異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について 作: ころっくー
「えっ……精霊、様……?」
少女の言葉を受けて、呆然と呟くカイト。
カイトの様子に、少女は仰々しく頷くのだった。
「そっ、精霊様。風の精霊と契約してるあたしは、精霊魔法が使えるのだよ」
「……精霊、魔法」
自慢げに告げた少女に、カイトは思わず呟きを返した。
精霊魔法。
それはカイトにとって聞き覚えの無い言葉だった。
その様子を見た少女が、何かに気付いた様に口を開く。
「あ、そういや精霊魔法ってあんま知られてないんだっけ?」
こりゃ失敬失敬、と片手で後頭部を掻きながら少女が苦笑した。
「精霊魔法なら自分の魔力が無くても使えちゃうからね、いやー便利だね」
再び笑みへと表情を戻した少女が楽し気に告げ、言葉を続ける。
「契約内容はさっきの通りだから、くれぐれも破らない様にねー。破った時は……おぉ怖い怖い」
そう言っておどけた様に身体を震わせる少女を、カイトは只々見やる。
精霊魔法、契約等聞きたい事は色々とあった。
だが少女の口調からは、聞いたとて真面目な返答が期待できそうになく、その件に関しては後々聞いていくしかないかと考え直さざるを得なかった。
よって、少女へと話しかける内容を選別し直し、現時点で最も重要となる事柄について訊ねようと口を開く。
「そ、それで……俺のスキルの解明は」
「ん?」
控えめながらにも問い掛けたカイトに、少女が不思議そうな表情を浮かべて僅かに首を傾げた。
だが、やがて思い出した様に口を開く。
「あーそっか、君のスキルを調べないといけないんだった」
そして少女が笑みを浮かべる。
「君が契約魔法を受けてくれたし、スキルがどんなのかちゃんと分かるまでは付き合ってあげるよ」
後でお金も貰うけど、そう言って笑みを深めた少女。
少女の言葉に、カイトが溜息を吐く。
それは安堵からの溜息。
「とりあえず君のスキルを分かる範囲で確認してこっか」
その言葉に、カイトはどこか頼もしさを感じて頷きを返した。
自分自身でスキルを理解すると先程意気込んだカイトではあったが、結局の所何をすれば良いのかが全く思い浮かんでいなかった。
だからこそ少女の、解明の手順を踏む様な言葉に頼もしさを感じたのである。
少女が言葉を続ける。
「じゃあまずは、君のスキルでちゃんと魔力を提供出来るのか、改めて確認しないとね」
少女の言葉に、カイトは頷く。
だが、問題があった。
「……えっと、どうすれば」
カイトの言葉に少女は半目を向けるが、やがて溜息を吐いた。
「じゃあ、仕方ないからまたあたしに」
思わずカイトは首を傾げる。
淡々と話す少女だったが、不意に言葉を止めたのだ。
そして慌てた様に言葉を続けるのだった。
「や、やっぱナシ! あたしに魔力提供が失敗して破裂するかもだもん!」
そう言って胸の前で両手でばつ印を作った少女。
「……えっと、じゃあ、どうすれば」
カイトは只、同じ様な言葉を返すしか出来なかった。
それを受けた少女は再び腕を組んで俯くが、何かに気付いた様な表情を浮かべる。
「あっ! 例えば、こんなのは?」
そう言ってその場にしゃがみ、地面へと手を伸ばして何かを掴んだ。
立ち上がり、手に持ったそれをカイトに向ける。
「……石?」
それを見たカイトが思わず呟く。
小石を手に持った少女。
その意図が分からなかった。
自身のジェスチャーが伝わらなかったからか、少女の頬が僅かにむくれる。
「この石に魔力が提供出来るか試してみてって言ってんの!」
その言葉にカイトは漸く、少女の意図を把握出来た。
だがそれはそれで新たな疑問が生まれる。
「石に、魔力って提供……出来るんですかね?」
思わずと言った口調で声に出したカイトに、少女の視線が鋭くなる。
「君のスキルが分かんないし、あたしの身体で試す訳にもいかないからしょうがないでしょっ!」
それにっ、そう言葉を続けた。
「魔石だって、魔脈から魔力を吸って貯められるんだから、もしかしたらこの石にも出来るかもしれないじゃん」
そう言い放つ少女だが、カイトの表情は晴れない。
