異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について 作: ころっくー
ツロフトが告げた情報。
「うげぇっ!」
それを聞いたラヴィが、悲鳴とも取れない声を上げた。
表情は心底嫌そうなもので、カイトはラヴィの内心を容易に想像出来た。
インセクトモンスター。
それは昨日カイト達が戦った、昆虫系のモンスターの総称。
昨日のラヴィを知っていれば、彼女の気持ちが理解出来る。
生理的に受け付けないとも言っていたインセクトモンスターが相手。
そしてカイトの中で、今のラヴィの反応が理解出来たもう一つの理由。
「お、大型モンスター
両手で頭を抱えツロフトへと訊ねるラヴィ。
そんな彼女を見たツロフト。
「その可能性がある、というだけではありますが……」
「一応、暗がりの中でその姿を見た村の者の話では、大きなインセクトモンスターの様だったと聞いている」
ラヴィの様子を不思議そうに見つめるツロフトとテイゴラ。
そんな二人を気にする事無く、ラヴィは勢い良く立ち上がった。
僅かに涙を携えた目が、カイトを捉える。
「あたしパス! またあんな奴らに会うとか絶対ムリっ! 君一人でなんとかしてよ!」
このクエスト受けたの君なんだしっ、とカイトに対して指を差しながら捲し立てるラヴィ。
その言動につられる様に、御者を含めた全員がカイトを見た。
八つの瞳が、カイトを捉える。
そんな光景に威圧感を覚えながらカイトは、小さく首を振ったのだった。
「……え、えっと、その……頑張り、ます」
彼の答えに、ラヴィが胸の前で腕を組む。
「頑張るじゃなくて絶対に何とかするの! 終わるまであたしはこの家に居るから、ここに連れてくるとかホントにやめてよ!?」
カイトの言葉に注文を付けるラヴィだが、その他の面々は御者を除いて安堵した様に息を吐いていた。
ツロフトがどこか申し訳なさそうな表情を浮かべて、カイトへと声をかける。
「その、カイト殿……受けて頂けるだけでありがたい限りではありますが……」
遠慮がちに言葉を発するツロフトに、カイトは僅かに首を傾げる。
だが少しして、その言葉の意味を理解するのだった。
ツロフトへとカイトが小さく頷く。
「……頑張って、捕獲してみます」
カイトの言葉に、ツロフトとテイゴラが揃って礼を述べ頭を下げた。
それを見たカイトが慌てて起こしにかかるが、それを見ているラヴィはどこか不機嫌そうにカップの中の飲み物を一気に飲み干したのだった。
魔導ランプに魔力を流して点灯。
以前まではこれすらも出来なかった事を思い出し感慨に耽る。
歩きながら暗がりの村を見渡せば、自分の故郷よりも遥かに寂れている印象を抱き、前世の廃村という言葉を思い出す。
質素で貧しい家々。只でさえ貧しい村が、謎のモンスターによってより窮地に立たされているのだ。
優し気な村長、誠実そうなテイゴラの人柄を見ると、どうも助けられるのなら助けたいという思いに駆られる。
捕獲。それだけが唯一のネックではあるが、出来る事は全部やってみようとカイトは心に決めた。
人の気配が限りなく薄い村の中を抜け、カイトは森へと足を踏み入れた。
森の中は完全な暗闇で、唯一の灯りがカイトのみ。
いつ敵と出くわしても可笑しくは無い状況に、カイトは脳内でイメージを作り上げる。
手に持っていた、捕獲用にとラヴィの提案で購入していた長いロープ。
円を描く様に束ねている中心に頭を通して、肩から他方の腰へと斜め掛けする。
まずは正中線に沿った胴体に薄くバリアを張った。
それが出来たら徐々に腕や脚へとバリアを伸ばし、歩きにくくならない程度、手に持った魔導ランプに影響が出ない程度に自身をバリアで包んだ。
ターゲット以外にもモンスターが襲ってくる可能性があるのだ。
警戒をしつつカイトは全身にバリアを張るイメージを作り上げた。
足の裏と魔導ランプを持つ掌以外の胴体をバリアで覆う。
だが問題が二つあった。
一つは顔。
昨晩の失神を思い出し、カイトは顔までバリアで覆うのを躊躇してしまう。
カイトの中で思い返せば、あの失神の原因が漸くと思い付いた。
