Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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あたしは、あたしに証明する!
あたしの居場所は『ここ』なんだって! 一緒にいていいんだって!そのためなら、なんだって出来るって!!
あたしはもう迷わない!守ってみせる、絶望の先で輝く星として!



Oath to myself

「その心意気は敵ながら褒めておくとしよう。ならば、──終わりだッ!!」

「させるかよ!うおおおおおおッッッ!!」

 

 最後のチャンスも破棄したゲイルたちへ、唸りをあげる眩い星にも似た灼熱の気弾が放たれた。

 後ろで動けぬ親友をかばい、剣で叩ききろうと試みる。軌道は変わったが、ゲイルの最後の護りもとうとう吹っ飛ばされてしまう。

 まだ諦めない。彼の不屈の精神は、最後までメルトに抗する。ありったけの力で気弾をぶん投げ、敵の烈火弾を跳ね飛ばす。

 だが、相手は神。分が悪すぎた。

 撃ち落しきれなかった業火が、二人に無慈悲に襲い掛かった。燃え盛る炎が、終焉を決定付ける。

 

「確かに、神は犠牲自体を否定はしてへん。犠牲は新たな創造を生む」

 

 目を瞑ったゲイルは、ここにいるはずのない声に誘われて再び目を開けた。

 そこには、邪悪な聖炎を受け止める聖なる御陣が光っている。

 

「イアのマナだと?!」

 

 メルトも驚くその大いなるマナは、慈愛のみで紡がれた他意のないもの。

 その発生元は、どんどん徒歩で近づき、そしてゲイルに手を差し伸べた。

 

「レイ!」

「ヒーローは遅れてやってくるってね。女の子をこんな風にするなんて、同じ男として情けないで自分!」

 

 彼は二人の間に入るとマナを杖に集中し、イアに祈りをささげる。白光が徐々に三人を覆い、その大いなる力が彼らに活力を与える。

 聖職者の権能、それは傷ついた者を癒し、生を吹き込むこと。

 彼は二人の傷がある程度癒えたことを確認すると、立ち上がってメガネを指で押し上げながらレイはメルトを見据えた。

 

「けども、神は犠牲を否定せぇへん代わりに、それ以上の融合を求められた。対立は、なんも直結して淘汰を指すもんやない」

「はっはっは。坊主の説法と言うのは、なるほど難しく、ありがたく聞こえるものよ。あいにくだが、盲信者相手にやるんだな!」

 

 今さら聖職者がひとり増えたところで、戦況は変わらないと言ったところか。メルトは高笑いして歯牙にもかけない。

 レイはマジックシェルをかけなおすと、シャニーに1枚のカードを手渡した。

 

「なんかここに来しなに、変な格好をした占い師に、希望の守護者にこれを渡せって言われたんや。ゲイルの知り合いとか言うててんけど」

 

 ゲイルはぴんと来た。それはクレールに違いない。

 きっと街のほうが混乱しないように計らってくれているのだろう。感謝せずにはいられない。

 もしこの百万都市で市民に混乱が生じれば、二次的被害は免れないのだ。

 

「シャニー、しっかりしろ。これ、なんか分かるか?」

「これ……カー……ド?……──ッ?!」

 

 カードを手渡されたシャニーは、突然の感覚に襲われて意識が遠のいた。懐かしいような暖かい声に招かれて。

 

 

──……

 気付いた時には、全く知らないところに立っていた。

 右も左も雲、雲、雲。雲の上に立ち、空に浮いているのだ!

