記憶喪失ウマ娘は幸福になれるか   作:deyus

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Ep.29 願いと希望は朝日に染まる

~病院~

 

私は今、ミラクルさんのお見舞いに来ている。……ミラクルさんは奇跡的に一命をとりとめた。

 

「……失礼します」

 

私はそう言って病室に入った。そこにはベッドに横たわって寝ているミラクルさんがいた。彼女の脚にはギプスが巻かれており、包帯も巻いてある。……その痛々しい姿に胸が締め付けられる。

 

「ミラクルさん……」

 

私はベッドの横の椅子に座り、静かに彼女の名前を呼ぶ。すると、彼女はゆっくりと目を開いた。

 

「……ユーフォリア……さん?」

 

「はい……。そうです」

 

「そっか……。来てくれたんだ……」

 

彼女はそう言って笑う。……しかし、その笑顔はどこか悲しげで今にも崩れてしまいそうなものだった。

 

「……その……。……えっと、……あぁ……」

 

何か言ってあげたいのに……。何も言葉が出てこない。……ただ、彼女の笑顔を見ていると胸が張り裂けそうになる。

 

「……心配、かけたね」

 

「……っ……!」

 

その言葉だけで、目に涙が滲んだ。どうしてだろう。……本当は私が慰める側のはずなのに、逆に気を遣わせてしまっている。

 

「脚は……まだ、望みがあるって。完全には……終わりじゃないんだって」

 

「……本当、ですか……?」

 

「うん。……ユーフォリアさんが支えてくれたから。あのまま倒れてたら、きっともっと酷かった……。ありがとう」

 

「……っ……」

 

胸の奥が熱くなり、何も言えなくなる。

 

「ただ……時間もかかるし、前と同じように走れるかは分からない」

 

ミラクルさんは小さく息を吐いて、天井を見つめた。

 

「……だからさ。おれが走れない間、ユーフォリアさんの走りを見てみたい。……最悪、おれが走れなくなってもユーフォリアさんが走ってくれるなら、それでいいって……なぜか、そう思えるんです。……自分でも不思議なんですけど」

 

「……!」

 

その言葉が胸に深く突き刺さる。私はただ頷くことしかできなかった。

 

「でも、きっとまた走れるようになる。夏合宿の時みたいに……また、一緒に走りませんか?」

 

強がるように笑っているけど、その言葉には願いと悔しさと優しさが入り混じっていた。

 

私は涙をこらえながら、ただ強く頷く。

 

「……はい。必ず」

 

その瞬間、私の胸の中に新しい走る理由が刻まれた。

 

 

 

~病院・廊下~

 

病室を出た瞬間、胸の奥に残っていた熱が少しずつ冷めていく。

扉の向こうからは、かすかな機械音だけが響いていた。

 

──そのときだった。

 

「……ああ、やっぱり来てたんだ」

 

声に振り向くと、少し離れた壁際に早瀬トレーナーが立っていた。

腕を組み、いつものように落ち着いた顔をしている……けれど、その目の奥には疲れがにじんでいた。

 

「……早瀬トレーナー」

 

「ミラクルの様子、見てたんだ」

 

「はい。……少しだけ、話をしました」

 

「……そっか」

 

それだけ言うと、早瀬トレーナーは短く息を吐いた。

その横顔が、いつになく寂しそうに見えた。

 

「……ミラクル、いつも君の話ばっかりしてたんだ」

 

「……え?」

 

「……ミーティングのときも、夏合宿のときも。『ユーフォリアさんがいたからここまで来られた』って……そう言ってた」

 

胸が熱くなる。あの笑顔の裏に、そんな想いがあったなんて。

早瀬トレーナーは天井を見上げ、深く息を吐いた。

 

「俺は……結局のところ、後悔してる。もっと……もっと、強く止めるべきだったって。それでも、ミラクルは選んだ。

……あの時の顔が、まだ焼き付いて離れない」

 

言葉の端が震えていた。

けれど、次の瞬間にはもういつもの声色に戻っていた。

 

「……ユーフォリアさん」

 

名前を呼ばれて顔を上げると、彼はまっすぐこちらを見ていた。

 

「……走ってやってくれ。ミラクルの分まで」

 

その声には、かすかに震えが混じっていた。

私は強く唇を噛み、そして静かに頷いた。

 

「……はい」

 

早瀬は目を閉じ、わずかに頭を下げた。

 

「……ありがとう」

 

その言葉だけを残して、彼は背を向けた。

その背中は、どこか痛々しく、必死に耐えているように見えた。

 

廊下の先で扉が閉まる音がして、再び静寂が戻る。

私は胸に手を当て、そっと呟いた。

 

「……ミラクルさん、早瀬トレーナー……。お二人の想い、ちゃんと受け取ります」

 

 

 

 

~トレーナー室~

 

病院を出て、私はそのまま学園に戻った。

胸の奥に残る痛みは、まだ消えてはいない。……けれど、その痛みが私を前へ押し出しているようにも感じた。

 

扉をノックし、そっと開ける。

 

「……失礼します」

 

机に向かっていた私のトレーナーさんが顔を上げた。

 

「……見舞い、行ってきたのか」

 

机に向かっていた私のトレーナーさんが、手を止めてこちらを見た。

その顔は、どこか沈んでいた。

 

「はい……」

 

「……ミラクルのことは……つらいな」

 

短い言葉。けれど、その声には静かな重みがあった。

私は胸を押さえ、少しだけ息を吸い込む。

 

「……トレーナーさん」

 

「……?」

 

「……私、走りたいです」

 

トレーナーさんの目がわずかに揺れる。

私は視線を逸らさず、言葉を続けた。

 

「ミラクルさんが……『私の走りを見たい』って……そう言ってくれました。だから……走ります。……これからは、誰かのためにも」

 

自分の言葉に迷いはなかった。あの病院で感じた思いが、全てを突き動かしていた。

 

トレーナーさんは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに真剣な顔つきになった。

 

「……ユーフォリア……」

 

私のトレーナーさんはしばらく言葉を探すように黙り込んだあと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……そうか。……分かった。お前がそう言うなら、俺も全力で支えよう」

 

その声は、どこか安心したようで……それでいて、重みのある響きだった。

胸が熱くなる。……それだけで、足元を支える力が強くなる気がした。

 

「……ありがとうございます」

 

私の声は震えていた。けれどその震えは迷いではなく、これからの走りへと繋がる決意の証だった。




新章(?)開幕。

そして後書きからこんばんは、
遅れました。シンプルに今後も金曜日はこんな時間にあげると思います。
今なんとストックが若干産まれかけてるんですよね。これはでかいので今後も続けていきたい所。
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