Asgard~黒翼と希望のミストルティン~   作:宵星アキ

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休戦協定下で歪な平和が流れるルケシオン。その平和は、ある報告によって突然に終焉を迎える。
デムピアスたちは大海原へ旅立ち、シャニーは残った部下らと城を守る事になった。
きっとすぐ帰ってくる──むしろ、始まりだった。


あたしが守らなきゃなんだ

 ある日、突然の話が海賊団に飛び込んでくる。

 発端は町のほうから戻ってきた同志たちだ。尋常ではない様子で町から戻った彼らは、驚くべき事実を告げた。

 前々から死の渦との悪評名高いレピオンが異常発生。ルケシオン沖で発生した無数の死の渦が、そこに出ていた漁民を飲み込んでいるというのだ。

 

「野郎共! 出るぞ!」

 

 この事態に、デムピアスは即に出航を決断する。死の渦には、海賊船のような巨大な戦艦でなければ対抗できない。

 久々の大事に野郎たちは腕がなると言った面持ちで、着々と進む出港準備を確認するとデムピアスは一旦砦に戻った。

 

「父さん!」

「俺は部下たちと共にしばしここを離れる。その間は、お前がここの頭領だ。しっかり頼むぞ」

「任せといてよ!」

 

 シャニーはとんと胸を叩いて張り切って見せた。まだまだ半人前で父が出てしまうのは不安であったが、そうは言ってはいられない。父を継ぐ者、そして、神の力を守護する者として、いつまでも甘えは許されない。

 父はいつもどおり撫でてくれ、別れの挨拶をせずに彼は船へと乗り込んだ。

 

「行くぞっ野郎共! 俺たちしか、ルケシオンの民を救うことは出来ん! 誇りと力を見せてみろ!」

 

 荒くれの高揚した声が天を裂く。

 シャニーは父親の勇ましい姿を見送り、また自身を奮い立たせた。父は自分を信用して港を出た。その信用には……応えなければならない。

 

 海賊団の大部分が港を出てしまうと、一気に砦は閑散として吹き抜ける風が心を震わせる。

 今までは父に聞けばなんでも解決していった。今の自分の背中には、何百という人間の命がある。

 

「あたしが……守らなきゃなんだ」

 

 

◆◆

 デムピアスが出航してからはや数日。彼女は何とか時間を作って向かった先は奴隷畑だった。

 彼らはいつもどおりに畑を耕していた。シャニーが姿を見せると、その動きはさらにスピードが上がる。

 いつもどおり走り寄って来たのは子供たちだ。

 

「おねえちゃん、それなに?」

「これ? キレイでしょ。へへへ」

 

 シャニーは子供たちにトパーズを見せ付けてやる。

 彼らの無垢な顔を見ていると、緊張で引き絞られ続けてきた心の疲れが自然にとれてくる。

 

「お前……それ」

「あっ、ジャーン! どう? スゴイよね!」

 

 そこに現れたのはアベルだった。彼は指輪を見て驚いているらしい。見たかった反応をされてもっと見せびらかせていると、彼は口をへの字に曲げた。

 

「お前、こんなところで俺らなんかに構ってていいのか?」

「えぇー、いーじゃん、少しぐらい」

「へ、暇なのかよ。 だったら少しは畑仕事を手伝っていけよ」

 

 いつものようにケンカなのかなんなのか分からないような会話を楽しんでいたときだった。彼女の直感が、何かを察知する。

 察して子供たちを周りから離してくれたアベルに、シャニーはティアラを投げつけるとポニーテイルを解いた。

 

「おい!」

「ちょっと今のヤツを追っかける。 みんなには偵察に行くって伝えておいて!」

 

 フライトキャップを被ってさっとゴーグルを装着したシャニーは、風を使って幻術を生み出し、言い終わりもしないうちに姿を消した。

 

「おい……奴隷の俺がお前の護衛隊に声をかけられるわけがないだろ……」

 

 

 

 風の力を使い、景色を跳び越えるほどのスピードでさっき直感が捉えた相手を追いかける。

 すぐさま相手に追いつき、尾行を続けた彼女が着いた先は思わぬところだった。

 

(何? ラルプのとこじゃない。 アイツ……父さんがいないからって偵察をまわしてきたのね……)

 

 最近は休戦協定があったためあまり近づかないようにしていたのだが、偵察されたままでは癪に障るし、せっかく来たついでだ。軽く偵察をして帰ることにする。

 

「ここって……ホントセキュリティーとかと無縁よね」

 

 彼女がインビジブルで見えないこともあって、すんなり船の近くまで近づくことが出来た。

 でも、今日はいつもとは違った。入り口が数人の兵士で囲まれていたのだ。しかも、その兵士はどうもレピオンの海兵とは雰囲気が違う。

 仕方なく、入り口から堂々と入っていくのは止め、ダクトからの侵入を試みた。

 前にも同じように進入した経験のおかげで、ずんずんとほふく前進で進んでいく。順調に進んでいけば、このままラルプのいる船長室へとたどり着けるはずだ。

 セキュリティーの低いこの戦艦なら容易いと思っていたが、シャニーの足が突然に止まった。

 

「これは……」

 

 彼女は何かを察知し、風を自分の行く先に送ってみた。風が何かに飲み込まれる。思ったとおり、待ち構えていたのは大量の蜘蛛の巣だ。ただの蜘蛛の巣ではなく、風の幻術で作られた盗賊の罠だ。

 

「ふん、こーんな子供だまし」

 

