神の座は、いつもと様子が違っていた。
湿った風が強く吹いていて、どこまでも広がる晴れた空は、今は鈍く灰色に曇っていて、遠くで雷が鳴っていた。こんな対局場は初めてだった。
恐ろしい。
どこまでも、吸い込まれそうな嵐の前の風景だ。
「はあ、はあ、はあ.......」
痛い。痛くて、手足がしびれる。
「ずいぶん苦しそうだね」
「誰の、せいで......」
立ってるだけで辛い。
踏ん張らないと上手く立てないのに、踏ん張れば、鋭く痛む。
苦しい、痛い。
そのとき、ひらひらと黄色の光の玉が私の元に飛んできた。
「クレアちゃん」
観戦用の精霊だ。この状態では盤面と使用スペルは分かるが、お互いの手札を見ることは出来ないし、意思疎通も取れない。
ただ、居るだけで、すこし痛みが和らいだ。
「......大丈夫。勝つから」
結界での勝負だ。
勝ったほうが、相手への要求を通す、勝負の根本原理。
だから、自分の命とクレアちゃんの安全がかかってる。勝たなきゃ駄目だ。勝てなきゃ死ぬ。絶対に負けられない。
私は手札を裏向きで4枚揃えながら言った。
「「今、勝負の剣を」」
その瞬間、中央に剣が落ちてくる。
ガシャンと剣が地面に深く刺さって、私が白側。ライトサイド、つまり先行になった。
「後攻か、いいだろう」
黒い髪にすらっとした目鼻立ち、犯罪者には不似合いなほど妖しく整った顔立ちが、ふっと顔を綻ばせる。
……アイツ、楽しんでいるんだ。
命のかかったこの勝負を。
それに私はむかついた。
ムカついてばかりいてもしょうがない。勝たなきゃ、駄目だから。ゲームを前に進めるしかない。
「私のターン、《スコレー沖幽霊船》をドミネーション、代償としてライフを2点支払う」
・アリシア
20→18
「へえ、混色。それも黒と青だと? .......キミ、何者?」
「そして私は、1コストとライフ2点で、《後ろめたい取引》をキャスト」
私は魔術師狩りの言葉を無視してゲームを進める。
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後ろめたい取引 1
アーツ
あなたはライフを2点支払って、デッキから望むカードを裏向きで一枚除外する。除外したカードに遅延カウンターを3つ置き、あなたのアクティベートフェイズにそれを1つ取り除く。除外したカードに遅延カウンターがなくなったとき、あなたはそれを手札に加える。
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・アリシア
18→16
「後ろめたい取引の効果で、私はデッキから1枚好きなカードを除外。そして遅延カウンターを3つ乗せる」
「......へえ」
私は、《スカラノク》をデッキから除外し、裏側でそれを伏せておく。
そしてそれに遅延カウンターが3つ載った。
これが全部消えると、伏せた《スカラノク》が手札に加わる。
「ターンエンド」
私のデッキは《青黒スカラノク》。
《スカラノク》を中心としたコンボデッキだ。
正規召喚ルートを通るにせよ、リアニメイトルートを通るにせよ、《スカラノク》が居ない限り、このデッキは回らない。
《取引》はそのための1コストの万能サーチカード。ゲーム後半だと待機ターンが長くて腐ってしまうデメリットはあるものの、それでも序盤に打つ分にはすこぶる強力だ。
《スカラノク》さえ場に出れば、後はどうにでもなる。
「俺のターン、ドロー。ドミネーション、《棄てられた荒れ地》を公開」
「《棄てられた荒れ地》、黒のデッキ......」
「そして手札から、《後ろめたい取引》を唱える」
「!」
私が唱えたカードと同じ。《後ろめたい取引》!
「奇しくも同じカードだね。俺は一枚除外して、遅延カウンターを3つ乗せてターンエンドだ」
伏せられたカードを見た時、私は強烈に嫌な予感がした。
サーチを行いたいというデッキは、なにか目指すゴール、コンボやフィニッシャーがあるということを宣言しているようなものだ。
私もそうだから、分かる。
・魔術師狩り
20→18
「私のターン、ドロー、アクティベート、そしてドミネーション! 私は《神秘の水域》を公開する」
相手のデッキの全容を知りたい。
そのためには......
