異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について   作: ころっくー

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第11話

 近付いては距離を取られる。

 これを何度も繰り返した後、カイトの「絶対に殺したりしませんから!」という叫びに、漸く観念した少女が涙目でカイトを見上げ彼がそれに何度も頷いた事で終わりを迎えた。

 恐る恐ると立ち上がった少女に命乞いの訳を聞けば、

 

「魔力与えてボンとか普通に怖いでしょうがッ!」

 

 との怒号。

 それに対してカイトが「そんな事しませんよっ……多分」と尻すぼみに呟けば、少女が再び悲鳴を上げて距離を取り土下座を敢行するという一幕もあった。

 カイトとて、どうすればキマラを消し飛ばしたあの現象を起こせるのか分からなかったから、どうすればあの現象が起こらないのかが分からなかったからこそ、多分という曖昧さを設けるしか無かった。

 その様な一幕も過ぎ、立ち上がって膝元を払いながら少女が口を開く。

 

「勝手に魔力渡して生殺与奪の権を握るとか……見かけによらず中々の鬼畜だよね、君」

 

 じとっとした半目で見上げながら呟いた少女に、カイトは顔を合わせる事が出来ない。

 少女が抱いた恐怖は、至極単純だった。

 

「接触した相手に魔力を送って破裂させるとか聞いたら、誰だって逃げるでしょ……!」

 

 既に魔力送られてるっぽいしさ。そう続けられた言葉に、カイトもまた目を逸らし続ける。

 カイトが話した内容。

 それは謎の電子音が彼の頭の中で言っていた言葉だった。

 ――不要となる外部魔力及び既存の不随意魔力を、接触している対象へと提供し排出します。

 何気無しに起こった事実を伝えたつもりだったが、受け手たる少女の印象は大きく異なった。

 接触したキマラに魔力を提供して、木端微塵に消し飛ばした。

 そう受け取らざるを得ず、同時に自身へと提供された魔力の存在を思い出したのだ。

 故に、既に魔力を提供されている自分にカイトが触れれば、キマラと同じ道を辿ってしまう。

 思考回路がその未来に定まり、先の命乞いへと発展したのだ。

 だが、自身の土下座を必死に止めようとするカイト、その言葉の端々から感じる殺さない、そんな事はしないという言葉が徐々に真実なのではないかという受け止めをする様になった少女は、命乞いをやめてこの様にカイトと話す事を選んだのだった。

 気まずげに目を逸らしながら少女を視界に収めるカイトよりも、半目で睨みながらも自身の生存を優先する彼女の方が頭の回りが速い。

 沈黙を割く様に、カイトへと口を開いた。

 

「……そんで、魔力を提供しても破裂させない方法は分かるの?」

 

 少女の言葉、それに対してカイトは首を横に振る。

 

「……分からない、です。そもそも魔力の提供の仕方も分からないっていうか」

 

 尻下がりの音量で返したカイトに、少女が目を細める。

 

「分かんないなら、あたしに危険な力使わないでよ……」

 

「そ、それは……」

 

 少女の言葉に言い返そうとしたカイトだったが、それ以上は続かなかった。

 どうやって目の前の少女へと魔力を提供したのかは分からない。

 どうやって目の前の少女に魔力を提供出来たのかは分からない。

 どうしたら、キマラの様に相手を破裂させてしまうのか分からない。

 だが少女の言葉を正とすれば、カイトが少女へと魔力を送ったのは事実。

 ならば彼女は一方的に、許可なくカイトから魔力を送り付けられたという事。

 だからこそ迷惑を掛けてしまったという罪悪感から、カイトは言い返す事が出来なかったのだ。

 カイトの様子を見ていた少女が、何度目かの溜息を吐く。

 そして口を開いた。

 

「……全く。あたしの命も関わってる訳だし、めんどくさいけど君のスキルを解明しないとね」

 

 少女が発した言葉に、カイトは顔を向ける。

 自身のスキルの解明を手伝う。

 思いもよらない申し出に、反応してしまったのだ。

 その様子に、再びの溜息を吐いた少女。

 

「……とりあえず、君が主体的にやってくれないと進まないから、オドオドしてないでちゃんとしてよ」

 

「ご、ごめん」

 

 睨む少女に謝罪をするカイトだったが、相手の目が更に細められた事で最後まで言い切れなかった。

 カイトに会ってから何度目ともなるため息が、少女の口から漏れた。

 

「他の人には別に良いけど、あたしにはそんな態度しないで。ウザいから」

 

