異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について   作: ころっくー

24 / 32
第23話

「…………」

 

 カイトの耳に、何かが聴こえる。

 それはとても小さく、決して判別が出来ないもの。

 

「…………!」

 

 再び聴こえた何か。

 それはまるで人の叫びの様なものにも思えた。

 徐々にカイトの意識が浮上し始める。

 

「カイト! 聴こえるッ?」

 

 その言葉に、その声に、カイトの意識が急速に目覚めた。

 目を開き、それを視界に収める。

 そこに居たのは、一人の人物。

 

「あっ、カイト! 大丈夫っ?」

 

 目覚めたカイトに僅かな安堵を浮かべ、次いでどこか不安そうな表情へと変わる。

 それをカイトは呆然と見つめた。

 やがて現状を把握し始める。

 今、自分はうつ伏せに倒れており、ここは外。

 路面を陽の光が照らしている現状は既に朝か日中。

 重さを感じる背中。僅かに身体を動かせば重心がずれる事から、背負っていた荷物だと判断。

 何故、ここに倒れているのか。

 カイトの記憶が徐々に蘇った。

 

「……カイト?」

 

 再びかけられた声。

 漸くと思い出したカイトは、呼ばれる名前に反応し慌てて口を開く。

 

「あっ、えと、その……大丈夫、です……」

 

 しかし出たのは弱弱しい口調。

 晴れやかな日差しを背中に感じつつも、カイトの心は暗かった。

 カイトの耳に声が届く。

 

「そっか……良かったぁ。立てそう?」

 

 安堵の声色。

 それと同時に、カイトの肩に優しく手が触れる感触が訪れ、思わず肩を震わせた。

 カイトの様子に気付いたのだろう。

 

「どこか痛いの?」

 

 気遣いを含む声がかけられる。

 それに対してカイトは、静かに返した。

 

「……い、いえ、大丈夫、です」

 

 そう言って腕を動かし、それを支えにしてゆっくりと起き上がる。

 二本の脚で地面に立ち、その目が人物を捉えた。

 カイトと共に立ち上がり、彼を見上げるその姿。

 桃色の柔らかそうなボブカット。

 髪と同色の大きな瞳は、カイトの姿を捉えている。

 

「…………リーン」

 

 無意識に、カイトは呟いた。

 眼前にいる人物の名前を。

 名前を呼ばれた少女が僅かに首を傾げる。

 だがすぐに、慌てた様に口を開いた。

 

「……あっ、え、えっとねっ、その、朝ご飯を買いに出たら……えっと、途中でカイトが倒れてるのが見えてっ……それでっ……」

 

 慌てた様に言葉を発するリーン。

 それを見たカイトが、思わず首を傾げた。

 何故、彼女が慌てているのか。

 それが全く分からなかった。

 身振り手振りで慌てた様を表現するリーンだったが、やがてその動きを止めた。

 どこか意を決した様な表情でカイトを見上げ、口を開く。

 

「……ちょっと、話せないかな」

 

「……え?」

 

 そう言ってカイトを見つめるリーン。

 カイトは只、呆けた声を上げる事しか出来なかった。

 

 カイトが腰掛けた隣に、静かにリーンが腰を下ろす。

 背後からは水が流れる音が聴こえ、それ以外の音は存在しなかった。

 

「はい、これ……カイトの分」

 

 そう言ってリーンは、その手に持っていたものをカイトに差し出す。

 暫くとそれを眺めていたカイトだが、やがてゆっくりと手を伸ばした。

 

「あ、ありが、とう……」

 

 ぎこちなく礼を述べて、彼女の手から受け取る。

 伸ばした手を自身に寄せて、カイトは視線を下げた。

 彼の手に持つもの。

 それはサンドイッチだった。

 ここに来る道中、リーンから朝食について訊ねられ、カイトは特に何も考えず正直に答えた。

 正確には何も考えられず、正直に答えるしかなかった。

 最後に食べたのは、確か昨日の朝だと。

 それを聞いたリーンが驚き、近くにあったパン屋へと駆け込んで、サンドイッチを購入したのだ。

 数は二つ。

 一つは、今カイトが持っているもの。

 もう一つは。

 

「私も朝ご飯まだだったし、パン食べるつもりだったからちょうど良かった」

 