何故なら、魔石とは特定の鉱山からしか採掘出来ないのだから。
少女の言う通り、地下に大きな魔力溜まりがある魔脈と呼ばれるものがある土地からしか採れないと言われているのだ。
だからこそ、それを知る筈の少女の言葉がいまいち理解出来ない。
どの石でも魔石になれるのなら、魔石の産地等存在しないだろう。
心境が顔に出ていたのか、カイトを見る少女の顔が怒りへと変わった。
「もしかして馬鹿にしてる!?」
憤った様子で叫ぶ少女に思わず、カイトの肩が震える。
それは驚きと、僅かな図星からだった。
「こっちもちゃんと根拠があって言ってんの! まぁ……根拠っていう根拠じゃないけどさ……」
尻すぼみとなった口調の少女を、カイトは只見やる。
馬鹿にするつもり等到底無い、純粋な興味で彼女の言葉を待っていた。
だが少女は視線を逸らしてどこか恥ずかし気に一度、わざとらしい咳払い。
そして再び、カイトを睨み付ける。
石を突き出したままに人差し指を伸ばして、カイトへと向けた。
「まず第一に、君のスキルがありえないからっ! 何なの!? 魔力提供って!」
やや興奮気味な様相で、少女が続ける。
「魔力が提供出来るなら、もしかしたら普通の石にも魔力貯める事だって出来るかもしんないじゃん!」
少女の言葉に、カイトはどこか納得が言ったという様子で頷きを返した。
確かに、魔力が提供出来る対象がどこまでなのか、それを考えた事が無かったからだ。
例え石に魔力が提供出来なかったとしても、それは線引きという意味でスキルの理解に含まれる。
「それにもし破裂するなら、あたし以外にしないといけないもん!」
どこか堂々とした言い振りに、カイトは関心した様に再び頷いたのだった。
魔力を提供、即ち人相手でしか考えられなかったカイトにとっては、少女の案は目から鱗。
「だから、さっさとこの石に魔力を提供してみてよ」
そう言って石を持った手を再びカイトへと突き出した。
少女の意見に賛同し、カイトも勢い良く頷く。
そして少女へと口を開いた。
「……分かりました。じゃあ、その石を貰っても良いですか?」
カイトの言葉を、少女が不思議そうに首を傾げた。
「何で? 別にこのまま君が石に触って魔力を提供してみればいいじゃん」
持ってれば魔力が入ったのか分かるんだし、何気無しに返した少女の言葉にカイトが驚きを示した。
理由は三つ。
一つは、これまでの態度から少女はカイトに近付かれたくない、もしくは触れられたくないという印象を抱いていたから。
少女がカイトに怯え、距離を取って土下座をした光景とその内容から、カイトがその様に思うのも無理はなかった。
そしてもう一つは、少女が告げた内容。
持っていれば魔力が入ったのか分かる、その言葉だった。
カイトは魔石に魔力が入っているのか等分からない。
そして幼馴染達を始め、両親等も魔道具が動作しなくなったかで魔石の魔力量を知る様な言動をしていた為、触れれば魔力が入ったかという事が認識出来るという彼女の言葉に驚いたのだった。
「ほら、早くしてよ」
「……あの、だから」
そして最後の理由。
「手に持ったまま、もし石が破裂したら大変だと思いまして……」
「ヒィィィィッ!」
申し訳無さそうに告げたカイトの言葉に、少女が石を手放して勢い良く後ずさった。
魔力の提供が万が一上手くいかず、何も起きなければ全く問題無いが、もし失敗した事によりキマラの様な破裂が起こった際に、飛び散った破片が凶器となる。
その事を許容した上で少女が魔力の提供をさせようとしていると驚いたカイトだったが、どうやら杞憂であったらしい。
大分と距離が離れた場所で蹲り、両手で頭を覆っている。
「こ、こっから見とくからっ! 魔力の提供はそっちで好きにやってみてっ!」
僅かに涙目となりながら張り上げた声でカイトへと告げる少女。
それにカイトは頷きを返し、歩みを進めて地に落ちた石の下へと近付いた。
背負っていた荷物を降ろして、石と少女の間に置く。
魔力を提供する所を少女が見えなくなるが、失敗し石が破裂して少女へと破片が飛ぶのだけは避けたかった為に、安全性を優先。
「おーい、それじゃこっちから見えないよー!」
