百合香「……一体――何が起こっているのですか?」
その時わたくしはアパートの広間で司やヒメちゃんに囲まれながら、一人暗く俯いていた。
司「篠宮の親父さんが――、暴行未遂容疑で捕まった? なんで?」
淳郎「――それだけじゃないわ。カレ、過去の入札で不正を行った疑惑があるとかで……、社長を解任されて――副社長だった藤崎って女性が社長に就任したって話よ」
私はその言葉を聞いて――、震えながらスマートフォンを取り出す。
百合香「これは……何かの間違いです。間違いのはずです――。でも藤崎副社長への直通電話にかけても、出てくれなくて――、なんでですの?」
淳郎「聞いた話では――、その副社長への暴行未遂容疑で捕まっているって話だし……ね」
百合香「……話をしないと――、副社長から何があったかを聞かないと――、わたくしは……」
わたくしは涙目でスマホを抱えて呻くように言った。司はそれを心配そうに見つめて呟く。
司「なんか――、他に連絡方法はないのか?」
百合香「他に……、って、あ――」
司「あるのか?」
わたくしがなにかに気付いた様子なのを見て司が問いかけてくる。わたくしは顔を明るくして答えた。
百合香「お姉様! 美波お姉様です!!」
司「美波先輩――、あ、そうか……彼女は――」
百合香「そうです! お姉様は副社長の娘で――、一人寮ぐらしで仲はそれほど良くないそうですが――」
司「そこから、なんとか話を――」
頷くわたくしはすぐに美波お姉様に連絡を取った。そして二人であって話をする約束を取り付けた。
――わたくしは、その時、ただただ確信していた――、美波お姉様ならわたくしを救ってくれると……。
◆◇◆
寮の近くで待つ美波お姉様を見つけてわたくしは急いで駆け寄った。そして人目をはばからずすがりつく。
美波「百合香――、大丈夫? なんか良くない事になってるって話だけど……」
百合香「お姉様! ――わたくし……、お姉様のお母様と話をしないと――」
美波「……う~~ん、ママ――か」
美波お姉様はしばらく困った表情で考えた後――、不意にわたくしに言った。
美波「あのさ百合香――」
百合香「はい、お姉様――」
――と、美波お姉様が、すがりつくわたくしを強引に引き剥がして言った。
美波「気持ち悪いから離れて――」
百合香「……え?」
わたくしはその豹変した様子に思考停止する。一緒についてきていた司が先輩を見て表情を強張らせた。
美波「あのさ――、ママがもういいって」
百合香「え? なんの話……ですの?」
美波「アンタの相手を――、もう真面目にする必要はないって」
その言葉の意味がわたくしにはわからない。ただ隣りにいる司の顔が怖いほど怒りに歪むのだけが理解できた。
美波「まあ――、正直気持ち悪かったけど……ママのお願いだからね――、仕方がなくって」
司「……先輩――、アンタ」
美波「はは――、顔が怖いよ神道くん……、そもそもこんな変態に、真面目に付き合うとかないでしょ?」
その言葉に司は絶句し――、わたくしは言葉もなく呆然とした。
司「アンタ――、アンタの母さんの命令で……、篠宮の気を引いていたのか」
美波「そうだよ――、当然じゃない。そうでなければあんなキモいこと――」
司の顔が怒りに歪み――、わたくしの心は絶望が支配し始めた。
わたくしはよろめきつつ美波お姉様にすがりつく。
百合香「お姉様――、何を冗談……ですわよね? そうで……」
美波「ちょっと……、離れて――」
百合香「嘘ですわよね? そうですわ――」
美波「いい加減にしろ!! 変態オンナ!!」
バシ!!
