異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について   作: ころっくー

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第26話

 ツロフトから言われ駆け出して行ったテイゴラが戻ってくる。

 

「ツロフトさん、連れてきました」

 

 そう告げたテイゴラの前には、彼に首根っこを掴まれた男性が、身を縮こまらせながら立っていた。

 ツロフトが顔を向け、頷く。

 

「うむ、御苦労」

 

 テイゴラへと声をかけた後、その前にいる男性へと目線を向けた。

 

「ダルブよ、呼び出してしまって悪いの」

 

 ツロフトからダルブと呼ばれた男。

 この村で狩人をしており、それなりの筋力を伺える体躯が見て取れる、カイトから見れば三十代程度と思える人物。

 ダルブはどこか怯えた表情で俯いており、唇を戦慄かせながら開いた。

 

「ツ、ツロフトさん……」

 

 言葉を嚙みながら、ダルブがツロフトの名を呼ぶ。

 そして言葉を続けた。

 

「……あのモンスターが、捕まったって……本当です、か?」

 

 確認する様に、事実がまだ受け入れられない様に、ツロフトへと訊ねるダルブ。

 その姿に、ツロフトは表情を切り替えて頷く。

 真剣みを帯び、そしてどこか申し訳無さを滲ませて、ダルブへと告げた。

 

「うむ、出していた依頼を受けて下さった冒険者の方が、生け捕りにしたのだ」

 

 それで、と続ける。

 

「はっきりでは無くともモンスターの姿を見た者はお主しか残っとらん。故にお主には冒険者の方が捕らえたモンスターが、お主の見たモンスターと相違なさそうか確認して貰いたいのだ」

 

 ツロフトの言葉に、ダルブの表情が歪む。

 それは悲しみ、そしてその奥に悔しさを含んだ表情。

 ダルブを見つめるツロフト。

 やがて、再び声をかける。

 

「あれじゃ」

 

 そうとだけ告げ、ダルブから顔を逸らした。

 ツロフトが向いた先。

 そこにはカイトがおり、その奥には僅かに地面から浮いたモンスターの姿。

 目線を向ける者を威嚇する様に両の鋏を大きく横に広げ、尾を高い位置で固定していた。

 ツロフトの目線を追う様に、ダルブがゆっくりとそちらに顔を向けた。

 漸くと視線に入った、認識したもの。

 

「ぎゃああああッ、こ、殺されるぅぅッ!」

 

 カイトの後ろにいるモンスターを認識したダルブが、その表情を青褪めさせて叫ぶ。

 この場から逃げようと身体を動かすが、それはテイゴラによって阻まれた。

 ダルブの首根っこを掴み、離さないテイゴラ。

 

「テ、テイゴラさんッ、離してくれッ! このままじゃ殺されちまうッ!」

 

 必死に身を捩にテイゴラの手から逃れようとするダルブ。

 だが、テイゴラがその手を離す事は無かった。

 その姿を見ていたツロフトが、ダルブへと再び声をかける。

 

「ダルブよ、お主が見たのはこのモンスターで間違いないかの?」

 

 ツロフトの言葉。

 それが耳に届いたダルブは、反射的に叫んだ。

 

「あ、あいつで間違いねえよッ! あの巨体と大きく広がった腕と空高くから見下ろす尻尾を俺は見たんだッ!」

 

 ダルブの叫びが聴こえたのか、先程蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した村の住人達が徐々に姿を現し、遠巻きにその様子を伺っていた。

 

「暗がりではっきりとしなくても絶対に忘れねえよ! あんな姿はッ!」

 

 そう強く叫んだダルブは逃げようとあがき続ける。

 それを押さえるテイゴラの目が、ツロフトを見た。

 視線を受けたツロフトは一度目を合わせ、すぐに逸らす。

 再び、ダルブを捉えた。

 

「ダルブよ、助かったわい。わざわざ来て貰って迷惑かけたの」

 

