東方秘踪録   作:鈴幡 永輝

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第3章 -神社と鳥居-

窓から朝日が差し込む。

目を覚ました2人は布団をたたみ、身支度を済ませる。

一階の食堂には、和と洋が混じりあった朝食が並べられている。

「おはようございます」

年老いた女将が座ってと言わんばかりに椅子を引く。

客は2人しかいないようだった。

朝食を済ませた2人は、宿泊している客室へ階段を上った。

一泊二日なのでここにはもう戻らない。

2人は準備をして、宿を出た。

 

 

宿の近くにある旅行者向けのコインロッカーに大きな荷物を入れ、2人はタクシーを待った。

「それにしても昨日のタクシーの人が言ってた神隠しってなんなんだろうね」

「どうで迷信よ。深い森に迷い込まないようにするためのね」

そこで蓮子はスマホを取り出し、その地域の行方不明事故について調べた。

―累計で5人

人口は多くないため行方不明者5人は多いだろう。

大人だろうが子供だろうが山に入っていった者は帰ってこられなくなるパターンがあるという。

そのサイトによるとどうやら最近まで立ち入りが禁じられていたそうだ。

ただ近年は行方不明者がおらず、また捜索も困難を極め打ち切りとなってしまったようで、鳥居までは勝手に入れる状態であるという。

「でもこれっていつ神隠しが起こるかわからないってことだよね」

蓮子がそう呟く。

「警察が捜査してたってことはほんとに危ない場所なのね」

メリーはさっきの余裕な表情から一変し、怖気づいているように見えた。

車の音が近づく。

タクシーが到着した。

「昨日ぶりですね、今日もあちらへ?」

タクシーが少ないのか、昨日と同じ運転手だった。

「あぁ昨日の、そうですねまた山の前までお願いします」

そうして料金メーターが動き始めた。

「そもそもなんで鳥居だけ残ってるのかな」

蓮子がとっさにそう呟いた。

「鳥居というのは神社の国境みたいなものです」

運転手が答えた。

自分は学生時代に神道について研究していたといい、そのまま説明を続けた。

「神様は鳥居までしか行かれないんですよ。逆に言えば鳥居までの境内や建物は聖域ですね」

「でもなんで建物、ましてや巫女まで消えたんでしょう?」

「それは僕もわかりません、そもそもこの話を聞いたのも前の社長からでしたし」

「結構有名な話なんですか?」

「いや全然、その社長はこの村出身でもう90歳とかで。この話を知っている人ももうほとんどいないって言ってました」

つまり元社長の子供が団塊世代のちょっとはずれぐらいで、過疎化や高齢化が進みこの話も幻想となっていったということだ。

「僕は神道を専攻していましたから社長の話とか凄く好きで、とりわけ社長とは仲良くさせてもらいましたね」

懐かしそうにそう語る。

この運転手も中年では若い部類に入る位の年齢だが、この年代でもこの話を知っている人はほとんどいないという。ましてやこの村出身ではない人は。

 

そんな話をしていると、山の前まで到着した。

運転手は名刺を渡し、困ったときはご連絡ください、といった。

そこにはファントム交通 山仲秋男と書かれていた。

名刺を財布に入れ、2人は山の中へ消えていった。

 

