ソウルキャスターズ 最強のカードをめぐる冒険   作:新川ふゆ

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失踪、追跡

 

「ありがとう、じゃーね。魔術師ギルドの......人。他の人には私を追わないように言っといて」

そう言われて、言葉の主を見つめる。

彼女は、銀色の髪の奥にある、青い瞳と目が合った。

まずいこのままじゃ、この子を取り逃す。

しかし結界勝負に負けた以上、もう自分にはあの子を拘束することはできない。万事休すか、そう思った時、ギルド員が飛んできた。

息を切らして、倒れてる俺に疑問を呈さず、矢継ぎ早に言葉を紡いだ。

 

「ジーク先輩、どこで油を売ってるんですか?」

ああ、こいつ、通り魔の少女の前で報告するなんてことしないよな。

立ち上がると、彼は制止を振り切って報告する。おい、と思ったが、相当に急いでいるみたいだ。

「先日の魔術師狩りの構成員ディリスを捕まえた少女が、魔術師狩りに接触して行方不明とのこと」

はあ?

ディリスを捕まえた少女? クレア・レインのことか。

それが魔術師狩りに接触して、行方不明? じゃあフードのあの子は、魔術師狩りじゃあないのか。

「........え?」

 

聞き耳を立てていたその少女が明らかに狼狽える。

なんだ? 彼女の様子に俺は訝しんだ。

 

「情報元はフラウムさんです。監視役が目を離した瞬間に、誰かと接触して消失したらしく、まず間違いないと言っていました。接触した人物の様相は、全く分かりません。フラウムさんは魔術師狩りと見ているようです」

ここにきて、少女が魔術師狩りではないことがほぼ確定した。

彼女のほうを見ると、自分のすぐ傍まで来ている。

 

「ねえ、魔術師狩りってなに?」

 

フードの少女が口を挟んだ。その声には焦りが多分に含まれているのが分かった。

「部外者に言うわけないだろ」

「言え!!!!!!!!」

彼女は激昂する。突き刺さるような叫び声に少なからず驚いた。

そしてギルド員の男を捕まえて、壁に突き飛ばす。そして壁際に追い込み、

「早く言え!!! 言わないとこうだぞ」

彼女は「抜剣」と叫んで、魔術の剣を出す。そしてその剣の白刃を揺らめかせて、首にあてがった。

 

「..........ひっ」

ここで下手に抵抗すれば、彼は間違いなく殺される。

彼女は本気だ。

殺意で空気を歪む。魔術師特有の魔力の発散。魔術師として格が上と言っていた、フラウムさんの言葉を思い出す。自分が間違っていた。勝てると思い込んでいた。思い上がりだった。

ぴりぴりとした空気感、刺すような視線。覚悟が決まっている。だけど、気が動転していて、今にも爆発しそうだ。1秒先も予測できない危うさを秘めている。その全てが、彼に注がれて、

「あ、あわわ」

彼は漏らした。

 

……まずい。

たまらず俺は白状した。

「魔術師狩りは近年発生している、魔術を用いた犯罪者だ。こいつは魔術師を強襲して相手のソウルカードを奪う」

「ソウルカードを? それってこの前捕まったんじゃ」

視線が彼から外れて、こちらを捉える。

ディリスのことを言っているのだろう。

「あれは下っ端だった。少女の父親のソウルカードを所持していたらしいが、魔術師狩りに持っておくよう指示されたんだと予測している」

「.......そんな」

彼女は剣を納めた。けれどその顔には焦燥感が見て取れる。

クレア・レインとこの少女はなんらか関係があると見て間違いない。

年の頃は同じ。

同性の友人? ディリスの逮捕に彼女が関わっていたのか? 

とにかく情報を......

そう思っていると、彼女は急に振り返って、駈け出した。

「おい、どこに行く!」

慌てて腕を掴んで引き止めた。

「離してっ!!!!!!」

「ちょっと待て」

ジークはすかさず引き止めた。

あまりにも切羽詰まった言い方だったから、私はムッとした表情でジークを睨み返す。

「なに?」

「クレア・レインの居場所が分かるか?」

「分かる」

「じゃあ足を出す。ちょっと待ってろ」

「ジーク先輩! こいつに捜査協力させるんですか!?」

ギルド員の男が叫んだ。

「そうだ。ギルドのほうに連絡を入れてくれ」

「それはいいんですが......」

ギルドの下っ端が、少女の方をちらちら見る。

……言いたいことは分かる。

けれど今は勝負の時だ。魔術師狩り逮捕は俺達の悲願。そしてこの少女は、魔術師狩り逮捕のための、銀の弾丸になる。今までにない戦力なんだ、手放すのは、間違いなく悪手。根拠はないが、そんな予感がする。

