Ep.1 目覚め
~トレーナー室・夜~
「はぁ……まさかわざわざ雨の日にゴミ捨てに行かないといけないとは……」
毎週決まった曜日にまとめてトレーナー室に溜まったゴミを収集所に運ばないといけない。
しかも今日はトレーナー室の大掃除的なことをしたから余計ゴミが多いのだ……。
そんなわけで俺はゴミ袋を持って外に行こうとしているのだが……。
ピシャーン!!
「うわ、雷じゃん……。しかもめっちゃ降ってきたわ……」
外に出て来て空を見上げると結構な量の雨が降り注いでいた。
これはもう潔く走るのはやめた方がいいだろうな……。まあ今日は仕事終わったから特に問題はないんだけどね。
「はぁ、ようやくついた……」
やっとゴミ箱が見える距離まで来た。遠すぎるんだよな……。
そうして俺がゴミを捨てている時だった。
「……!? 大丈夫!?」
ふと周りを見るとそこに倒れているウマ娘がいた。すぐに駆け寄って呼びかけたが反応がなかった。
ただ、脈はあるのでどうやら気を失っているだけみたいだ。……よかった……。
しかし改めて顔を見るととても綺麗な顔をしている。髪は銀髪のロングヘアーで……。前髪には歯車の髪飾りがついている。
……っていうかまず雨に濡れない場所に移動させなければ!
そう思い彼女を背中に背負った。
……軽いな……ちゃんとご飯食べてるんだろうか……。
ダダッ……。
「ぅ……っあ……?」
ここ……どこだろ……?
……身体が……動かない……。
しかもめっちゃ雨降ってる……寒い……。
ぅ……意識が…………とぎれ……ちゃ……
~トレーナー室〜
「よっと……」
よし、とりあえず連れてきたぞ。ソファーの上に寝かせよう。タオルケットでもかけてあげれば風邪を引くこともないだろう。
「さて、どうするか……」
一応今できることはし終わったつもりだが……。……もっとあっためないとダメか……?
そう考えクローゼットの中の分厚い服を探す。
そんな時に……。
ガチャリ
ドアの方から音がした。誰かが入ってきたのだ。一体誰だろう? そう思いながら振り向くとそこには……。
シンボリルドルフ会長が立っていた。
「こんばんは、もうとっくに消灯時間は過ぎているはずだが……。一体君はウマ娘をソファに寝かせて何をしようとしているのかい?」
……ヤバい、なんかこう……すっごい殺気を感じる……
「会長! ……えっと……これは……」
………………
…………
……
「ふむ、つまり君はその子を助けようとしていたということかな?」
「はいそうです」
あれから色々あって誤解を解くことができた。
「……ところでなんで入ってきたのです?」
「あぁ、それは直截簡明だ。先程も言ったように消灯時間が過ぎていたからだ。そして私もさっきまで生徒会の仕事をしててね……。寮に戻るついでに来たのさ」
なるほど、だから入ってきたという訳か。お疲れ様です会長。
「あっそうだ、ついでになんだけどこの子着替えさせてくれません? 雨で濡れてて……」
「承知した。ではシャワールームの方に行ってきて彼女を拭いておこう」
そう言って彼女はシャワールームへと向かった。……俺も体を乾かさないといけないな……。
~数分後~
「よし、こんなものだろう」
「あぁ、ありがとう」
彼女のおかげでだいぶこの娘が温まったと思う。
「というわけで私はそろそろ帰らせてもらうよ」
「分かりました。気をつけて帰ってくださいね」
「もちろん。じゃあおやすみ」
そうして会長は出ていった。
「さて、じゃあこの子が起きるまで待ってるか……」
それからしばらくして……
瞼の奥が明るく見える。先程までの場所とは違うようだ。
「ぅ……ん……?」
意識が覚醒し、身体を起こす。
(あ……れ……?体が動く……?)