わたくしの頬が強く打たれた――、それがどういった意味なのか、しばらく理解できなかった。
美波「あのさ!! アンタがどれだけキモいかしっかり理解しなよ!!」
百合香「おねえ――様」
美波「アンタも――その親父も……、ほんっと最悪だね?」
呆然として佇むわたくしに強い言葉がぶつけられる。
美波「ママにアンタの親父の話を聞きたいんだって?! なら私が代わりに話してあげる――」
百合香「……」
美波「ママを邪魔するクソオスのくせして――、無能な自分を顧みず会社を明け渡す事もしなかった。だから当然の報いを受けてんでしょうが!!」
その豹変した様子を見て、わたくしの心の奥から何かが湧き上がってくる。
美波「ははは!! 残念でした!! アンタの無能親父が作った会社も財産も――、優秀なママが全部引き継いであげるから!! 喜びなさい!!」
百合香「あああああああああああああ!!」
わたくしは湧き上がる慟哭に突き動かされてお姉様――、眼の前のヒトに掴みかかる。それを彼女は顔を歪めながら振り払い――、手を振り上げた。
ドカ!
不意にそのヒトが吹き飛ばされてその場に倒れ込んだ。彼女は頬を押さえながら隣の司に向かって叫んだ。
美波「なにすんだ!! オトコがオンナの顔殴っていいと想ってるの?! 最低!!」
司「クソ野郎にオトコもオンナも関係あるか!!」
わたくしは隣の司を涙を流しながら見つめる。怒りが収まらず拳を握る司が一歩前に出た。
美波「最低――、クソオスは本当に最後は暴力に訴えるんだね。ママの言うとおりだわ――」
司「てめえ――その減らず口を……」
美波「だからオトコはオンナより犯罪率高いのよ。頭の悪いバカばっかり――」
司「関係ねえ話をグダグダと――、もう一発殴られてえか!!」
わたくしは――、
百合香「――ツカサ」
司「ユリ?」
百合香「もう、いきましょう――」
司「でも……」
そう呟いてわたくしの顔を悲しげな目で見つめる司に――、わたくしは顔を横に振って答えた。
百合香「お願いだから――、もう行こうよツカサ」
司「……ああ、わかった」
司は握った拳を収めると、頬を押さえて倒れ込んでいるそのヒトを一瞥して――、わたくしの手を引いて歩いてゆく。
その背後から――、もはやかつての面影もないヒトの嘲笑が響いて来た。
美波「アンタの無能親父も――、そこのオトコも――、しっかり自分たちの無能さ加減を反省しなさいよ! ば~~か!!」
それを背に聞きながらわたくしはただ歩く――。
こうしてわたくしの――、人生をかけた一つの恋が終わった。
◆◇◆
淳郎「――そう」
黙って話を聞いていたヒメちゃんが今にも泣きそうな顔でわたくしを抱きしめてくれた。
淳郎「辛かったわよね――、苦しいわよね――。ああ……、出来たら代わってあげたい」
百合香「……」
わたくしは黙って涙を流す。その悲痛な様子に叶も心配そうな様子でわたくしを見つめている。
そんなわたくし達を眺めながらミカさんが口を開いた。
ミカ「なあ――、これって要するに、全部その先輩とやらの母親が仕組んだこと――、って認識でいいんだよな?」
司「そうだな――、あの副社長は、自分のバカ娘の口をつぐんでおかなかったんだろう」
ミカ「じゃあ――、もしかして……総馬さんの死もそいつが?」
わたくしを抱きしめるヒメちゃんが少し怒った表情で言う。
淳郎「あの副社長――、藤崎美冬だっけ? ワタシの記憶が確かなら――、篠宮剛造さんと、総馬ちゃんの、会社創設初期からの盟友だったはずよ」
叶「は? それって――」
淳郎「ワタシもそれほど詳しくは知らないけど――、もともとそのオンナはシングルマザーで、生活苦からある犯罪に手を染めかけたのを総馬ちゃんが助けて――、そのまま放っておけないからと助手に雇って、剛造さんの会社の発展の手伝いをさせていたって……」