 そう言って包みを開け、小さな口で食べ始めるリーン。

 手元を見つめるカイトだったが、やがて腹の虫が鳴る。

 カイトは数日振りに、空腹を思い出したのだった。

 無意識に手が動き、包みを開いていく。

 そして姿を現したサンドイッチを口に寄せ、一口食べる。

 咀嚼し飲み込めば、再びサンドイッチを口に含む。

 その動きが止まらず、カイトは食べ続けた。

 やがて最後の一口を口に入れ、咀嚼した後に喉の奥へと仕舞い込んだ。

 そこで漸く、カイトの思考が戻り始める。

 気付けば食べ終えていた。

 その事実に驚き、そして思う。

 食べてしまって良かったのだろうか。

 リーンに貰った物。

 それを甘んじて受け、食べた自分。

 迷惑をかけた相手にまた、迷惑をかけてしまったんじゃないか。

 遅れ馳せながらに、カイトの中に恐怖が湧き上がった。

 こんな自分なんかが、リーンから何かを恵んで貰うなんて。

 また迷惑をかけて何をやっているんだ自分は。

 自身に対する怒りが、カイトの中で強さを増していく。

 謝らないと。

 咄嗟にそう思ったカイトが、リーンへと顔を向けた。

 その時。

 

「……ごめんね」

 

 カイトの思考が止まる。

 

「……え?」

 

 ただ、声を漏らした。

 止まったカイトの思考に浮かぶのは、只一つ。

 何故。

 それだけが、カイトの中に漂っていた。

 何故、リーンが謝るのか。

 そして何故。

 

「……大変、だったんだね」

 

 こちらを見るリーンの表情が、こんなにも悲し気なのか。

 そして苦し気に見えるのか。

 カイトの思考が、困惑で埋め尽くされた。

 今視界に入っているもの、そして耳に届いたもの。

 その全てが、理解出来なかった。

 

「……なん、で」

 

 リーンが謝るのか。そう訊ねようとしたカイトだが、口が上手く動かず最後まで言えない。

 だがリーンは、カイトの言葉を汲み取った様に、俯いた。

 そして小さな声で、話す。

 

「……私たち、ううん……私のせいで、カイトに大変な思いをさせちゃったんだもんね」

 

 か細い言葉。

 

「い、いやっ、それは違」

 

 それを耳にしたカイトが、反射的に口を開く。

 だが、途中で遮られた。

 力無く首を横に振る、リーンによって。

 カイトは開いた口をそのままに、リーンを見つめる。

 やがてリーンが口を開いた。

 

「魔力とか、スキルが使える様になったんだよね」

 

 呟く様に話すリーン。

 

「私が強くカイトを責めなかったら……もしかしたらカイトは、まだパーティーに残って、使える様になった力で皆と一緒にクエストとか出来てたかもしれないんだよね」

 

 その言葉に、カイトは目を見開いた。

 リーンの言葉。

 解放されたスキルを持った状態で、三人とパーティーを続ける。

 そんな事、考えもしなかった。

 決して、それが嫌という訳ではない。

 只、あり得ない光景だと、思考すらしていなかった。

 リーンの言葉を考える。

 僅かに間を置き、カイトが口を開いた。

 

「……いや、それは」

 

 顔を逸らして、カイトが告げる。

 それは無理だと。

 三人に対して何か抵抗感がある訳ではない。

 前よりも確かに力は持った。

 けれど、それで以前の様な事態を引き起こさないという保証が、なかったから。

 ルインを死にかけさせてしまったあの出来事。

 それが完全に防げるという自信が、カイトには無かった。

 思い返すのは、昨日の光景。

 地面に倒れ伏すラヴィ。

 そこに襲い掛かるモンスター達。

 力は持ったが、あの様である。

 一歩間違えれば、ラヴィが死んでいたかもしれないあの状況。

 力は持てども成長はしていない。

 だから、再び三人と一緒に行動するという自信は持てなかった。

 自信を持てるまで、三人と共に行動する事は出来ないと、思えた。

 カイトの言葉に、リーンは暫し呆然とし、やがて口を開く。

 

「……あっ、ち、違う! 違うの! そんなつもりで言ったんじゃないよっ! ほんとに! ほんとにそんなつもりじゃないの!」

 