あれは恐らく、酸欠だろう。
でなければ何の不調も無い状態から、あの様にいきなり気を失うとは思えなかった。
貧血の様な眩暈の症状も無く意識が遠退く。
故に口許にもバリアを張ったせいで呼吸が出来なくなった、またはバリアの中の酸素が無くなったのだろうと考えた。
無敵とも思えたバリア。
それに思わぬ欠点があった。
足の裏までバリアを張ると、機動力が無くなる。
そして全身余すところ無くバリアを張ると、酸欠になってしまう。
前世で見た物語とはあまりにも違う効果に、カイトは思わず肩を落とす。
物語では何の不自由なく使えるバリア。
だがどこか現実的に考えてみれば、カイトの中で幾分か落胆が収まる。
何故なら、バリアで物理攻撃だけでなく魔法攻撃、つまりは火や水や雷等々の攻撃を無傷でやり過ごすと考えれば、酸欠になるのも仕方ないと思えた。
もし仮にバリアに酸素を通す様な分子レベルの穴が空いていたとしたら、火や水はその穴を通ってバリアの中に侵入してくる可能性は無いだろうか。
だとしたら完全に防ぐと考えた場合、酸素等も通れない様な完璧な壁にしなくてはいけない。
カイト自身、では何も通さなくなった壁の中ではどの様な現象が起こるのかは考えつかなかったが、それでも呼吸をしていれば酸素が少なくなり酸欠になるだろうとは思えた。
だからこそ思う。
もしまた酸欠になってしまったら。
ここは街では無い。モンスターが蔓延る森の中。
この様な場所でもしまた失神してしまったら、前回の様にラヴィもいない今、どうなるか分かったものでは無い。
口や鼻を覆わない様にバリアを張るイメージをしたとしても、それが万が一上手く行かなかった場合、失神してしまう可能性が高いのだ。
呼吸が出来ていると確認しても、次の瞬間には呼吸が出来なくなり酸欠へと陥ってしまっては元の木阿弥。
ぶっつけ本番で酸欠を覚悟し、顔を覆うバリアを展開するのが怖かった。
そしてもう一つ。
それはやはり、バリアを張っているという自覚が無い事。
自覚が無いからこそ、バリアが張れているのかどうかも分からない。
昨晩と同じ要領で張ってみただけ。
だがこれには解決策があった。
魔導ランプを持っていない手で、反対の腕を触る。
昨日と同じく、触れている筈なのに触れていない感触だけが返ってきた。
同じ要領で腹部、両脚、背中と触り、最後に首の周囲と側頭から後頭部にかけてバリアを張るイメージを作り上げてから触れてみれば他と同様の感触。
「……よし、とりあえず大丈夫そうかも」
そう呟き、恐らくバリアは張れているだろうと納得。
後は、このバリアの耐久性だけが気がかりだった。
その時だった。
カイトの耳に何か、今までは聴こえなかった様な微かな音が届いた。
「ん?」
音がした様な気がした方向へと身体を向ければ、足元に張ったバリアが僅かに地面に触れた事により重心がずれて、微かに体勢を崩す。
頭が少し左に傾き咄嗟に踏ん張ろうと足に力込めた瞬間。
何かがカイトの右頬を掠めた。
「え……」
理解が及ばず、間の抜けた声を上げるカイト。
そして視界の奥に広がる暗がりで、何かが蠢くのが見えた。
それはゆっくりと、だが確かにカイトへと近付いてくる。
徐々に、徐々に音が大きくなり、足元から伝わる振動も現れ始めた。
やがてカイトの手元にある光源から届く範囲に、それは姿を現したのだった。
闇夜に紛れ込む漆黒の外殻。
それは節を分けながら全身を覆っており、胴体を支える四対八本の頑強な脚部。
先端には大きく円を描く様に広げられた
全長約五メート程の体躯を、カイトは只見上げるしか出来ない。
彼には見覚えの無いモンスター。
だが、見覚えのある姿だった。
カイトの脳裏にとある言葉が浮かぶ。
「……さそ、り」
気付けば、その言葉を口にしていた。
カイトの目には眼前の巨体が、今まさに口にしたそれと似通っていたのだ。
予想だにしないモンスターに、カイトは次の行動へと踏み出す事が出来なかった。
何をしてくるのか、どうすれば良いのか。
何も分からない状況に只呆然と立ち竦むしかない。
カイト一人ならば容易に包み込んで有り余る程に巨大な鋏角が広がり、持ち上げられる。
