Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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どれだけ束になってかかって来ても無駄だ。
お前ら守護者と俺では、実力、指輪の質、そして覚悟……どれ一つとっても住む世界が違うのだ。
安心しろ、抵抗しなければ手は出さん。
俺の要求はただ一つ──マイソシアのあるべきのために、アスクもまた生まれ変わらなければならないのだ!!


絶対の騎神

「おのれメルト……貴様、一体どういうつもりだ」

「くどい。俺の剣が咆えないうちに決断せよ」

 

 王の間に押し込められた宰相ピルゲンは、メルトたちと対峙していた。メルトは腕組みを崩さないまま、ずっと同じ要求をピルゲンにぶつけるだけ。

 

「だからなぜ、陛下への謁見を望むのだ。そのような手合を引き連れて」

「……次はないと思え」

 

 黒き刀身の騎士剣が牙を研ぐように鞘を鳴らす。鋒をピルゲンに向けるメルトの眼光は、戦神のごとき緋で射抜く。

 こうやって時間を稼ぐことももはや限界だ。ピルゲンはやむを得ず、メルトのみの条件で王への謁見を許すことにした。

 

「フッ、ピルゲン。貴様、随分偉くなったものだ。立場が分かっていないと見える。まぁいい」

 

 彼はピルゲンに連れられ城の中央通路を歩いていく。

 かつては毎日のように往来した道だ。案内などされなくとも分かっている。それでも、幹部であるピルゲンもいなければ意味が無いのだ。

 国王の寝室へ入ると、メルトは重い病気で体を起こすことも叶わない国王の下でひざまずいた。

 

「陛下。王宮騎士団団長メルト。ただいま帰還致しました。長い間お傍を離れたこと、真に申し訳ありません」

 

 顔だけで幹部の帰還を確認すると、王は涙を流した。

 手で招いて彼を傍に寄せる。王は、まだメルトの犯したことを知らないようだ。

 

「陛下、差し出がましいことを申すことをお許しください。私は世界を旅して見て参りました。そして確信したのです。マイソシアは今、あるべき姿に戻らねばならないと。そのためには……」

 

 彼は一度言葉に間を持たせ、王の様子を確認する。

 王は真っ直ぐに見つめていた。2年もの間、不在にしたにもかかわらず君主は待っていてくれた。

 もったいなくて申し訳がない。だが、これが国の……大陸の為だ。

 

「──我らエズダーシアと同盟を結んでいただきたい! 王の下で新生アスクとして国を再興したいのです。マイソシアがあるべき姿に戻るために、陛下のお力が必要なのです!」

 

 国王も、そしてピルゲンも、メルトが一体何を言っているのか分からない様子だった。

 国王の病は深刻で、もう声を出すことも叶わぬ状況。首を縦か横に振るかしか、選択肢は残されていない。

 ピルゲンも固唾を呑んで王の決断を待つしかない。

 しばらくの沈黙の後、後ろが騒がしくなってきた。

 

◆◆

「ヴァン、どこへ行くつもりなの?」

「黙ってついて来い。無理なら雑魚の相手でもしているんだね」

 

 ヴァンはエズダーシアの連中を駆け抜けながら騎士剣で切り倒していく。手にするライトニングリングが紫電を振り回し、彼に近づくことを許さない。

 その後ろをついていくだけでサフィは精一杯だった。

 立ちはだかる敵を切り倒し、無限回廊をひたすらに突っ走った彼らは奥で待ち構える大きな扉を突き破った。

 

 緊張感が包む静寂を突然に引き裂く紫電の騎士。

 彼は部屋に入るや、部屋の中央にいた騎士を睨みつけた。

 

「ヴァンじゃないか。久しぶりだな」

 

 その声に答えることもなく、ここが王の寝室であることなど気にもせず。ヴァンは騎士剣を捨てると背から槍を引き抜き、メルトに向かって突っ込んだ。

 背後には王──メルトは避けずにヴァンを双剣で受け止め弾き飛ばした。

 

「貴様、王の御前であるぞ」

「……なぜ、裏切った」

「何のことだ?」

「なぜ、オレを裏切った。あんたの護るべきものは国だったはずだ。それがなぜ、こんなことをしている」

 

 重苦しい雰囲気が部屋を包もうとするのを払うように、メルトがヴァンの怒りを飲み込むような深い声で斬り返した。

 

「勘違いするな、ヴァン。確かにお前の言うとおりだ。そして、それは今も変わらぬ。俺は国のために動いているのだ」

「世迷いごとを!」

 