 かけられた言葉に、ダルブが顔を向ける事は無かった。

 

「も、もういいんだろッ? だったら俺を離してくれよ!」

 

 そう言って只、この場から逃げようと必死に身体を動かす。

 ダルブへと、ツロフトが声をかけた。

 テイゴラに捕まり、暴れるダルブ。

 

「大丈夫じゃ、お主は死なん」

 

「……え?」

 

 ツロフトの言葉に、ダルブは動きを止めた。

 決して大きくはない声だが、ツロフトの言葉は確かにダルブの耳へと届いた。

 呆然とした表情で、ダルブが固まる。

 その姿を見て、ツロフトが言葉を続けた。

 

「お主を苦しめ続けたモンスターは、完全に無力化されとる。だからこれ以上、お主が怯える必要は無い」

 

 しっかりとした口調、だが優しさを含んだ声でダルブへと語りかける。

 ダルブの目がゆっくりと動き、ツロフトを捉えた。

 柔和な笑みでダルブを見つめる姿。

 ツロフトが、ダルブに頷いた。

 

「安心せい、冒険者の方が……この村の悪夢を、払ってくれたのじゃ」

 

 再びと語りかけたツロフトを見つめるダルブ。

 その言葉を受け入れる様に、ダルブはゆっくりと顔を動かす。

 そしてカイト、その奥にいるモンスターへと向けた。

 カイトが手で触れ、地面から僅かに浮いているモンスターの姿。

 未だにもがき続けているが、何の効果も発揮せず。

 その姿を見つめるダルブ。

 やがて、静かに口を開いた。

 

「……テイゴラさん、離してくれ」

 

 落ち着いた口調で告げるダルブに、テイゴラの視線が再びツロフトへと向けられた。

 それを受けたツロフトは、僅かにダルブを見つめる。

 やがて、頷いたのだった。

 テイゴラの手が、ダルブの首から離される。

 だがダルブがその場から逃げ出す事はなかった。

 その視線は只、カイトが捕らえているモンスターだけに向けられていた。

 

「……あいつが、トロフトを」

 

 微かに呟いた言葉。

 ダルブの足が、静かに上がる。

 一歩、二歩とその場からゆっくり歩き出した。

 その目は只、モンスターへと固定されたまま。

 テイゴラは腕を僅かに上げるが、やがて静かにそれを下ろした。

 ダルブは歩き続ける。

 その歩みは遅いが、確かな目的を持って。

 ツロフトの横を通り過ぎる。

 その時。

 

「……ダルブよ」

 

 ツロフトの声が、ダルブの耳に届いた。

 思わず、ダルブの身が固まる。

 そこに再び、ツロフトが声をかけた。

 

「お主の悲しみや怒り、憎しみは理解しておる……だが、抑えてはくれぬか」

 

 優し気な声色で告げられた言葉。

 ダルブの目が見開かれた。

 咄嗟に声をかけられた方向へと顔を向け、表情に険を宿す。

 

「……抑えろって? 今……抑えろって言ったか、ツロフトさん」

 

 静かな声色で、問い掛けるダルブ。

 それに対してツロフトも静かに「うむ」と一言、返すのであった。

 ダルブの表情が、険しさを増す。

 

「抑えられる訳ねえだろッ! トロフトはあいつに殺されたんだ! 他でもねえ……俺の目の前でよッ!」

 

 正に激昂。

 

「あの時の辛さが消える訳がねえ! 悲しさが消える訳ねえ! 何も出来ずに目の前で殺された後悔が……無くなる訳ねえだろッ!」

 

 眉を吊り上げ、ツロフトを睨み付けるダルブ。

 

「あれからずっと、夢に出てくるんだよッ! あいつが殺される光景が! いきなり胸に穴が空いて倒れるあいつの姿が! ただ、無様に逃げる俺の姿がよ!」

 

 だが、ツロフトは表情を変えない。

 

「あいつを殺さねえ限りこの悪夢は醒めねえんだよッ!」

 

