異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について   作: ころっくー

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第15話

 突如変わった声色に、カイトは思わず瞠目してしまう。

 先程までのどこか自虐的な雰囲気が鳴りを潜め、代わりに活発な雰囲気が彼女から現れたのだから。

 カイトの視線に気付いた少女が、視線を向ける。

 

「もしかして、あたしが落ち込んでるって思った?」

 

 ざーんねんっ、そう言ってカイトへと笑みを浮かべる。

 

「寧ろ新しい……ってゆーか正しい知識を得れた気分だし、古臭くて使えない常識は無くなった方が良いのさっ」

 

 楽し気な口調で少女は言い退けた。

 そこには微塵も憂いを含んでいる様には思えず、カイトはこの少女が本心から言っているのだと思えてしまった。

 

「破裂した原因も何となく分かったし、今度はどのくらい離れても魔力が送れるのか確かめよっか!」

 

 先程までのどこか寂し気な雰囲気を完全に払拭する少女の声。

 楽し気に笑みを浮かべる少女を見て、カイトは漸く頷きを返した。

 少女の様子が気になりはしたが、それを深追い出来る程の関係性でも無い。

 下手に追及し、少女の機嫌を損ねてしまう事の方を、カイトは恐れたのだ。

 そして彼女の言葉が、今の自分にとって最優先に取り組むべき事案だと思い出した。

 カイトへと少女が話しかける。

 

「何でさっき、急に魔力が送られなくなったのかも確かめないといけないしさ」

 

 その言葉に、カイトの記憶が蘇る。

 それはこの少女との二度目の邂逅。

 カイトへの恨み節を告げながら、疲れ切って覚束ない足で再び現れた少女。

 急に魔力の提供をやめやがって。

 少女はカイトに向けてその様に言い放った。

 その時の言葉と、今の少女の言葉。

 それを合わせると、少女が確認したい事柄がカイトにも理解出来たのだった。

 恐らく魔力が提供出来る範囲には限りがあるのではないか。

 カイトはそう考えたのだ。

 少女は「うーん」と小さな唸り声を上げつつ、周囲を見渡している。

 そしてある一方へと指を差した。

 

「あの木に魔力を提供して、破裂出来るかやってみてよ!」

 

 少女の言動にカイトも視線を向けた。

 そこには森の入り口を示す、木々が生い茂っていた。

 距離はかなり離れており、先程の小石と比べれば雲泥の差。

 だが少女は根拠があるのか、表情の笑みが消える事は無い。

 

「さっきあたしに君の魔力が送られなくなったのって、あの森に入って少ししてからなんだよね」

 

 告げられた言葉に、カイトは納得した。

 少女は自身の状況から判断し、対象を見極めたのだ。

 カイトとしてはあの時、突如透明となった少女がそこへと移動していた事に驚きを持ったが、それを指摘する事はない。

 不用意な発言で万が一彼女の機嫌を損ねれば、どうなってしまうのか分かったものではないから。

 少女が示す対象を、カイトが見つめる。

 並び聳え立つ木々のどれかを対象にしてみれば良いだろう。

 そう考えたカイトは無作為に一本の木へと焦点を合わせる。

 カイトの目算で距離を測れば、軽く一〇〇メートは超えていると思われた。

 メート、とはこの正解での距離の単位。

 (いち)メートとは、一〇〇セントメート。

 (いち)セントメートとは、一〇ミルメート。

 一〇〇〇メートで、(いち)キラメートとなっている。

 凡その寸法は、カイトの前世である日本と変わらなかった。

 それ程までに遠い距離で魔力が提供出来るのか不安を抱くカイトだったが、仮に上手くいき対象の気が破裂したとしても、こちらには被害が及ばないだろうと判断し、駄目で元々という心持ちで脳内にイメージを作り上げる。

 木の外観を膜として、その中になみなみと魔力を満たすイメージ。

 そこに更に魔力を注ぎ込み、まるで風船が割れる様に木が弾け飛ぶ様なイメージを追加した。

 その瞬間。

 鈍く大きな音が周囲に小さく響き渡り、同時に対象としていた木が消し飛んだのだった。

 カイトの視界の端に、驚きで肩を震わせる少女の姿が映る。

 だがそれ以上に、カイトは目の前の光景から目が離せなかった。

 ものの見事に破裂した木。

 しかしカイトが意識を向けたのは、そこではなかった。

 隣接する木に、破裂した木の痕跡が全く見当たらない。

 周りの景色にも弾け飛んだ木の破片が飛び散らない。

 カイトが対象とした木は、一瞬膨張を見せてその後に破裂音を残して消えてしまった。

 まるで、音だけを残して透明になった。

 物理的な爆発の様な被害を見せない周囲に、カイトはその様な感想を抱く。

 

「…………すっご」

 