 槍を握る手に力を込めるヴァンもそこまでしか出来ずにいた。全力で戦いたいが、王の御前とあってはとてもじゃないが場所が悪すぎる。

 

「そこまでだ!」

 

 どこから集まってきたのか分からないほど、たくさんの騎士が部屋にごった返す。

 メルトは舌打ちをした。これは明らかに、秘密の地下通路を抜けて集まって来たに違いない。

 

「お前ら……そのまま街にいれば死なずに済んだものを」

「滅ぶのは戦って及ばないときだけだ。団長、貴方とは言え、もうこれ以上は放っておけん。覚悟しろ」

 

 かつての部下たちが、皆一斉にメルトへ向けて武器を向ける。その光景を見下ろすメルトは口元で静かに笑う。

 

「ハッ……。ようやく、()()()()()()()()()わけか」

 

 メルトは騎士たちに向かって言い放った。

 

「いいだろう。外へ出ろ。新しい世界に、覚悟なき者は不要だ。死にたくなければ望みどおりにしてやろう」

 

◆◆

 外へ飛び出した騎士たちは、中庭付近でエズダーシアと再び剣を交える。

 先ほどは面食らった攻撃だが、彼らはもうひるまなかった。今ここで自分たちが退けば、それはすなわちアスク帝国の敗北を意味するのだ。

 双剣を盾で受け止め、守りながら切り崩していく。

 

「ヴァン、見せてみろ。2年間でお前が得てきたものを」

 

 騎士勢は配下に任せ、かつての弟子と対峙していたメルトは、懐かしむように弟子の手先を見て彼はふっと笑った。

 

「言われなくともそうするさ。耳障りなお喋りは終わりだ──ッ!!」

 

 一方のヴァンはそんな気持ちはさらさらない。裏切った師匠へ復讐する──ただその気持ちだけで指輪に紫電をともす。

 彼はハボックショックで地面を穿ち、砕いた石で龍鱗壁(ドラゴンズケイル)を作ってメルトへ突撃する。

 

「ヴァン、強くなったな。流れるマナの勢いが違う。だが……」

 

 堕ちた守護者とはいえ、メルトは(セオ)の力を守護せし者。

 手にしたセオのアクアマリンに自身のマナを流し込めば、音を立てて蒼炎を吹き上げる双剣が鬼神に更なる力を与える。

 

「来たか……青の焔。いや……ッ」

 

 恐ろしい勢いだ。かつて見た蒼炎とは勢いも大きさもまるで格が違う。

 驚きを隠せないヴァンに笑みを浮かべ、メルトは双剣を弟子に向けて一振り。噴き昇る蒼き聖炎が音速で彼を襲い、瞬きも許さぬ間に守りを吹き飛ばしていった。

 

「言ったはずだ。生きる覚悟が内に向いているうちは、俺には勝てぬと。進歩のないやつだ。なぜ分からん?」

 

 そんな説教はもう聞くに値しない。ヴァンはマナを練り直すとメルトへ向かって突っ込んだ。

 繰り出された無数のピアシングスパインの衝撃波が雷鳴を呼び寄せ、裁きの雷が槍のように降り注ぐ。

 トドメに彼自身の渾身の突きがメルトを襲う。

 

「オレの無限雷撃──受けろッ!!」

「……ナイトユニーク」

 

 おもむろに指輪をかざしたメルトの一声とともに、景色を焦がすほど指輪から高く立ち上がった蒼炎が、見る見るうちに龍の形へと変化し、吐き出す炎が衝撃波を焦がし尽くす。それでも、ヴァンの繰り出す無間の突きも竜を穿ち──届く! 

 ぱっと空中に弾け飛ぶ双剣。両手の遊んだ阿修羅は、騎士からの渾身の一撃を免れない──はずだった。

 

「確かに強くなった。しかし、ただ突っ込むだけが〝勇〟ではない。……俺の指導不足だったか」

 

 まさに神業。空中へマナを篭めて投げ上げた双剣に、吸い込まれるようにライトニングスピアの雷撃が降り注ぎ、落ちてきた剣の柄に飛び乗った彼は足で剣をクロス。その体重を利用して向かってきた槍を地面へ押さえ込んだのだ。

 

「こんな……ことが……」

「お前と俺では、力量に違いがありすぎる。指輪ひとつとってもな。俺が渡したライトニングリングを、今も大事にしているとは素直なやつだ」

「これが……──セオの力か!」

 

 まったく歯が立たず、ヴァンの目には焦りが隠せない。

 彼とて知っていた。メルトが神の……殊のほか主神の守護者であることを。

 

「師としてお前にできる最後の訓示だ。受け取れ」

 

