァンと二人なの? サイアク……)

 

 逆に違和感も覚えた。腰から短剣は取上げられておらず、ゲイルリングもつけたまま。

 置かれている状況を確認しようとごそごそしていたら、ヴァンがきっと睨みつけてきた。思わず身構えると、ヴァンはポケットから何かを取り出して、ぽんと投げつけてきた。

 

「それ、飲みなよ。気力の回復を早めてくれる」

 

 じっと見つめられては、飲まずにいるわけにも行かない。

 投げつけられたものがポーションであることは分かるし、彼の性格的にわざわざ毒を盛るなんてありえない。

 警戒しながらも、ゆっくりとポーションを口にしたらようやく注視から開放された。

 ヴァンは西陽に燃える街並みを、窓の縁に座って眺めている。

 

「腐っているのは、スラムだけだと思っていた……」

「え?」

 

 飲むと体が楽になる。気力を回復してくれるポーションを一気に飲み干そうとした時、彼女の手は思わず止まった。

 

「だが、外はもっと酷かった。力のないヤツから搾り取ろうとするゴミ。力がないと言い訳して、何もしないクズ。そんな奴ばかりだった。だからオレは決めた。見なくていい悲しみを見る者がこれ以上増えないように、逃げている連中を片っ端から潰すと」

 

 独り言ではない。間違いなくシャニーへ向けての言葉。

 いつの間にか、彼の視線は街ではなく、真っ直ぐにシャニーへ向けられていた。突然に語られる彼の心の内に、シャニーは返す言葉が見当たらず、ただ聞き入っているだけ。

 

「だってそうだろ? 逃げている人間に、生きる喜びなんてない。オレはこの腐った現状を砕こうと自分の意志で生きることを決めた。だが、師匠はこういった。〝同じように見なくていい悲しみを見てきた者といずれ対立し、もしその者が死ではなく希望を与える者なら、潰されるのはお前だ〟と」

「あんたがあたしを狙ってたのって……」

 

 確かにヴァンへ言い放った。希望の守護者として、やるべきことを果たす、と。そして、体に流れるマナそのものから対立している。

 

「教えてくれよ。キミはどんな悲しみを見てきたんだい?」

 

 なぜ、面白いというだけで命を狙ってくるような、こんなイカれた人間に身の上話をしているのか不思議でしょうがない。それでも、ヴァンは今まで見せてきたただひたすらに冷たく無感情な目とは違う、何かを渇望するような眼差しで見つめてくる。

 手短に話そうとしていたのも忘れ、海賊姫としての業や悪魔に奪われた笑顔──かなり長くなった。

 

「気に入らない。キミもオレも、同じように悲しみを見てきた。そして現状を変えようと自ら動いている。力を持つ者は、その力を使って世を正す義務がある。そうだろ?」

「……初めて、あんたと意見が一致する部分を見つけたよ」

「じゃあ何が違うんだ。何がどう違うから、オレはキミに勝てないと師匠は言ったんだ」

 

 明らかに動揺している。そこには今までの余裕に満ちた不敵な笑みはない。必死に生きているからこそ、それが報われない悲しみがきっと彼を苦しませている。

 

「いかなる絶望にも止むことなく夢を渇望し、腐敗し広がる闇のさきらで常に輝き導く星となること。知ってる? これ」

 

 そう問うと、ヴァンは視線を逸らし唇を噛んで押し黙っていた。

 でも、沈黙はあっという間に過ぎ去って、彼の目が一瞬にしていつもどおりの鋭いものへ変わった。

 

「キミは体を休めてるんだ」

 

 彼は槍を取ると背を向けるや、そのままツカツカと部屋を出て行ってしまった。

 そんなことはしていられない。約束したのだ。必ず親友の元へ帰ると。ポーションとお香のおかげで体も大分楽になった。

 

「悪いけどずらからせてもらうよ……ってここ、ルアス城だったの?!」

 

 窓の縁に足をかけ脱出経路を練ろうとした彼女は、ようやく知った現在地にぎょっとした。ヴァンがいたのだし当然と言えばそうかもしれないが……どうにも胸騒ぎがする。

 外を見下ろした彼女は思わず目を見開いた。

 

「アイツ……──そういうところは騎士なんだね!」

 

 彼女はポニーテイルを結う飾りを締め直すと、足を縁から外してヴァンの後を追った。

 

 

 するどい金属音がけたたましく響いてくる。

 気力を回復したシャニーは、疾風のごとく回廊を駆け抜ける。

 音がだんだん大きくなってくる。どうやら、場内で小競り合いが起きているようだ。

 

(ヴァン! ──アイツ!)