 目を見開き、慌てた口調でカイトに告げる。

 不意の言動に、カイトは驚きといった表情を浮かべた。

 リーンの目に涙が浮かぶ。

 

「違う! 違うから! カイトが強くなったから戻ってきて欲しいっていう訳じゃなくて! 全然そんなつもりで言ったんじゃないの!」

 

「リ、リーンっ、お、落ち着いて……!」

 

 挙動に不安を抱いたカイトが思わず声をかけるが、リーンは首を強く横に振りカイトの胸元を握り締める。

 その大きな目に涙を蓄え、カイトを見上げた。

 

「そんなつもりじゃないから! ほんとだよ!? お願い! 信じてっ!」

 

 リーンの拳が強く握られるのが、カイトには分かった。

 彼女に声をかけようとするが上手く言葉が出ずに、口を開いては閉じるだけ。

 やがてリーンは俯き、カイトの胸に額を乗せた。

 カイトにはリーンの顔は見えないが、その身体が小さく震えている事だけは認識出来た。

 

「……また四人で、出来ないかな」

 

 カイトの耳に届いた、微かな呟き。

 

「……虫の良い話だって、思うかもしれない、けど……やっぱり……四人がいい」

 

 リーンのことばを、カイトは黙って聞き続ける。

 

「アレックスとルインには、私が言うから……また、一緒に出来ない、かな」

 

 その言葉に、カイトの脳裏に浮かんだ光景。

 ――何をしてる、邪魔だ。

 無機的に時折関わるアレックス。

 ――ねぇ、クエスト終わったら三人で出かけない?

 無関心を貫くルイン。

 ――皆の足引っ張ってないで、少しはちゃんとしてよ。

 嫌悪感を抱く表情のリーン。

 誰もが、カイトに関心を持たなかった。

 誰もが、カイトにポジティブな印象を持っていなかった。

 誰一人として、カイトを見ていなかった。

 

「…………ごめん」

 

 足手纏いだと罵り、無能だと嫌悪し、役立たずだと侮蔑しただろう。

 こっちの気も知らないで、一方的に追放したのはそっちだろう。

 力を持った途端に、擦り寄ってきやがって。

 そんなパーティーに、誰が戻ってやるか。

 自分を追放した事を後悔すればいいんだ。

 これらの感情、気持ち。

 カイトの中には一切、芽生える事は無かった。

 カイトは思う。

 もしかしたら物語の主人公達は、カイトと同じ状況に陥った際、一縷の未練も残さずそんな風に思う事ができ、一顧だにせず切り捨てて前に進めるのかもしれない。

 きっぱりと割り切って、後ろ髪を引かれる思いすらも無く袖にする事が出来るのだろう。

 カイトは思う。

 やはり自分は、主人公にはなれない。

 胸元で悲し気に俯き震えるリーンを、振り払う事が出来ないのだから。

 彼らが自分へと行った言動に、腹が立たないのだから。

 全ては迷惑をかけた自分が悪いとしか思えない。

 三人は今でも、カイトにとってかけがえの無い友人なのだから。

 言われた数々も、パーティーを追放された事も、その全てに悪感情を持つ事が出来なかった。

 寧ろ。

 そんな事を言わせた、パーティーを追放させた自分の振る舞いに、激しい憤りを覚えてしまう。

 アレックスに、パーティー追放を言わせた。

 ルインを死にかけさせた。

 そして、こんな風にリーンを泣かせた自分に、只々怒りが湧く。

 だからこそ、戻れない。

 戻れるだけの、力と自信がない。

 また迷惑をかけるかもしれない。

 また、死の危険に直面させてしまうかもしれない。

 だから今は、戻れない。

 そんな甘えを、今の自分が享受して良い訳が無いのだから。

 もっと強く、もっと自信を持てる様にならなければ、戻って良い筈が無い。

 それらの思い、気持ち、感情。

 万感の思いを乗せて、カイトはそう告げたのだった。

 カイトの胸元を握るリーンの力が強まる。

 

「……ごめんね……変な事、言って……」

 

 そう呟いたリーンはカイトの胸元に額を押し付けて、その身体の震えが増す。

 何を意味するのか、胸元の衣類から伝わる湿り気が増したカイトは気付いていた。

 だが、何も出来なかった。

 泣かせたのは自分だ、慰める資格なんか無い。

 その思いで、カイトは動く事が出来なかった。

 リーンの口から微かに漏れ出る音を隠す様に、噴水は音を立て続けたのだった。

 

