異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について   作: ころっくー

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第16話

 カイトは只耳を傾けるしかなかった。

 

「外部魔力とか不随意魔力とか訳分かんないのは一旦置いといて、分かりそうな事だけ考えてみればいいのさっ」

 

 そういって笑顔で胸を張った少女。

 その姿を、只見ているカイト。

 

「さっきまでの検証と、頭の中で聴こえた声を合わせて分かってるのは、今の君には"魔力無限"と"魔力提供"という二つのスキルがある」

 

 でしょ? 訊ねられたカイトが、自信なさげに頷く。

 "魔力無限"のスキルの根拠が、現時点のカイトには乏しすぎた為だ。

 だが、それを見た少女の目が細められる。

 

「……あたしが普段使える以上に魔法を使い続けても君は疲れ一つも見せない。だったらあたしより魔力が多くて、今の所その上限が見えないなら実質無限じゃん」

 

 君より魔力少ないあたしに喧嘩売ってんの? そう告げられたカイトが慌てて首を横に振った。

 少女が溜息を吐く。

 

「とにかく、他の人が君の魔力を使い続けても君には何の影響もないなら、無限とは思わなくても無限に近いって思っときなよ。君の魔力が本当に無限かなんて途方も無い検証はしたくないしね」

 

 少女の言葉に、カイトが押し黙る。

 彼女の言い分が最もだと思ったから。

 仮に魔力が無限だった場合、無限とはどの様に証明すれば良いのか、カイトにも分からなかった。

 魔法を打ち続けて貰う? カイトが周りにある対象を破裂させ続ける?

 どにらにしても、本当に魔力が無限だとすれば先に限界を迎えるのは協力者であり、破裂させるターゲットだろう。

 無限の証明を、行える筈が無い。

 故にカイトも少女の言葉を呑もうと考えたのだった。

 少女の言う通り、カイトが魔力を提供してそれを試す為に少女が魔法を乱発したが、少女にもカイトにも影響は出なかった。

 そして考えてみれば、キマラはもしかしたら違うのかもしれないがカイトは更に木や小石を破裂させ、更にそれぞれに魔力の提供をも行った。

 その全てにおいて、現時点に至ってもカイトの中に魔力の消耗からくるであろう疲労は一切感じない。

 ならば少なくとも、常人よりも遥かに多い魔力は保有していると考えた方が普通だろうという結論に至ったのだ。

 

「そんで、魔力の制御だっけ? 改めてその言葉をそのままに受け取ってみれば、君が魔力を制御出来る様になったからこうして好きに魔力を提供したり、破裂したり出来る様になったのかも」

 

 少女の言葉に、カイトが再び頷く。

 カイトもまたスキル解放以前には出来なかったそれらが、魔力が制御が可能になった事による恩恵である可能性は考えていた。

 ――解放後のスキル"魔力無限"及び"魔力提供"が強制化から随意化へと変更されます。

 その言葉を正とすれば、それによって自身のスキルが随意化された。

 随意とは、つまりは任意。自分の思うがままという事。

 それ以前は強制化。つまりは、カイトの意思や思いに左右されず制御が行えなかったという事。

 そこまで考えたカイトは、自分の考えに何故か引っかかりを覚えた。

 何かは分からないが、違和感を覚えたのだった。

 

「それって、逆に言えばさ」

 

 続けられたのは少女の言葉。

 

「……制御は出来なかったけど、前から魔力は使えてたっていう風にも受け取れるよね?」

 

「あ……」

 

