異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について   作: ころっくー

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第12話

 呆けた表情で佇むカイトの下に、息も絶え絶えといった様子で辿り着いた少女。

 膝に手を乗せて上体を倒しながら荒く肩で呼吸をしている。

 そんな少女を、只見ている事しか出来ないカイト。

 何故少女が戻って来たのか、何故少女に悪態を吐かれているのか理解に苦しむカイトが言える事は何も無かった。

 少女の激しい呼吸音だけが辺りに響く。

 やがて微かに落ち着きを見せて来た少女が、漸く顔を上げたのだった。

 

「……見えなく、なった……とこで、まりょ、く……消す、とか……この、きち、くっ……!」

 

 呼吸の間に何とか言葉を連ねた少女。

 未だに回復しきっていない体力だが、睨み付ける視線だけは強く、カイトは驚きを伴いつつ僅かに身体を引いてしまう。

 そして何とか、少女に対して口を開く。

 

「い、いや、その……特に何もしてない、です」

 

 しどろもどろといった口調で返したカイトだったが、少女の目付きは変わらない。

 

「うそっ……絶対に、嘘! 君が何かしないと、急に魔力無くなる、なんて……ない、もんっ!」

 

 カイトへと再び非難の声を上げた後に「ううー」という様な呻き声を上げながら俯いたのだった。

 

「このままじゃ魔力も体力も無くて帰れないよぉ……どうしよー……」

 

 困り果てた様な声色で独り言ちる少女。

 その姿にカイトは、徐々に罪悪感が湧き上がってくる。

 何か自分が行った事実は無い。

 けれども、困っているのならば助けにはなりたい。

 そんな思いを抱きながら、カイトが声をかける。

 

「……あ、あの。俺がまた、魔力を提供してみるとか」

 

 遠慮がちに問い掛けた言葉は、

 

「それだッ!」

 

 勢い良く顔を上げて叫んだ少女により、最後まで言う事が出来なかった。

 突然の少女の声量にカイトの肩が驚きで震える。

 

「そうだよ! また君があたしに魔力を提供すればそれで解決じゃん!」

 

 そう言って、カイトの様子を意に介さない少女が、気付きを得た様に顔を上げた。

 

「……いや、待って」

 

 だがすぐに、訝しんだ表情へと変わる。

 

「もしまた魔力を提供されても、さっきみたいに途中で止められちゃ結局変わらない……」

 

「いや、別に止めた訳じゃ」

 

 一人呟く少女に、カイトの言葉は届かない。

 少女が再びカイトを睨み付ける。

 

「分かった! あたしに魔力渡して離れたら止めて、つまりあたしを君から離れられなくするのが目的だなっ!」

 

 この鬼畜っ、どうやら結論付けたらしい少女はカイトへと非難の言葉を送る。

 それに再び驚きを示したカイト。

 

「ち、違います! そんな事全然考えてませんから!」

 

 慌てて反論するカイトだったが、少女からの半目は変わらない。

 

「怪しいなぁ……口では何とでも言えるからね」

 

 そう言われたカイトは、只々首を思い切り横に振る事しか出来なかった。

 じとっとした視線を送っていた少女だったが、何かに気付いた様に表情を変える。

 

「あ! もしかして次は魔力を提供するフリして、キマラみたくあたしを破裂させる気じゃ……!」

 

「しませんよ! そんな事!」

 

 少女の言葉にカイトが慌てて言葉を返すが、少女は両腕で自身を抱きながらカイトを睨みつつ距離を取る。

 少女の中では先程見たキマラの最期が浮かんでいたのだった。

 

「まさかこのあたしが、こんな鬼畜の罠にかかるなんてッ……!」

 

 これからの未来を想像し、身体を震わせる少女。

 だが、カイトを睨み付ける事だけはやめない。

 体力も削られており魔力も空、そんな少女に残された最後の矜持だった。

 

「破裂させられたくなかったら俺の言う事を聞けってこと……!」

 

「だから何もしませんよ!」

 

「どうせあたしにあんな事やこんな事するつもりなんでしょ!? 噂に聞くエロ盗賊みたいにっ!」

 