 その言葉に、カイトの肩が震える。

 ウザい。

 この言葉がカイトの中で、本人すら想像していない以上に、彼の心の中に強く残った。

 

「わ、分かり、ました」

 

 どもりながらも告げたカイトの言葉は、まるで彼の精神から絞り出す様に語尾を強くした。

 暫く目を細めていた少女だったが、カイトの言葉を受けて漸く戻す。

 

「そんじゃ、まずは君の魔力がちゃんとあるか確かめてみようよ」

 

 少女の言葉に、カイトは頷きを返す。

 だが、動き出す事は出来なかった。

 やや静寂が流れ、カイトが静かに口を開く。

 

「……ど、どうすれば良いですかね?」

 

 情けなく少女へと告げたカイトに、溜息が返された。

 

「何か魔法とか使ってみれば?」

 

 少女の発した内容を、カイトは自身の中で噛み砕いた。

 そして思い出す自身の記憶。

 

「……魔法って、どうやって使えば良いんでしょうか……?」

 

「……は?」

 

 呟く様に告げたカイトに、少女が呆けた様な声を漏らす。

 少女にとってカイトの言葉は、余りにも予想外過ぎたのだ。

 目の前の少年が幼少の頃合いならば理解出来た。

 だが少年と青年の中間とも思える人物から、そんな言葉が出てるのが予想出来なかったからだ。

 誰しもが魔力を持って生まれ、魔力の差はあれども年を経るにつれて自然と自分の魔力の使い方は自然と身に付けていくのだから。

 そうでなければ日常で、身の回りの生活をサポートしてくれる魔道具へと魔力を通して動かす事が出来ないのだから。

 大それた魔法は使えずとも、何かしらの魔法は使えて然るべきなのだから。

 しかし少女は思い出した。

 先程、カイトが言っていた言葉を。

 生まれつき魔力が無かった。

 笑い飛ばした彼の言葉を、少女は思い出したのだ。

 

「……もしかして、ほんとに魔力が無かったの?」

 

 少女の言葉に、カイトが悲し気な表情で頷く。

 

「……はい、出生鑑定で魔力無しって言われまして」

 

「ふーん」

 

 申し訳無さを孕んだ表情で告げたカイトに、少女はどこか興味無さげな口調で相槌を返した。

 少女も出生鑑定については知識を有していた。

 誰しもが成長に伴い潜在的な魔力量も伸びていく。

 そして神父となる物は必ず鑑定のスキルを持っており、対象の魔力量及びスキルの確認が行える。

 故に出生時に魔力を測定し基準となる魔力量を知る事で、その後どの程度伸びしろがあるのか判断出来るのだ。

 それはこの世界における常識。

 だからこそ、出生鑑定で告げられた内容は信用に足るもの。

 だが少女は、その常識に初めて異の感想を抱いた。

 

「でもやっぱ、君が魔力無いなんて信じられないんだよねー」

 

「え?」

 

 呆けた表情に変わったカイトへと、少女は自身の考えを離す。

 

「あたしの魔力が回復したのは本当だし、君が魔力を持ってないならそんな事は出来ないでしょ?」

 

 少女の言葉に、やや間を空けてカイトが頷く。

 それはカイト自身が、この少女と会話をした事で抱いた疑問でもあったからだ。

 

「だから、もしかしたら何かの理由で出生鑑定が正しく出来なかったって可能性もありそうだね」

 

 カイトの表情が、少女の話した内容で驚きへと変わる。

 それは彼にとって青天の霹靂であり、今まで考えた事の無かった意見だった。

 だがそれでも、カイトには自身が魔力無しという根拠もあったのだ。

 

「で、でも、今まで色んな魔法を試したりスキルを使える様に色々やってみましたが、全部上手くいかなかったんですよ……?」

 

 カイトの言葉に、少女が僅かに首を傾げる。

 

「んー、あたしも自信を持って言ってる訳じゃないからそもそも合ってるかも分かんないしねぇ」

 

 そう呟いた少女の言葉を最後に、暫くの沈黙が流れた。

 カイトの中で徐々に、自身の中で解放されたというスキルが結局使えないのではないかという思いが広がっていく。

 そもそも頭の中に流れた謎の電子音が言っていた内容が正しいのかすら、彼の中では疑心を産み始めていたのだ。

 カイトの前世での記憶、サブカルチャーの知識を用いればあの様な事象が訪れた場合、そのキャラクターは覚醒して無類の強さを誇る様になったり、幾重もの力を容易に扱える様になる。

