記憶喪失ウマ娘は幸福になれるか   作:deyus

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ギリギリセーフ、間に合ったな。

ついに8月が終わってしまう……どうせ8月が終わっても10月ぐらいまで暑いんやろうなって()


Ep.24 夏の光と、ふたりの朝

今日の夏の朝は、いつもよりも少し眩しかった。

 

朝食のあと、合宿所の前に集められた私たちは、少しだけ戸惑いながら顔を見合わせていた。

 

「──よし。今日は遊ぶぞ! 全力でな!」

 

勢いよく声を上げたのは、私のトレーナーさんだった。

隣で早瀬トレーナーがぽりぽりと頬をかいている。

 

「え、今日ってトレーニングなしなんですか?」

 

思わず聞き返した私に、彼は親指を立ててみせた。

 

「あぁ。トレーナー会議で決めた。今日は“リフレッシュ優先日”だ」

 

「……俺が提案したんだけどね」

 

早瀬トレーナーがぼそりと付け足すと、隣の彼が小さく笑う。

 

「まぁそういうのは誤差だ。だろ?」

 

「それもそっか……。なんせ今日は予定もないから」

 

「ということで、まずは海! 泳いでもよし、浜辺で遊んでもよし。スイカ割り、用意してるぞー」

 

「スイカ割り……!?」

 

思わず声が出てしまって、私は慌てて口をおさえた。

隣にいたミラクルさんが、くすりと笑っている。

 

「おれ、スイカ割りってやったことないんだよね。だからちょっと楽しみかも」

 

「私も……ないと思います」

 

「じゃあ、一緒に割ろうね。……順番、競争だよ?」

 

彼女はそう言って笑った。

 

 

 

……

 

「──よし、準備おっけー! じゃあミラクルからいこうか」

 

「えっ、おれですか!?」

 

早瀬トレーナーが少し笑って、目隠しのタオルを差し出す。

ミラクルさんはちょっと戸惑った表情を浮かべつつも、それを受け取って額に巻いた。

 

「……じゃあ、回しますよ〜」

 

「わっ、や、やさしくしてね!?」

 

くるくる回るミラクルさん。私とトレーナーさんは思わず笑ってしまった。

 

「まっすぐ!」「左左! いや右!?」と周囲の声に惑わされながら、ゆっくりと歩いていく姿は……なんだかちょっとかわいかった。

 

「えいっ!」

 

ぱしん、という音がして、棒の先が空を切った。

 

「あー惜しい! 惜しかったですよ!」

 

「ふふ、じゃあユーフォリアさん、次お願い!」

 

「わかりました!」

 

 

 

交代して、私の番になった。

 

「えっと、目隠しと棒は……はい、どうぞユーフォリアさん」

 

「ありがとうございます」

 

目隠しを手渡されると、自然と背筋が伸びた。

気がつけば、周囲の視線がこちらに集まっていて、どこか緊張する。

 

「じゃあ、準備はいい? その場で五回回って、スタートね!」

 

「五回……ですね。わかりました」

 

ぐるぐる回ると、目の前の世界がふわりと回って、少しだけよろけそうになる。

 

──でも。

 

「がんばれー!」

「いけー!」

 

ミラクルさんの声も、ちゃんと聞こえた。

 

「右、もうちょい右!」

 

早瀬トレーナーの声が飛ぶ。

 

「ちょっと待ってくださいね……!」

 

両手で棒を構えて、一歩、また一歩。

砂がさらさらと動いて、波の音が少しだけ近づいてくる。

 

「そこそこ! まっすぐ行って、あと二歩!」

 

「ほんとに?」

 

「うん、たぶん!」

 

「たぶん!?」

 

笑いながら足を運んで、棒を振り下ろす。

 

「……えいっ!」

 

ぱきっ、という音がして拍手があがった。

 

「……おぉっ!」

 

「割れた!? やったー!」

 

思わず小さくガッツポーズをすると、ミラクルさんがにこにこしながら近づいてきた。

 

「すごいすごい。おれ、全然ダメだったのに!」

 

「みなさんの指示のおかげですよ! それに、運がよかっただけかもしれませんし」

 

「ううん、ユーフォリアさんのここぞって集中力、きっと本番にも効くよ」

 

「そ、そうですかね? えへへ……」

 

割られたスイカはあっという間に分けられ、冷えた果肉がみんなの手に渡っていった。

 

「んー……甘い! おいしいです!」

 

「やっぱりこの暑さにはぴったりだな」

 

そんな声が飛び交う中で、私もひときれ口に運ぶ。

冷たさと甘さが広がって、自然と笑みがこぼれた。

 

「ユーフォリアさん、ほっぺに汁ついてるよ」

 

「あっ、すみません……!」

 

「ふふ、はい、これ」

 

笑いながら差し出してくれたハンカチを借りて、私はそっと頬を拭った。

 

