ギリセーフ、ただし今日は月曜なんですよね。
~寮・夜~
「……その、ラサさん。今いいですか……?」
「はい、どうかしましたか?」
「その……明後日、選抜レースあるじゃないですか。それに出ることになったんですか……」
「トレーナーさんからは大丈夫だって言われているんですが……えっと、不安で……。何か、コツってありますか……?」
私は寮に帰ったあとレースについてラサさんに話しかけることにした。
「コツ……ですか……。……そうですね、私も大それたこと言えないんですが……。緊張しないことと、絶対に勝つぞっていう強い気持ち……ですかね……」
「なるほど……。……そういえばなんですけど、ラサさんの戦績ってどんな感じなんですか……?」
「えっと……確か、3戦1勝ですね。マイルでメイクデビューを出て、それが6着で負けてしまって、その後中距離の未勝利戦で勝ちました。それで同じ中距離のGIIIに出たんですが、結果は振るわず8着でしたね」
「そうなんですね……。凄いです、私はまだデビューすらしてないのに……」
「いえいえ、ユーフォリアさんはまだまだこれからですよ」
「はい……! ありがとうございます!」
そう言って微笑むラサさん。私もつられて笑顔になるのだった。
………………
…………
……
~選抜レース・当日~
まだ湿っていない、ぎりぎり爽やかな風を感じられそうな日。もう梅雨が訪れそうだ。今日はまだ晴れている。
あれから2日間だけだけどトレーナーさんにレースにおいて大切なことをたくさん教えてもらった。ゲート練習や位置取り、スパートの掛け方とか本当に色々だ。……でも、緊張が収まることはなかったんだけどね。でも、お陰で少し落ち着いたような気がする。ただ、中でも特に気になっている言葉がある。
『一番最初、スタートの時点でユーフォリアが周りのみんなが遅い、って感じたらペースを上げて逃げに回ってもいいよ。……ただ、スタミナをしっかりと管理すること、それが条件だね』
なんて言葉なんだけど……遅いって感じることなんてあるのかな……?
そんなことを考えているともうすぐ私の番になったようだ。私はゲートに入る。……心配だけど、トレーナーさんのアドバイスのおかげでなんとか心は保てている。
……よし、頑張ろうか。
ガコン!
私はスタートダッシュに成功し勢いよく飛び出した。そしてそのまま加速していく。
(よし! この調子で……。……!)
そして早速気づいたことがある。
(……みんな、遅い……?)
トレーナーさんの言っていた通りだ。……なら、逃げてみようか。私はペースを一気に上げる。すると周りの子たちはどんどんと差が開いていく。
やっぱり……タイム計測の時にも思ったけど、走るのって楽しい……!!
私はそのまま危なげなくゴールまで駆け抜けていった。
「ふぅ……」
よかった……なんとかなった……。結構不安だったけど思ったよりうまく走れた気がするな。そんなことを考えていると……。
ドタドタドタ
「……え?」
『なあ君! 俺と一緒ならGIだって目指せる! いや! なんなら3冠だって夢じゃない!』
『いや違うわ! ここは私のチームに入ってもらうわ! 私と一緒に最強のチームを目指すのよ!』
『ふん、これだから素人は……』
「ぇ、あ、その……えっと……!?」
急にたくさんの人に囲まれて私は混乱してしまった。どうすればいいのかわからず焦っていると……。
「ちょっとすいません! どいてください!」
「と、トレーナーさん……!」
「ふう、ごめんね、ユーフォリア。巻き込まれて遅れちゃって……」
「……ちょっと怖かったんですよ? まあ、ちゃんと来てくれて安心しました」
「悪かったよ」
私たちがそんな会話をしていると周りにいた人たちはいつの間にかいなくなっていた。
「それと、1着おめでとう。やっぱり問題なかったみたいだね」
「そうですね……もっとトレーナーさんを信じるべきでした。すいません」
「いやいや、謝らなくていいよ。実戦経験は大切だしね、結構レースの展開とかも分かるようになってきたんじゃない?」
「はい、もう明日デビューしても問題ないくらいです!」
「うん、随分と自信がついたようだね。こっちも出走させて良かったよ」
「じゃあ色々と話したいこともあるから、トレーナー室に戻ろうか」
「わかりました!」
………………
…………
……
「……この前、先行か差しが脚質として合ってるって言ったと思うんだけど……もっと前の脚質の方が合ってるかもしれないね、まだ試してないから分からないけど……。まあ問題がなければ逃げで走ろうか。体力がしんどい~とか、脚がもたない~なら遠慮なくいってね、今はそんな感覚無い?」
「はい、大丈夫です」
「うん、ならよかった」
「じゃあ今日は疲れたと思うから、しっかり休んでね」
「わかりました、ありがとうございました! ……その、トレーナーさんもしっかり休んでくださいね?」
「うん、もちろん。それじゃあね」
「ユーフォリア……さん……。……あなたの……走りは……」
「あぁ……また……。……思い出したくない……!」
チャンミはA決勝3位です。勝てるわけが無かった。