 だがカイトにはその様な気配が全く無かったのだ。

 故に、そんな展開にはならないのではないか。

 結局魔力もスキルも使えないのではないかという思いが、カイトの中で強まっていく。

 覚醒したとするならば今、様々な力が使える様になっていてもおかしくない。

 だからこそ、現時点で何も変わっていない状況に、絶望と無力感が心境を支配していた。

 自分は結局、無力のままに迷惑を掛けながらこの世界を生きていくしかないのかもしれない。

 負の思考へと導かれるカイト。

 そこに、少女の声が届く。

 

「君の方は分かんないから一旦置いといて、とりあえずあたしの方で出来る事やってみよっか」

 

 カイトが意識を少女へと向ければ、平常といった様相で佇む少女の姿。

 数歩下がりカイトから距離を空けながら、少女が言葉を続ける。

 

「君のスキル、"魔力提供"だっけ? それがあたしの中でどうなってるか確かめないといけないし」

 

 危ないから動かないでね、そう告げた少女が呆然と立ち呆けるカイトを他所に腕を動かす。

 右脚を後ろに下げて視線の先へと半身を向けて正対する。

 左腕を前に伸ばし、握った拳の内で人差し指だけを前へと伸ばした。

 そして右腕を曲げて後ろに下げ、拳の高さが左手と合わせた状態で動きを止める。

 少女の姿を漠然と見つめるカイトの脳内に、一つの言葉が浮かぶ。

 弓道。

 そのスポーツに対して然程知識が無いカイトだが、少女の立ち姿は彼がイメージする弓を持ち矢を射る姿に酷似して見えた。

 だがその手には弓も矢も見当たらない。

 只々パントマイムの様に構える少女を、カイトは呆然と見つめる事しか出来なかった。

 

「――ウインドアロー」

 

 呟かれた少女の言葉。

 その瞬間、少女が構える右手から左手の上に、薄緑色の風の奔流が姿を現す。

 細く長いその風が、カイトの目にはまるで矢の様に思えた。

 少女が、握っていた右手を開く。

 同時に彼女の前に留まっていた薄緑色の風が、視認すら難しい速度でその形状を保ったままに少女の元から飛び出す。

 そして彼女の視線の先に映る森へと向かい、その中にあった一本の木へと刺さり粉砕させた。

 その光景を只、驚きを持って見る事しか出来ないカイト。

 彼の姿を見る事無く、少女は再び構え直した。

 再び呟かれる、ウインドアロー。

 そして再び開かれた右手に合わせて薄緑色の風が射出され、先程粉砕された木の隣に立つ木を粉砕した。

 それを少女は淡々と繰り返していく。

 やがて数分の時が経ち、少女が静かに構えを解いた。

 ゆっくりと、その身体をカイトへと向ける。

 呆然とその姿を視界に映すカイトと、やがて目が合った。

 僅かな沈黙。

 何を言ったら良いか分からずに黙るカイト、微かに俯きながら言葉を発しない少女。

 やがて、その沈黙が破られたのだった。

 

「…………すっご!」

 

「え?」

 

 突如大声を上げた少女に、思わず肩を震わせながら驚いたカイトが声を漏らす。

 顔を上げた少女が、カイトへと向く。

 そこには笑みが貼り付けられており、少女の感情を容易に表わしていた。

 

「減らない! 全然減らないよっ! いつもなら魔力が無くなるくらい撃ったのに全然疲れないもん!」

 

 喜び、楽しさ。それらを前面に出した表情と声色が、カイトへと届く。

 だがその受け手たるカイトの心境は、困惑。

 少女が喜んでいる意味が、彼にはまるで分からなかった。

 そんなカイトに構わず、少女が続ける。

 

「君のスキルってもしかしたら、かなりスゴイんじゃない!? "魔力提供"って、ずっと魔力を提供し続けるスキルだったらかなり強力だよ!」

 

 その言葉に、カイトの思考が徐々に追い付き始める。

 少女が言い放った内容。

 

「……魔力が、減らない……提供、し続ける」

 

 確認する様に、カイトが呟く。

 少女の反応から、それが嘘だとはカイトには思えなかった。

 だからこそ彼女の言葉が、カイトの中で現実味を帯び、具体的なものとなっていく。

 自分には魔力があり、その魔力を他者に提供する事が出来る。

 そして接触した時だけでなく、離れたその後も提供し続ける。

 魔力を回復させる方法は通常、休息しかない。

 ヒールの様な回復魔法やポーションといった回復アイテムは、肉体の疲労や損傷を治す事は出来るが、失った魔力を回復させる事は出来ないのだ。

 だからこそ少女の喜びようとその言葉から、カイト自身でもこの力を自覚するにつれて、暗闇に覆われていた心に小さな光が現れ始めた。

 

