………………
…………
……
……。
……全身が痛い。
まるで、誰かに殴られているかのように。
……いや、まるでというのは違うか。
恐らく、それは事実なのだろう。
今の私に確認する術などないが。
……それにしても……。
勝てなかった……。これが、悔しさか……。
だが、その事実にひどく安堵している自分がいる。
……私は……もう……。
「っ……」
そこで目を覚ます。……あぁ、いつもの夢か。正直見すぎて慣れてきたところはあるけど……。……まあ、不快な気分には変わりないや。私はため息をついてベッドから降りる。そして気分を変えるために洗面台で顔を洗う。
……それにしても……。さっきの夢……なんだかノイズ交じりというか……。目の前がはっきりしていなかったような……。……まぁ、気のせいかな。
私はそう結論付けて部屋に戻ってスマホをつけるとトレーナーさんからの通知が届いていた。
「おはよう、ユーフォリア。今日は言うことがあるから授業が終わったら体操服持ってトレーナー室に来てね。時間は何時でもいいよ」
というメッセージが送られてきていた。私はそれに返信をして身支度を始めた。
………………
…………
……
~トレーナー室~
コンコンコン
「失礼します」
「はーい、入ってきていいよー」
お昼ご飯を食べた後、トレーナー室に向かった。中に入ってトレーナーさんと向き合うように椅子に座る。
「……それで、お話というのは……?」
「うん、実はね……」
トレーナーさんはそこで少し間を置いてから言った。
「もうトレーニングを始めても大丈夫だって」
「……えっ! 本当ですか!?」
私は驚いて聞き返す。すると彼は微笑んで言った。
「もちろん、本当だよ。……まあ、無茶は厳禁だけどね」
「……ありがとうございます!」
私は嬉しくなって思わず笑顔になる。トレーナーさんも嬉しそうに微笑んでいた。
「うん、喜んでくれたみたいでよかったよ。それじゃあ改めてこれからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします!」
私が元気よく挨拶をするとトレーナーさんはくすっと笑った。……あれ? 私何か変なこと言ったっけ……? 私が首をかしげているとトレーナーさんは口を開いた。
「いや、なんでもないよ。……さて、じゃあ早速軽く走ってみようか、先に行ってるから、その間に着替えてね」
「わかりました!」
そう言ってトレーナーさんは部屋を出ていく。私は急いで着替えるために制服を脱ぎ始めた。
………………
…………
……
「ん……?」
着替えを終え、着ていた服を片づけているとなにやら視界の隅に光るものが見えた。反射的にそっちの方向を見てみるとガラスで中が見える棚の中に写真立てが置いてあった。どうやら写真立てが光を反射して目に入ったみたいだ。
その写真立てを手に取り写真を見る。そこには白いロングの髪をしたウマ娘───私にとても似たウマ娘が写っていた。
これは……私……? いや、違う。シンプルに顔の作りが違う……けど、知らない人から見たら間違われそうなくらいに似ている。……それにしても。
(この前まで、無かったような……? それと、もしかしてこの前言ってた昔教えてた子ってこの子なのかな)
私はそう考えてその写真をそっと元に戻す。そしてトレーナーさんを待たせていることを思い出し急いでグラウンドへと向かうのだった。
~グラウンド~
「お、来たね」
私が到着するなりトレーナーさんは言った。私は息を整えてから言葉を返す。
「すみません、お待たせしました……!」
「いいよいいよ、気にしないで」
トレーナーさんは笑顔で言う。私は少しホッとしながらトレーナーさんの側まで近づいた。すると彼は立ち上がって言った。
「それじゃ、準備運動を済ませて軽く走ってみようか。」
「はい!」
私は元気よく返事をして体操を始めた。……この感じ、なんだか懐かしいような気がする。今まで動いてなかった分が解消されたからなんだろうか。今の私の心は軽いものだった。そして準備運動を終えた私はトレーナーさんの合図でゆっくりと走り出した。
………………
…………
……
「よしっ、じゃあ今日はこのくらいで終わろうか」
「はい!」
そう言って私は足を止める。そして息を整えてからゆっくりと歩き出した。……それにしても、今日はいい天気だったな……。夕焼けがとてもきれいだ。そんなことを考えているとトレーナーさんが声をかけてきた。
「……ユーフォリア」
「はい、どうしましたか?」
私は振り返って答える。すると彼は微笑んで言った。
「……いや、何でもない」
「……?」
私は首をかしげる。トレーナーさんは優しく微笑んだまま続けた。
「ただ、夕焼けがきれいだなと思っただけだよ」
「……ふふっ、そうですね……!」
私も微笑み返して言った。
「さあ、早く戻りましょう!」
……
~トレーナー室~
「軽く今後の予定について話しておこうか」
トレーナー室に戻ってきてトレーナーさんはそう切り出してきた。私は頷いて話を聞く態勢になる。すると彼は話し始めた。
「……とは言ってもユーフォリアの目標は記憶を取り戻すことがメインだからね……。何か出たいレースとかある?」
「いえ……特には」
私は首を横に振る。すると彼は少し考えて言った。
「うーん、そうだよね……。……まあいい感じに知名度を上げてユーフォリアのことについて知っている人がいないか探していこう。今が6月だから……まあ梅雨明けの7月後半ぐらいにデビュー戦をしよう。……他には何か質問とかはある?」
「えっと……質問……じゃないかもなんですけど……その、私なんかが勝てるんでしょうか」
私はおずおずと疑問に思っていることを口にした。周りから見れば私は言ってしまえば実質的に新人トレーナーが育てている無名の、しかも記憶喪失のウマ娘だ。勝てる要素は1つもないのと言えてしまうだろう。だが、彼は即答した。
「大丈夫、勝てるよ」
「……その、トレーナーさんのことを信じてない訳じゃないんですが……根拠はあるんですか?」
「うん、まあね。君は、君が思っている以上に強い。……けど、もし心配なら選抜レースに出てみる?」
選抜レース……。授業で言ってたっけ。まだデビューしてない子が走れる校内戦みたいなもの。……確かに、ちょうどいい機会になりそうだ。
「……はい。出てみたいです」
「わかった。えっと、次の選抜レースの日程は……」
「……明後日だね」
「……えっ」
次回!(突然の)選抜レース!