「あーもう! 全部思い違いですって!」

 

 自身の言葉を一顧だにしない少女に、カイトは自身の頭を乱暴に掻き回す。

 何を言っても通じない、信じて貰えない。

 そのジレンマが、カイトの中で爆発しそうになっていた。

 だが、それでも理性だけでなく、もう一つの理由から爆発する事は無かったのだ。

 睨み付ける少女が、静かに口を開く。

 

「……じゃあ、どうするつもりなの?」

 

 警戒はあれど、幾分か落ち着いた声色の少女に、カイトはここで流れを変えるべく言葉を返した。

 

「ですから……魔力を提供して、動ける様になれば」

 

 そこに少女が言葉を遮る。

 

「どうやって、魔力を渡すの?」

 

 その言葉に、カイトは魔力の提供の仕方を思い返しながら口を開いた。

 

「……さっきやったみたいに手で触れればきっと」

 

 だが再び、少女によって遮られた。

 

「あたしが破裂しない保証は?」

 

「……」

 

「ほらぁ! やっぱりそうじゃん! あたしを破裂させない代わりに身体を好きにさせろって事だぁっ!」

 

 答えに窮したカイトに、少女が再び声を荒げる。

 

「そ、そんなつもりは無いですって!」

 

 反論するカイトだが、少女は既に聞く耳を持たない。

 

「気弱そうな顔しながら、実は鬼畜な男だったなんて……! 人を見る目はあると思ってたのに、まさかこんな事になるなんて……!」

 

 そう言って少女の目から大量の涙が流れる。

 

「今まで何も悪い事してないのに、こんな事になるなんてあんまりだよぉ……」

 

 悲しみに暮れる少女の姿に、カイトの心が痛んだ。

 自分と会って、悲しまれている。

 それはつまりこの少女は、カイトを見てマイナスに感じたという事。

 自分を見てもマイナスにならない、そんな大人なる。

 それが叶わなかったという事実。

 カイトにとって弱い大人。弱い大人でも出来る事が、出来なかったと思い至ったから。

 だからこそ、目の前の少女の涙がカイトの中で強く印象に残る。

 そしてこの光景が、自身を奮い立たせてくれたあの幼い子供の未来として想像してしまい、心の痛みが強さを増していく。

 自分に絶望し、無力感に苛まれ、挫折の様な思いを抱く。

 カイトがジレンマを爆発させなかった理由。

 それは理性だけでなく、自分の魔力やスキルの使い方が分からないから、という事もあったのだ。

 どうすれば確実に魔力を提供でき、キマラの様な破裂を行わせずに済むのか、理解出来ていなかったから。

 だがかこそ確定的な事は何も言えず、抽象的な事しか述べられない。

 そんな負い目があったからこそ、心の中に抱えるジレンマを外に出す事は無かったのだった。

 少女が泣く姿を見つめる。

 何も出来ない自分。

 だが徐々に、その心境が変化を始めた。

 目の前の少女の不幸を、何とかしたい。

 けれど自分だけでは解決の見込みが見えない。

 ならば恥を忍んで、少女に協力を仰げないか。

 自分のスキルを把握する為に、少女の力になれる様に。

 そこまで考えたカイトは、ある事に気付いた。

 

