Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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サラセンを発ったゲイルは、さっそく行き先に宛てがなく足が止まってしまう。
いまさら気づく事実──エズダーシアと戦いサラセンを守ると言っても、そういえば街から一歩も出たことが無かったのだ。


自称守護者が仲間になった?!

 サラセンを出て、とにかくひたすらに歩むゲイル。

 阿修羅となった今、とにかくエズダーシアと戦わなければならない。そのためにも、各地を修行して回って己を鍛えるのだ! 

 ──と、気合に満ちていたのは最初だけ。腹が減ってくると次第に当たり前の疑問がわいてきた。

 

「……そういや、どこへ向かえばいいんだ?」

 

 マイソシア大陸の事など、サラセンの神殿にあった古い地図でしか見た事がないし、何がどこにあるかなど全く分からない。

 ただ漠然にエズダーシアと戦うといっても、情報もなければ知識もない。かといって、何か具体的な目的があってずんずん進んでいたわけでもない。

 

「よし、こういうときは瞑想して行くべき道を模索しよう」

 

 さっそく道端に座り込む。

 人面蛙プロブや巨大蛾モスといった野の住人は、なにやらヘンな奴が来たといわんばかりに彼から距離を置く。

 だが、それもたった10分程度で周囲の状況は元に戻っていた。

 そこへ、勢いよく駆けてくる足音。サフィがようやくゲイルに追いついたのだ。

 追いついてすぐ、彼女の表情は一変し……。

 

「!? いってー!」

「あんた! あんだけ意気込んでサラセンを出たくせにっ!」

 

 またしても、ゲイルは座ったまま寝てしまったのだ。

 サフィの顔は修羅かと思うほどに怖かったので、ゲイルは土下座して謝るはめに。

 

「ホント、人の気も知らないでのんきなヤツね」

「悪ぃ悪ぃ。んでよ、何でお前がここに?」

 

 別に変なことでもないのに、聞いた途端にあからさまにサフィは目を泳がせ、口篭って鼻を指先で掻きだした。

 

「あ、あなただけじゃサラセンの恥を撒き散らさないかって心配だからついていくことにしたの。今だってこんな風に寝ちゃうし」

「えぇ?! いや、でも、お前、師匠は……」

 

 親友を巻き込むつもりなどなかった。自分がもっとしっかりした人間であれば、サフィを心配させる事もなかったであろう。

 そう思うと、ゲイルはとても情けない気持ちで一杯になった。

 

「おじい様は世界を見てくる良い機会と仰っていたわ。あ、そうそう。おじい様ね、あなたのこと破門だって言ってたわよ」

「……そうか」

「破門になれば、サラセンに縛っておく必要もないってね。ほら、これおじい様からの餞別よ」

 

 サフィから手渡された包みを開いたゲイルは、いけないと分かっていても涙腺が緩んだ。

 何の変哲もない包みに、フォンの顔が浮かぶ。今まで顔を見れば怒鳴る怖い存在だったが、今になってそのありがたみが身にしみる。

 

「師匠……。ありがとう」

 

 しんみりできた時間は僅かなもの。無慈悲に腕を掴まれ無理やり起こされる。

 

「で、ゲイル。どこへ向かう予定なの?」

「いやー、それが」

 

 誰でも聞きたくなるだろうが、一番聞きたいのはゲイル自身だ。頭をぽりぽりと掻きながら、とても申し訳なさそうに苦笑いしてみる。

 だいたいの事が予想できたらしいサフィは呆れて両手を広げた。

 

「ほんと勢いだけなんだから。そう言うと思ったわ。私に考えがあるの」

「お、さすが頼りになる!」

「もう。おじい様が言ってたわよね? 7つの宝玉をエズダーシアは狙っているって。だったら、私たちが先にそれを手に入れて隠しちゃえばいいのよ」

 

 さすが! と最初こそ思って手を叩きかけていたゲイルだったが首を横に振った。

 

「……ダメだ。そんなことしたら、見つかるまで奴らは町を襲う。……サラセンのように」

「何言ってるのよ! あんな奴ら倒せばいいんじゃない。ゲイルはその為に阿修羅になったんでしょ?」

「それはそうだけど……、俺だってまだこの剣の扱いに全然慣れちゃいないし」

 

 何だかサラセンにいるのと同じ流れ。いつしか叱られ始めて頭を掻くばかり。

 やたらとサフィは熱血に語り正論で殴りつけてくる。そうは言っても、現実はハナタレ勇者状態なのは間違いないのに。

 

「バカッ、このイクジナシ!」

「なにおう!」

「だってそうじゃない。これ以上サラセンみたいなことは起こさせないんでしょ? だったらあんたが戦わなきゃ誰がやるのよ。気合入れなさいよ! 気合を!」

 

 まるで姉のような言動。ゲイルには分かっていた。自分がサフィに甘えてしまっていると。

 正直、一人で出てきて不安だった。それが、サフィが来てくれた事で一気に気が緩んでしまったのだ。未知数の戦力とたった一人で戦っていく事への不安に押されて。

 

「……すまん。俺、間違ってた。やっぱ俺にはサフィみたいなやつがいないとダメみたいだ」

「大丈夫よ。サラセンを出てきた目的のひとつを、さっそく果たせたってわけね」

 

 照れながら謝ったのが恥ずかしいくらい、何やらサフィは自信たっぷりに返してきた。さっきからそうだ。エズダーシアなんぞ倒せばいいとか、やたらと豪快で強気だ。

 

「私はこのメテュスの柘榴石に選ばれた守護者なのよ? 大船に乗った気でいてよ」

「守護……者??」

「ええ、この宝玉、持ち主を選ぶっておじい様が言ってたわ。選ばれたものには強力な力が宿るって」

 