 僅かな悲しみを浮かべつつも、ダルブを見つめ続ける。

 その姿が、ダルブの中の苛立ちを増させるのだった。

 

「ツロフトさん! あんたは何とも思わねえのかよッ!」

 

 まるで問い掛ける様に、身の内の怒りをツロフトへと向ける。

 ダルブは、苛立っていた。

 目の前で殺された友人。

 何も出来なかった自分に。

 そして。

 

「トロフトは……」

 

 悲し気に見つめてくるツロフトの態度に。

 だからこそ、告げる。

 

「あんたの息子だろッ!」

 

 それを聞いたカイトが、目を見開く。

 ダルブの言葉があまりにも予想外だったから。

 無意識に、カイトの視線がツロフトへと向けられる。

 だがそこに映るツロフトは、表情を変えなかった。

 ツロフトが静かに口を開く。

 

「……お主の言いたい事も重々理解しておる」

 

 そう言って悲し気な表情で笑みを浮かべた。

 だからこそ、と言葉を続ける。

 

「トロフトの父として、頼む。お主の思いを……抑えてはくれんかの」

 

 ダルブの目が再び、見開かれた。

 

「……なん、だよ、それ」

 

 唇を震わせながら、言葉を漏らす。

 そしてその声が、大きくなる。

 

「……何なんだよ。あんたがそう言っちまったら……俺はどうすれば良いんだよッ!」

 

 ダルブの叫び。

 

「あいつが死んだのは、あのモンスターが村の近くに現れたせいだ!」

 

 それは友人を殺した対象への恨み。

 

「……何も出来ずあいつを見殺しにした、俺のせいだろッ!」

 

 そして、無力だった自分への怒りだった。

 ダルブの中にあったのは、後悔。

 その光景を見つめるカイトは、静かに顔を顰めた。

 

「なのにあんたは、あのモンスターを殺すのを止めてくる! トロフトを見殺しにした俺を責めねえ!」

 