 恥を忍ぶ。

 そう考えた自分に、絶句したのだ。

 先程まで、少女に自分のスキルの解明を手伝って貰おうと思っていた。

 だが、自分からそれを申し出るのは、恥を忍ぶと言うのか。

 受動的な流れで行われる事柄については恥を感じず、能動的な行動に至った場合のみ恥だと感じる。

 その愚かしさと悍ましさ。カイトは自身の思考に凍り付いたのだった。

 そして漸く気付く。

 自分自身の根本的な問題に。

 未だにどこか見栄を張る、ちんけなプライドが彼の中に残っていたのだ。

 受動的には仕方ない、けれど能動的には意味の無い理由を付けては動かなかった原因。

 それが分かった。

 動くのは怖い、その言い訳はこの無意味なプライドが傷付く事を恐れる建て前でしか無かったのだと。

 そして分かった。

 幼馴染達に守って貰おうと思っていた時の自分の本心が。

 自身の力では通用しない敵だが一生懸命頑張ったけれど、駄目だったという訳では無かった。

 ほらこんなにやっても駄目だったから、守って欲しい。

 そう考えていたのだと。

 だからこそ、怪我をしたのだと。

 何も出来ない自分を認めたくないプライドが、怪我をする事によって頑張った証という免罪符を得る為に怪我をしていたのだと。

 一生懸命に何とかしようと藻掻くならば、可能な限りの努力や創意工夫はして然るべき。

 それらを行った記憶は、遠い過去にしか存在しない。

 モンスターに自身の力が及ばなくなった際に、盾司(タンク)へと転向する以外に幼馴染達へと改善の相談はしただろうか。

 アレックスに、モンスターの動きに対する自分の行動についてフィードバックや対処の指南を受ける事だって出来ただろう。

 ルインに、彼女がより良く魔法を使える様にどの様な行動を取るのがベストなのか確認し、自身が攻撃出来なくとも彼女が動きやすくなる陣形の確立に尽力する事も出来ただろう。

 リーンに、最後衛の彼女の視点からどの様に立ち振る舞えば、力の無い自分でも万全に立ち振る舞い皆のサポートが出来るのか教えて貰う事も出来ただろう。

 そのどれもが、出来た筈だろう。

 だがそのどれもを、やらなかっただろう。

 その事に気付き、カイトは無意識に拳を強く握りしめた。

 見限られて当然だ。迷惑を掛けて当然だった。

 プライドの高い弱者等、カイト自身でも扱いに困ると思ったのだから。

 それでいて確実に迷惑を被るのなら、擁護のしようが無いのだから。

 彼らは子供だ。

 前世から含めるカイトの年齢と比較すれば、それは間違いない。

 だが、いつまで彼らを子供と思っているのか。

 いつまで、自分が大人だという下らないプライドを持っているのか。

 大人である必要はある。自分が子供の様な振る舞いをしてしまっては、更に迷惑を掛けるだけだから。

 しかし大人としてのプライドを持つ必要は無いのではないか。

 ちゃんとした大人になりたいという気持ちは大事にすれど、そこにプライドは要らないだろう。

 大人というプライドのせいでここまで周りに迷惑を掛け、そして自身をここまで落としたのだから。

 ちゃんとした大人になりたい大人ならば、大人としてのプライドを持つのは明らかな分不相応。

 

「すまねぇ、あたしの人生はここまでみたいだ……!」

 

 未だに泣き続ける少女に意識を向ける。

 握りしめた拳に、更に力を込めた。

 カイト自身が気付かぬ内に、唇を開いていた。

 

「…………変わるなら、きっと今だ」

 

 無意識に口に出していた心の言葉は、少女には決して届かない。

 だが、カイトの中には確かに届いた。

 変わるなら、きっと今だ。

 深呼吸を一度。

 少女へと向ける身体の姿勢を今一度正し、腰を落とした。

 

「せっかく……ふぇ?」

 

 突如、少女の口から間の抜けた声が漏れる。

 涙に濡れたその瞳は、正面へと向けられていた。

 その視界に捉えていたのは、カイト。

 両手両膝を地面に付け、併せて額をも地面に擦り付けている体勢。

 

「お願いします! 俺のスキルの解明を手伝って頂けませんか!」

 

 土下座。

 その体勢のまま、カイトが声を張り上げた。

 何の辛さも苦しさも悲しさも感じられない、必死さだけが強く乗った声色。

 少女は只、目を丸くしながらカイトを見つめるのだった。

 

「今持ってるお金は全部お渡しします! それでも足りなければギルドから引き出してお渡ししますので、手伝って頂けませんでしょうか!」

 