 不意に、カイトの隣から呟きが聴こえた。

 顔を向ければ、対象となった木を呆然と見つめる少女の姿。

 そして少女が破裂した木とは少しずれた方角を指さした。

 

「じゃあ、次はあっちね」

 

 つられる様にカイトが顔を動かせば、先程よりも更に遠い木を少女は示していた。

 少なくとも破裂させた木よりも倍以上は離れているだろうと思われる位置。

 カイトは素直に頷き、再びその中で一つの木を目標に魔力の提供を試みる。

 そして破裂のイメージをも頭の中で組み立て、目の前の光景に注視した。

 

「……破裂しないね」

 

 やがて少女の声が、カイトの耳に届く。

 少女の視線を感じて、頷きを返した。

 それを見た少女が息を吐く。

 

「なーんだ、一回魔力を提供されたら離れてもずっと送られてくるものって思ったけど、やっぱ提供出来る範囲が決まってるのかぁ……」

 

 どこか落胆を含んだ少女の言葉に、カイトは申し訳無さから俯く事しか出来なかった。

 落胆する少女の姿に、罪悪感を感じるしかなかったのだ。

 しかし呟く様に発せられた少女の言葉に、カイトも納得するしかなかった。

 手前の木は容易に破裂出来た。

 破裂出来たという事は、魔力の提供が上手く行った可能性が高い。

 だが奥の木は、カイトのイメージに反して何も起こらなかった。

 故に"魔力提供"のスキルには影響範囲がある。

 少女の希望に応えられず罪悪感を抱きながらもカイトの中でまた一つ、スキルへの理解が深まった瞬間だった。

 視線を先程破裂させた木があった場所へと戻したカイトは、そこを只見つめる。

 大体の範囲は分かった。

 その距離を目算で覚える為だった。

 暫くと見つめつけていれば、横から少女の声が聴こえる。

 

「次は、あれとあれに魔力が提供出来るかやってみて」

 

 先程の落胆を含んだ声色等、すっかりと消えた少女の声。

 その言葉に意識と顔を少女へと向ければ、またしても別の方向を指さした少女の姿。

 それは破裂させた木よりも距離は幾分か近いが、他の木々よりも前に出ている二本の木だった。

 少女が再び口を開く。

 

「魔力を複数に提供出来るかも、知っといた方がいいでしょ?」

 

 少女の言葉に、カイトは何度目かの納得。

 確かに少女の言う通り、複数を対象とした検証も必要だと思えた。

 自身では思い付かなかった検証内容に、カイトは少女へと感嘆の念を抱く。

 そして、手を貸してくれてこんなにもスキルへの理解が深まっていく実感に、心の中で少女へと感謝の言葉を述べるのだった。

 頷きを返して、二つの木を見据える。

 まずは左側の木に集中し、それを魔力で満たすイメージを行う。

 そして続けて右側の木へと視線を向けて、同様の作業を行った。

 どちらも見た目は変わらずに、遠くで聳え立っている。

 

「どっちも魔力を送った?」

 

「……はい」

 

 少女から掛けられた言葉に、肯定の意を返す。

 だが、自信は無かった。

 

「なら確かめてくるから、君はここで待ってて」

 

 その言葉にカイトが首を傾げる。

 カイトの反応を見た少女が、小さく溜息を吐いた。

 

「あのねぇ、君が近付いたらこの距離からちゃんと魔力が提供出来るのかの証明にならないかもしんないから、君はここで待ってなきゃいけないの」

 

 半目で告げる少女に、漸くカイトは理解した。

 

「んじゃ、ちょっと見てくるねー」

 

 そう言い残し駆け出した少女。

 それを眺めながら、カイトは思い返していた。

 少女の言葉。

 確かに、カイトが近付いてしまえば、この距離で魔力が正しく提供されたのか確証が持てない。

 離れて対象を破裂させる事は出来ても、破裂させずに魔力の提供が行えない可能性だってある。

 カイトとしては破裂出来ているのだから、魔力の提供だけも正しく行えている可能性は高いと思っていた。

 だが少女の慎重な検証には、同意せざるを得なかったのだ。

 より確度を上げた検証。

 それを考えた少女にカイトは、舌を巻く思いで走り去る彼女の姿を見つめた。

 やがて対象とした二つの木に近付いた少女が、恐る恐るといった態度で左側の木に歩み寄り手で触れる。

 そして続けて右側の木へと同様の仕草で近付いては、手で幹に触れた。

 その光景を見ているカイト。

 少女は木から手を離しカイトへと振り返る。

 両手を頭の上でくっつけ、大きな丸を作ってみせたのだった。

 それを見たカイトが、息を吐く。

 安堵の溜息。それだった。

 少女の仕草から、どちらの木にも魔力が提供されているのだと分かったから。

 

「ちょっと後ろに下がってってー!」

 