 夢を見ているに違いない。状況が飲み込めないまま、恐る恐る雲の上を歩き出そうとした彼女の前に、一人の女性が現れた。

 どう見ても人ではない。しかし、どこかで見たことがある。

 

「あ!そんな?!」

 

 見たことがある──と言うより、そんな風になってみたいと願った、空の彼方にいるはずの存在だ。思わず駆け出した。

 

「希望の守護者、よく私の呼びかけに気付いてくれましたね」

 

 翼の生えたその女性は、シャニーをやさしく歓迎する。

 思い出した。そう、この女性はかつて絵本で見た女神。希望を司る盗賊の神だ。

 信じられない。絵本の中の話だと思っていた神が、自分を呼び寄せたのだ。その守護者として。

 ということはここはさしずめ神の国とでも言うのだろうか。なんとなく、見覚えがあるような気がしないでもないところが不思議だ。

 

「私はシャス。いいですか?希望の守護者。時間がありません。今から私の力でちょっと先の未来を見せます。見終わったら、私に思うがままを教えてください。いいですね?」

 

 突然の話すぎる。未来を見せるなんていわれても。

 返事をする間もないまま、目を開けていられないくらいの光が神の周りを包み景色が溶けていく。やはり夢なのだろうか。

 再び景色が晴れた時、彼女は言葉どころか声すら出なかった。そこはルケシオンだったのだ。

 

(これが……未来のルケシオン?あたしの……帰る場所?)

 

 そこには人の気配すら感じず、どよめくのは廃墟の間を流れる死の風だけで、曇天には陽の光もない。

 かつての賑わいなど、それこそ作り話だったかのような殺風景が広がっていた。

 

 悲しさと寂しさがわっと心を包み込む。むしろ自分に怒りがこみ上げてくる。ルケシオンを護れなかったのだ。

 呆然と立ち尽くしていると、誰か歩いてくるのに気づいた。

 自分より少し年上であろうその金髪の乙女の左手には、黄金に輝くトパーズ。

 

(!あたしだ!)

 

 すぐに分かった。蒼い潜入服の着方、帯剣ベルトの仕方、パウチをベルトにくくりつける位置。全てが自分と同じだった。

 未来の自分は、天に向かって指輪をかざす。その指先からは黄金色の光が矢のように天を貫き駆け昇って、雲を突き破りルケシオンへ再び陽を呼び寄せた。

 すると、先ほどまでの殺風景は嘘のように消え去ったではないか。

 視線を元に戻せば、そこにはたくさんの人々の笑顔が溢れている。その笑顔がどれほどに生きる希望を満々と湛えていることか。

 未来の自分はその隣に座る同じくらいの年の男性と話をし、その背が笑いに揺れている。

 ルケシオンの子供たちも、海賊団の仲間も、父も、皆笑顔。抱き続けてきた夢が、そこでは実現されていた。

 

 

「破滅も、創造も、あなたの未来です。あなたの帰る場所(・・・・・・・・)は、どこでしょう?」

「──!」

 

 はっと現実に戻される。いや、これも現実かどうかは定かではないけれど。

 胸を撃ち抜かれたようだった。いきなり聞かれた訳のわからない質問なのに。

 

「ルケシオンがあたしの故郷 。なのに……ふと、思うことがあった。……ここが、本当にあたしの居場所(・・・・・・・)なのかって」

 

 勘当事件の前も、後も。

 ふと誰かに問われ、皆から引き離されてすりガラスの向こうを眺めるような、恐怖にも似た感覚。

 確かなのは、心の底から強く湧き上がってくるのが分かる。すべてを護りたい──覚悟だ。

 

「あたしの帰る場所だし、もしそうじゃなくても、あたしの帰りたい場所だ!大事な人たちの誰も犠牲にしたくない。だから、諦めない!」

 

 シャニーの瞳は明らかにその力が変わっていた。青く空のように透き通りながら、覚悟に燃える。

 似ている。目の前で向き合うその女神の瞳に。

 

「希望の守護者は、過去を背負うだけでも、今に思慮するだけでも、足りません」

 

 女神の言葉を彼女は真摯に受け止めた。過去を引きずり、今から逃げようとする。それではいけなかった。

 ようやく分かった。自分の進むべき道が。ただ、キボウの守護者として敵を打ち倒すだけではない。

 いかなる絶望にも止むことなく夢を渇望し、腐敗し広がる闇のさきらで常に輝き導く星となること。その使命の意味が。

 