 告げられた少女の言葉に、カイトの中で生じていた謎の違和感が解消された。

 スキルが解放されて、"魔力無限"と"魔力提供"が強制化から任意化になった。

 "魔力"が制御出来る様になったから、"魔力"無限と"魔力"提供というスキルが任意化、つまりは制御出来る様になった。

 逆を返せば強制であれど、魔力は使えており"無限"と"提供"というスキルも使えていたのではないか。

 今までは使えないと思っていたスキルが、魔力が使えていた。

 自分の意思では使えなくとも、使えていた。

 頭を鈍器で強く殴られた様な衝撃が、カイトの中を駆け巡る。

 青天の霹靂、正にその様な心境。

 過去の記憶が蘇る。

 魔力が無いのなら、フィジカルを鍛える。

 もしかしたら魔力が関係無いスキルなのかもしれない。

 そう思いながら努力し、様々な事を試した幼少期。

 けれども終ぞ、スキルが使える事は無かった。

 だが、使える事は無かったとしても、実は使えていたならば。

 しかしそこまで考えたカイトに、疑問が浮かぶ。

 自分では考えても分からない疑問。

 気付けば、口を開いていた。

 

「……でも、特に仲間からもスキルについて何か言われた事も無かったですし……」

 

 カイトの言葉に、少女が首を傾げる。

 

「仲間?」

 

 少女の反応に、カイトは説明していなかったかと思い、言葉を返す。

 

「……えっと、その……昨日まで、幼馴染達と四人でパーティーを組んでまして……」

 

「ふーん、そうなんだ。昨日までって事は、もうやめちゃったの?」

 

 何気無しに問いかける少女に、カイトの表情が歪む。

 言いたくない、けれど自分の為に力を貸してくれている恩人。

 苦渋の決断の末に、カイトは静かに唇を動かす。

 

「…………クビに、なりました」

 

「へ?」カイトの言葉に目を丸くする少女。

 

 そして徐々に状況を理解し、段々と表情が変化する。

 身体が小刻みに震え始め、頬が紅潮していく。

 やがて堪え切れなくなったのか噴き出し、大きな笑い声を上げたのだった。

 両手で腹を抱え、目尻には涙が浮かんでいる。

 その光景をカイトは只俯きながらに耐えるのみ。

 少女の笑い声だけが草原に響き続けた。

 やがて一頻りと笑い飛ばした少女が、指で目尻の涙を拭いながら笑顔で口を開く。

 

「はー、おもしろっ。やっぱ君、本当は人を笑わせるスキルでも持ってるんじゃないの?」

 

 心底愉快といった様相で告げ、再び思い出したのか小さく肩を震わせ笑いを堪える少女。

 それもやや時間が空いて収まりを見せた頃、少女が再び口を開く。

 

「えーと、何の話だったっけ?」

 

 笑顔のままで首を傾げる少女だったが、やがて本題を思い出したのか僅かに目を大きく開いた。

 

「あ、そうだそうだ。君が幼馴染達とパーティ組んでたけど昨日クビになったんだよね」

 

 そう言って再び笑いそうになる少女だったが、辛うじて堪える様に息を吐き言葉を続けた。

 

「そんで、その仲間達からは特に君のスキルについて何も言われなかったと」

 

 少女の言葉に、カイトは俯きながら小さく頷いた。

 解放前から魔力が、スキルが使えていたとしたら、この少女と同じ様に魔力が提供されてたと仲間が思う瞬間は幾らでもあった筈。

 少女の反応を思い出したカイトが下した結論は、それだった。

 今日会ったばかりの少女がカイトから魔力が送られたと感じたのだ。

 ならばもっと長く、そして幼い頃からずっと一緒に居た三人がそれを感じない訳が無い。

 今の様な状況になった後なら別だが、それ以前の仲が良かった頃なら尚の事、魔力が送られているとかの話が上がっても不思議じゃなかった。

 だが、誰もその話をする事は無かった。

 今まで一度もされた事が無いというならば、魔力の提供は三人に出来ていなかったのではないか。

 カイトはそう思った。

 少女と同じ様に、幼い頃から考えれば三人に何かしらで触れる機会はあった為、魔力の提供という条件は満たせた筈。

 けれど、何も言われなかったのだから。

 少女は首を傾げながら小さく唸る。

 

「んー」

 

 暫くとそんな声を漏らしていたが、やがて静かに口を開いた。

 