掛けられた声に、顔を向ければ同じ体勢のままで僅かに首を動かす少女の姿。
辺りを軽く見渡せば、まだ他にも小石は落ちていた。
だからこそ最初なので、カイトとしては成果よりも安全性を重視したかったのだ。
「じゃあ、やってみます」
その声を少女へと向け、地面の小石へと再び顔を向けた。
「おーい! だから見えないってー!」
聴こえてきた声に、カイトが返す事は無かった。
只目の前の小石に集中する。
その場にしゃがみ込み、人差し指だけを伸ばした拳を向ける。
ゆっくりと、ゆっくりとその手を近付けた。
何が起こるか分からないという緊張感が、カイトの中を駆け巡る。
その手が小石へと近付くにつれて心臓が早鐘の様に鼓動を速めていく。
カイトの中で考えていた事は、一つだった。
これをやらなきゃ、誰に顔向けも出来ない。
両親、幼馴染達、その他にも迷惑をかけた人達。
自分を奮い立たせてくれた、あの幼い少女。
自分が変わる為にも、変える為にもやらなくちゃいけない。
周りの役に立てる力を、身に付けないといけない。
それらだけが、カイトの中で浮かび上がる。
そしてついに、カイトの指が小石へと触れた。
「今どんな状況ー?」
聴こえてきたのは、少女の呑気な声。
カイトの額から、汗が滴り落ちた。
何も、変わっていなかった。
僅かに口を開けば、大量の息が漏れ出てくる。
気付かぬ間にカイトは息を止めていたらしい。
呼吸を繰り返し、徐々に荒さが落ち着いてくる。
見た目は何も変わらない小石。
拳を開き、その小石を掴み上げた。
カイト自身にはこの小石が、果たして魔力が提供されたのかは分からなかった。
立ち上がり、手に持った小石を少女に見せる。
それを目にした途端、少女が小さな悲鳴を上げて俯くが、やがてゆっくりとその顔を上げた。
「だ、大丈夫そう?」
少女の言葉に、カイトは頷きを返した。
破裂はしていないから大丈夫、という意味では大丈夫だった。
カイトの反応に少女が安堵の息を吐く。
だがすぐにカイトを睨み付けた。
「きゅ、急にこっちに向けないでよ! ビックリしたんだからっ!」
「あ……ご、ごめん」
僅かな涙目を再び宿した少女に、思わずカイトは謝罪した。
「と、とりあえず触ってみましたが、今って魔力が提供されてますかね……?」
結果を求めるカイトの言葉に、少女は首を横に振る。
「……触ってみないと分かんないから、こっからだと分かんないよ」
ちょっと待ってて、そう告げた少女が静かに立ち上がる。
そしてカイトの方へと歩き出し、そして途中で止まった。
身を縮こまらせながら、カイトが持つ石に目を向ける。
「……大丈夫? 破裂しない?」
確認する様に問いかける少女に、カイトは返す言葉を持ち合わせてはいなかった。
只々微妙な表情で、その手に持った石を見ているしか出来ない。
警戒する様に暫く立ち止まり、やがて歩き出した少女だがその歩みは遅かった。
ゆっくりと半歩進んでは立ち止まり、石を警戒する。
その繰り返しで、漸くカイトの下まで辿り着いたのは、幾分と時間が経ってからだった。
カイトは手に持った小石をその場から動かさない。
何故ならば途中で、少女が大分と近付いた際に親切心から、小石を持った手を少女に伸ばした。
カイトとしてはあまり自分に近付くのももしかしたら怖いかもしれないという、少女への気遣いからの行動だった。
だが小石を近付けられた少女は、悲鳴を上げて再び後方へと妙な態勢で飛び退く。
そしてその場所から涙目で延々と告げられた文句の数々。
それを経験したカイトは、再び自身へと寄せた小石を、その場から動かさない事を決めたのだった。
カイトの下に辿り着いた少女が、恐る恐ると小石を覗き込む。
そして一度目を瞑り、やがて意を決した様に目を開けた少女が右手を差し出し、カイトへと掌を向けた。
少女の行動を把握したカイトがゆっくりと、そして慎重に手を動かし、持っていた小石を少女の手に乗せる。
万が一、小石に異変が生じた際にすぐに投げ飛ばせる様に、カイトも小石から手は離さない。
自身の手に乗った小石をまじまじと見た少女が一言。
「……駄目だね、魔力は入ってないや」
その言葉に、二人は揃って溜息を吐いた。