その姿に強い威圧感を感じたカイトが思わず後ずさりながら固唾を呑んだのだった。
こんなのを、捕獲出来るのか。
その気持ちだけがカイトの中に木霊する。
キマラすらも消し飛ばした破裂は、もしかしたら行けるかもしれない。
けれど生きている状態で無力化等、果たしてどうすれば良いのか。
僅かな沈黙、カイトの頬を一筋の汗が流れ落ちる。
達成の見込みが見えないクエストが今、始まろうとしていた。
邂逅してから、僅かに時間が経った。
「あぶなっ……!」
蠍の様な形状をしたモンスターからの攻撃を必死に躱し続けるカイト。
鋏を使った攻撃、尻尾を使った攻撃。
図体の大きさに反して移動速度も速く、逃げる事は出来そうも無い。
強大な敵を前にバリアの耐久性が信頼出来ないカイトは攻撃を食らわない様に必死に避けるだけ。
敵の攻撃を分析しつつも、有効打は何も思い付かない。
刻一刻とカイトの体力が消耗するだけというジリ損の様相を呈していた。
「何か、方法は……!」
攻撃を死に物狂いで躱しながら、カイトの中で常に浮かぶ選択肢。
それは、破裂。
キマラをも消し飛ばした、そして昨日のインセクトモンスターの群れをも一掃した破裂ならば、このモンスターにも効く可能性は十分にある。
だがそれをしてしまえば最後、助かりはするだろうがクエストは失敗に終わってしまう。
「でも、それは……」
思い出すのは、先程見た村長とテイゴラの姿。
申し訳なさそうに可能ならば捕獲をと告げた彼らの表情を思えば、容易にその選択肢を出す事が出来なかった。
只ひたすらに攻撃を回避し続ける。
けれどもカイトとて魔力は無限だとすれど、体力は有限。
徐々に動きに精彩を欠き始める。
敵の鋏が一つ、横からカイトの身体へと迫った。
「やばっ……!」
僅かに反応が遅れたカイトが、思わずそんな声を漏らす。
無理やり身体を捻り意図的に体勢を崩せば、微かに逸れた位置を鋏が通り過ぎたのだった。
何とか躱し、カイトの表面に覆われたバリアを滑る様に鋏が流れていく光景。
バリアは効いた。だが、直撃を防いだ訳では無い。
この一連の流れでも、カイトはバリアを信頼しきれなかった。
直撃を防げるか確信が持てず、躱し続けるしかない。
だが無理矢理身体を動かした事で膨大な体力が消耗され、動きが緩慢になり始める。
呼吸が荒さを増して治まる気配を見せない。
只、荒い呼吸を繰り返して敵を見つめるカイト。
そこに正面から反対の鋏が突き出される。
大量の汗を顔から飛び散らせながらも、横に転がる事で何とか回避。
魔導ランプを持っているのとは反対の手のバリアを解き、地面に手を着いて何とか身体を起き上がらせる。
手に持ったままの魔導ランプ。
戦闘には邪魔な物だった。
だが、カイトには手放す事は出来ない。
何故なら、現在は夜の時間帯。
更には空を木々に覆われた暗闇の森の中。
ここで戦闘を優先して魔導ランプを手放してしまっては、カイトは途端に視界不良へと陥る。
――謎のモンスターは闇夜に紛れて活動し、遠くからの攻撃もする為、はっきりとその姿を目撃した者はおりませぬ。
ツロフトから言われていた内容を頭に残していたカイトは、このモンスターは闇夜でも行動し獲物を仕留められるだけの能力があるのだと認識していた。
だからこそ魔導ランプを手放したら最後、カイトのみが一方的に視界を奪われ弱体化してしまうと理解していたのだった。
故に魔導ランプが唯一の、継戦能力。
これを失ってしまっては相手の独壇場となるのみ。
それらから、カイトは魔導ランプを持ったままに戦い続けるしか無かった。
カイトが幼馴染達とパーティーを組んでいた時には、考える必要の無かった事。
何故ならその時はルインが魔法で火をおこす、もしくは回復役のリーンが魔導ランプを持ち他の面々は手が空いた状態でクエストを行えた。
そもそも、前提条件として冒険者は基本的に夜間のクエストを嫌う傾向にある。
何故なら陽が差しており視認性高い昼間にクエストを行う方が、生存率が高いから。
夜間にクエストを行うという事は、視界が不良となりその分だけ不測の事態が起きる可能性が高まる。