 頭を下げたまま、少女へと報酬を提示する。

 夢を叶える為に貯めた金。

 それを少女に渡すと、カイトは決めた。

 ハンナに言われた言葉。

 ――今まで夢の為だとかで頑なに触ろうとしなかったお金を、自己保身の為に使いたいという事ですね。

 それを思い出したカイトだが、言葉を止める事は無かった。

 今回もハンナの言葉の通りなのかもしれない。

 だけど、とカイトは内心で自分の決意を固める。

 自己保身の為かもしれない。けれど、夢を叶えて両親を喜ばせる為の金は、自分が胸を張って稼いだと言える金でありたいと思った。

 人に迷惑を掛けて稼いだ金で、両親が喜びはしないと今更ながらに思えたから。

 だからこそ胸を張って夢を叶える為に、胸を張れない自分から脱却する為に、金をも払う。

 自身の根本的原因を無くし、両親に心からの笑顔で引っ越しを提案出来る自分へと変わる為に、金をも惜しまない事を決めたのだった。

 

「え、ちょ、ちょっと君」

 

「例えスキルが解明出来なくてもお支払いします! 何なら全額先払いでも良いので、お願いします!」

 

 カイトの様子に困惑した表情を浮かべる少女。

 それに構わず、頭を下げたままカイトは必死に言葉を発した。

 

「だ、だから、ちょっと話を聞いて」

 

「お願いします! お願いします!」

 

 少女の言葉をも呑み込む勢いで声を張り上げ、懇願するカイト。

 それが幾度と続き、やがて困惑気味だった少女の表情が変化する。

 

「ちょっと黙りなさぁぁぁぁいっ!」

 

 大声を張り上げた少女に、カイトの身体が大きく震えた。

 困惑から怒りへと表情を変えた少女が、カイトを睨み付ける。

 僅かな沈黙。

 土下座のまま固まるカイト、それを少し離れた場所から見下ろす少女。

 やがて少女が静かに口を開いた。

 

「……君のスキルの解明とやらをやって、お金以外にあたしにメリットはあんの?」

 

 その言葉にカイトは僅かに逡巡。

 ゆっくりと言葉を返す。

 

「もし上手く行けば、また魔力を提供出来るのでそれで帰れる様になると、思います……」

 

 カイトの言葉を受けた少女は「ふーん」と興味無さげな相槌を打つ。

 そして言葉を返した。

 

「別に君から魔力を貰わなくたって、めんどくさいけどホテルとかに泊まれば、明日には魔力も回復して普通に帰れるんだけど?」

 

「そ、それは……」

 

 少女が告げた内容に、カイトは言葉を詰まらせた。

 だが、すぐに言葉を続ける。

 

「だ、だったら、そのホテル代も俺が出します!」

 

 慌てて続けた言葉に、少女は溜息を吐いた。

 

「君があたしに何かするっていう気が無いのはなんとなく分かったけどさ、だからっていつ終わるかも分かんない作業に付き合う義理はないんだよねー」

 

 何気無しに言い放つ少女の言葉に、今度こそカイトは言い返す事が出来なかった。

 カイトとて、それは自覚していたから。

 だからこそこれ以上言い寄るのは迷惑なのではないかという思いが、カイトの中で湧き始めていたのだった。

 

「……あっ」

 

 しかし不意に、少女が声を上げる。

 それはまるで何かに気付いた様な声色。

 やがて表情を変えた少女が、再びカイトへと声をかける。

 

「……これから伝える条件を君が全部吞んでくれるなら、特別に付き合ってあげてもいいよ」

 

 そう伝える少女の表情は笑み。

 それはどこか、意地が悪そうな印象を見る者に与える笑みだった。

 だが頭を下げているカイトが気付く事は無い。

 少女の言葉は、カイトにとって渡りに船。

 

「わ、分かりました!」

 

 即座に承諾の言葉を返せば、人知れず少女の笑みが深まる。

 

「じゃあ、これからする問い掛けに君は全部"はい"ってだけ答えてね?」

 

「……は、はい。分かりました!」

 

 少女からの言葉に、僅かに戸惑いながらも了承を返す。

 要領を得ない少女の話から、どの様な問い掛けが為されるのか、カイトの中で緊張感が大きくなっていくのだった。

 そんなカイトの様子を見ていた少女が、静かに目を瞑る。

 そして小さく呟いた。

 