俺が急かすと、下っ端は急いでギルドの方へ向かった。

「馬は乗れるよな」

「もちろん」

「じゃあ大丈夫だ。サモンっ!!」

俺は魔術式を起動して、魔獣を召喚する。

ヘラジカの魔獣だ。速くて、気質のいいヘラジカのマロンを彼女の前に差し出した。

「貸す。傷つけるなよ」

「分かった。ありがとう」

「すぐに追いかける」

彼女はヘラジカに乗り込んで、やあと叫ぶ。様になっていた。乗馬経験があるのは嘘ではないのだろう。彼女はマロンの体を触って、「よろしくね」と呼びかけた。

そして、胴体を蹴って前進し、すぐに加速した。蹄の音が鳴り響く。

追跡用の魔術を起動して、俺は後をつけた。

 

***

 

 

「アリシアちゃんの馬鹿」

わたしはアリシアちゃんに渡された金貨を握りしめながら、悔しくて腹が立っていた。

お礼なんていらなかった。

この金貨が、手切れ金みたいで嫌だったのだ。金貨を思いっきり投げ捨てようかとも思ったが、さすがにそれは止めた。誰が拾うかわからないし。

たった一夜の、短い間だったけど、自分たちの関係は、金貨一枚で切れるような関係じゃない。私達は、少なくとも私は、友達だったはずだ、と私は悔しさに頬を濡らしながら自分は父の元へと戻った。

昏睡している父が居る。

自分が優先するべきは、自分を捨てた友達ではなく、唯一血の繋がった父なんだと、そう自分に言い聞かせて、家に帰った。

彼が目覚めたのは、その日の夜だった。

 

「はあ.......」

一日中魔術師ギルドの取り調べを受けたり、父と話したりして、その日、わたしはてんてこ舞いだった。その間、アリシアちゃんのことは言わなかった。彼女は追われている身らしいし、言えば迷惑だろうから。

「すまんな、こんな老いぼれのために」

「別に。気をつけてよね、最近物騒だからさ」

「ああ」

退院した父は、彼女に向かって申し訳無さそうにした。

私はそんな父が好きだった。森の小屋に帰るまで時間がかかることから、その日は父の住まいで泊まることにしていた。

「........」

視線を感じる。

一人じゃない。複数の人から監視されてる。

魔術師ギルドだ。ソウルカードを取り返したわたしと父は、魔術師狩りからの復讐を警戒したギルドから、護衛がついている。

……結局アリシアちゃんの言うことが正しかった。

私がいくら知恵を絞っても、アリシアちゃんを魔術師ギルドの監視の目から隠すなんて、出来っこなかった。

それなのに、一緒ならなんとかなるとか言って。

わたし、馬鹿だ。

それが悔しくて、痛いくらい拳を握りこむ。

 

 

そんないつもと違う数日間、部屋でなにをするわけでもなく俯いていると、突然扉がコンコンと音が鳴った。

なんだろうと思って近づく。

 

魔術師ギルドの人かな? それか、近所のひとか。

心の中では、もしかしてアリシアちゃんかも、と思っていた。

そんなわけないんだけど、都合のいい想像ばかり膨らむ。

 

街での生活が立ち行かなくなって、ここに戻ってきたのかも。そしたらどうしてあげようか。まずは軽く怒って、そして仲直りして、ふたりでなにか温かいものでも食べるのがいいかも......

アリシアちゃんは痩せてるから、すこし多めに食べさせて......

でも現実は、そんな甘い考えを打ち砕くものだった。

 

扉を開けると、知らない人がそこに居る。高身長で、すらっと伸びた身体、黒いローブに、長く黒い髪。圧倒的な威圧感。

でも、なにより気になるのは、その目。

光るような金色の瞳とは別に、もう片方の目には眼帯をつけていた。黒い眼帯。

「どうも」

「こんにちは、どうしたんですか?」

平静を装いながら、わたしは答える。答えながら、最大限の警戒をした。こいつは絶対に魔術師だって、嫌でもそのプレッシャーからわかったからだ。

それも、なんか嫌な感じの魔力。

「クレア・レインさん、でいらっしゃいますね」

「はい.......」

問いかけに不穏なものを感じるが、間違いでもないので頷く。

「ようやくみつけた、白の刻印のソウルカード」

「は?.......ぐっ」

「大丈夫だ、丁重に扱うから」

わたしのソウルカードを眼帯の男は検分して、わたしにぐっと詰め寄った。そして首元に手をかける。いきなりの暴力にわたしも反撃しようとするが、黒いカードを一枚かざす。

すると、それが眩しく光った。

「.......っ!!」

圧倒的な魔術の力の差に、結界に引き込む以前に、わたしは黒いカードに吸い込まれるようにして、気を失ってしまった。

「ふっふっふ、ははは。刻印持ちがこんな年端もいかない少女だったなんて。.......占いは正確性に欠けるから嫌いだ」

 

 

****

 

「シエル、クレアちゃんの居場所分かる?」

「魔力は追えてる。こっちだ」

「マロン、前!」

「ヴっ」

マロンを走らせながら、私とシエルは、クレアちゃんの居場所を突き止める。

マロン超いい子だ。

初めて

これは......