「水域の効果で、1コスト支払ってストックを1上昇。そして、私は2点支払って《嘔吐》をキャスト! 手札を吐いてもらう」
・アリシア
16→14
ここでピーピングハンデスを試みた。《嘔吐》の効果で、ライフと引き換えに相手の手札を見て、一枚墓地へと送る。公開されたカードは、
《冥界の僭主ノヴルーシュ》 4コスト
《偉大な血の受益者》 2コスト
《黒の教団の先導者》 2コスト
《嘔吐》1コスト
の計4枚。
全体的に強いラインナップの4枚を見て、私は考えこんだ。セオリー通りにいけば、1-2-2で動かさないために、2コストのカードを消すべきだ。
しかし......
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冥界の僭主ノヴルーシュ 4
ピース-デーモン
このピースを唱えるに際して、あなたは墓地のカードを6枚まで除外してもよい。そうしたなら、除外した枚数2枚につき、このピースのコストは1下がる。この効果で除外した黒のピースの枚数分、このピースに+1/+1の強化カウンターを置く。
飛行
2/2
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ひときわ目につく黒いデーモンのカードに目が行く。墓地のカードを食べて、コスト軽減する能力を持つ飛行デーモン。その他の2枚も、種族:デーモンをサポートするものばかり。
つまり相手のデッキは、
「黒単デーモン......」
ということになる。《取引》で伏せたカードは、きっとこのデーモンによるシナジーを補強するようななにか、それも強大で必殺級のカードということになる。
ここで私は、自分の手札を見た。
《天啓》
《蠢き洞窟の崩落》
のコンボ用の2枚が揃ってる。
相手の手札に除去札はない。
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天啓 1コスト ストック5
アーツ
禁忌1(このカードはあなたのストックが1以上でない限り唱えられない)
あなたはデッキの上から2枚をめくり、望むカードを墓地に送り、送らなかったカードを好きな順番でデッキの上に送る。その後、1枚ドローする。
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今ある手札を使えば、3ターン目に天啓、相手ターンに崩落でトークン、4ターン目にサーチからスカラノク着地が見えている。
《スカラノク》が着地すれば、この強いカード群を無傷で巻き込めるのが確定している。
……手札を見られたくない。
コンボのために自分の動きを守った方がいい。
そう考えて、ここは自分の動きを遂行すべく、1コストの《嘔吐》を捨てさせた。
「へえ」
相手が抜いた自分の手札を見て、魔術師狩りはその意味を吟味する。
きっと自分と目の前の少女は、似たようなデッキを握っている。なんらかのギミックを搭載した、中速デッキ。
「ターンエンド!」
私は勢い良く宣言した。
「俺のターン、アクティベート、ドロー!」
魔術師狩りは手札を補充し、全てのカードをアンタップした。
そして、
「《穢れた回廊》をドミネーション、2コストとライフ2点でクラフトスペル《悪魔教団の完全なる教義》を設置」
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悪魔教団の完全なる教義 2
クラフト-物語
このオブジェクトを唱えるに際して、あなたのライフを2点支払う。
1デッキの上から4枚墓地へ送る。
2あなたは手札を1枚捨てて、1枚ドローする。
3このカードを紋章化する。紋章になったこのカードは、オブジェクトスペルとして扱い、以下の効果を持つ。
・場にデーモンが出る度に、あなたは2点回復し、相手は2点のライフを失う。
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・魔術師狩り
18→16
お互いにスーサイド合戦だ。
「教義の1章の効果を発動。デッキの上から4枚捨てる」
ぱららっとデッキからカードが捨てられる。その中にはいくつか、黒のピースが含まれていた。
それを見た私は、思わず歯噛みする。《ノブルーシュ》を強く使われてはたまらない。
「ターンエンド」
「私のターン、アクティベート、マテリアルセット、ドロー!」
サーチしたスカラノクのカウンターは取り除かれて残り1つ。次のターンには手札に加わる。
「私は、《天啓》を発動。効果でデッキトップ2枚を捲る」
捲れたのは《内臓裂き》と《汚染地帯のコウモリ》。
その2枚を墓地に送って、一枚ドロー。
デッキの一番上にあった《嵐に潜むもの》を手札に加えて、ターンを終える。
「神秘の水域でストックを1上昇して2へ。ターンエンド」
だんだんと、コンボの準備が揃ってきた。
手札に除外した《スカラノク》が加われば、一気に動ける。
「俺のターン、アクティベート、ドロー」
魔術師狩りのサーチしたカードも、残すところ1ターンで手札に加わる。
「俺は手札から、コスト2、《偉大な血の受益者》をキャスト」
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偉大な血の受益者 2