 

 ギルドへと向かい、ラヴィと合流。

 遅いと小言を言われながらも、ハンナに声をかけて不良依頼を再び受注。

 今回もラヴィがクエストを選び、カイトがそれを受注したのだった。

 ラヴィに言われ魔力を提供し、クエストに必要な物を購入した後に出発。

 そして今、二人は馬車に揺られていた。

 

「ずっと上の空だけど、何かあったの?」

 

 対面に座るラヴィが、カイトに訊ねる。

 それを受けたカイトはゆっくりとラヴィに顔を向け、やがて苦笑を浮かべる。

 

「ああ、いや……多分、寝不足かも……」

 

 そう告げるカイトをラヴィは見つめる。

 その目を細めて、カイトへと声をかけた。

 

「……ま、別にいいけどさ。あたしの前でうじうじすんのだけはやめてよ?」

 

 ラヴィはそう言って、窓枠に肘をついて腕を上げ手の上に顎を乗せる。

 横を向いて景色を見だした彼女に、カイトは人知れず息を吐くのだった。

 そして顔を自然と俯かせる。

 思い出すのは、ラヴィと合流するまでの出来事。

 カイトに身を寄せていたリーンは、暫くしてその身を離した。

 そろそろ二人と合流しなきゃと言い、立ち上がる。

 カイトへと背を向けて歩き出すも数歩進んだ所で立ち止まり、微かに振り返った。

 互いの視線が合い、リーンは微かに唇を開きかけたが、何も言わずに再び歩き去ったのであった。

 姿が見えなくなってからも暫くとその方向を見続けたカイトがゆっくりと立ち上がる。

 そして歩き出し、ラヴィが泊まるホテルを目指した。

 ホテルに着くと主人が入り口前の掃除をしており、ラヴィは既にホテルを出たと告げられる。

 全然迎えに来ないと怒っていたぞと告げられ、カイトは足早にギルドへと駆け出したのであった。

 馬車が進み続けているのを全身の揺れで感じながら、カイトは思いに耽る。

 それは、自分に身を寄せ泣いているリーンの姿。

 カイトの中で後悔が募る。

 果たして、あの返答で正解だったのか。

 彼女の姿を思い出す度に、自分の気持ちが揺らぐのが分かった。

 だが、また四人でパーティーを組むとは言えないのも事実だった。

 また三人に甘える事になるかもしれない。

 それがカイトの中で残り続け、恐怖になったのだ。

 また三人に甘える。

 また迷惑をかける。

 また、死にかけさせてしまう。

 今度は、死なせてしまうかもしれない。

 以前とは違い、今はそれなりに力を持ったカイト。

 だがそれでも、死なせないと言い切る事が出来なかった。

 死なせないと言い切れないなら、死なせてしまうかもしれない。

 その恐怖が、カイトの中から消える事は無かった。

 馬車はまだ走り続ける。

 恐怖を抱き、その恐怖を振り払おうと考えを巡らせる。

 その内にカイトの瞼が重くなり、気付けば眠ってしまった。

 

 

「起きなさーい! もう着くよー!」

 

 耳元での大きな声に意識が戻る。

 目を開ければ辺りは既に暗く、夜の帳が降りていた。

 左右を森に囲まれた細い一本道を進む馬車。

 やがて開けた場所に出て、少し進んだ先にて停車したのだった。

 馬車を降りて、カイトは辺りを見渡す。

 閑散とした村。

 昨日訪れた村よりも更に狭く、人の気配が少ない村だと感じた。

 不意に、カイトの服が引っ張られる。

 

「ぼけっとしてないで、さっさと行こうよ」

 

 淡々とした声色で促すラヴィに、カイトが頷きを返して歩き始める。

 後ろに御者が引く馬車がついてくるのを感じながら、村の中へと足を踏み入れた。

 村長宅を探そう。

 二人で意見が纏まり僅かに歩き続けていると、目の前に一軒の民家が姿を現した。

 寂れた雰囲気を醸し出した小さな家。

 灯りは消えており、カイトは僅かに悩む。

 夜だし、もし寝ていたら迷惑ではないか。

 そう考えるカイトの耳に、断続的な音が聴こえた。

 