叶「――それって、父さんに助けられて……、それじゃあ流石に父さんに手をかけるなんて――」
そう言って黙り込む叶をしばらく見つめた後、ヒメちゃんは静かに呟いた。
淳郎「そう――そういうことね」
叶「え? どういうこと?」
淳郎「……司や叶、百合香ちゃんみたいな普通のヒトにはわからない事かもしれないわ――」
ヒメちゃんは黙ってわたくしたちの目を見つめる。
淳郎「そのオンナ――、多分総馬ちゃんや剛造さんを憎んでたんでしょうね」
司「は? 親父たちに助けられたんだろ? なんで憎む要素が?」
淳郎「だから――ひねくれた人間しかわからないことなの……。おそらくあのオンナは――、総馬ちゃんたちの救いを【上から目線の施し】だと考えたのね」
司「……」
そのヒメちゃんの言葉に司が絶句する。
淳郎「たまにいるのよ――、【裕福な自分の力を誇示するために、弱い人間を救っていい気になっているヤツ】そう考えて相手に勝手な憎しみを抱く人間ってのが」
叶「それじゃあ――」
淳郎「全ては――、【自分を下の者とみなして、救った気で気持ちよくなっているヤツら】に復讐するため……なんでしょう」
あまりのことにその場の全員が絶句する。司が苦しげな表情で呟く。
司「もし――そうだとしたら。篠宮の親父さんを救うにはどうしたらいいんだ?」
ミカ「――篠宮の親父に罪をなすりつけた、その証拠があれば――」
淳郎「今、会社を支配しているのはあのオンナ――、今から証拠を掴むのは相当大変でしょうね」
しばらく皆で悩んでいたその時、わたくしはふと思いついたことを口にした。
百合香「ツカサ――、貴方のお父様はすべての黒幕が彼女だと――、そこまでは調べられていなかったんでしょうか?」
司「う~~ん……、もしわかってたら藤崎美冬を放っておくはずないからな」
しばらく考えた司が――、ふと、何かを思い出したかのように顔を上げた。
司「あ!!」
百合香「どうしたのですか? ツカサ?」
司「思い出した!!」
そう言って司がいきなりアパートの奥へと走り出した。わたくし達はそれを追いかけて走った。
司はそのまま管理人室へと入っていくと――、椅子を部屋の隅に置き、その上において天井板を開けてその奥を探り始めた。
司「あった!!」
そう叫ぶ司が椅子から降りてきて、手にしたモノを皆に見せてきた。
淳郎「あら? フロッピーディスク?」
それは一昔前まで使われていたパソコンの記憶媒体であった。
司「俺は――忘れていたんだ……、親父に言われていた言葉を――」
――いいか、ツカサ――、百合香お嬢様を……、どうかお前が守ってやってくれ――、そして……。
――そして、私がこのまま帰らず何かあったときには、このフロッピーディスクを剛造さん以外の誰にも渡してはいけないよ。
司「くそ――、あん時の俺はガキだったから、こんな大切なことを――」
――と、不意にアパートの玄関口が騒がしくなる。何事かと見る全員の目に【目出し帽】を被った男たちの姿が見えた。
???「目標を確認――、確保します」
いきなりのことにその場の誰もが硬直する。そのアパートは見知らぬ存在の襲撃を受けていた。
◆◇◆
その女はごく普通の家庭に生まれた。
ごく普通に育ち、高校に進学し――、ごく普通に生きていく……、彼女自身そう考えていただろう。
しかし、彼女がある日、素行の悪い男に恋をして、付き合い始めた事で進む未来がおかしくなってゆく。
彼女自身、素行の悪い連中とつるむようになり、犯罪にすら手を染めた事でその未来は決定された。
転落してゆく彼女は、その彼氏と同棲を始めるが、ある日妊娠して――、子供を嫌う彼氏に捨てられる事となった。
中絶すらできず一人で子供を抱えて生きなければならなくなった彼女は、その果てに後戻り出来ない犯罪に手を染めかける。
――そんな時に彼女は、彼と出会う事となった。