「実際に魔力を提供されたあたしの感覚での仮定になるけどさ、もしかしたら君はずっと幼馴染の三人に魔力を提供してたって可能性は無いのかな?」

 

「……え?」

 

 少女の言葉に、やや間を空けてカイトが反応を示す。

 即座には、彼女が言った内容を理解出来なかったのだ。

 思考が止まったかの様に、カイトの中で少女の言葉を噛み砕く事が出来ない。

 只呆然と視線を送るカイトに、少女は続ける。

 

「何で魔力が無いのか、そういった根本的なとこが分かんないから本当に仮説でしかないんだけどさ……頭の中に声が聴こえたっていうタイミングに君の認識違いが無いなら、スキルの解放とかってのがされる前に、確かにあたしは君から魔力を送られてた」

 

 少女が自身の中にある記憶と仮説を、カイトに告げた。

 

「そうなると君には最初から魔力が無いとおかしいんだよね。そうなると、間違いだったのは君に魔力が無いっていう前提なんじゃないかな。君には魔力が元々あった。でも、何らかの理由で出生鑑定の時に魔力が捉えられなかったって方が、あたしからすると自然なんだよねぇ」

 

 それでも現実味は無いんだけどさ、そう言って少女が苦笑する。

 そこで、漸く我に返ったカイトが、慌てた様に口を挟んだ。

 

「で、でも、皆はずっと魔法を使えていた訳じゃ無かったですよ……?」

 

 カイトの言葉に、少女は苦笑から表情を変える事は無かった。

 

「だから、根本的な事が分かんないから仮説でしか無いって言ってるでしょ?」

 

 問い掛けに対しそうとだけ返し、少女が再び話し始める。

 

「あたしが君から供給された魔力を使って魔法を撃ちまくった時、いつまで経っても魔力が無くなる様には思えなかった。でもそれって、君の頭の中に謎の声が聴こえた後だからって可能性もあるんだよね」

 

「あ……」

 

 カイトは思わず声を溢した。

 少女の説明はカイトの中でも時系列として正しく、彼女の話した内容が理路整然としている様にも思えたのだ。

 

「謎の声が正しいとすれば、その声が聴こえた時に君は漸く"魔力無限"になって、その"魔力提供"を受けた人は魔力が尽きずに使い続ける事が出来る様になったっても考えられるかもよ?」

 

 あたしから見た情報だけで言えばだけど、と少女は締めた。

 少女の言葉に、カイトは深く考え込む。

 解放されたスキル"魔力無限"と"魔力提供"は、確かに彼女の言い分で齟齬が無いかもしれない。

 だから実際に魔力の提供も行えた。そして魔力提供を受けた少女が、魔力が尽きる事は無かった。

 だけど、とやはりここでカイトの思考が待ったをかける。

 スキルが解放される前の情報と、やはり整合性が取れない気がした。

 少女の言う通り、もしカイトの魔力を幼馴染達に提供していたならば、幼馴染達は眼前の少女の様に魔力が回復したや、魔力を渡されたという事を言わなかったのだろうか。

 そう考えたカイトに、過去の光景が蘇る。

 それは村で幼馴染達と特訓を始めた頃の光景。

 最初は、より早くトレーニングを始めていたカイトが率先し教えていた。

 前世の知識を生かし、魔法に関しても可能な限りアドバイスをしていた。

 そして段々と成長した三人。

 この記憶から、カイトの中に疑問が浮かぶ。

 もしこの時から、三人へと魔力を提供していたなら?