「もしもーし! ここって村長の家? 違うなら村長の家に案内してー!」

 

 暗がりの戸を力強く叩きながら、中へ向けて大声で呼びかけるラヴィ。

 

「ラ、ラヴィっ」

 

 彼女の行動に仰天したカイトが慌てて声をかけるも、振り返ったラヴィが何の事かと首を傾げた。

 

「なに? 村長がどこにいるか分かんないんだから、聞くしかなくない?」

 

「そ、それはそう、だけど……」

 

 ラヴィの言葉に、思わず語尾が小さくなるカイト。

 その時、ラヴィが叩いていた戸の隙間から灯りが漏れ出した。

 僅かに間が空き、戸が開かれる。

 

「……こんな時間に、一体何の様だ」

 

 戸を開けて顔を覗かせたのは、中年頃の男性。

 訝し気に眉を寄せながら問い掛ける。

 若干不機嫌そうに見える姿に、カイトは臆しながらも口を開いた。

 

「え、えっと、あの……」

 

 だが、カイトの言葉はそこで遮られた。

 

「君が村長? じゃないなら、村長の家に案内してよ」

 

 カイトの言葉に被せる形で、ラヴィが男性へと告げたのだった。

 ラヴィの言葉に、男性は更に眉を潜める。

 

「……村長に、何の用だ」

 

 僅かに警戒心を宿した声色。

 その声にカイトは内心で焦りを覚える。

 だが、ラヴィの表情に焦りはない。

 寧ろどこか自慢げな笑みへと変えて口を開く。

 

「この村のクエストを受けて、ここまで来てあげたんだよ! ほらっ、もっと感謝してくれても良いんだよっ?」

 

 ラヴィの言動に、カイトの焦りが増す。

 まるで偉そうであり、煽る様な口調と態度。

 ラヴィは冒険者じゃ無いだろ、というツッコミがカイトの中で生まれる事は無かった。

 相手の反応が心配になったカイトが、戦々恐々といった表情で男性を見る。

 だが、カイトの予想に反して男性の表情に怒りの様な感情は見受けられなかった。

 

「……なるほど、冒険者の方だったか」

 

 寧ろ、どこか納得といった様相で頷いていた。

 それを見たラヴィがふふんと鼻から息を吐く。

 

「で、君が村長なの?」

 

 ラヴィの問い掛けに、男性は首を横に振った。

 

「いや、俺は村長じゃない。村長の所には俺が案内しよう」

 

 男性の言葉に、ラヴィは笑みを浮かべる。

 カイトへと振り返り、意気揚々と片目を閉じた。

 

「ねっ? このやり方で合ってたでしょ?」

 

 その姿を呆然と見つめたカイトはやがて、苦笑を浮かべるのであった。

 

 

 一軒の民家の前で、足を止める。

 カイト達が村で最初に出会った男性が先導して、村の中を歩いた。

 その道中で互いに自己紹介を済ませる。

 村人の男性の名前は、テイゴラ。

 好きに呼んでくれて構わないというテイゴラに、ラヴィは早速と呼び捨て。

 その事に焦りを覚えたカイトだったが、テイゴラは気にする素振りを見せずに受け入れていたのだった。

 ラヴィが気になった事を訊ね、それをテイゴラが答える。

 そんな事を繰り返しながら、一行は村長宅へと着いたのであった。

 村長宅といえど、他の家との大差は無い。

 テイゴラが灯りの消えた家の戸を叩く。

 

「ツロフトさん! 冒険者の方々が来てくれました!」

 

 何度か戸を叩きながら、テイゴラが中へと声をかける。

 二度程それを繰り返した後、建物の中から灯りが漏れ出し、やがて戸が開けられた。

 

「テイゴラ、そう何度も言わずとも聴こえておるわい」

 

 現れたのは長い白髪頭と、これまた同様に長い白髭を蓄えた老人の男性だった。

 背は幾分か小柄で多少腰の曲がった、テイゴラからツロフトと呼ばれた老人。

 テイゴラを見ながらそう告げたツロフトが、やがてその顔をカイト達に向けた。

 

「お二方が冒険者の方々で、合ってますかな?」

 

「そうだよ! わざわざ来てあげたんだから感謝してよっ?」

 

 再び胸を張りながら告げるラヴィ。

 その姿を見たツロフトは、僅かに目を丸くしてから表情を変えたのだった。

 