 手先にマナを集中させるメルト。そこから溢れた力だけで、ヴァンは痺れて動けない。

 彼は指輪から特大の炎龍を作り上げると、ヴァンに向かって突撃させた。喰らい尽くせと指示を与えて。

 

「っ!!!!!」

 

 声を上げることもできない。

 見下ろしてくる師匠の瞳は、いつも以上に厳しかった。

 全身を蒼き炎龍に飲み込まれ、食い散らかされる。自身のマナを骨の髄まで砕かれ──龍は姿を消し、槍から手の離れたヴァンは焼けただれてその場に音を立てて倒れた。

 

「……俺も、お前も。違う時代に生まれていたら、もう少し違った生き方ができたかもしれんな。許せよ、これも……国のためだ」

 

 メルトは剣を振り上げる。

 その刀身に蒼炎をまとわせ、迷いと決別するべく勢いよく振り下ろされる──

 

「させないわよ!」

 

 青き波動によって剣は軌道を変えられ、直後鋭い一閃がメルトを襲った。

 間一髪で首元を狙った一撃を剣で受け止めると、抜ける風を蒼炎で燃やし尽くしにかかる。

 

「ん?!」

 

 そのマナが押し返された。

 飲み込むように燃え移るはずの蒼炎が、ぐっと相手のマナに跳ね除けられたのだ。

 目の前に現れた二人の守護者──サフィとシャニーに、メルトは舌打ちをした。

 

「また貴様らか。行く先々で邪魔をしおって」

「メルト! あなたルアス騎士団の団長なんでしょう? なぜこのようなことを!」

「マイソシアはあるべき姿に戻らねばならん。変化に対応していくためには、国もまた生まれ変わらねばならんのだ。安心しろ。俺は抵抗しなければ手は出さん」

 

 サフィからは青い気が放たれて、いつでも突っ込める体勢を取っている。

 いつまでも剣にまとわりつく希望のマナを蒼炎ごと一払いし、再びマナを練って剣に聖炎を滾らせたメルトは、それらを構えて二人と対峙する。

 

「しかし、貴様ら守護者には消えてもらう。その力、神のために必要なのだ!」

 

 そんな御託など聞いてはいない。もうシャニーは姿を消し、側面から襲いかかっていた。

 相手は主神の守護者、そして神の力を持つ指輪を装備している。ダガーにゲイルリングで練ったマナをまとわせた連撃もあっさり弾かれてしまい、双剣のまとう蒼炎に彼女のマナは吹き飛ばされて短剣がキリキリと火花を散らした。

 

「まだまだ! この幻術、見切れるかな!」

 

 吹き飛ばされた衝撃を利用して切り返しの剣を空中で回避するや、地面に溶け込むようにまた姿を消す。

 

「くそっ、シャニーのやつ! 俺だって負けねえぞ!」

 

 傘下どもを力任せに押し飛ばしながら、ようやくゲイルも駆けつけた。彼の通ってきた道は草刈りでもしたようにすっかり禿げている。

 どんな暴れ方をしたのか──またひとり襲いかかった敵を双剣で宙に吹き飛ばす様は、もはや斬るというよりぶん殴るに違い。

 

「メルトォッ!」

 

 渾身のカータルシックル同士が火花を散らす。ぎこちなかった双剣術も、ゲイルはしっかりとものにしていた。

 彼が時間を稼ぐ間に、サフィはヴァンに肩を貸して安全なところまで運んでいく。

 

「……何故助ける?」

「理由なんて必要ないわ。死にそうな人間を放っておけるほど、私は腐ってない」

 

 彼女は隅でヴァンの手当てを始める。青き気を用いた気功術は、聖職者の治癒魔法には到底及ばないものの、ヴァンの傷を少しずつ癒していく。

 

「……オレは、死んだも同じだ」

 

 ヴァンは完全にプライドを打ち砕かれていた。

 今までも団長には指一本触れられなかった。けれど、今回の団長の目は、今までとは明らかに違った。

 覚悟を決めた、恐ろしいほどに冷厳な目。

 

(変わってしまった……。確かに護る者は同じでも、変わってしまった。オレは……認めないぞ!)

 

 

 

「ゲイルよ! 少しは形になってきたじゃないか」

 

 激しくぶつかり合い、火花を散らす双剣を操り嘲笑しながらも、メルトの内心では疑問が生じていた。

 

(ありえん……。 指輪も持たぬこいつが、なぜだ?)