何より正義感が強く真っ直ぐな男、神道総馬、――彼は苦しむ彼女を放ってはおけず、親友である篠宮剛造の所へと連れてゆく。こうして彼女は彼らの助手として、篠宮興業の発展に関わる事となった。
――神道総馬に救われた彼女は、……しかし、彼に対する感謝の念を欠片も持ってはいなかった。ただ、彼女の心にあるのは――、上から目線で自分に対して施しをしていい気持ちになっているオトコへの、嫌悪と屈辱感――、そして、復讐心だけだったのである。
美冬「ふふふ……、そうやっと見つけたのね? あの娘に監視をつけておいたのがこんな幸運を招くなんて――」
???「住人のことはどういたしましょう?」
美冬「どうでもいいわ――、抵抗するならそれ相応の報いを与えなさい。それと――必ず【アレ】を確保すること」
そう言って呟く美冬は愉悦に満ちた笑顔を作る。
美冬(ああ――、ずっとあのクソオトコ……、総馬に確保された【アレ】がどこにあるのか探していたのよ。警察が動いていなかったからまだどこかに隠されているであろう事はわかってたけど)
美冬は笑いながら考える。
美冬(あれから何年も――、【アレ】が誰かの手にわたっていることを考えて大きく動けなかったけど――、それもこれで終わりよ――)
闇を纏った嘲笑が机の上に置かれた写真に向けられる。
美冬(はは……、私を助けた気になって気持ちよくなっていたクソオスども――、これで全ては私のもの――)
あまりに邪悪なその嘲笑は――、彼女の姿をヒトならざるナニカへと変えていた。
◆◇◆
司「――ユリ!!」
叫ぶ司が手にしたフロッピーを私に渡してくる。
司「叶と一緒にそいつを持って外に――、警察に走れ!!」
百合香「ツカサ!!」
フロッピーを受け取ったわたくしは涙目でツカサを見る。
司「――先輩の、美波先輩の言う通りだ。俺は……頭が悪くて暴力を振るうことしか出来ない馬鹿野郎だ」
百合香「ツカサ……」
司「でも……、もしそれで、お前を守れるなら――、もうそれで構わない」
司はわたくしの隣りにいる叶に向かって叫ぶ。
司「叶――、ユリを頼んだ……」
叶「おにぃ……、わかった――」
叶は決意の表情でわたくしの方を振り返って手を差し伸べてくる。わたくしはその手をしっかりと握り返した。
わたくしは司の目を見ていった。
百合香「ツカサ――、わたくしをおいて行かないで」
司「……、ああ――わかってるさ」
目出し帽の男たちが管理人部屋へと踊り込んでくる。それに対し司とヒメちゃんが立ち向かった。
淳郎「うちにナニか用があるみたいだけど――、おかえりなさいな」
襲いかかってくる男たちを殴り飛ばしながらヒメちゃんが言う。
司「は!! かかってこいクソども!! ユリたちには指一本触れさせねえ!!」
司が男たちの中心に突撃し、その包囲を割ってわたくしたちが逃げるための道を作る。
わたくしたちはその道を通ってアパートの外へと走った。
???「!!」
外にも見張りがいて私達に襲いかかってくる。それをミカさんが遮った。
ミカ「いけ!!」
叶「ミカさん!!」
わたくしと叶は手をしっかりと握りながら走る。
そして――、人通りのある場所に出て、わたくしたちは声の限りに叫んだ。
百合香「お願い!! 誰か!! 助けて!!」
それはたしかに街に響き――、歩く人々を驚かせたのである。
◆◇◆
美冬「この――バカどもが――。みすみす【アレ】の確保を失敗したなんて」
男「すみません社長」
美冬「すみませんで済むか!! この無能が!! あなた達オトコはいっつも私の人生の邪魔しかしないのね!!」
そう言って怒り狂う美冬は、篠宮興業社屋から離れて倉庫街に男たちと潜伏していた。
そして――、その足元には全身ぼろぼろになった司が横たわっている。
美冬「こんなオスガキ一人さらってきて意味がないでしょ?!」
男「逃げるのには――人質が必要だったので」
美冬「あああああ……、オトコは本当に無能なバカばかりね」