 不意に届けられた声。

 少女が片手を上げて、後ろから前に何度も動かしている。

 それを見たカイトは彼女のジェスチャーを理解し、後ろへと下がり始めた。

 同時に少女は再び木に手を触れた状態で静止する。

 それなりにカイトが後方へと下がった時、木に手を当てたままの少女が顔を振り返らせた。

 少女の動きに思わず立ち止まったカイト。

 少女はもう片方の木へと駈け寄り、そちらにも手を当てる。

 やがて振り返り、再び両手で大きな丸を作った。

 カイトの方へと駈け寄ってくる少女を見て、カイトは何やら検証が終わったのだと理解し、荷物を置いた場所へと戻る。

 微かに息を切らせながら戻って来た少女が、カイトに口を開いた。

 

「一つだけじゃなくて、同時に複数にも魔力はちゃんと送れるみたいだね。魔力の偏りも無さそうだったし」

 

 それに、と続ける。

 

「君が一定以上離れた時に、急に木から魔力が無くなったんだよね」

 

「えっ」

 

 カイトが思わず驚きの声を上げる。

 そう告げた少女は、自分の中に考えを落とし込んだのか何度かの頷きをした後、再び言葉を発する。

 

「今分かってる事は、君の"魔力提供"っていうスキルは想像通りの、魔力を提供出来るスキル。でも、提供出来る範囲も決まってるし、魔力を提供されてても距離が離れ過ぎたら提供がストップされる……さっきあたしに起こったのもこれだと思う」

 

 少女の言葉に、カイトは息も絶え絶えの様相で再び姿を現した少女を思い出した。

 

「そして疲れを見せてない事から、"魔力無限"のスキルで魔力が無限に近いくらい持ってる可能性も、もしかしたらありそう」

 

 まあこれは君が元々魔力お化けって可能性もあるけど、とどこかおどけた口調で告げる。

 

「それで、君が魔力を満たすってイメージするだけなら魔力が提供されるだけだけど、それ以上に送って破裂するってイメージをすると、耐えられなくなって破裂させちゃう」

 

 そう言って再び頷いた少女。

 

「つまり、破裂するまでのイメージを君が持たなければ、ただ魔力を提供するだけって感じっぽいよね」

 

 合ってる? 少女から訊ねられたカイト。

 少女の言葉は、彼にとっても納得のいくもの。

 否定する材料はどこにも無かった。

 だが未だに全容が分からない以上、自信を持って肯定する事も憚られる。

 よって、どこか自信無さげに頷きを返したのだった。

 だが少女は構わずに言葉を続ける。

 

「もう少しだけ色々と確認出来れば大丈夫そうだから、それだけやろっか」

 

 そう告げた少女に、カイトは頷きを返した。

 だが先程の自信の無さは含まれず、意気込んだ頷き。

 カイトの中で、少女に迷惑を掛けない為にもなるべる早くスキルを理解出来る様になりたい。

 その思いが強くなったからこそ、とにかく事を進めていこうとカイトは思い直したのだった。

 自信は無い、けれどスキルを理解していけば何れ自信を持てると信じて。

 

「そんじゃ改めて、君の頭の中で聴こえた声ってのを詳しく教えて」

 

 少女が告げた内容に、カイトが再び記憶を呼び起こす。

 それはキマラに喰われる直前の出来事。

 

「えっと、その声は幾つか話してまして……」

 

 頭の中で告げられた内容を思い出し、口にする。

 

「スキル解放条件である外部魔力蓄積量が上限に達しましたので、これよりスキル解放作業へと移行します」

 

 それが一番最初の内容。

 

「"魔力"の制御が可能になりましたので、解放後のスキル"魔力無限"及び"魔力提供"が強制化から随意化へと変更されます」

 

 これが続けて言われた言葉。

 

「その為、不要となる外部魔力及び既存の不随意魔力を、接触している対象へと提供し排出します」

 

 これでキマラが破裂しました、そう補足する。

 

「移行作業が完了しました。"魔力無限"及び"魔力提供"のスキルに異常無し。これにて全作業を終了します」

 

 そして最後の言葉を、少女へと伝えた。

 不思議な程鮮明に言葉を覚えていた自分に、カイトは内心で驚く。

 何故かあの声から告げられた内容は、寸分たがわずにカイトの脳内に記憶されていた。

 カイトから告げられた内容に、少女は腕を組みながら難しい表情を浮かべる。

 

「んー」

 

 その様な唸り声を微かに上げつつ、暫くと間が空くのだった。

 やがて、少女が口を開く。

 

「……改めて聞いても、やっぱよく分かんないね」

 

 その言葉に、カイトは僅かに肩を落とす。

 だが少女の言葉は、それで終わりではなかった。

 

「でもその内容から考えれば、やっぱり君のスキルはその時からやっと正常に使える様になったって事なんじゃないかな?」

 

 問い掛ける様でありながら、自問自答の様な口調で少女は告げたのだった。

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