 

 マナをまとった剣に何もない剣で挑めば、普通ならマナに飲み込まれてしまうはず。それがゲイルには通用しないのだ。飲み込まれるわけでもなく、弾き返すわけでもなく。

 善でも悪でもない力がそこには存在し、マナを受け入れるかのように流れを変える。

 

(それはともかく……。こちらのほうが厄介だな)

 

 ゲイルの剣は自身と同じ派生であり、ある程度流れが分かるからまだいい。

 問題なのは、先ほどから風のように現れては、ブンブンと飛び回り急所を狙ってくるアサシンのほうだった。

 ゲイルも格段に技量を上げている。それ以上に、シャニーの動きがミルレスで切り結んだ時と変わっていた。

 

「うっとうしいハエめ。俺やフェンネルの力を見てもまだ懲りぬか!」

 

 それに応える声はない。ゲイルが襲い掛かるその瞬間を逃さず、シャニーは背後から牙をむく。

 とっさの反応で暗殺剣をかわしたメルトを弄ぶように、また頬に大きな傷が残った。

 ミルレスでは左頬に、そして今回は右頬に。しかも、喰らった瞬間に痺れを伴って。

 

「いかなる絶望にも止むことなく夢を渇望し、腐敗し広がる闇のさきらで常に輝き導く星となること。それが、希望の守護者の使命。生きている限り使命を果たすだけさ!」

「──貴様、それは……?!」

 

 ようやく姿を現した盗賊の手先を見たメルトは眉を吊り上げた。

 そこにはゲイルリングがはめられており、彼女の短剣は装備者のマナで黄金の光を放っていたのだ。

 

「貴様、どこでマナの使い方を覚えた」

「あんたが裏切った弟子からさ! もうちょっと指導しておいて欲しかったものね!」

 

 再び姿を消すシャニーから聞かされた事実に、メルトは息を呑んだ。

 あの偏執者が、人にものを教えたというのだ。

 

「そうか。フッ……少しは()()()()わけか。ヤツの目を覚まさせてくれて感謝するぞ、希望の守護者」

「はぁ?! あいつといいあんたといい! ホンッとムカつく!!」

 

 彼の口元は一瞬の笑みの後、顔全体が修羅となった。

 いくらマナの使い方を覚え、その力を練る事ができる指輪を持っていたとしても、結局ヴァンと条件は同じ。

 実力も、装備する指輪の質も、彼とシャニーでは天と地ほどの差がある。

 

「よかろう。希望の守護者よ、絶対のセオの力──勇敢の守護者としてその口叩けぬようにしてくれる。力を持つ者は、何もお前だけではない!」

 

 現れる幻影を切り伏せて、喉元をえぐろうとするダガーを弾き飛ばす。

 

「うわっと?! どんなパワーしてんのよ」

 

 目を見張ったシャニーは、風に乗ってスズメバチにも似た滑空で刃をすり抜ける。

 ミルレスで戦った時とは段違いだ。ヘタに近寄れば、こちらが首を吹っ飛ばされかねない。

 武器で受けとめることは考えていられない。必死に避ける。

 

「──!」

 

 後頭部すれすれをメルトの剣がなぎ払い、縛ってあったポニーテイルが吹っ飛んだ。

 

(これが……神の力。あたしにだってトパーズさえあれば……)

 

 それでも、メルトもこちらを捉えきれていない。小道具も使いながら、メルトへ疾風怒濤の連撃を浴びせにかかる。

 

「うらあ! メルト、喰らいな!!」

「フン! 力任せの汚い剣だな」

「ケッ! お行儀は習ってないんでな! 指輪がないやつはお呼びじゃねえってか?!」

 

 負けじと飛び込んたゲイルは、刃同士をぶち当てながら苛立ちを吐かずにはおれなかった。

 守護者であるシャニーと、そうでない自分とではメルトの対応の仕方がまるで違う。

 悔しい。確かに悔しい。

 だが、メルトへの、エズダーシアへの怒りは負けていないし、シャニーを守ってやらなければならない。

 なにより、サフィがヴァンの治療にまわる今、突破口を切り開けるのがシャニーだけなら、メルトを引きつけられるのは他に誰がいる? 