 

 現場に着いたシャニーは目を疑った。そこにはエズダーシアの連中が数十人といたのだ。

 その真ん中で、ヴァンが一人で彼らの相手をしていた。

 恐ろしく研ぎ澄まされた槍術で、次々に襲いかかる双剣を弾いては吹き飛ばす。その様子は、まさに戦神。

 だが、さすがの彼でも、多勢に無勢すぎる。マナで自身の体に強力な防御壁を作っても、双剣の前に少しずつ傷ついていく。

 

「くっ、群れて襲撃とはね……残らず食い潰してあげるよ!」

 

 振り下ろされた双剣を槍で弾き返した、そのときだった。

 後ろと頭上からの挟み撃ち。後ろからの攻撃は鎧で受けられるものの、頭上は……どう考えても無理だ! 

 

「何……?」

 

 勝利を確信する間を突き崩す一陣の風。刹那に起きた出来事に、エズダーシアの連中も状況を飲み込めないのか固まっている。

 そのわずかな風穴さえ開けばこっちのもの。空中を風に乗って低空滑空しながら、ヴァンを飛び越えざまに両手の短剣でエズダーシアの戦士達を切り倒す。

 

「助太刀なんて頼んでないよ」

 

 風に紛れ、顔の半分を潜入服で隠してもヴァンには見切られているようだった。彼の横に着地してシャニーはダガーを握り直す。

 

「よく言うよ。あたしだって、あんたなんかに背中を任すつもりはないさ」

「フッ」

 

 二人はそれぞれのマナを身にまとい、エズダーシアの前から姿を消す。

 次に姿が見えたとき、二人の周りにいた連中は全て上げる声もなく倒れていた。

 

「首謀者はどこ?」

「知らないね」

 

 手下ばかりで頭が見つからない。一体こんな人数がどこに隠れていたのは不思議でたまらない。

 

(早くゲイルに知らせないと!)

 

 その思いとは裏腹に、ヴァンを残してここを去るわけには行きそうにない。さっさと切り崩し──

 

「抵抗はよせ! 宰相ピルゲンは降伏を宣言した! これ以上の抗争は国賊とみなす!!」

 

 突然の叫び声にシャニーも、ヴァンも耳を疑い顔を見合わせた。

 市民への被害を恐れたというのか。それにしてもあっさりし過ぎている。何が起こったのかまるで見えずもどかしい。

 

「ピルゲンめ……。オレがまだいるのに弱腰めッ」

「敵陣のど真ん中にいたんじゃ危険だよ。いったん立て直そう! 一人じゃヤバい相手だってあんたも分かってるんでしょ?」

「……フンッ」

 

 シャニーはヴァンと共に幻術で姿をくらませると、素直に言うことを聞かないヴァンの手を引っ張って一度城を後にした。

 

 今までの戦闘が嘘だったかのように、外はいつもどおりの不夜城であった。

 人々が溢れ、賑やかな夕方。何時間も戦場にいた気がするのに、実際には数十分も経っていなかったのだ。

 

「他の騎士はどうしたのさ? 全然見かけなかったけど」

「殺された。生き残った奴はみんな逃げたよ。国の為だなんて、結局上辺だけってことさ。さて、これからどうするかな」

 

 ヴァンの目は城へ向いている。口ではそう言っているが、どうするかなんて決まっているに違いない。

 

「強襲をかけてロクに戦いもしないで、文官を脅して制圧するなんてさ。あーッ、筋すら通さないとかむしゃくしゃするー!」

「フン、キミと意見が合うとはオレもまだまだか」

 

 ヴァンもこう言っているし、このまま意気投合で突撃──したいのはやまやまだが、理性が勝った。シャニーはしっかり幻術をかけ直してヴァンの手を取り歩きだす。

 

「……よし、一回ゲイルのところへ行こう。ヴァン、あなたもだよ」




今回出てくる気力回復ポーションは、いくらあっても困らない代物でしたが
これを使う気力ゲージを開放しての戦力アップは、盗賊としては一長一短だった思い出。
だって高速移動系魔法が解除されてしまうので、動きが遅い~ってなるんですよね。
大量に積んで挑むのはヘルシオンやアセラソロの時くらいだったけどね。
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