──夏の空気は、ほんの少しだけ角が取れていた。

海から吹く風がやわらかくて、どこか穏やかな空気が流れている。

 

(……今日も、きっと楽しくなりそう)

 

私はそう思いながら、もうひときれのスイカに手を伸ばした。

 

………………

 

 

…………

 

 

……

 

~夏祭り会場~

 

屋台の並ぶ通りに足を踏み入れた瞬間、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。焼きそばの香ばしさ、綿あめの砂糖の匂い……どこからか金魚すくいの水音まで聞こえてくる。胸が高鳴って、自然と足取りも弾む。

 

「ユーフォリア、何食べたい?」

 

「じゃあ……かき氷で」

 

「はは、なんとなくそうだと思った。ほら、行こうぜ」

 

と、私のトレーナーさんが先に歩き出す。屋台の明かりに照らされた背中がどこか楽しそうで、つられて笑みがこぼれた。

 

ミラクルさんと一緒に並んで、かき氷の屋台にたどり着く。氷を削るシャリシャリという音が耳に心地よい。

 

「ブルーハワイにしようかな。ユーフォリアは?」

 

「じゃあ、メロン……かな」

 

「かぶらなかったね」

 

ミラクルさんが小さく笑う。その笑顔を見ただけで、なんとなく胸が温かくなる。

 

早瀬トレーナーは抹茶、ミラクルさんはいちごを手にして、四人で人波を抜けた。夜空を仰げば、星が散りばめられたように瞬いている。氷の冷たさが舌に広がって、夏の熱気をすっと忘れさせてくれる。

 

「……っ!」

 

みんなで食べていると、突然お腹に響くような音が鳴り、夜空が大輪の光で染まった。赤、青、白色――次々に夜空に花が咲き、見上げる人々の歓声が広がる。

 

「わぁ……!」

 

目の前に咲いた大輪の花火に、思わず声がこぼれた。氷の甘さも忘れて、ただ空に目を奪われる。潮風に混じって、火薬の匂いがふわりと漂った。

 

「きれい……」

 

声に出した自分の言葉が、花火の音にかき消されていく。それでも、響く鼓動は隠せない。

夏の空に咲いては散る一瞬の輝きが、なぜか心に沁みて涙がにじみそうになる。

 

横目に映るミラクルさんの横顔が、ひときわ強く弾けた花火の光に照らされた。その顔は花火よりも鮮やかで、私は気づかないうちにその横顔を追ってしまっていた。

 

 

 

 

 

~砂浜~

 

──そして、翌朝。

 

「ふっ、ふっ──ふぅ」

 

(昨日は、楽しかったな)

 

(でも──)

 

(たくさん、気を使わせてるみたいだ。トレーナーさんに……それと、ユーフォリアさんにも……たくさん)

 

「どうにかして、……伝えないと」

 

「おれは大丈夫ですって、どうにか──」

 

「……ミラクルさん」

 

「えっ……ユーフォリアさん? 起きてたんだ」

 

「はい。少し……寝苦しくて目が覚めてしまって」

 

嘘だ。

寝苦しいわけじゃない。ミラクルさんが部屋を出るときに見えたその表情が、あまりにも重くて──。

追わずにはいられなかっただけ。

 

「そっか……ごめん、起こしちゃったかな」

 

「いえ、大丈夫です。……ただ」

 

私は少し迷うように言葉を選び、呼吸を整える。そして、まっすぐにミラクルさんの瞳を見つめた。

 

「……無理をしていませんか?」

 

「! ……」

 

「ミラクルさんの走りは、いつも……とてもまぶしいです。だからこそ、ちょっとだけ怖いんです」

 

「『サマースプリント』……『スプリンターズステークス』にも出るんですよね、ミラクルさんの実力なら。このまま……無理をして……。……しまわないかって」

 

波の音が言葉を飲み込む。潮風が髪を揺らして、肌にひんやりと触れる。胸の奥が締めつけられ、言葉にできない感情がざわざわと押し寄せた。

 

ミラクルさんは目を伏せ、ほんの少しの間だけ黙り込む。

それから、静かに笑う。砂浜に影が長く伸びる。

 

「……やっぱり、ユーフォリアさんには隠せないんだな」

 

「うん、走るよ。おれは、『スプリンターズステークス』に出る」

 

「!!」

 

「みんなにもらった奇跡で、おれはやっと走れてる。でも──」

 

「奇跡にだって限りがある。ずっとずっとは続かない。だからこそ、あそこで勝たなきゃいけないんだ」

 

「……」

 

言葉が止まり、呼吸だけが静かに流れる。

私は言葉を挟めずに立ち尽くし、胸の奥の痛みを確かめるようにそっと手を当てた。

 

「……ごめん。行ってくる。また、後でね」

 

走り出していくミラクルさんの背中を、しばらく見つめていた。

胸の奥が締めつけられ、空気の熱まで重く感じる。

 

「……ミラクルさん」

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