誰かが助けてくれたのかなと思って周囲を見渡してみると……。
「Zzz...」
目の前にはソファーの上で横になって眠っている男性がいた。それにしても……ここはどこだろう……?見覚えのない場所だ。
そして、今更ながら自分の体にタオルケットがかけられていることに気づいた。
「……?」
さらに、体が綺麗になっていることにも気付く。
「……もしかして……この人が……?」
「……ん……。……はっ! やべっ寝てた! もう朝じゃん! ……って、起きたんだな。おはよう」
「ぉ、おはようございます……」
突然のことで思わず声が震えてしまう。
「まあまあそんなに緊張しないでくれよ。……とは言ってもまあそれは酷か……」
「あ、そうだ。名前、教えてくれない?」
「……な、まえ……。……っ……」
おかしい……名前が思い出せない……。おまけに思い出そうとすると頭が痛くなる。それに、自分が何者なのか、どこから来たのか何も分からない。
……記憶が無くなってしまったことしか……分からない…。
「……どうしたの?」
「ぇ、えっと……。……自分のことが……分からなくて……名前とか……家族とか……何もかも……」
「……マジで?」
「はい……ごめんなさい……」
「いやいや、謝らなくてもいいよ。ふーむ……マジか……」
「「……」」
沈黙が部屋を埋め尽くす。
「うーん……とりあえず理事長室に行くか!」
「……?えっと……つまり……?」
「こういう時は多分何かしらの対処をしてくれるんじゃないかな?」
~理事長室前~
コンコンコンコンリトルココン
「失礼します、渡辺
「許可ッ! 入りたまえ」
ドアを開けて理事長室に入る。
「ふむ、その娘は……もしかして……」
「あー……えっと……」
………………
…………
……
「ふむ……ルドルフから大まかな話は聞いてあったが……。……まさか記憶喪失とは思わなかったな……。そして君だが……。簡潔に済ませよう! その娘は君が面倒をみたまえ!」
「っ!? 私がですか!?」
「肯定ッ! 君以外に適任者はいないだろう! もちろんだが、私からも様々な形でサポートをさせてもらう!」
「ほ、本気です……?」
「あぁ、もちろん。それにだ…」ボソボソ
ルドルフ……って誰なんだろ……?あとこの人が理事長さんなんだ。めっちゃ若いんだね。
「……分かりました」
「うむ、よろしい!」
「ぁ……あの……えっと、迷惑かけてごめんなさい……」
「いやいや大丈夫だよ。ひとまず俺が預かるから心配はいらないよ」
「はい……ありがとうございます……」
「解散ッ! これで話を終わりとする!」
~トレーナー室~
「さてと、さっき名前言ってたけど改めて自己紹介から始めようか」
「えーっと……私の名前は渡辺
「これまではどんなことをしてたんですか?」
「チームのサブトレーナーをやってたんだ。……2年前色々あってサブトレはやめて、事務とかをしてたんだけどね……」
だんだん頭が下に落ちる……暗い過去があったんだ……。
「……ごめんなさい」
「いや、いいんだよ」
そう言ってトレーナーさんは微笑んで続ける。
「じゃあ……君の名前……なんだけど……思い出せないよな、どうしようか……」
「……そ、その……良かったらなんですけどトレーナーさんがつけてくれませんか?」
正直自分で決める自信がない。
それにトレーナーさんに任せた方が安心感もあるし……。
「うん。わかったよ」
「うーん……名前を決めるのはどんなことにおいても苦手なんだよな……」ボソッ
「……ぁ、お、思いつかなかったら自分で考えますよ……?」
「いや! それは私のプライドが許さない、全力で考えるぞ……」
そして数分。
「……」ボソボソ
……相当何か喋ってる。そんなに悩んでくれるのか……。嬉しいけどなんか……やっぱり申し訳ないな……。
「あ、あの、思いつかないなr 『ユーフォリア』」
「へ?」
「君の名前はユーフォリアだ! うん、これがいい!」
「ゆーふぉりあ………」
「どう?気に入った?」
「はい! とても良いです!!」
「良かった……」
こうして私は新しい名前を貰いました。これからの人生に幸福がありますように___。
「そういえばユーフォリアってどこの寮に入ることになるんだろ?」
そう言われれば確かにそうだ。ど、どうすればいいんだろう……。
「えっと……どこでしょう……?」
ピコン!
「あっ通知だ、ちょっと待ってね……」
「……あっタイミングばっちりだ」
「どんな内容だったんですか?」
「えっと、『報告ッ!就寝場所についてだが、美浦寮の部屋を選んでくれ! なお、この後は医療棟に向かって検査を受けてもらう!』って理事長から」
「美浦寮……?」
「あぁ、学園内に2つの寮があるんだ。それの片方だよ」
(……本当にタイミング完璧だ)
「分かりました、ありがとうございます」
「とりあえず後で案内するから、医療棟に向かおう」