異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について 作: ころっくー
その後、遠方から激怒を飛ばす少女に只々平謝りをしたカイト。
暫くの時間が経ち、少女は漸くその怒りを鎮めたのだった。
「君は常識ってものが無いのかなっ、常識ってものが!」
再びカイトの下へと歩いて来た少女の第一声。
完全には鎮まっていない様子に、再びカイトは謝罪するのみ。
既にカイトの中にあった、魔力を使えたという仄かな喜びは遠い彼方へと消え去り、少女への罪悪感のみが彼の胸中を埋めていたのだった。
「全くもう……次勝手な事したら、もうやめるからねっ?」
「は、はい……二度としません」
少女の言葉に、それを誓う様に告げたカイト。
それを見た少女は、大きな溜息を吐くのだった。
そして未だにカイトが手に持つ小石を見つめては、再び手を伸ばして触れる。
「とりあえず、まだ魔力は送られてるみたいだね」
少女につられ、カイトもまた手元の小石へと視線を向けた。
暫くと小石に触れていた少女が、やがて口を開く。
「次はどうやったら破裂するのか、それを調べよっか」
そう告げた少女だったが、その表情はどこか困惑を含んでいた。
表情をそのままに、少女が続ける。
「でも……どうやったら破裂するんだろ?」
その言葉に、カイトもまた思考を巡らす。
キマラが破裂した時、どの様な状況だったのか。
その光景を思い出せば、あの時に聴こえた謎の電子音が蘇ってくる。
――不要となる外部魔力及び既存の不随意魔力を、接触している対象へと提供し排出します。
確かその様な事を言っていたな、とカイトは思い返した。
そこから連想を進めれば、やがて具体性を持ち始める。
謎の電子音の通りに考えれば、自身の中にあった魔力をキマラへ排出という目的で提供した。
魔力を提供する事で破裂した。
だが、現に小石は魔力を提供しても破裂はしていない。
ならば破裂させる為の条件が、別にあるのだろうか。
そう考えたカイトの中で、前世の記憶が蘇る。
それは、風船だった。
風船は適度に空気を送り込めば、当然ながらに膨らむ。
けれど送り込む空気が風船の許容量を超えた場合。
その風船は、突如として破裂する。
破裂した風船の光景を意識したカイトの中に、もしかしたらという思いが浮かぶ。
風船でいう空気を、もし魔力に置き換えたのなら。
魔力がキマラの許容量を超えて、送り込まれたのなら。
それが原因で、キマラが破裂したのではないか。
無意識的に、手に持った小石に魔力を送り続け、小石の許容量を超えた魔力が方々へと飛び散る様なイメージが漠然と浮かび上がる。
まだ輪郭の無いそのイメージを浮かべた時、カイトの脳裏に少女の言葉が過ったのだった。
――全くもう……次勝手な事したら、もうやめるからねっ?
それを思い出したカイトは、はっとした様に慌ててそのイメージを脳内から消した。
もしもこのイメージで小石が破裂してしまった場合、少女も近くにいる現状では大惨事になる事間違いなしである。
考え込む事に危機感を抱いたカイトが、少女へと声を掛けた。
「例えば、魔力を限界以上に送り込んだら耐えられなくなって破裂とか、は無いですかね……?」
カイトの言葉に、少女が首を傾げる。
「この石に限界以上の魔力を送り続けたら破裂するって事? そんな事ある?」
訝し気な表情を浮かべながら、少女が続けた。
「あたしとしては、君が魔力を送った時に何かそれを破裂させる為に別の魔法でも使うのかなって思ってたんだけど」
少女が話した内容に、カイトは再び考え込む。
確かに少女の言った内容でも、破裂が起こり得る可能性は高いと思ったから。
それに、と少女が続ける。
「ご飯をお腹いっぱい食べたら苦しくなるでしょ? でも自分の魔力が限界まで溜まっても分かんないから、これ以上は無理ってなるのかな……?」
その言葉に、カイトの考えが徐々に変わり始める。
カイトは魔力無しというレッテルを自覚し、魔法を使った事が無い。
だからこそ魔力が減った時の感覚も、魔力が回復した時の感覚も分からない。
故に魔法が使える少女の言葉は、その経験が無いカイトにとっては正解だと思えた。
暫くとカイト同様に考え込む少女。
不意にその口が開かれた。
「……でも、まあとりあえずそれで一回やってみよっか」
「え?」
少女の言葉は、カイトの意見を肯定した内容。
それにカイトが驚きの声を上げたのだった。
カイトを見ながら少女が話を続ける。
「あたしの考えの方をやろうにもどうすれば良いのかが分かってないし、だったら君が考えた方を試すのが簡単だからね」
