記憶喪失ウマ娘は幸福になれるか   作:deyus

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なんとか間に合った。私の勝ちです。対戦ありがとうございました(?)

温泉シナリオよく分からん、とりあえず1天井でテイオー完凸と女将1枚手に入れたので大勝ちではある。
なんとかイクノでUS1出しました、イクノ以外は出てません。


Ep.32 ひとつの灯、ふたつの記憶

アルテミスステークスから一夜明けた放課後。

窓の外からは夕陽が差し込み、机の上に積まれた書類を黄金色に染めていた。

 

トレーナーさんは、その書類を一枚ずつ丁寧にめくっていた。

シャツの袖口から覗く腕時計の針は、午後3時を少し過ぎたところを指している。

 

「昨日のレース、よく頑張ったな。初めての重賞で、あの展開を逃げ切れるのは大したもんだ」

 

「はい。ありがとうございます……」

 

ソファに座りながらそう答えると、胸の奥がじんわりと温かくなる。

ゴールした瞬間の歓声。風を切る感覚。心臓の高鳴り。どれもまだ身体の中に残っている。

 

アルテミスステークス、初めての重賞。

勝てた。……勝ったのに、なぜか心のどこかがざらついていた。

何に引っかかっているのか、自分でもうまく言葉にできなかった。

 

けど、なんとなくレースの時の光景が頭に浮かぶ。

 

「……最後、少し危なかったですよね」

 

背後の足音を感じた瞬間、身体のどこかが冷たくなった。誰かに追われる感覚──それだけは、なぜか懐かしかった。

 

自然と口から出た言葉に、トレーナーさんは頷きつつも首を傾げた。

 

「うーん……まぁ、危なくないと言えば嘘になるが……。あれぐらいなら、気にしなくても大丈夫だ」

 

そう言って、彼は少しだけ椅子の背にもたれる。

机の端には、昨日の新聞が置かれていた。紙面には『新星ユーフォリア、圧巻の逃走劇』の見出し。だけど、私の目はその横に小さく載った別の記事に向いた。

 

『ケイエスミラクル、近日退院へ』

 

目に入った瞬間、胸の奥が熱くなる。

 

──ああ、そうだ。ミラクルさん。

 

気づけば私は、その名前を呟いていた。

 

「……トレーナーさん。今日、ミラクルさんに会いに行ってもいいですか?」

「ミラクルさんにも、勝ったことを報告したくて」

 

「もちろんだ。ミラクルもきっと喜ぶ」

 

即答だった。

胸の奥で何かが軽くなるのを感じながら、私は小さく頷いた。

 

「ありがとうございます。じゃあ……病院に行ってきます」

 

そう答えて、ドアを閉めた。

外の空気は少し冷たくて、でも心の中は不思議と温かかった。

 

……

 

病院の廊下は、やけに静かだった。

窓から差し込む午後の日差しが白く反射して、床を淡く照らしている。

受付で病室を聞いて、廊下を歩くたびに、消毒液の匂いが鼻をかすめた。

 

軽くノックして、ドアを開ける。

 

「……失礼します」

 

ベッドの上では、ミラクルさんが座って本を読んでいた。

私の顔を見るなり、彼女はぱっと表情を明るくした。

 

「ユーフォリアさん……! 来てくれたんですね」

 

「はい。……突然、すみません」

 

「全然ですよ。むしろ、来てくれて嬉しいです」

 

彼女の声は以前より少しだけ落ち着いて聞こえた。

脚にはまだ軽いサポーターが巻かれているけど、表情には前のような痛みの影が薄い。

 

あのスプリンターズステークスの日から、もうひと月以上が経つ。

時の流れが残酷でありながら、やさしくもあることを、今さら思い知らされた。

 

「……怪我の具合は、どうですか?」

 

そう尋ねると、ミラクルさんは少し照れたように笑った。

 

「……そういえば言ってませんでしたね。全治1か月くらいって言われてたので、もうすぐ退院できるんです。早ければ来週には」

 

「そう、なんですか……! 本当によかった……」

 

「ふふっ。ユーフォリアさんらしい反応です。そんなに安心した顔されると、少し照れますね」

 

思わず頬が熱くなる。

彼女が笑っている。それだけで本当に胸がいっぱいになる。

 