ピース-人間・デーモン
あなたが他にデーモンをコントロールしているなら、このピースがダメージを与える度に1枚ドローする。
コストを3支払う:このカードを裏返し、<理性なき悪魔>に変身する。
1/3
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現れたピースは、悪魔の血をその身に受けて、姿が変容しそうな宗教者。血濡れた半デーモンだ。
「そして《教義》の2章の効果を発動。手札を入れ替える」
手札を1枚捨てて、1枚ドローした。
「ターンエンド」
「私のターン、アクティベートフェイズ。この瞬間、後ろめたい取引で除外したカード、《失われし空スカラノク》を手札に加える」
「コスト7!?」
遅延カウンターが取り除かれ、《スカラノク》が手札に加わった。
コンボ完成だ。
「マテリアルを2個消費して、ドミネーション! 《神秘と生け贄の祭儀場》を公開」
3つ目の土地。これからのターン、3コストまで支払える。
「軽減1コスト、《蠢き洞窟の崩落》をキャスト!」
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蠢き洞窟の崩落 2ストック2
インスタント
コストに追加して、あなたは1枚、マテリアル以外のカードを墓地から除外する。
あなたは最大4枚、墓地のカードを墓地から除外してもよい。除外した数だけ飛行を持つ1/1コウモリトークンを場に出す。
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墓地の《後ろめたい取引》《天啓》《内臓裂き》《嘔吐》を除外して、盤面に4体のコウモリトークンが並んだ。
「さらに、墓地の《汚染地帯のコウモリ》を除外して、コウモリトークンを1体場に出す」
《コウモリ》の再帰能力で、トークン化して場に出た。
これでコウモリトークンが場に5体。
「私は、飛行を持つコウモリトークンを5体生け贄にして、軽減1コスト!」
シエル、力を貸して。
「さあ、絶望のお出ましだ。《失われし空、スカラノク》をキャストイン!!」
空を裂き、宙を舞って、《スカラノク》が盤面に舞い降りた。
相手がインスタント除去をトップデッキして握っていた場合、トークンを除去されてコストが足りなくなる場合があるので、コストを1余らせての登場。
「スカラノクの着地時効果を発動。相手の場のピース、場のクラフトスペル、手札を一枚ずつ墓地に送ってもらう」
「.......」
魔術師狩りは手札から《黒の教団の先導者》を捨て、場の《悪魔教団の完全なる教義》を墓地に送り、盤面の《偉大な血の受益者》を生け贄に捧げた。
3つの領域から、カードを生け贄に捧げたので、私はドロー出来ず、2点ドレインも発生しない。ただ3枚分リソースを削ってるわけで、盤面は圧倒的有利だ。
盤面有利を保つため、さらにカードを唱える。
望むのは、0コストで唱えられるソフトカウンターの《論駁》。
「そして私は、手札から《解読》をキャスト。手札1枚を捨てて、デッキの上から3枚確認し、二枚ドローする」
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解読 2ストック2
アーツ
あなたは手札を一枚捨てて、デッキの上から三枚を見て、好きに順番を変更してよい。あなたは二枚ドローする。その後、あなたは望むならデッキの一番上のカードをデッキの一番下に送る。
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欲しいカードを想像しながらドロー。
《解読》の効果を使って、手札にある《汚染地帯のコウモリ》を捨てて、3枚中2枚の具を手札に引き込む。そして、もういらないドローソースをデッキボトムに送った。
カウンター自体は来たけれど、《論駁》じゃないので、構えられない。
「......ターンエンド」
私は盤面を俯瞰して考える。
《スカラノク》が4ターン目に着地した理想的盤面。ドローは出来なかったが、相手の盤面は一掃されて、単体除去ではスカラノクの神聖を突破することはできない。
次のターンまで、スカラノクが生き残る公算が高い。スカラノクが攻撃しだしたら、加速度的に差が開き続けるだろう。
ただ、
(冥界の僭主ノヴルーシュ......)
相手はノヴルーシュを墓地に送らなかった。次のターン盤面に着地することは確定している。墓地にある黒のピースは、4体で《ノヴルーシュ》のスタッツは6/6。7/4の《スカラノク》でぶつかりにいけば、もう一度3アド以上は確定するものの、相打ちになってしまう。
ただ実際に相打ちを行うには、スカラノクの生け贄要求効果を避ける必要がある。だから《ノヴルーシュ》の横にピースが並ぶか否か、それが争点になる。
ただ相手の墓地は多く、《ノヴルーシュ》は1コストで出てくるだろう。残った2コストで、《スカラノク》を除去できるか、それとも相手の場にピースが並ぶか。
「ターンエンド」
ただ、依然有利なのは変わりない。
このまま行けば、私は......
「勝つ」
ゲームは、これから終盤戦へと移行する。
血が足元にぽとぽと落ちた。