更に思いっきり魔力を送るだけでしょ? そう首を傾げる少女を、カイトはただ見やる。
まさか自分の案が受け入れられるとは思ってもみなかった。
カイトの様子を察した少女が、その表情を苦笑へと変える。
「別に何でもかんでもあたしの考えだけを押し付けたりしないよ。手探り状態なんだし、手早く出来るならそれから試す。その方が効率良いしさ」
告げられた言葉に、カイトの中で納得が広がる。
確かに現状は何から手を付けていけば、キマラを破裂させたあの現象が起こるのか全く分からない。
故に出来る事から試していく。
少女の考えは、カイトの中に何ら抵抗無く入り込んだのだった。
「……それに」
不意に少女の表情が変わる。
「多分だけど、君がそう考えたって事は……あたしに黙って、一回試そうとしたんじゃない?」
半目で見つめる少女。
その視線から逃れる様に、カイトは視線をゆっくりと逸らしたのだった。
カイトとて試そうとはしていない。
だが先程、小石に魔力を提供出来た際は、そのイメージ頭に思い浮かべたらそれで魔力が小石に送られた。
故に破裂の現象に関してもあのまま具体的なイメージを持っていたら、もしかしたら小石が破裂していたかもしれない。
事故が起こっていたかもしれない、その可能性があったと自覚しているカイトだからこその、反応だった。
カイトの態度に、少女の眉がつり上がる。
「だからだよ! また君が勝手な事するかもしんないから、それを早く片付けたいのっ!」
少女の声に、只々目を逸らし続けるカイト。
その姿に、少女は大きく溜息を吐いたのだった。
「とりあえず、あたしが距離を取ったらやってみて」
そう告げて飛び下がろうと僅かに身を屈めた少女だが、不意にその動きを止める。
「そうだ、君が離れてても魔力を送られてたから、それも一緒に確かめよっか」
少女の言葉に、カイトは漸く視線を向けた。
「本当に破裂したら危ないし、もし離れてても魔力を自由に提供出来るなら、君も離れて試した方が良さそうだし」
それを受けて、カイトも少女の言葉を理解する。
もしもこの実験で小石が破裂したならば、小石に触れている自分が怪我をする可能性がある。
ここでカイトは漸く、少女の怪我の安否ばかりを気にし自身の安全を考慮していなかった事に気付いた。
少女の言う通り、最初は離れて試す。
それで駄目だったならば、今度は接触した状態で試す。
その方が安全面でも考察面でも有用だと、カイトにも思えた。
離れていても魔力を、自分の意識で提供出来るのか。
その線引きも知れる機会だと理解したのだ。
「じゃ、後は好きなタイミングでやってみてねー」
そう告げた少女が再び後方へと飛び退いた。
それを見やったカイトは、地面に置いていた荷物の前に小石を置く。
自身は荷物の反対側へと移動して、そこで身を屈めた。
後ろへと振り返れば、少女がカイトを見ている。
「……それじゃあ、やります!」
そう声に出せば、少女から頷きが返ってきた。
荷物の上から僅かに顔を出し、カイトは地面に置かれた小石を見る。
その位置を確認し、再び顔の高さを荷物より下げた。
カイトの中ではこれから二つの検証を始めるつもりである。
一つは、想像通りに小石が破裂するのか。
もう一つは、直接見ていなくとも更なる魔力の提供を小石に行えるのか。
これが駄目だった場合、今度は荷物の上から小石を覗きながらで魔力の提供を試すつもりだった。
荷物越しに小石の置かれている場所を注視する。
そして先程脳内で抽象的に描き上げたイメージの具体化を行っていく。
小石の中に満たされた魔力。
そこに、更に魔力を送り込み続け、やがて魔力の許容量を超えた小石が、空気を入れ過ぎた風船の様に突如破裂するイメージを作り上げる。
同時に聴こえた、甲高い大きな音。
「うわっ!」
背後から少女の、驚きに満ちた声が聴こえる。
咄嗟に顔を向ければ、そこには驚きで目を見開く少女の姿。
そのどこにも負傷といった様子はなく、カイトは静かに息を吐いた。
身体の向きを戻し、荷物の上から僅かに顔を出してその先の地面を視界に映す。
そこには、先程まであった筈の小石は既に無く、その近くに茂る草達は元気にそよ風に揺られながら靡いている光景だけがあった。
身を僅かに乗り出し、小石へと相対していた荷物の側を覗き込めば、そこには何の傷も小石の破片も見当たらない。
只々小石だけが忽然と姿を消した様な、そんな現実が目の前にはあったのだった。
甲高い大きな音。それは正に何かが弾けた様な音だったにも関わらず。
「おーい、どんな感じー?」