落胆が、カイトの心に押し寄せる。
魔力が提供出来ていて欲しいという気持ちがあった。
それが叶わなかったのだから。
だが、少女がカイトへと問い掛ける。
「石に触ってる時、魔力よ送られろー! とかって考えたりしてみた?」
少女の問い掛けに、カイトは僅かに首を傾げた。
その様に何か念じた記憶は無かったからだ。
カイトの様子を見た少女が言葉を続ける。
「あ、そういや君って魔法使えなかったんだっけ?」
そう告げた少女はどこか納得した様な表情を浮かべた。
「あたしもだけど、基本的に魔法を使う時ってこんな魔法になれーって想像して、その絵に合わせる様に魔力を注いでく感じなんだよね」
少女の言葉に、カイトが驚く。
魔法の使い方と、魔力の使い方。
それを彼女の様な説明をしてくれる人がいなかったから。
だが、そこでカイトは思い返した。
そもそも魔力が無いという理由で魔法を習う機会が無かった自分に、その様な話を聞くという考えが無かった。
リーンやルインの魔法の練習の時は、カイトが前世の知識で色々と参考になればと、様々な属性魔法のイメージを必要に応じて二人に伝えていただけ。
どうやって魔法が使える様になったのかを聞く事も無かった。
何故なら、自分には魔力が無いのだから。
しかし、今は違う。
スキルが解放されて、どうやら魔力が使える様になった。
ならば、魔法の使い方も覚えていかなければならない。
少女の言葉を思い返す。
どうやら、こんな魔法を使いたいと思い浮かべて、それに合わせる形で魔力を流せば魔法が使える。
どんな魔法を使いたいかというイメージ。
それは前世の知識を使えば、カイトには容易に想像出来た。
様々な種類の魔法。
それをサブカルチャーにて多く目にしてきた恩恵でもある。
だが、魔力の注ぎ方は分からない。
少女の言葉を受けて、カイトはとりあえず今出来るイメージだけでもと、頭の中に想像を始めた。
「……魔力が、満ちてる状態」
呟く様に言葉に出せば、想像がより具体的になり始める。
カイトがイメージしたもの。
それは小石の全体を覆う様に、魔力が張り付いている状態。
そして更にそれを膜として、小石の中身を空洞化し水で満たされたかの様に小石の全てが魔力で一杯となった状況。
具体的にそのイメージをした時だった。
「うわっ! 小石に魔力が!」
少女が驚いた声に反応し、カイトの意識が現実へと戻る。
つられる様に小石へと目を向ければ、そこには何ら変哲の無い小石があるだけだった。
だが少女は驚きに満ちた表情を浮かべた後、輝かせた目でカイトを見る。
「すごいっ、すごいよ! ちゃんと石に魔力が送られてるよ! やっぱり君のスキルはこれで間違い無かったんだよ!」
興奮気味に話す少女を、カイトは呆然と見つめる。
自分にとっては何ら変わり映えの無い小石にしか見えない。
だが、少女の喜びようからすれば、どうやら違うらしい。
魔力が、提供出来たのか。
その言葉が、少女の熱気に後押しされた様に、カイトの中で大きくなっていく。
魔力が、提供出来たのか。
そして漸く、カイトはそう認識出来たのだった。
喜びの声を上げていた少女。
それは不意に、怪訝な表情へと変わった。
そして恐怖へと変わる。
「うぎゃぁぁぁぁっ!」
突然の叫び声。
そして勢い良く後ろへと飛び跳ねた。
その全てに驚き目線で追うしか出来ないカイト。
後方へと着地した少女は、まるで腰を抜かした様に地面へとへたり込んだのだった。
カイトを見ながら、わなわなと口元を震わせる。
やがて、その口から言葉が飛び出した。
「あ、あ、あたしが触ってんのに魔力送るとか馬鹿じゃないの!? もし破裂してたらどうすんだこの鬼畜ーッ!」
正に怒髪天を衝くといった様相で叫ぶ。
それを一身に受けながらカイトは呆然と、確かにそうだという感想を抱いた。
まさか出来るとは思っていなかった事による成功。
魔力の提供が成功したという事実がカイトの中で強く、少女の叫びが掻き消されていく。
「おい、何か申し開きでもあるかコンチクショー!」
少女の怒声に申し訳無さを感じつつも、初めて自分が魔力を、そしてスキルを使えたという事実にカイトは心が震えるのを止める事は出来なかった。