「全然疲れてる風には見えないけど、君は疲労感とか無いの?」

 

 少女からの問い掛けに、カイトの思考が現実に戻る。

 

「は、はい。特に疲れは無い、です」

 

 自身の状態を確認しながら少女へと言葉を返せば、少女の目が驚きに開かれた。

 そして少女の中では、一つの仮説が生まれる。

 魔力が尽きてもおかしくない程に魔法を使ったにも関わらず、自身の魔力が尽きる様子が無い。

 そして減らない魔力の提供元と考えられる目の前の少年は、全く疲れた様子を見せない。

 そこから導き出された仮説。

 

「もしかしたら君の"魔力無限"のスキルって、本当に魔力が無限にあるか、無限に思えるくらい膨大な量なのかもしれないね」

 

 カイトへと告げた少女の表情は、笑み。

 それは決して馬鹿にした様な印象は無く、寧ろどこか見直したかの様な雰囲気を出していた。

 少女自身がありえないと言い捨てた仮説が、もしかしたら事実なのかもしれない。

 そんな感想を抱いたからこそ少女は、カイトに対する印象を僅かに変えたのだった。

 だが少女の様子を伺う余裕が、カイトには無かった。

 彼女から告げられた内容が、余りにも衝撃的だったから。

 検討の余地すら無かった"魔力無限"のスキルが、判明したのかもしれないのだから。

 魔力無限。魔力が無限。

 名前から、カイトもある程度想像は出来ていたが、実感が無かった故にそうだとは思えていなかった。

 しかし少女の言葉から、正にその通りなのではとも思えてしまったから。

 だが、そうだと認識した際に、先の光景を思い出したカイトの心に不安が過る。

 しかしそれは、

 

「じゃ、とりあえず大丈夫って分かったから帰るねー」

 

 そう告げた少女の言葉で、脳裏へと追いやられたのだった。

 

「え」

 

 思わず言葉を漏らしたカイト。

 彼の中ではこのまま、自身のスキルをもっと詳しく検証してくれるものだと思っていた。

 だが少女は、帰ると言ったのだ。

 その事実につい、呆けてしまった。

 

「――ウインドインビジブル」

 

 少女が呟く。

 その瞬間、少女の身体を薄緑色の風が覆い尽くした。

 そしてその風が弱まった時、少女の姿が消えたのだった。

 眼前の光景を、驚愕した眼差しで見つめるカイト。

 まるで瞬間移動の様に、突如少女が消えたのだ。

 

「魔力ありがと!」

 

 じゃあねー。急にカイトの目の前から声が聴こえた。

 

「え!?」

 

 それに驚きの声を上げたカイトだったが、同時に何かが地面を蹴った様な音がしてそれ以降は何も声が聴こえなくなった。

 微かな風が流れる音だけがカイトの耳に届く。

 それ以外が静寂となり、そこで漸く少女が去ったのだとカイトは理解出来た。

 どこか僅かな寂しさが、カイトの胸中に広がる。

 けれど同時に、別の考えが浮かび始めた。

 それは、自分を責める考え。

 少女に自分のスキルを解明して貰えると、そう考えていた自分に対して。

 他力本願でいた自分に気付き、それに嫌気がさしたのだった。

 自分の事なのに、あの少女に全てを任せようとしていた。

 どこまで甘い人間なのか。

 その思いがカイトの中で強まり、自分を責め続ける。

 自分の事なのだから、自分でやらなければ。

 彼女に迷惑を掛けるつもりでいた自分が、本当に嫌になる。

 

「……自分で調べなきゃ駄目だ」

 

 カイトは、一人呟く。

 有言実行。

 他の人に甘える自分を捨てられる様に、口に出した。

 甘える資格は無いのだから、甘えるな。

 そう心の中で強く思い込ませる。

 自分で出来る事を全てやって、自身のスキルを把握するしかない。

 そう心を切り替え、何が出来るのかとスキル把握に繋がる手段を検討していく。

 一人でどこまで出来るか分からないが、一人で出来る事はしていこう。

 その時だった。

 

「このぉ、裏切り者ぉぉぉぉ……!」

 

「……え?」

 

 不意に聴こえた声に、カイトが顔を向けた。

 そこには、

 

「急に魔力の提供やめやがってぇぇぇぇっ……!」

 

 大量の汗を流しながら疲労困憊といった様相でふらつきながら歩いてくる、先程姿を消した少女の姿があった。

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