 聞いてもいないのに強気の理由を教えてくれた。

 笑いを堪えるのに必死で腹筋が崩壊しそうだ。夢みたいなことをここまで得意げに喋るとは。はっとした時にはもう、サフィの目がギンと三角に吊り上がり、拳が陽の高さに振り上げられていた。

 

「いってー! すぐ殴りやがって! だって、昔からお前と一緒にいるけど、強力な力なんて俺は見たこと無いぞ? メルトと戦った時だって、なーんにも起きなかったじゃないか」

「そ、それは……。おじい様が言ってた事だもの! きっと使い方があるのよ!」

「……使い方って知ってんの?」

「……」

「……」

 

 この異様な沈黙が全てを物語っていた。

 自称でも本気でも何でも良いが、いくら強力な宝玉を持っている守護者であっても何が起きるのかすら知らないのではただの暴君だ。

 

「と、とにかく! 宝玉を捜しましょう! それ以外にエズダーシアとの接点も今のところないのだし」

 

 さっさと話をすりかえる作戦か、地図を広げてサフィが行き先を模索し始めた。

 

「サラセンから一番近い町というと…………ルケシオンか」

「そうね。きっと何か手がかりがある筈よ! 頑張りましょ!」

 

 ルケシオン──南方に広がる森を抜けた先にある港町だ。

 異論はない。というより、全く当てがないからとりえあずどこでもいいから目的地ができただけで十分だ。まずは宝玉に関する情報を手に入れるため、一路ルケシオンへと方向を定めた。

 

「へーい。行こうぜ、守護者様」

「……なんかムカツク」

 

◆◆

 次の日の夜、アタドイルク達がサラセンに帰ってきた。

 怪我人の確認を行うと、フォンの元へ出向く。

 

「フォン殿、急かすようで申し訳ないが、昨日の件はどうだ?」

 

 挨拶の後、アイスブレイクも挟まない単刀直入にしばらく黙して考えたあと、フォンはアタドイルクをまっすぐ見据えた。決意が篭るその目には、老人とは思えぬ覇気が漲っている。

 

「……承知した。若者達だけに苦しい思いをさせるわけには行くまい。サラセンは町をあげてサルヴァトに協力しよう」

「恩に着る。では、我々も貴殿たちに全力で協力しよう」

 

 アタドイルクは数人の部下を連れ、怪我の度合いが軽く、稽古をつけられる者を集めに行く。

 サラセンという武の総本山が協力するとなれば、他の町のギルド長達への影響も大きい。それを承知で交渉していたのだろう。クレールは再度フォンへ深くお辞儀をして感謝を示した。

 

「よく決心してくださいました。サラセンが味方についていただける事は今後の展開に大きな影響を与える事でしょう」

「我々は、我々の国を守らねばならん。この年になって若造に教えられるとはのう」

 

 フォンはゲイルを見送れなかった事を少し後悔していた。

 孫同然の存在なのだ。未熟とはいえ、彼には他にない大切なものがあることは認めていた。だからこそ、指導は自然と厳しくなった。

 そして、自分の思っていた以上に成長していた彼に、フォンもまた心を動かされたのだった。

 

「やはり、あの二人は出て行ったのですね」

「やはり? もしや何か、預言を?」

 

 クレールの言葉に違和感を覚えたフォンは反射で返した。これが預言者と呼ばれる者たちの力なのか。

 預言者──その未来を見通す力は、かつてのメント文明において国政で重用されたほどの強力なもの。高位の預言者は、精霊と話す事で先を予見するという。

 それでも、「ええ。私は試したのです」と返すあたり、彼も確信はなかったのか。

 

「試すとは?」

「彼らが本当に守護者足る人物なのかを、ですね。変化をただ待つだけでは、運命を変えることは出来ません。自ら動いて、融和と対立を繰り返してこそ、守護者は宝玉の力を引き出すことができるのです」

 

 クレールは、エズダーシアと戦える守護者を探していたのだという。

 

「私は彼に使命を与えました。世界を旅する事で、守護者足る人物を探すことです。本人は気付いていないかもしれませんけどね。でも、それでいいのです」

 

 クレールは一体どこまで物事を把握しているのか、フォンには見当がつかなかった。

 ひとつだけいえることは、彼は嘘をつかないということだ。彼の導きは、今までも当たってきた。そう、ゲイルがフォンに拾われる事さえも、彼は預言していたのだ。

 

「わしらには今しか見えぬ。じゃが、今を必死に生きておる。ゲイルのヤツも、きっと必死に今を生きるだろう。ヤツならできる。あのアホのような不屈さがあればな」

「いえ、先が見えないほうがいいのです。それより……友情の守護者に指輪を与えなかったのですか?」

 

 神々が記憶を封印した宝玉は全部で7つ。そして、それらを収めるリングもまた、7つ存在するのだ。

 善の神の名を冠する宝玉と悪の神の加護を受けたリング。その二つが揃って、はじめて力を発揮する。

 メテュスの柘榴石は、友情を司る宝石。それを受けるべきタリスの指輪は、長老の家に今も大事に保管されていた。

 

「うむ。確固とした己を持たざるものが力を得れば、力に溺れることになる。今は……まだ早い」

 

 サラセンの復興も始まったばかり。力をつけて戻ってきた孫達を立派な町で迎えるべく、フォンはクレールと共に今後を模索し始めた。

 

1幕:不屈の男 END




街に戻りたいのに森でマジで迷子になって、ミスティに「あの、迷子になってて」と話しかけて瞬コロされたのは良い思い出
「今のは危なかったですよ!」と町に戻れたしセーフ
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