 阿修羅同士の演舞は火花を飛ばす近寄りがたいものとなっていく。

 

「くっ……」

 

 風の中から現れたシャニーの表情が曇った。

 右手で押さえるわき腹からは鮮血が流れ出している。

 

「大丈夫か!」

 

 驚いて悪友の様子をゲイルは追う。

 ただでは起き上がらない──そう言わんばかりに瞳に力を篭めて、シャニーは再び風の中に消え、自己治癒魔法で傷を癒していく。

 

「ゲイル! 任せたよ」

 

 シャニーの作った隙を埋めるべく、メルトと双剣を打ち合っているゲイルにシャニーが風の中から呼びかける。

 何か考えがある──直感したゲイルは退かずにメルトの剣を押し返した。

 

「オラァ! ザマァねえな! キレイな剣がどうしたよ?!」

「ハッ、この馬鹿力め。神の焔ごと跳ね返すなど、お前のようなデタラメは初めてだぞ」

 

 力なら相手にだって負けない。修道士として鍛えてきた強靭な肉体は、阿修羅になっても役に立つ。

 彼がメルトをひきつけているうちに、シャニーは右手に持ったダガーを鞘に戻し、腰の後ろに忍ばせてあったもう1本の短剣を引き抜いた。

 刃が櫛状になった肉厚なダガーを右手に握り締めて、彼女も螺旋うずまく風に乗って突っ込んだ。

 マナを右手に集中し、利き手の短剣でメルトへ斬りかかる。

 最低限しかマナを注いでいないダガーなど、メルトの聖炎に飲み込まれないようにすることで精一杯だ。

 

「どうした希望の守護者。もうバテたか?!」

 

 襲ってくるのを待っていたかのように、反撃の一閃がシャニーを襲う。

 

「むうっ」

 

 渾身の一撃を、右の短剣で受け止める。防御の為にそちらに気を集中していたおかげで吹っ飛ばされはしないが、それでも後ろへ大きく弾き飛ばされる。ゲイルがいなければ、その後を狙われて終わりだ。

 ゲイルがメルトと吹っ飛ぶシャニーの間に突撃し、シャニーの背後を守っていたのだ。

 

「どうした? アサシンが守りに入るとは。一人ではまともに防御もできんのか」

 

 アサシンが見せる背中。めったにないチャンスだ。

 その首に剣を振り下ろそうとする彼の前で、ゲイルが必死に体を張る。

 仲間が自分に命を託して何かをしようとしている。相変わらず無茶ばかりだが、絶対に退けない。

 

 しばらく同じような状況が続く。

 蜂というより蚊のような攻撃を繰り出しては、その何十倍も威力があるであろう蒼炎を右手のダガーで受け止める。

 そんな中で、メルトの苛立ちはシャニーよりもゲイルへ向かっていた。

 どれだけ強くマナを練っても、山のように動じないのだ。がっちり剣同士を打ち合わせてくる。

 

(指輪もなく俺についてくるだと……? なんなんだ、こいつは)

 

 お互いのマナが強ければ強いほど、ぶつかり合った時の反動は大きくなる。その反動に加えて剣同士が砕きあう衝撃もあるのだから、相当な力となっているはずだ。

 それはシャニーの攻撃後の動きで分かる。風の幻術が衝撃に追いついていないのだ。

 にもかかわらず、ゲイルは……。そうしてまたゲイルと剣を打ち合わせたその時、メルトの剣から鈍い音がした。

 

「なに?!」

 

 慌てて右手の主剣を見て、メルトは目を剥いた。その刀身はずたぼろに欠けていたのだ。

 息つく暇なく喉元を狙う短剣を吹き飛ばし、反撃したその時だった。

 彼には見えた。シャニーの装備している短剣が、自身の刀身に噛み付いている姿を。

 

──!! 

 

 一瞬だった。メルトの剣は大きな音を立てて弾けとび、刀身が宙を舞う。

 

(ソードブレイカーだと!)

 

 ダガーに剣を噛ませ、相手の力を利用してその刀身をへし折る防御短剣(ソードブレイカー)

 シャニーはこれを狙っていたのだ。いくらメルトと言えど、主剣を失えばその戦力は大幅に落ちる。

 

「ぬうっ」

 

 片手が遊んでは、ゲイルのカータルシックルを受け止められず、ありったけの力で放たれた双剣は、メルトの右腕を引き裂いた。

 激痛に顔を歪ませながらも、彼は頭上の殺気に勘付く。

 ソードブレイカーを通常の短剣に持ち替えたシャニーが、暗殺剣を仕掛けようともう目前まで迫っていたのだ。

 覚悟を決めたメルトは腕でガードをしてしまった。

 

「──ぐうっ?!」

 

 彼の首筋が裂かれる事はなかった。

 代わりに上で爆発するような衝突音がして、シャニーのうめき声とも取れぬ声が響いた。

 

「待ってたんだよ、あんたが暗殺剣を仕掛ける瞬間をさ」

「な……に……?」

 

 シャニーにとっては聞き慣れた、そしてゲイルにとっても聴いたことのある女性の声がどこからともなく聞こえる。

 その正体は、すぐに転移魔法でシャニーの横に姿を現した。

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