そんな美冬に対して倒れ伏す司が声をかけた。
司「ミサンドリーババアの断末魔乙……」
美冬「ク……!!」
司の言葉に美冬が憎々しげな目を向ける。
美冬「は……、アンタは――あの総馬の息子だそうね?」
司「ああ……、アンタを助けた親父の、な」
美冬「は――、助けた? キモいオナニーの間違いでしょ? 私のことを弄んだオトコの同類が何いい人ズラしてんの?」
司「……そうかもな。親父は――アンタを助けるべきじゃなかったかもしれん」
そういう司に侮蔑の目を向ける美冬。
美冬「そうね――、上から目線でいい気になって、私を下に見てるからああいう目にあったのよ」
司「そうだな――、親父が死んだのは……、剛造さんがああなったのは、アンタを不用意に助けちまったからだ」
――でも……。
司「親父は――、多分、こうなる未来がわかっていても、アンタを助けただろうな」
美冬「バカオトコだから?」
司「ああ……、そういうことだ」
その言葉に美冬が嘲笑を向ける。司は黙って美冬を見つめて――、そして笑った。
その笑顔を見て美冬は怒り顔を作る。
美冬「その笑いをやめなさい!! あいつと同じ!! 私を蔑む目!!」
司「……ああ、そうか」
司は心の底から美冬を哀れに思った。そう思わなければ彼女は自尊心が守れないのだろう。
哀れみのこもったその司の目を見て、美冬は激昂して叫んだ。
美冬「やめろって言ってんだろうが!!」
ガズ!
美冬が靴で司の頭を蹴り始める。さすがに周囲の男が止めに入る。
男「社長!! これ以上は――」
美冬「うるさい!! 邪魔をするなクソオスども!!」
ガズ! ガズ! ガズ! ガズ!
美冬は静止も聞かずに司の頭を蹴りつづける。司は意識を薄れさせながら心のなかで呟いた。
司(はあ……、結局、アンタも最後は暴力なんじゃん)
――そんな司の耳にパトカーのサイレンが聞こえてくる。司はその音に少し安堵して意識を闇に沈めた。
◆◇◆
事件から数週間がたった。わたくしは病院の一室で林檎の皮をむいていた。
百合香「はい――司」
司「おう……ありがと」
警察に救出された時、ひどい有様であった司はなんとか一命をとりとめていた。
でも相当ひどい目にあったらしく入院を余儀なくされた。
百合香「あの――、本当に生きていて良かったです」
司「はは……、最後のケリは流石に死ぬかとおもったが」
百合香「あの、藤崎美冬は――」
その名を口にすると司が顔を歪めた。
司「もういいよ――、思い出したくねえ」
百合香「ん」
わたくしはその言葉に口をつぐんで頷いた。
――アレだけのことをしでかして当然のように美冬は逮捕された。
その先どうなるかなんて私達の知ったことではない。
篠宮興業は再びお父様が社長に返り咲き――、かつての総馬おじさまの事件や、その自殺の真相が明るみになった、ただそれだけのことだ。
司「……親父さんから、家に帰ってこいって言われてるんだろ?」
百合香「ん――、そうですわね」
司「いろいろ心配もなくなったろうし――、もうウチにいる必要も……」
百合香「いいえ……、帰りません」
その言葉に司が困った笑顔を向ける。
司「なんでだ? まだ親父さんと」
百合香「ツカサのそばにいたいからです」
その言葉に司が驚きの顔を向ける。
司「は?! 何いってんだ? お前――オトコが嫌いで」
百合香「無論嫌いですわ――、近付かれると怖気が立つほどに。そしてわたくしの好きな性別は女性であることにも変わりがありません」
司「なら――」
百合香「ただ――、司だけは特別……、ただそれだけです」
そう言ってわたくしは司に笑顔を向ける。司は困った顔で笑うと――、そっぽを向いた。
百合香「はい――」
わたくしは手にしたりんごを一欠、司へと差し出す。司はそれをしばらく眺めた後――、小さく笑って食べた。
――一つの恋は終わり……、そして、新たな恋が始まる。
この恋こそは――きっと……。