「希望とは、明るい未来を想い創ること。そう、貴女は皆が明るい未来を創れるように、常にその先頭で輝く星となって導く義務があるのです。もはや迷うときではありません」

「はい」

「よろしい。では……」

「待って!神様、あなたはどうして──」

「行きなさい。いつも貴女を護ってくれる、貴女が一番護りたい者の元へ」

 

……──

「俺は絶対に諦めねえぞ!お前が何と言おうと!」

 

 ぱっとカードが砕ける音と、突然の怒号に現実に引き戻される。

 そこは禍々しくも清らかな力が支配し、殺意の渦巻く逃げ出したくなるような場所。

 目の前を見れば、自分たちを護る結界が今にも破られそうになっていた。

 

「……ゲイル……!!」

 

 そして、結界の前にはいた。自分が今一番護りたい存在が。

 闇から引き上げて、今まで何度も護ってくれた大切な友。彼もまた、絶対に諦めない男だった。

 今も絶対的な力を前にしても諦めようとはしていない。剣を失くした彼は必死に気弾で神に抗う。

 

「力のない者がどれだけ声高らかにしようと、戯言に過ぎぬ!」

「違う!」

 

 ゲイルが反論しようとしたその時、彼の後ろから強い声が聞こえた。

 彼は確信した。その声は、間違いなく親友のもの。

 

「力を持つ者は、力を持たない者の叫びを聞かなきゃいけない!あたしは父さんからそう学んだ!」

「抜かせこわっぱ!聞かなかった結果が今だ!」

 

 黄金の龍神は拳をぽきぽきと音を鳴らす。いつまでも子供とのお遊びに付き合ってはいられないと言わんばかりに。

 それはお互い同じだ。いつまでもこんな状態を続けてなんていられない。

 

「従うことが善というなら、俺は戦ってやる!俺は決めたんだ、この世界を護るってな!いくぜっ、シャニー!」

「シャスと誓ったんだ!あたしはもう迷わない!守ってみせる、絶望の先で輝く星として!」

 

 レイのおかげで少しは体が言うことを聞くようになった。

 シャニーの手を、ゲイルがしっかり掴んで立ち上がらせた。きしむ体に鞭打って、二人でメルトと対峙する。

 

「シャスの絵巻のことを言っているのか?バカバカしい。トパーズどころか、武器もない貴様に何が出来る」

「あたしは、あたしに証明する!あたしの居場所はここ(・・)なんだって! 一緒にいていいんだって!そのためなら、なんだって出来るって!!」

 

 大きな口を更に大きく広げて咆哮するように笑うメルトへ見せ付けるように、シャニーはゲイルの後ろに立った。

 

「あたしに力がなくても、仲間を助けることはできるさ!」

 

 気を練ってユランエティスを放ち続ける彼の左手をそっと握る。

 ゲイルは何か違う感覚がしてはっと後ろを振り向き、視界に映った親友を見て一瞬固まった。

 自分の左手を両手で包む親友の手から、オレンジの光が流れを作って自分へと吸い込まれていたのだ。

 

「ゲイルはずっとあたしを護ってくれた。だから、今度はあたしがゲイルを助ける番だ!」

 

 最初はせせらぎの様な流れだった。その小川は一瞬にして波打ち、強力なマナの激流となってゲイルへと流れ込んでいく。

 なんと強く、そして暖かい流れだろうか。自分とは違う、それでいて自分の気と触れ合った途端、調和して溶け込んでいく。

 体の隅々まで、どんどん力が溢れてくる。仲間の気持ちまでもがゲイルは感じ取った。

 そこでは、シャニーが先ほど見せられた未来があった。

 護りたい、そして向かいたい未来。その決意がマナに乗って伝わってくる。

 

