今回はキキョウです。
普段通りの注意事項ですが
お読みいただいた方からどうぞ
お楽しみください。
注意事項は最初のお話に記載してあります。
まだリクエストの方は受け付けておりますので
「このキャラが見たい」などありましたら
私の書きたいと思う範囲で書かせていただきます。
現在は、「アキラ」「ホシノ」の順での
更新を予定しております。
黒猫と義足先生
先生「…」
タイピングの音が、部屋に響く。
数こそ不規則であれど一定のリズムで
乾いた打鍵音が流れていく。
先生「…」
その中に混ざって時折、何かが
擦れるような音がする。
視界の端に黒いモノがゆらゆら揺れている。
膝の上に、何となく暖かさを感じる。
キキョウ「…」
彼女が私の膝の上で、本を読んでいる。
わざわざこのためにデスクの椅子を
どかしてソファを運んだが、なかなか
思い切った行動だった。
視界の端で揺れていた彼女の尻尾は、
キーボードを叩く私の手を遮るように
立ち塞がり、もう一方は腕に巻き付いていた。
キキョウ「…先生、そろそろ休憩しない?」
先生「もうそんな時間か…」
キキョウ「先生、ずっと仕事詰めね」
先生「まぁね、手伝ってもらったけど
一応チェックはしておかないと」
キキョウ「ふーん…」
先生「ありがとうね、君のおかげで
いつもよりかは早く進んでるよ」
キキョウ「ん…」
先生が私の頭を撫でる。
暖かい、髪の流れに沿って撫でてくれる。
心地いい、ここならあなたの体温が分かる。
キキョウ「…先生、君じゃなくてキキョウ」
先生「ごめんね、キキョウ」
キキョウ「撫でてくれたら許してあげる」
先生「…お茶でも淹れてくるよ」
キキョウ「…わかった」
はぐらかされたような気がするけれど、
先生が立つのに合わせて立ち上がる。
彼に私の尾を巻きつけたままで。
先生「…えっと…キキョウ?」
キキョウ「なぁに?」
先生「離して欲しいんだけど…」
キキョウ「だめ、体温の伝わる距離にいて」
先生「…危ないかもしれないから気をつけてね」
尻尾は離さない、離したくない、離せば私は
凍えてしまう。だから片腕に巻きつけたまま、
お湯を沸かしている彼の横に寄り添う。
多分、先生と出会った時の私なら
「反吐が出る」だとか言うのかもしれない。
けれど彼の体温は手放せない。
先生「キキョウ、お茶っ葉取って」
キキョウ「はい」
お湯が沸くまでの間、先生と普段通りの雑談をする。
この時間が一番楽しい。先生はこういう平和な話を
する時が一番いい顔をする。
先生「ほら、キキョウ。動くよ」
キキョウ「ええ」
2人でそれぞれのコップを手に
デスクへと戻っていく。
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先生「…」
キキョウ「…」
休憩を終えて先生はまた、私の揃えた資料の
最終確認をしている。部屋は飲んでいた
お茶の匂いとタイピングの音、すぐ隣の先生の
匂いに満たされていた。
私はといえば本も読み尽くして、腕に尾を
絡めてあやとりで暇を潰していた。
先生「…あの、キキョウ」
キキョウ「なに?」
先生「…離してくれない?」
キキョウ「どうして?」
先生「…あの…お手洗いに…」
キキョウ「…」
流石に先生のトイレについていくわけには
いかず絡めた尾を解いて、さっきまで先生の
座っていた場所に身体を寄せる。
キキョウ「…早く帰ってきて」
先生「はい…」
さっきまで先生が座っていたからか
少し匂いが濃い。温もりもまだ感じられる。
キキョウ「…」スンスン…
ーーーーーーーーーーーーーーー
しばらくして、トイレのドアに手が掛かる音で
ハッと顔を上げる。少しの間の記憶が曖昧だが
まあどうでもいいだろう。
先生「キキョウ?」
キキョウ「なに?」
先生「何かしてなかった?」
キキョウ「あんたには関係ないでしょ?」
先生「いやまぁ…そうね」
半ば八つ当たりに近い形で慌てて
取り繕う。先生がこちらへ歩いてくる。
私はまた先生の体温にありつくために
先生のための座る場所を確保する。
キキョウ「先生、はいここ」
先生「うん?」
キキョウ「隣に座って、また仕事
するんでしょう?」
先生「まあね」
先生がこちらへ歩いてくる。
もう少しでまた体温を感じられる。
今のうちに新しい本を取りに行こう。
私が一度立ち上がった時だった。
カチャン……
何か乾いた、高い音がした。
何かデスクから落としたのか?