「……アルテミスステークス、見ましたよ」

 

「えっ……! 見ていてくれたんですか?」

 

「もちろんですよ。あの逃げ切り、すごかったです。テレビの向こうからでも、風が届いたような気がしました」

 

彼女の言葉は穏やかで、それでいて心の奥まで届くようだった。

 

「ありがとうございます。……でも、最後、少し危なかったんです。少しでも気を抜いてたら、追いつかれてました」

 

「そう……ですかね? ……けど、勝ったじゃないですか。逃げるって、誰より勇気が要るんですよ」

 

そう言ってミラクルさんは軽く笑った。

 

その横顔を見て胸の奥がまた温かくなる。

この人の笑顔は、誰かを前に進ませるためのものだ。なぜだかそう思えた。

 

「やっぱり、ユーフォリアさんが走る姿って……いいなって思うんです。おれが走れない今だから、余計にそう思うのかもしれないですけど」

 

「ミラクルさん……」

 

「おれも、また走れるように頑張ります。だから……」

 

「──その時は、もう1回並んで走ってくださいね。前に言った約束、まだ覚えてますから」

 

「……もちろんです。私も、忘れてません」

 

窓の外から、秋風がひゅう、とカーテンを揺らした。

淡い光の中で、彼女の笑顔はあの夏の日と変わっていないように見えた。

 

……

 

病院を出ると、いつの間にか空が薄暗くなっていた。

街灯がゆっくりと点り始め、窓に映る光がひとつ、またひとつと増えていく。

昼間の病室の白い光が、もう遠い昔みたいに思えた。

 

『──もうすぐ退院できるんです。早ければ来週には』

 

その言葉を思い返すたびに、胸の奥に小さな灯かりがともる気がした。

勝ったことを喜んでもらえた。それだけで、なんとなくあのざらつきが薄れた気がする。

 

そんなことを考えながら、私は学園の寮へと歩いた。

 

 

 

寮の前に着く頃には、空に月がかかっていた。

廊下を静かに歩いて、部屋のドアの前で一度立ち止まる。

 

中から物音がしない。

 

「……ラサさん?」

 

静かにノックをしても返事はない。

部屋のドアを開けると、電気はついていなかった。

 

ただ、ラサさんの机の上のランプがぼんやりと橙色に光っている。

その下にはラサさんが突っ伏していて、寝息を立てていた。

 

「……寝ちゃったんだ」

 

小さく呟いて、そっとドアを閉めた。

 

机の上には、開きかけのノートと、半分ほど飲みかけのマグカップ。

その隣に、木の縁の写真立てが立てかけられていた。

 

なんとなく視線が吸い寄せられる。

ふと覗き込むと──そこには、二人のウマ娘が並んで写っていた。

 

片方は見覚えのある顔。今より少し幼いラサさんだ。

もう片方は、年上の女の子。

ラサさんと同じ瞳の色で、どこか面影のある、優しそうな笑顔。

 

(……お姉さん、なのかな)

 

誰に聞かせるでもなく、心の中で呟く。

ランプの明かりが、ガラス越しに淡く反射している。

それを見つめていると、胸の奥にかすかな痛みが生まれた。

 

──私も、誰かの記憶の中にこうして残る日が来るのだろうか。

 

そんなことを考えた瞬間、ラサさんが微かに身じろぎした。

寝言のように小さく、「……お姉ちゃん」と呟く。

 

その声が、静かな部屋の中でほんの少し震えた。

 

私は何も言わず、ラサさんをそっとベッドまで運んであげた。

それから自分のベッドに腰を下ろして、窓の外を見上げる。

夜空はどこまでも澄んでいて、星がひとつだけ瞬いていた。

 

手のひらに残る温もりと、胸の奥のざらつきが、静かに混ざり合っていく。

明日になればまた走れる。

そう思うのに、心のどこかがまだ波打っていた。

 

──そして、あの背後の気配が、今もどこかで追いかけてくる気がした。




来週はこの調子だと予定通り(20日に)投稿できると思います。

……にしても教室の描写とか最近どころかずっとしてないですね……。
直したい設定とかいろいろあってつらい。何やってんだ過去の自分。
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