故に万全の態勢でクエストに臨む事が是とされる冒険者としては、開始時点から万全とは言えなくなる夜間のクエストは選びたがらなかった。
カイト達のパーティーですら、夜間のクエストを受けたのは片手で数えられる程度。
それでも並の冒険者からすれば多い回数なのだ。
余程の報酬か自信が無い限り、夜間クエストは受注される事は無い。
冒険者は自分、もしくはパーティーの命を最優先に考える。
だからこそ滅多に命を落とさない。
だからこそ、命に関して誰よりも敏感になる。
自分が命を落とせば、明日は無い。
そしてパーティーの誰かが命を落とせば、稼げなくなる。
そして冒険者に関わる、街の住人からも嫌われ、生活出来なくなってしまう。
故に、命を最優先にするのだ。
故にクエストを最優先に選ぶ。
選ぶのは当然、命を最優先に考え、見合った報酬が見込めるクエスト。
報酬が見合わないクエスト、更に夜間の戦闘が見込まれるならば、誰も受けない。
よって夜間のクエストは非常に受注されにくい。
だからこそ、不良依頼となりやすいのだ。
だからこそ、カイトはこの様なクエストを受注するしかなかった。
そして今、冒険者達が選びたがらない意味を、カイトは味わっているのだった。
「あぶ、っ……!」
声を漏らしながら、カイトが後方へと飛び退く。
だが疲労が蓄積した足が縺れ、体勢を崩した。
思わずよろめいたカイトに、モンスターが両の鋏を伸ばす。
大きく広げられた鋏をカイトの両側へと突き出し、その中にカイトが残される。
「やばッ……!」
開かれた鋏の中心に入れられたカイト。
思わず声を荒げるが、それで状況が改善する訳でも無い。
両側の鋏が閉じられる。
これからカイトへと迫るのは、今までとは違う正に直撃。
閉じられる鋏を見ながら、カイトの中に選択肢が浮かんだ。
そして、頭の中の選択肢の一つに、カーソルを合わせる。
悪化の一途を辿る状況に、やはり破裂を試みるしかないかと思った。
しかし、選んだ択をすぐに実行する事は出来なかった。
心に浮かび上がるのは、ツロフトとテイゴラの姿。
ラヴィの不遜な態度を容易に許容したテイゴラ。
ラヴィの唯我独尊とも思える言動を受け入れ、それを見守る様に優しく微笑んだツロフト。
彼らが申し訳なさそうに頭を下げた、あの光景。
それを壊すかもしれない選択肢を、カイトは選びきれずにいた。
そして鋏が身体に触れる。
「え……」
思わず、カイトが声を漏らした。
鋏が滑る様に、カイトの身体を僅かに流れる。
身体に一つの衝撃も無く、鋏がカイトの前方へと戻された。
その光景を見ながら、カイトは気付いた。
これは、バリアの効果だと。
検証した時と同じ様な動きを、カイトを両断しようとした鋏が起こしたのである。
直撃を、防いだ。
それがカイトの中に漠然と浮かんだ思い。
その時だった。
「うぎゃああああッ! めっちゃキモイィィぃぃぃぃぃぃッ!」
背後からの絶叫と共にカイトの頭上を越えて、蠍へと幾重もの魔法が超速でモンスターへと直撃した。
何発も、何十発もの魔法は、正に弾幕。
蠍へと直撃する魔法、逸れて地面や周囲の木に当たる魔法。
それが連続して続き、蠍の巨体を覆い隠す程の土煙が辺りに巻き上がった。
その様子を見ていたカイトが振り返れば、肩で荒く呼吸をするラヴィの姿。
「ラヴィ! な、何でここに!?」
予想外の人物の登場に驚きの声を上げながら、彼女の下へと駆け寄る。
膝に手を尽きながら俯き、荒い呼吸を繰り返しているラヴィ。
「……きも……キモすぎ、っ……さいっ、あく、なんだけどッ……!」
息も絶え絶えなラヴィの言葉。
口の動きは見えても、カイトにはその声が聴こえなかった。
その事実にとある原因へと思い至ったカイトが、耳を覆っていたバリアを解く。
同時に自然の音、ラヴィの声がカイトの耳に届いた。
「ほんっと……全滅してくれない、かなっ……キモ過ぎだってのっ……!」
バリアを張った事による酸欠。
ならば耳を覆えば、音も遮断されるのではないか。そう考えたカイトの考えは正しかった。
呼吸の合間に言葉を漏らし、悪態を吐くラヴィにカイトが遠慮がちに口を開く。
「い、いや、だから村で待ってて良かったのに……」