私は足元を見た。
キキョウ「何か…?」
ガチャガチャガチャガチャ!ドダンッ!
キキョウ「!?」
先生の方から無数の音の塊が流れ込んで来る。
いつだったか後輩が弾薬箱を落とした時に似た
金属が床に散らばるような音。
先生の方を振り返っても先生がいない。
さっきまでそこにいたはずなのに。
キキョウ「先生!」
慌てて先生の居た場所が視界に入るように
デスクを回り込んで先生を視界に入れる。
キキョウ「先っ…!!」
先生「あぁ…いてて……あっ…キキョウ…」
キキョウ「先…いや…あ……それ……は?」
明らかに今の私は冷静じゃない。
瞳孔が開いて少しでも情報を得ようと
視点が震える。足が震えて地面に立っている
感覚が失われていく。
目と対照的に耳は音を拾わずに閉じていく。
キキョウ「先生……せんせい……!」
先生「キキョウ、落ち着いて」
先生が何か言っているが聞こえない。
聞こうとして、手を伸ばそうとして、
私は膝から崩れた。
彼から漏れ出してしまったような、
まるで温度を感じない、鉄屑の海の中に。
ーーーーーーーーーーーーーーー
キキョウ「先生っ!!」
飛び起きた。
日が沈んですっかり暗くなっている。
キキョウ「…っ…ふーっ…ふーっ…」
呼吸が荒く、寝汗がひどい。
そもそもここはどこだろうか。
ベッドの上で寝かされていたらしいが、
どこか嗅ぎ慣れた匂いがする。
ドアは開いているらしく、ノブに手をかけ
押し開いた。
先生「…あ!キキョウ!」
キキョウ「先せ……ひゅっ!」
先生は、足の整備をしていた。
綺麗に並べられた彼の足の部品たちが
スタンドライトを反射して煌めいていた。
だがその煌めきが私を刺すようで
私には痛々しい光にしか見えなかった。
気を失う前に見た光景がフラッシュバック
して、また気が遠くなる。
先生「ごめんキキョウ!今片付けるから!」
先生は片側の中身が抜けたズボンと
生きた足で慌てて部品を隠しだした。
キキョウ「…ねぇあんた…いつから…」
先生「……初めから…来た時からだよ」
キキョウ「…そう」
心当たりがないわけではない。
ずっと違和感はあったのだ。
膝に乗った時のわずかな感触の違い。
膝の上で本を読んでいた時の温度の差。
それが肉とシリコンの差だとしても、
それが体温と温度調節機能の差だとしても、
私はそれを簡単に受け入れるわけには
いかなかった。否、信じたくなかったのだ。
キキョウ「……先生…」
先生「なに?」
キキョウ「…私から…離れないで…」
先生「…」
キキョウ「…私を…離さないで…」
先生「…」
キキョウ「…私が…先生を…守るから…」
先生「…キキョウ…」
キキョウ「もう誰にも…傷つけさせない」
いつの間にか私は先生に抱きついて、
体温を感じているのに震えて、寒い身体で
決意した。これ以上この人からは
何も奪わせない。
私が、作戦参謀として、先生を守る。
ーーーーーーーーーーーーーーー
先生「…」
キキョウ「…」
レンゲ「…」
デパートに買い物に来たが…なんとも
言い難い重々しい雰囲気を漂わせている3人。
レンゲはともかくキキョウは辺りに殺気を
放ちながら銃を手に持ち歩いている。
レンゲ「…その…キキョウ?」
キキョウ「なに」
レンゲ「いくら何でも殺気出し過ぎじゃ…」
キキョウ「…それもそうね…」
先生「…」
レンゲば先生が義足だとは知らない。
ただ気まぐれの護衛と称してついてきて
もらっただけだからだ。
レンゲ「…一体何だってそんなに」
……キュラキュラキュラキュラ…
キキョウ「なに?」
レンゲ「ん?」
先生「何の音?」
ギュルギュルギュルギュルドガァァ!!
その時だった。デパートの横を装甲戦車が
突き破って現れた。
モブA「あはは!このデパートは私たちが
占拠する!全員突撃!」
その号令と共に、無数の不良生徒が傾れ込む。
ドォンッ!