 シャニーはどんどん罠を解除して先に進んでいく。

 それでも、彼女は確実に感じていた。以前のレピオン戦艦とは、どうも様子が違う。休戦協定を結んでいるのに、結ぶ前よりも更に人が増え、セキュリティーも精度が上がっている。

 ようやく船長室の上にたどり着いた。念には念を入れ、風の幻術をかけなおして気配を消す。

 

「おい、フェンネル。 いつまで俺達に恥をかかせ続けるつもりだ!」

 

 いきなりラルプの怒鳴る声が聞こえる。

 そこには、船長ラルプと甲板長レックスがおり、その目線の先には……。

 

(誰だろ? あれ……)

 

 見たことも無い男が集中砲火を受けている。

 彼は至って冷静で、荒ぶる船長をなだめた。

 

「まぁまぁ、私はアナタ方のことを思ってこの時を待っていたのですよ。今、デムピアス海賊団は休戦協定を信じて、その殆どを死の渦に向けて出航しております」

「何! それを早く言え!」

「はい。今残っているのはヤツの娘と少しの兵だけ……。デムピアス海賊団を一掃するなら今です。シャニーとか言う小娘さえ仕留めれば、残りの者たちも大人しくなりましょう」

 

 うんうんと頷くラルプの横で、「しかし、都合がよすぎるな」そう言ってレックスがフェンネルを睨みつけ始めた。相変わらずレックスは疑り深く、慎重が度を過ぎて仲間すら信用していないような口ぶりだ。シャニーにとっても、ラルプより数段面倒くさい相手だった。

 

「確か、数日前からお前は出撃の準備を指示していたな?」

「くっくっく……。お察しがつきましょう。あれは私の幻術ですよ。今頃デムピアスどもはレピオンを探してさ迷っていることでしょう」

「……貴様というヤツは、俺ら悪党でも反吐が出るぜ」

 

 レックスはフェンネルのことを好いてはいないようだが、ラルプのほうは手を打って喜んでいる。

 

「よし、あの生意気な女だけなら攻略は容易い。今度こそ俺の女にしてくれるわッ」

「おいラルプ、アイツは俺らの秘密を握っているんだぞ。さっさと殺してしまえ」

「そう言うな。殺すのはあいつの顔を歪めてからでも遅くないだろ? 散々俺の顔に泥を塗りやがったからな、アイツは」

 

 なんと言うことだろう。これは、完全に仕組まれた罠だったのだ。

 もう何時間もしないうちに、レピオンハンターはデムピアス海賊団の一掃作戦を開始するというのだ。軽い気持ちで偵察に来たのだが、とんでもないことになってしまった。

 シャニーは魔力フルブーストですっ飛んでその場を後にした。

 

「ん?」

 

 その焦りは風の幻術に大きな波立ちが生じさせてしまい、勘付いたフェンネルは天井を見上げた。

 

「どうした?」

「いえ、なんでもありません。では、私は再度偵察に行ってきますゆえ……」

 

 フェンネルはその場から風に乗って消え、次に姿を現したときは戦艦の外にいた。

 彼はデムピアス海賊団のほうへ駆け抜ける疾風を、口元に不敵な笑みを浮かべながら見送る。

 疾風が消え去った後、彼は体を海のほうへと向けた。

 

「さて……、邪魔者にはもう少し海で遊んでいてもらいましょう」

 

 彼は懐から指輪を取り出すと中指にはめ込み、気を落ち着けて一気に気力を放出した。

 

「さぁ! 死を司る神よ! 私にその加護を!」

 

 放出された気力が波動をまとい、指輪にどんどん吸い取られていく。

 すっかり気力を吸い尽くした指輪からは、只ならぬエネルギーをまとう。そして、一閃指輪が光ったかと思うとその光がフェンネルを包み、周りを暴風が荒れ狂う。

 風が収まった後に現れたものは、漆黒の翼を携えた男……そうフェンネルだ。

 彼は死を司る悪神、ミュレカンの指輪からの加護を受け、その御力を自らの身に具現化させたのだ。

 漲る力を解き放つように、彼は翼に魔力を込めて、あっという間に大海原の中央までたどり着く。

 

「ふふふ、計算どおり、こんなところでまだふらふらしているのですね」

 

 彼の眼下には、レピオンに苦しめられているであろう漁民を救おうと航海するデムピアス海賊団の船が見える。

 手を広げ、その両端に魔力を集中させた。その魔力がどんどん紫紺の球体を形作り、どこまでもどこまでも膨らんで行く。

 とうとう、その膨張が限界を迎えたとき、彼の周りを紫紺の風が吹き荒れて空を覆った。

 

「はぁはぁ……ふふふ……」

 

 大量の魔力を使い、魔人も息が上がる。

 下を見れば、幻術の風で囲まれたそこの海がけが浮かび上がっていた。世界から、デムピアス海賊団が航海する地域だけがすっかり切り取られて分断されていたのだ。

 

「はっはっは、おろかな海賊王よ! 幻影の海原で一生航海しておれ! シャスのトパーズは私のものだ!」

 

 高笑いと共に、紫紺の風が猛烈な勢いで海を裂きながらルケシオンへと戻っていった。




いつかきっと、ツインダガーが実装されるものだと信じていました。
だって、両手武器(鞭)があんだぜ?ダガーだって両手装備させて欲しいじゃん!
結局その夢は叶うことは無かった……ので、シャニーの武器はツインダガーです。
ツインダガーでファングラ打ったら頭溶けそう!クイポ効いてた時期だったら、んほおおおおおっとか叫びそう。
実際は……鞭賊には人権なかったし、デルクレビスで盾持ってなかったらすぐペシャンコだろうナ。。
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