「集荷場を目指してるのかな」

 

ヨースカインドは街の中心を南北に川が流れている。

そしてそれを横切るように大通りがいくつかあって、そのうち街の外と繋ぐものは、馬車と船による集荷場となっていた。

なにかを運ぶにはうってつけの場所。

 

「船でどこを目指すんだろう」

「それは王都、ロンドグラムだろうね。丁度下流にあるし」

 

クレアちゃんが失踪していて、今も移動しているということは、魔術師狩りの誘拐の線が高い。だとしたら移動手段は馬車か、船、珍しいところなら魔物ということになる。集荷場なら、どちらにも簡単にアクセスできるが、果たして。

 

「とにかく急ごう。船には乗せたくない」

 

私はとにかく走った。たった一人の友達を救い出すために。

 

***

 

「マロン、ありがとう」

マロンから飛び降りて、私は走る。

平坦で広い道ならマロンは速いけど、狭い路地を通るには立派な角が邪魔だ。

そして魔術師狩りとかいう男は、どういうわけか路地を縫うように動いていた。マロンを乗り捨てて、私は路地に入り込み、魔術師狩りへとちょうど交差するように動く。

魔術で身体強化をして、つかの間の高速移動を実現する。

そして、

「抜剣!」「ッ抜剣」

ガチャンと魔術で出来た剣が交差した。

男と私、お互いの魔力がぶつかって、空間が震える。ぎしぎしと剣の擦れる激しい音が辺りに木霊する。

「ぐぐぐっ!!」

「チィッ!!」

鍔迫り合いの後、私は一瞬力を緩めて、後ろへと飛び退る。

「間に合った」

私は魔術師狩りの姿を一瞥する。

黒い髪、すらっとした長身、切れるような雰囲気に、目をひく眼帯。

魔術師狩りもまた魔術師だ。

 

「クレアちゃんがいないよ!?」

「あいつの外套の内側だ」

「どういうこと!?」

「封印術だよ。あいつ......手練だ」

封印!?

なにそれ、せこい。

クレアちゃんをひいこら背負って移動してるのだと思っていたから、目論見が外れる。

私は男の首に剣の先を向ける。

男を殺しても構わない。とにかくクレアちゃんを助けないと。

 

先に動いたのは魔術師狩りの男だった。

 

私は年端もいかない子供だし、相手は体格的にも有利。上から抑えれば、勝てる。そういう踏み込み。

対する私は、相手の刃先を剣身で巻き込むように弾いて、一気に踏み込んだ。そして、

 

「だあっ!!」

 

魔術師狩りに蹴りを叩き込み、魔力を持って吹き飛ばした。

がしゃんがしゃんと崩れるような音が鳴って、彼を集荷場の荷物置き場へと放り込む。

「......よし」

『アリシア、お前すごいじゃん!』

「いっ、うん......」

『アリシア.......?』

お腹に鋭い痛みを抱えて、私は顔をしかめた。

下を見ると、洋服がすぱっと切れている。

そして切れた服に、血が滲んだ。赤く、広がって、濡れる。それを見た私は、血の気が引いた。そして鈍く痛みが響き始めた。

「いっ!! ああっ」

出血は激しい。

『魔術で切られたみたいだな。はやくヒールで回復しないと』

「うううっ.....」

蹴りは迂闊だったか。

深く入り込みすぎて、返し技で腹部を切断された。

でも、なにも無駄じゃない。踏み込まなきゃ、手に入れられなかった。

「シエル」

「ああ」

私は黒いカードを取り出す。

「「解呪!!」」

ガシャンと黒いカードは粉々に砕け散り、中からクレアちゃんが飛び出す。結界から放り出される人みたいで、封印術がどういうものかなんとなく分かった。

「クレアちゃん!!」

「ア、アリシアちゃん? なに、どうなってるの?」

詳しく説明する時間はない。

「アリシア!!」

崩れた荷物の奥から、紫の色がチカチカ光る。

……魔弾!

倒れこみ困惑するクレアちゃんを庇うように前に立ち、私は剣で魔弾を弾き返した。ばちんと激しい音と共に、魔弾は明後日の方向へと飛んでいく。

「やるね、君。本当に、いままで戦った魔術師で、二番目に強いよ」

「そう」

私は出血で荒れる息を整えながら、再び剣を相手に向けた。

しかし、魔術師狩りは手ぶら。

そして白い光が、魔術師狩りから放たれる。

 

結界の魔術の光だ。

『結界勝負だ。アリシア、いける?』

「うん......」

痛む腹を抑えながら、私は目の前の男に向き合う。

「私が勝ったら、全てのソウルカードを解放しろ。金輪際私達に関わるな!!」

「オレが勝ったらその女はオレがもらう。そして、おまえには目の前で死んでもらう」

 

「「ソウルキャスト!! ショーダウン!!!!」」

 

結界は開いた。辺り一面を光が覆い尽くす――!!

 

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