「はあ、はあ、もう何段あるのよここ」

メリーが愚痴をこぼす。

無理もないだろう、真夏に100段以上ある石段を上っているのだから。

「まだ大学の教室のほうがましだね」

蓮子は笑いながらそういう。

北陸の方なので2人の大学のある場所よりは暑くないが、それでも夏は暑い。

またセミの鳴き声が余計に暑さをかき立たせる。

何とか階段を登り切った2人はハンディファンを額に向けながら鳥居を見上げた。

「そういえばこの神社ってなんていう名前なのかしら」

メリーがそう言い見上げると、額束はなくなっていた。

元からなかったというよりは、外れているような感じであった。

「とりあえず鳥居の写真を山仲さんに見せよう」

そういって昨日も撮った鳥居の写真をもう一度取り始める蓮子。

「昨日も撮ったじゃない」

少しあきれ顔をして蓮子を見つめるメリーだが、急に辺りをきょろきょろと見始めた。

「どうかしたの?」

蓮子がそう聞くと

「ここ、やけに静かじゃない?」

言われてみれば確かに。先ほどまではセミの鳴き声でうるさかったこの山だが、登りきるとそのうるささはどこかへ消えてしまった。

変な寒気がした蓮子はメリーの腕にしがみつきながら先に進もうといった。

といっても昨日と変わらず特に何もない広場ですることはなく、少し森に入ってみようと蓮子が提案する。

「ちょっとだけ」

「いやよ。行方不明にはなりたくないもん」

そういって結局石段を下りてきた。

帰りの電車まではまだ時間があるため、蓮子は聞き込みをしようと言った。

山の近くには家がなく、数百メートル離れた先まで歩いた。

そこには談笑している老婆が複数人いた。

「すみません」

「あら、こんな若い子が。観光?」

「観光というか調査というか。私たち大学で向こうの神社跡について調べているんですよ」

「えぇ!?あそこ知ってるの?」

蓮子たちのような観光客が神社跡を訪れることはまずないため、老婆たちは驚いた。

「何か知っていますか?」

「うーん、私のお父さんが私が子供のころ言ってたのはあの場所は呪われているとかでねぇ、子供は絶対に入るなって言われていたけど私はこの人たちと一緒に何回か入ったことがあるわよ」

この老婆集団は子供のころから一緒で、大人になって出て行った人もいるが残ってここに居続けているという。

「呪われているなんて言ってもね、実際そんなこともなかったけどね」

「なんだっけ、なんか戦死した兵隊さんがいるとか」

「あのころは本気で信じていたけどね」

そんな感じて昔を懐かしむ老婆たち。

ただそんな戒めも時代が進むにつれ幻となっていったという。

「私らが小学生の頃に合併したんだよね」

この村は1950年代に合併したらしく、神社の名前もこの村とは関係がないらしい。

またこの村では冬季オリンピックのスキーの会場としても使われて、観光客や移住者も増えたことから神社の話はさらに継承されなくなり、知る人ぞ知る伝説となっているという。

「皆さんはいわゆる団塊世代にあたる方々ですか?」

「少し遅いくらいだね」

「となるとお子さんもこの話は知らないとか?」

「話したことはあるけど何言ってんの?みたいな反応されちゃった」

この村では1960年以降からテレビの普及も進み、昔からの戒めを迷信と思うものも増えてきたという。

またその老婆の子供も村を出て結婚し、村には正月にしか戻らないという。

過疎化が進み、高齢者が増え神社のことも誰も気にしなくなったとのこと。

「そういえば一回あの山の買収の話が出てね。山付近一帯を買い取って夏はゴルフ場、冬はスキー場にするかなんかで。でもその話はいきなりなくなって、聞くとバブルで好調だったその会社が急に倒産したんだって。」

「お父さんがあの山は呪われてるって言ってそれ以降はあの山には誰も営業しに来なくなったって言ってたわ」

父が元々村長をやっていたという老婆がそう語った。

蓮子とメリーがその老婆集団と1時間近く話し、昼時に差し掛かったということもあり解散した。

この村にはもう一度来ると決め、山仲さんのタクシーを呼んだ。

「やっぱりあの神社何かありそうね」

メリーがずっと書いていたメモ帳を見ながらそう言った。

「あの喫茶店で見つけた記事だと神社が消えたのは明治時代に入ってからなんだよね。時代は関係あるのかな」

蓮子がそう言った。

明治といったらやはり日本という国が大きく変わった時代である。

神秘は迷信へ。天皇は現人神。西洋文化が入ってきたこの時代に消えた神社は不都合があったのだろう。

2人が黙り込んで考えていると、タクシーが到着した。

「何かわかりました?」

山仲さんは興味深そうに聞く。

「あの神社跡なんか変な雰囲気だったんですよね。石段を上っているときはセミの鳴き声が凄かったんですけど、鳥居を抜けたらすっかり静かになってしまったんですよ」

「なるほど、なんかここに来るな見たいなことを自然が言ってるみたいですね」

「やめてくださいよ怖いな」

メリーが苦笑いでそう答えた。

 

「到着しました。」

2人の荷物があるコインロッカーに到着した。

そこで2人は荷物を取り出し、再びタクシーに乗った。

「また来られますか?」

「そうですね。また予定たてて伺いたいと思ってます。その時はまたよろしくお願いします」

「おーありがとうございます」

そうしてタクシーは駅に到着した。

料金を支払い山仲さんと別れ、2人は帰りの電車に向かった。

ローカル線を乗り継ぎ、特急列車で2人の住まう町へ向かう。

如何せん夏の新幹線は混んでいて、急な旅だったので席もとれずやむなく特急列車に乗った2人だが、景色を見るその横顔は満足そうにも見えた。

 

 

 




Yo yo! 如何せん 新幹線
どうもラッパーです。
今回は結構長めだった印象です。あと会話文が多くなりました。結構今回の話で舞台となっている村の名前がわかった方も多いかもしれません。(特に東方ファンなら)
地名を出していないのはちょっと物語が現実的に見えてしまうからです。東京人の私からしたら今回舞台として扱っている場所はどこも行ったことがなく、方言や風土など何もわからないので(場所については調べてます)、地名は出さないようにしています。
次章もぜひ見てください!!
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