「お前……。よし、この一発で決めるぞ!」

「ゲイルが覚悟を決めるなら、あたしも覚悟を決める!」

 

 気を集中させるゲイル。一人じゃない──ここまで強くそれを感じたことが今まであっただろうか。

 体を駆け巡る力が伝えてくる。この絆を断ち切ろうとするものを討ち果たせと。

 聞こえてくる。マナに乗って絆で結ばれた者たちの声が。

 傍にいるシャニーのものだけではない。彼女のマナに乗って、レイやサフィ、ヴァンの声が。

 故郷の仲間やミルレスの聖職者たちの声すらも聞こえる気がした。

 

「もう終わりだ!こいっ、メルト!」

 

 メルトに向けて向けられた掌は、みるみる光が集まってくる。

 周りの小石などが発せられた波動に巻き込まれては掌の先で砕けていく。

 初めての感覚だ。とんでもなく強力な気が手先に集まっている。自分でも怖いくらいに。

 

「はっはっは!抜かせこわっぱ!守護者でもない貴様ごとき恐れるに足らんわ!望みどおり……」

 

 腕組みをといたメルトは、ぐっと拳を握りるとその鉄槌をゲイルたちに向けてずんと投げつけた。

 

「終わりにしてやるぞ!」

「うおおおおおおっ」

 

 ガラスのようにマジックシェルはあっけなく砕け、そこへ限界の限界まで練り上げられた気弾カプランエティスがついに開放された。

 弾ける様に飛び出し、轟音を上げてゲイルの掌から放たれたオレンジ色の波動が、メルトの拳に激しい衝撃を伴って激突する。

 メルトの手先から放たれる聖炎で波動は真っ二つに裂かれるが、メルトもそれ以上押し込めない。

 

(なんだ?俺のマナが吹き飛ばされている?!)

 

 思いもしない圧力にメルトの余裕が揺らぐ。

 オレンジの気弾を拳で跳ね除けると、中から青き気弾が現れ、メルトのマナを飲み込んだ。

 正当な守護者である彼が神の権能を具現化した姿、黄金の龍神。その体から放たれる聖炎を飲み込んでしまうなど、ありえないことだ。

 

(なんだ、このマナは……。まさか、ゲイル……こいつはもしや!)

 

 二人の波動に拳が押し返されていく。青き気弾にマナを飲み込まれた彼の拳を、オレンジの気弾が包んだ。

 

「ぐっ、ぐああああっ」

 

 どこまでも真っ直ぐで、純粋な希望のマナが今度は彼の体を燃やし尽くす。

 信じられなかった。希望のマナは確かにその守護者のものだ。

 だが、シャニーが装備しているのはどこでも手に入るような低級リング。

 このような神をも砕こうとするマナがどこから発せられているのか、想定の範囲をはるか超えている。

 

(あの目……!)

 

 もがきながらもメルトの目がにらみつけるのは、希望の守護者の瞳だった。

 

(あの目!──シャスか!クレールめ、奴に一体何を……そうか……──禁じ手(・・・)か!)

 

 女神が乗り移ったかのような瓜二つの瞳。それにメルトは一瞬、口元に笑みをこぼした。

 

──我、確かに種子を撒きたり

 

「俺は諦めんぞ!ぐわああああっ」

 

 巨体をすっかり包んだマナは、爆音を伴って神を吹き飛ばした。

 

……

 視界が開けると夜空から巨体は消え去り、白く輝く望月が全てを見ていたかのように輝いていた。

 

「神を破ったのか……俺たち……は……?」

 

 とにかく目の前からメルトは消え、サフィたちが駆け寄ってくるのが見える。

 難は去った。そう思うと、途端に力が抜けてくる。喜ぶ余裕すらなく、ただただ湧き上がるのは、体が溶けるような安堵だ。

 向こうに聞こえる騎士たちの勝利の歓喜を聞きながら、ゲイルは安堵の眠りについた。

 

四章:孤塁の騎士 END

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