「――シルフコントラクト」

 

 少女の言葉がカイトの耳へと微かに届いたが、内容までは聞き取れなかった。

 やがて目を開けた少女が、カイトへと話しかける。

 

「君は、あたしを害してはいけません」

 

 突然の内容に僅かに固まるカイトだったが、すぐに再始動した。

 

「は、はい!」

 

 即座に了承を返すが、それは悩む必要の無い問い掛けだったから。

 カイト自身が少女を傷付けたり害したいという思いが皆無なのだ。

 故に返答は了承のみ。

 少女が問い掛けを続ける。

 

「君は、あたしが力を貸して欲しいと思った時に、力を貸す義務があります」

 

「……はい」

 

 少女の言葉の意図が掴めず、思わず首を傾げそうになったカイトだが、何とか堪えて了承の旨を返す。

 詳しい意味は分からない。

 だが自身のスキル解明を手伝って貰えるのなら、そのお返しに少女が困った際に力になれるのなら少しでも力を貸したいという気持ちが、確かにあった。

 

「君は、あたしと誰かが同時に困っていたら、あたしを優先しなければなりません」

 

 次に行われた問い掛けに、カイトは言葉を詰まらせる。

 

「……え、そ、それはどういう」

 

 だが、カイトの言葉に少女は何も返さない。

 流れる沈黙がカイトの心に焦りを募らせていく。

 沈黙こそが少女の圧力と言わんばかりに。

 この少女と誰かが同時に困っていたら、少女を優先する。

 それがカイトの中で様々な対象を思い起こさせた。

 両親、幼馴染、ギルドや冒険者の面々等々。

 それよりも、何があっても少女を優先しなければならない。

 しかし沈黙が続く程に、カイトの焦りが大きくなっていく。

 ここで"はい"と答えなければ、せっかく乗り気となってくれた少女が手伝ってくれなくなるかもしれない。

 だからこそカイトは、考えを改める事にした。

 両者が同時に困る事態なんて、滅多に起きる事ではないだろう。

 そしてこれは口約束であり、あくまでも努力目標に違いない。

 勿論、少女に対して力になれる部分は率先して力になりたいという気持ちは変わらない。

 万が一両者が同時に困るといった不測の事態に陥った場合、その状況を見て事情を説明すれば多少優先順位が変わっても許してくれるに違いない。

 そう、楽観的な思考がカイトの心中を埋めたのだった。

 起こる訳が無い、そして話せば分かる。

 沈黙による焦りが最大限に達した彼はそう結論付け、少女へと口を開く。

 

「……はい」

 

 カイトの言葉に、少女が目を瞑る。

 

「――これで契約は相成りました」

 

 そう呟いた瞬間、カイトの身体を深い緑色の風が包み込む。

 突然の事態に驚きの声を上げたカイトが、思わず顔を上げた。

 そこには自身と同じく、深い緑色の風に包まれた少女の姿。

 何の痛みも無い、優しく暖かい風が身体を包みながら、次第に動きを見せる。

 カイトの右腕へと風が集まり出し、それへと目を向ければ、やがて手首に深緑色の小さな紋様が浮かび上がった。

 謎の風は姿を消し、残ったのはカイトの右手首の紋様のみ。

 それを一瞥し再び少女へとカイトが顔を向ければ、開いた目を細めて笑みを浮かべる少女の姿。

 にしし、といった薄い笑い声を上げながら、少女はまるで悪戯が成功した子供の様な表情でカイトを見つめている。

 

「そんじゃ、約束通り君のスキルの解明を手伝ってあげるよ」

 

 少女の言葉に、カイトは反応できない。

 カイトの様子に構わず、少女が再び口を開く。

 

「さっきの約束は裏切らない方が良いよー」

 

 だって、と続けた。

 

「"精霊様"の祟りは、恐ろしいんだぞぉ?」

 

 そう告げた少女とカイトとの間に、無色透明な風が静かに横切ったのだった。

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