「ほっほっほ、中々に頼もしい冒険者の方に来て頂けたみたいですな」

 

 ツロフトの口調や表情。

 それを見たカイトはどこか、優し気な印象を抱いた。

 まるでラヴィを微笑ましそうに見つめる視線に、カイトはそう思ったのだ。

 

「まあね! ちょちょいって終わらせるから、安心して待っててよ!」

 

 それに気付かぬラヴィは、目を閉じながら自信ありげに胸を叩くのであった。

 カイトは、目を細めて優し気な表情でラヴィを見るツロフトを見やって、漸く安堵の息を吐く。

 やがてツロフトが口を開いた。

 

「立ち話も何ですので、質素な物しか出せませぬがうちに上がられては如何ですかな?」

 

 その言葉に、ラヴィが目を開ける。

 

「んじゃ、喉乾いたし何か飲み物ちょーだい」

 

 ラヴィに対して、ツロフトが笑う。

 

「ほっほっほ、茶で良ければ幾らでも飲んでくだされ」

 

 笑顔で答えたツロフトに「えー、まぁしょうがない。特別にそれで許してあげる」とやや不満気に答えたラヴィが歩き出し、ツロフトの横を通って家の中へと入って行った。

 それを見て焦るはカイト。

 

「ラ、ラヴィっ」

 

 思わず声を上げるが、それは途中で遮られる。

 

「無邪気でよろしいではありませぬか。あなたも是非、中へとお入りくだされ」

 

 ツロフトがカイトへと声をかける。

 変わらずの柔らかな表情。

 それを見て僅かに戸惑うカイトだったが、やがて小さく息を吐いた。

 ツロフトの表情に、毒気を抜かれた。

 一応とラヴィの事で軽く謝罪をすれば、それを受け入れたツロフトが踵を返し、それに続いたテイゴラ。

 彼らに続いて、カイトもまた中へと入るのだった。

 だがその途中で御者の存在を思い出したカイトがツロフトへと御者の滞在について話をすれば快諾。

 馬車を家の横に停めた御者を伴って、ツロフト宅へと入ったのだった。

 中は質素な木造建築。

 入口からすぐの場所は土間になっており、そこから僅かに高く張られる床。

 椅子は見当たらず、背の低いテーブルが部屋の中央に置かれている。

 靴を脱いで、カイトが部屋へと上がった。

 先にテーブルの横に座っていたラヴィは上半身をテーブルに伏せながら「飲み物早くー」とツロフトに催促している光景。

 それを受けたツロフトが微笑ましそうに笑いながら部屋の奥へと姿を消す。

 テイゴラもそれに続き、やがて複数のカップを持った二人がカイト達の下へと戻って来た。

 テーブルを囲む全員の前にそれぞれのカップを置き、二人もまた腰掛ける。

 カップを手に取り一口飲んだラヴィが僅かに苦そうな表情を浮かべるが、それでもカップを手放す事は無かった。

 再びの自己紹介を済ませ、それぞれがカップを手に取る。

 やがて全員が一口を飲んだ頃、ツロフトが口を開く。

 

「それで、今回の依頼についてですが」

 

 ツロフトの言葉に、カイトは僅かに背筋を伸ばした。

 カイトが言葉を返す。

 

「……大型モンスターの捕獲、ですよね」

 

 カイトが告げた内容に、頷きが返ってくる。

 今回カイトが受けたクエスト。

 それは大型モンスターの捕獲。

 数か月前から得体の知れない大きなモンスターが、この村の付近に現れ居座る様になった。

 それに伴い、そのモンスターに住処を追われた他のモンスター達が森から出て、村の農作物を荒らす様になり困っている。

 狩りを生業とする村の男達がそのモンスターを駆除しようと挑んだが失敗。

 中には命を落とした者もおり、村では対処が不可能と判断してギルドへと依頼を出した。

 依頼書と同じ内容が、ツロフトの口から告げられる。

 

「謎のモンスターは闇夜に紛れて活動し、遠くからの攻撃もする為、はっきりとその姿を目撃した者はおりませぬ」

 

 ですが、とツロフトは続けた。

 

「ある程度近くで目撃した者はおりまして、もしかしたらインセクトモンスターの可能性があるとの事です」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。