 そして、頭の中に流れた謎の電子音の言葉を思い出す。

 ――"魔力"の制御が可能になりましたので、解放後のスキル"魔力無限"及び"魔力提供"が強制化から随意化へと変更されます。

 謎の電子音が言っていた、強制化から随意化。

 その言葉を鑑みれば、スキルが解放する前は自分の魔力が強制的に、誰かへと提供されていたのではないか。

 記憶を呼び起こしたカイトに、自然とその様な考えが浮かぶ。

 ならば、三人に対して元々魔力を提供しており、カイトが提供する魔力を基に特訓をして成長したならば、カイトから魔力が提供されているとは、思いもしないのではないか。

 気付いていて言わなかったのではない。

 気付かないからこそ、三人は言わなかったのかもしれない。

 カイトが思い返せば、ある事に気付いた。

 三人と、これ程までに距離を離れて行動をしたのは、今日が初めてではないかと。

 故郷の村は狭く、各々の家は然程離れてはいなかった。

 そして冒険者になってからは、昨日までずっと四人が同じホテルに泊まり、近場にある武具屋、道具屋を利用していた。

 ギルドには全員で向かい、全員でクエストに向かう。そして全員で帰還し完了報告する。その後は全員で食事を食べた。

 昨日、パーティを追放されるまで、ずっとその生活だったのではないか。

 ならばスキルが解放された今とスキルの効果範囲がもし同じだと仮定してみれば。

 範囲外まで三人と離れたのは、今日が初めてかもしれない。

 だから、もし魔力を提供していたとしても、魔力が提供されているのが当たり前という状態で生活をしていれば、それは魔力が提供されているとは思えないのではないか。

 そう結論付けたカイトだが、それでも尚疑問は一つ残された。

 

 出生鑑定の際に言われた、"無限"というスキルについて。

 "提供"というスキルについては、少女からの言葉を受けて、考え得る理由がカイトの中で何となくではあるが輪郭が出来上がった。

 だが、"無限"とは果たして、何が"無限"だったのだろうか。

 今は魔力が無限という意味で凡そ認識は出来ている。

 だがそれでは、魔力が無くなった幼馴染達の姿が説明出来なかった。

 カイトのパーティー脱退が決定的となった、アーマースネーク討伐のクエスト。

 事前情報よりも圧倒的に数が多かったアーマースネークを前に、ルインとリーンの魔力が尽き魔法が使えなくなってしまった。

 前衛のアレックスもまた、徐々に魔法を使う回数が目減りしていく。

 魔力切れにさえならなければ、あの様な事態には決して陥らなかった筈。

 だからこそカイトには、"無限"というスキルが"魔力無限"と直接紐づくスキルには到底思えなかったのだ。

 仮に魔力無しではなく三人へと魔力を提供していたのだとしても、自分の魔力が有限じゃなければ辻褄が合わない。

 答えの出ない疑問が、カイトの中で堂々巡りをする。

 考えに没頭し眉間に皺を寄せるカイトの姿を見た少女が、声をかけた。

 

「あのさ、考えてるとこ悪いんだけど」

 

 その言葉に、カイトの意識が浮上する。

 カイトの視界に映るのは、心底つまらないといった様相で眉を潜めた症状の姿。

 静かに、その唇が動く。

 

「多分いまいち結び付かなくて納得出来てないかもしれないけどさ……それって別に、どうでも良くない?」

 

「……えっ」

 

 少女の言葉に、思わず声を上げる。

 確かに他人事。だがここまでにべもなく一蹴されて驚くしかなかった。

 僅かに眉を下げた少女が嵌め息を一つ溢し、言葉を続ける。

 

「確かに今までとの整合性も必要なのかもしんないけど、それって今考えてもどうせ全部仮説止まりだろうし……だったら、今出来る事だけ考えてスキルの理解を深めた方が良いと思うけどなぁ」

 

 何気無しに言い放った少女の言葉に、カイトは衝撃を受けた。

 

「……今、出来る、事」

 

 カイトの呟きに、少女が「そそっ」と相槌を返す。

 幾分が解れた表情に戻して、言葉を紡ぐ。

 

「昔の事が気になるなら、いつか魔法とかスキルとか研究してる人に会ったら聞けばいいかもだし、別にあたしの前で考えなきゃない事じゃないでしょ? あたしが手伝うのはあくまでも君の、解放されたっていう今のスキルだけ」

 