背後から聴こえてきた声に振り返れば、駆け寄って来た少女の姿。
カイトの隣に立った少女も、小石が置かれていたと思われる場所を覗き込む。
「……やっぱ、破裂したんだ」
やがて、小さく呟いたのだった。
その言葉はまるで、認識はしたが受け入れたくない現実を理解したとも思える、どこか力の無い声色。
少女の顔が、カイトへと向いた。
「……君は、どんな風にやったの?」
淡々とした言葉に、未だに小石があった場所を見つめるカイトが静かに口を開く。
「……小石の中で満たされてる魔力に、もっと魔力を注ぎ込んで破裂するイメージをしたら、こうなりました」
呟く様に答えたカイト。
それを受けた少女が、再び問いかける。
「後ろから見てたけど君、荷物に隠れてやったよね? あの石を、見ないで破裂させたって事?」
少女の言葉に、やや間を空けてカイトは頷いた。
あの時カイトは小石を直接見ずに、小石が置かれている位置だけを意識して更なる魔力の提供を行った。
接触しないだけではなく、視認せずにも魔力が提供出来てしまったのだ。
その現実が受け止めきれずにカイトはただ茫然と、小石があった場所を見つめ続ける事しか出来なかった。
不意に少女から、溜息を吐いた音がカイトの耳に届く。
「……あー、もうっ! こんなの予想外過ぎるけど、実際に見たら信じるしか無いじゃん!」
どこか投げやりといった口調で声を荒げた少女。
その声で漸く正常な思考が戻り始めたカイトは、静かに立ち上がって隣にいる少女へと顔を向ける。
少女の表情は怒り、あるいは諦め。その様な感情が混ざり合った様な印象をカイトに持たせた。
小石があった場所へと顔を向けた少女が、そのまま言葉を漏らす。
「これが現実だから、今までの感覚が間違ってたって事だよ……受け入れられる魔力には、上限があるのかぁ……」
その言葉はカイトに向けられたものでありながら、まるで独り言の様な声色。
少女の言葉に、カイトは僅かに首を傾げるしかなかった。
カイトへと視線を向けた少女が、再び口を開く。
「さっき言ったでしょ? 食べたらお腹いっぱいに感じるのとは違って、魔力はいっぱいになっても分かんないって」
どこか曖昧な表情を浮かべながら、少女が続ける。
「魔力が空になったら、何となく魔法が使えないなっていう感覚になるし、魔力があればまだこのくらいは魔法が使えるなって感覚になる」
多分皆そんな感じだと思う、と呟いた。
「それで一晩ちゃんと快適に寝たら、朝には魔力が全部回復してるっていうのが、一般的な考え方……全回復したっていう感覚は無いけどね」
まるで説明するかの様な少女の話は続く。
魔力が回復したという感覚はあくまでも魔力主体ではなく、残りどの程度魔法を使えるかという、蓄積ではなく放出が目安の主体になっている。
故に魔力が全回復したという判断は、自身が魔法をどの程度まで放てば限界を迎えるのかという基準点を知った上で、それに見合った感覚があるのかで判断しているとの事。
魔法を使うのが巧みな者程、その感覚が常人よりも鋭敏であり繊細な魔力操作が可能で、多様な魔法を扱う事が出来る。
「肉体と同じで個人差はあるけど、成長するにつれて魔力も増えて出せる魔法を多くなる。個人の成長の限界はあっても、それはあくまでも魔力がそこまでしか回復しない差だって多分全員が思ってるよ」
でも、そう言って少女の声色が僅かに変化する。
「考えてみれば……確かに、これ以上魔力が回復しないってのは、言い換えればここまでしか魔力を保有出来ませんよって意味にも取れるもんね」
どこか自嘲的な笑みで、カイトを見る。
「自然に回復される以外に魔力を回復や、外から魔力を補充するっていう物が無いから、自分が蓄えられる魔力には上限があるっていう考え方をした事が無かった」
まるで独白の様な言葉。
少女は再び、小石が置かれていた場所へと顔を向けた。
そして、言葉を漏らす。
「魔力が満ちた状態で更に魔力を注いだら、相乗されるんじゃなくて、耐えられなくなる。確かに肉体だって限界を超えて酷使したら、壊れるもんね。ポーションや回復魔法を使っても、元に戻るだけで限界以上の筋力や能力が使える訳でも無いし」
少女の様子に、カイトは声を掛ける事が出来なかった。
今まで魔力無しとして、魔法に関する知識も感覚も彼女に同意出来るだけのものを持ち合わせていなかったカイト。
故に、少女が今抱く心境が理解しきれなかったから。
只少女を見ている事しか出来なかった。
だが不意に、少女の表情が変化する。
「……なーんてね! まぁ、今までの常識を壊された感はあるけど、別に悩む程でもないや!」