思わずとそう返したカイトを、ラヴィが睨み付ける。
「……いい、からっ……早く、魔力提供、してよっ……!」
鋭い眼光に臆して肩を震わせたカイトが、慌ててラヴィへと魔力を提供した。
それにより幾分か落ち着いたのか、深呼吸をし始める。
やがて大きな息を一つ吐き、ラヴィが上体を起こした。
「……はぁ、疲れたっ。ツロ
「夜食……?」
ラヴィの言葉に思わず首を傾げるカイトだったが、彼女がその手に籠を持っている事に気付いた。
大きくはない籠だが、カイトはラヴィの言葉からその中身を察する。
夜食を作ってくれたというツロフトへの思い、そしてインセクトモンスターが嫌いだと公言していたラヴィがわざわざ持ってきたという事実。
カイトの心に暖かい感情が生まれる。
だがそんなカイトの内心など知る由も無いラヴィ。
「なのに、まさかあんなキモいのに遭うなんてさっ!」
憤慨といった様相で睨み付けてくるラヴィに、カイトは思わず目を逸らす事しか出来なかった。
一通り睨む事で満足したのか、ラヴィは目付きを戻して溜息を吐く。
「でもごめんねー、ついとは言え……倒しちゃったっ」
謝罪の言葉を述べながら、笑顔でウインクを飛ばすラヴィ。
その言葉に、カイトは未だに土煙が覆うその場所へと顔を向けた。
頑強でちょっとやそっとの攻撃では傷すら付かないと思われる外殻。
巨大でありながら俊敏さをも併せ持つ体力を秘めた体躯。
本当に先程の攻撃で倒せたのかという疑問が浮かんだが、それを即座に脳裏から振り払う。
ラヴィがそう言ったのだ、ならば間違い無いだろう。
クエストは失敗してしまったが、直前に破裂をしようと考えた自分に彼女を責める権利は無い。
そう考えを改めたカイト。
それに、と前世の記憶を思い出す。
確か飛行タイプの攻撃は虫タイプに効果抜群だった筈だし。
脳内でそんな感想を思い浮かべたのだった。
「まー、キモかったし仕方ないって事で! また次頑張ればいいよ、きっと!」
まるで他人事の様に笑顔で告げるラヴィに、思わず苦笑を浮かべるカイト。
今出来る事を考えるしかない。
ならば、終わった事を悔やむのは後にしないといけない。
微かに脳裏に浮かんだ、こちらへと頭を下げている二つのシルエットを無視して、カイトは思考を切り替えたのだった。
どこか心が痛む様な気がしたが、それを必死に振り払う。
終わった事だから仕方ない、再び心の中でそう言い聞かせた。
既に終わってしまった事に対して反論しても、ラヴィに迷惑をかけるだけ。
そもそも彼女が来る前に、何も出来なかった自分が何かを言う権利は無い。
モンスターをラヴィに倒させてしまった自分が悪い。
そう心の中で、言い聞かせたのであった。
ラヴィがカイトの顔を見て、何か気付いた様に口を開く。
「あれ、何かほっぺた切ってるみたいだけど……ん?」
そこまで告げた時、ラヴィがどこか不思議そうな表情へと変わる。
顔を動かす彼女の姿を見ていたカイトの耳に、微かな音が聴こえた気がした。
それは今までは聴こえなかった様な微かな音。
だがどこか、聞いた記憶がある音。
何かは分からないそれに、気付けばカイトの身体は動いていた。
ラヴィを映す視界の端に現れた、細長い鈍色。
次に意識した瞬間では、それが直前まで迫っていた。
鈍色の細長く鋭い、針。
それが何かと考える間もなくカイトの手が、それまで掴んでいた魔導ランプを手放した。
代わりに掴むは、別の腕。
「……え」
漸くそれを視界に捉えたラヴィの口から、間の抜けた様な声が漏れる。
既にラヴィの心臓へと向けて、それを覆う彼女の服に触れる間際だった。
カイトは只、ラヴィの腕を掴むだけしか出来ない。
それ以上の猶予は、全く無かった。
遠くない過去の記憶。
モンスターに群がられて肉を、骨を噛み砕かれる仲間。
そこから聴こえる、聞くに堪えない絶叫。
それを只見ている事しか出来ない自分。
何も、出来なかった自分。
その記憶が、浮かんでは消える。
ラヴィが、死ぬ。
針が迫りくるラヴィの姿を見ながら、無意識化で彼の中に浮かび上がったイメージ。
それは間も無く訪れる。
そして、訪れてしまった。