 違う? そう言って首を傾げる少女に、カイトは言葉を返せない。

 やがて、力なく首を横に振るのだった。

 少女の言葉は正に、正論。

 カイトの過去の出来事について、少女が考慮する必要は皆無。

 現に今のカイトがスキルを使って出来る事を、少女は解明してくれた。

 少女はカイトとの約束を果たしてくれたのだ。

 カイトにもそう思えたからこそ、過去との紐づけまでを少女にしつこく聞く事は出来なかった。

 その様子を見た少女が笑みを浮かべる。

 

「良かったー! 君の過去も全部遡って解明しろとかだったら、めんどくさ過ぎるしね!」

 

 嬉し気に話す少女に、カイトは只微妙な表情を浮かべるのみ。

 彼女の言う通りではあるが、もう少しオブラートに包んでも良かったのではないかとカイトは思ったが、それを口に出す事は無い。

 何故なら、少女が言った内容自体が正論であり、過去の事象は少女がすべき考察ではないのだから。

 そしてカイト自身、少女の言葉に影響を受けたのだから。

 今出来る事だけを考えてスキルの理解を深める。

 それが正に、今の自分が最優先で取り組まなければならない事柄だと思い知らされたのである。

 過去の考察はいつでも出来る。

 過去に起こってしまった出来事を変えられる訳でも無い、ならば今のカイトが最優先で行わなければならないのは、これからをどの様にしていくか。

 これから迷惑を掛けずに、そして自分が目指す大人の姿、夢を叶える為には、これからを変えていかなければいけない。

 だからこそ喫緊の課題は、今の自分に出来る事への理解を深める事。

 偶に立ち止まり後ろを振り返る事も重要。

 だが、後ろばかりを気にし過ぎて前が疎かになってしまえば、いつかは躓いてしまうかもしれない。

 前を見ながら、時折後ろを気にする事でしか、自分を変えられないのだ。

 まずは今の自分に出来る事を、もっと理解する。

 そうしなければ、胸を張って夢を語れる自分にもなれない。

 カイトの思考が、するべき事が漸く固まったのだった。

 そこに、少女の声が届く。 

 

「とりあえず、ここまで分かれば良いんじゃない?」

 

 そう告げた少女にカイトが目線だけを上げれば、随分と時間が経っているのが分かった。

 気付けば陽の傾きが大分と大きくなっており、そろそろ沈み始める準備をし出した頃合いだった。

 もうこんな時間か、漠然とそんな事を思ったカイトを他所に、少女が口を開く。

 

「暗くなってから移動するのもやだし、もう終わりにしてさっさと街に行こうよ」

 

 少女の言葉を受けて、カイトが慌てて口を開く。

 

「あ、じゃ、じゃあホテル代、お渡しします」

 

 そう言って荷物の中に仕舞った袋を取り出そうとすれば、少女から声がかけられた。

 

「いや……ホテルを探して部屋を取ってもらうのも、君にやってもらうつもりなんだけど」

 

 半目となった少女が告げた内容に、金を取り出そうとしていたカイトの身体が硬直する。

 そんな事は聞いていなかったから。

 そしてそれ以上に、自分が街に戻るという事を想像し、恐怖を抱いたから。

 自身で仕出かしてしまったのだから致し方ない。

 けれども人々の視線が怖い。その事実だけは変えようがなかった。

 

「あ、あの……その、俺はこの辺に野宿するつもりなんで」

 

 しどろもどろになりながらもカイトが告げれば、少女の眉がつり上がる。

 

「へー、君って自分を助けてくれた人にお金だけ渡して後は勝手にしてくれってタイプの、薄情な人間なんだねー」

 

 どこか間延びした口調で告げる少女だが、カイトにはその言葉が胸に突き刺さる。

 薄情な人間。

 その言葉が、カイトの心を苦しめたのだった。

 自身のスキルの解明を手伝ってくれた人物からのその言葉が、何とか拒否しようとするカイトの心を弱らせる。

 だが、ある事に気付きカイトが口を開いた。

 