手当たり次第に砲撃や射撃が始まり、
周辺はは騒然とした。
レンゲ「キキョウ!応戦しないと!」
キキョウ「…」
先生「キキョウ?」
まずい、先生が危ない、この砲撃、銃撃に
巻き込まれればひとたまりもない。
いやだ、うしないたくない、はなしたくない。
そう思った時、身体は動き出した。
ガッ!
先生「ぐっ!?」
レンゲ「キキョウ!?」
キキョウ「はあっ…!はあっ…!っはあっ…!」
先生の声も聞かずに先生を掴んで走り出す。
なるべく遠くへ、身を隠せる場所へ、
一般人がどうなろうと構わない。
レンゲはついてきている。
私は先生を守らないと、私は先生を、
あなたを失いたくない。
しばらく走って、息がとっくに上がっていた
ことに気づいて立ち止まった。
キキョウ「…はぁ……はぁ……」
先生「…ふー……ふー……」
レンゲ「…っはぁ…はぁ…」
3人それぞれ肩で息をして、着いた先は
裏口だった。
キキョウ「先生、ここから外に行こう」
先生「でも、一般の人たちが」
キキョウ「いいから!!」
レンゲ「キキョウ…」
キキョウ「私はあんたに死なれたくない!」
先生「…わかった」
恫喝と言える。怒号で先生を黙らせて、
裏口のドアから先生を出す。
これで先生は助かる。まずここで
怪我をすることはない。
あとはシャーレに送り届けるだけだ。
帰ったらまたお茶を飲んで、撫でてもらおう。
ドン!パパパパァンッ!
背後で音がした。鳴るはずの無い。
いま一番鳴ってほしくない音が。
ドシャッ…カチャカチャカチャカチャ……
続いて湿った音と何かが散らばる音。
ああ、迂闊だった。参謀ともあろう私が。
キキョウ「あぁ….………」
レンゲ「何!?」
レンゲより先にそれを見た私は理解した。
壁の影に消えた先生はもう息をしていない。
ドアの外、すぐ横に仕掛けられていたもの。
残骸を見るまでもなく音で。
わかってしまった。特有の破裂音の後の
連続音。クレイモア地雷。
ヘイローのある私たちは痛い程度だろう。
だが先生は、生身の、あまりに脆い、人間だ。
キキョウ「あ………あぁ…あ………」
レンゲ「キキョウ!?おいキキョウどうし」
レンゲもそれを見た。
バラバラになって、唯一生身でない義足だけが
かろうじて原型を留めていた。
レンゲ「…なっ……あいつらァ!!!!」
レンゲは激怒し不良の元へ駆けて行く。
今までに見たこともない速さで。
キキョウ「…」
私は彼から流れたものを意に介さずにその場に
膝をつく。
キキョウ「…ねぇ……あんた…起きなよ…」
当然返事はない。もうバラバラだ。
キキョウ「…寒いから……温めてよ……」
もう冷えてしまった彼の肉と液体。
キキョウ「離さないでって……
勝手に遠くに行かないでって……」
違う。行かせたのは私だ。
キキョウ「……先生……おきてよぉ……」
もう動かない、温かくもない、鋭く冷えた、
彼の義足を抱いた。
ただ硬いだけ、ただ冷たいだけのそれを。
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次に起きた時、私は自室にいた。
目を覚まして一番に行ったのは、
シャーレだった。彼のいた部屋へ。
夢じゃないかと、まだいるんじゃないかと。
キキョウ「……先生」
静かにドアを開く。ただ静かな部屋が
出迎えた。何人か生徒が来たのだろう。
部屋は綺麗に整っていた。
彼の私物を全て残した上で。
キキョウ「…」
私はキッチンの棚の中から、彼のコップを
取り出してみた。無数にあるコップの中で唯一
彼専用の、彼のお気に入りのコップ。
お茶っ葉も普段通りの場所に置いてある。
私は彼のコップを戻して、私のコップにお茶を注いだ。
キキョウ「……」
デスクにお茶を置いて、ソファに座る。
キキョウ「……冷たいし…固いのね…」
ソファはいつもと変わらないはずなのに、
私を優しく出迎えてはくれない。
彼がいないだけでここまで変わるものかと。
痛々しく、あまりにも残酷に突きつけられる。
私のコップだけに注いだお茶はもう冷めてしまった。
キキョウ「………せんせい…かえってきてよ…」
黒猫が1匹、もう主人の帰らないソファの上、
ただ孤独に丸まって、寒さに震えていた。
まさかここまで続くとは思っておりません
でした第三弾
一ページ目にも書いた通り第四第五段までは
決まっておりますのでどうか気長にお待ちください。