「で、でも俺だと街の皆にも迷惑を掛けてて、多分ホテルを取れないと思うんで……」

 

 カイトの中にある事実を列挙し、控えめな拒否を示したカイト。

 しかし少女の態度が変わる事はなかった。

 

「それは君の理由でしょ? あたしには関係ないもん」

 

 にべもなくカイトの言葉が却下される。

 その言葉に、カイトの心が再び痛んだ。

 少女が空を見上げ、大きく口を開く。

 

「あー、今日泊まるホテルが無いなんてあたし困っちゃうなー。そんなあたしに力を貸してくれる人がいたらなー」

 

 そして目線だけが、カイトへと向けられた。

 

「……そういえば、"あたしが力を貸して欲しいと思った時に、力を貸す義務がある"人が居たよなぁ」

 

 その全てが、カイトの胸を締め付けた。

 少女が言った内容。

 その意味が、カイトの記憶を蘇らせる。

 自身のスキルの解明を条件に、眼前の少女と結んだ契約。

 その中に、今し方少女が告げた内容が含まれていた。

 だがこの様な使い方をされる等、誰が予想出来ただろうか。

 しかし、契約は契約。

 時が経つにつれて、胸の締め付けが強くなる。

 恩人たる少女に報いたいという思いはある。

 だが、現実としてカイトがホテルを取ろうと思っても、取れる保証が無かったのだ。

 カイトの中で今朝の光景が思い起こされる。

 ホテルの受付で会った、女将の態度。

 それが他のホテルも同様なのだろうと、カイトは思っているのだから。

 だからこそ、力になりたくても力になれない。

 そんな思いに苛まれながら、胸の締め付けが更に強まる。

 視線だけを向ける少女に見られながら、カイトは考えを巡らす。

 やがて、一つの結論を出した。

 

「……分かり、ました」

 

 小さく呟かれたカイトの声。

 

「……んー、何が?」

 

 それを耳にした少女が、問い掛ける。

 やや間を空けて、カイトが再び口を開いた。

 

「……ホテルを取るのも、全部俺が、やります」

 

 カイトの言葉を聞き、少女が顔を動かした。

 笑みを、カイトへと向ける。

 

「そっか! いやー悪いねー!」

 

 楽し気な声色に、カイトは俯くのみ。

 だが彼の中では決意を示していた。

 土下座でも何でもして、少女が泊まる部屋を確保すると。

 そして自分が泊まらなければ、もしかしたら部屋を取れるかもしれないと。

 この少女だけは、不自由なく泊まれる様にやれる事はやろうと。

 苦しい心を捨てて無理矢理に自覚させた思い。

 だが声に出して宣言したからか、胸の締め付けは無くなっていた。

 笑みを浮かべたまま、少女がカイトから踵を返した。

 

「なら早く街に行こっか!」

 

 そう告げて僅かに駆け出した少女に、カイトもまた一歩を踏み出した。

 だがそれはカイト自身が思っていたよりも、重量を感じる動きだった。

 プライドを全て捨てて、土下座でも何でも行い少女の泊まる部屋を確保する。

 決意を秘めたカイトだが、街へと向かうその一歩で思い知らされた。

 街に戻る事が、自分が思っている以上に苦しいのだと。

 だからこそ歩みは遅く、少女との距離が離れ始める。

 先を進んだ少女が足を止めて振り返る。

 

「あっ、遅いよ君! 早く早く!」

 

 手招きをしながら声を届ける少女に、内心を隠したカイトが苦笑を見せる。

 

「ごめん、荷物が多くて……。暗くなるにはもう少し時間があるんで、急がなくても大丈夫ですよ」

 

 カイトの言葉に、少女の頬がむくれる。

 

「あたしが嫌なのっ! ほらっ、さっさと歩いて!」

 

 そう言って駆け出す少女に急かされ、カイトは重い気持ち無理矢理隠しつつ、静かに歩く速度を速めたのだった。

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