 ダルブの叫びを聞くカイトの心境。

 カイトにはダルブの気持ちが、理解出来てしまった。

 叫びを聞きながらカイトの中に浮かんだ光景。

 それは、幼馴染達との最後のクエスト。

 アーマースネークに群がられたルインの姿。

 リーンがハイポーションを持っていなければ、恐らく死んでいたであろうルイン。

 その様な事態に陥ったのは、カイトが独断で行動をしてから。

 厳密には、違うのかもしれない。

 あの時のカイトは対して戦力とは呼べず、ルインが立っていた近くの木に潜んでいたアーマースネーク達には、間違いなく誰も気付いていなかった。

 だがカイトは、それも含めて自分の責任だと思っている。

 護衛の様な立場を任されたのなら、アーマースネークが近くの木に隠れているのも全て検討して行動しなければいけない。

 それが出来なかったのだから、カイト自身の責任。

 護衛対象が被害を受けた。

 だから、それを防ぐのが担当だった自分の責任。

 しかしあの時は、リーンがカイトを責めた。

 カイト自身、決して良い記憶ではないが、カイトはリーンに責められた。

 だがあの時、誰もカイトを責める事をせず、パーティーを追放される事もなかったら。

 もしかしたらダルブの様な思いを抱いていたのかもしれない。

 そう思ったのだ。

 後悔から、動けなくなる。

 後悔から、進めなくなる。

 誰にも相談出来ない、心の苦しみ。

 それを一人で抱え続け、何も出来ない人生を送っていたかもしれない。

 何より、今の様にスキルが解放されていたか、それすらも分からない。

 カイトの頭の中であの時、謎の電子音が言っていた。

 ――スキル解放条件である外部魔力蓄積量が上限に達しましたので、これよりスキル解放作業へと移行します。

 あの言葉、あの内容が今の自分を作った。

 カイトはそう考える。

 外部魔力蓄積量の意味合いは分からない、だがニュアンスとしてキマラの様なモンスターの接触が、スキル解放の鍵となった可能性が高い。

 だからこそパーティーを追放されなければ、ハンナから魔石の採掘について話されなければ、カイトはラヴィと出会う事は無かったかもしれない。

 そしてラヴィと共にいた、キマラと遭う事は無かったかもしれない。

 今とは違う道を辿り、スキルが解放されなかった自分。

 そうなっていたかもしれない事実を把握し、カイトの身体が僅かに震えた。

 力を持たない自分。

 それが、怖くなったのだ。

 力が全てでは無い、それはカイトも理解している。

 だがそれでも、力を持たない自分に戻るのは、怖かった。

 力が無ければクエストも達成出来ない。

 また、命の保証すらも無い。

 そして何より、誰かを死なせる可能性すらあり得る。

 力を持たなければ、何も出来ない。

 何も、為せない。

 カイトの視線が、ダルブを捉え続ける。

 過去を後悔し、自分に苛立つ姿。

 それは今のカイトでも同じ。

 けれども、違う点。

 カイトは神から力を授かり、それが解放された。

 ダルブは、それが無かった。

 文章にすればたったの二行。

 その差で、今の立場や人生の方向性がこんなにも違う。

 後ろ向きの停滞と、前向きの停滞。

 同じく足踏みをしてしまうとしても、前提が違うだけで出来る事、出来た事が大きく変わった両者。

 ダルブは力を持たず、友人を失った。

 カイトは力を持ち、ラヴィを救った。

 けれども似通った二人。

 だからこそカイトは、ダルブを見つめる。

 もしかしたら起こり得たかもしれない自分の姿。

 そして、起こり得ない様にする為の戒めとして。

 ダルブの言葉を受けたツロフトが、口を開く。

 

「お主は何も悪くないじゃろう。だからこそ悲しみに暮れるお主を気遣う事はあれども、責める事等何も無い」

 

 その表情から悲哀を僅かに消した笑みで、ツロフトが告げる。

 しかしダルブの表情から、怒りの感情が消える事は無かった。

 

「俺はトロフトを見殺しにしたんだ! あんたには俺を責める権利があんだろうが!」

 

 ダルブはツロフトから顔を逸らし、辺りを見渡した。

 

「テイゴラさんもだ! 村の連中だって、誰一人俺を責める事をしねえ!」

 

 テイゴラが、僅かに目を逸らす。

 ダルブの視線を受けた遠目に見守る住人達もまた、どこか気まずそうに目を伏せたのだった。

 

「俺は責められる価値もねえってのか!? それともトロフトがあそこで死ぬのは必然だったって言いたいのか!? あいつは次の村長として相応しい人間だったろうがッ! それを殺した俺を責めろよッ!」

 

 独白の様なダルブの叫び。

 それは周りに向けた言葉。

 それ以上に、自分へと向けられた言葉だった。

 ダルブの両目に涙が浮かぶ。

 

「トロフトはあんなとこで死んでいい奴なんかじゃねえよ……」

 

 目の端に光るそれを溢さぬ様に、ダルブは俯き静かに告げた。

 

「狩りの才能もあって、周りに慕われてて……誰にでも優しく寄り添える、すげえ奴なんだよ」

 

 震える唇で、言葉を続ける。

 誰もが、黙ってダルブの言葉を聞いていた。

 そしてダルブは、心の奥底に仕舞い込んでいた本心を口にする。

 

「……トロフトじゃなくて、あの時……俺が代わりに」

 

 しかしその声は、途中で遮られたのだった。

 

「ならぬッ!」

 

 芯のある大声が、一帯を支配した。

 ダルブが、カイトが身体を大きく震わせる。

 そして視線を向けた。

 ツロフト。

 表情に怒りを隠さず、ダルブを睨み付けていた。

 

「ダルブよ、お主は今……何と言おうとした?」

 

 静かなツロフトの声。

 それを受けたダルブが、再び身体を震わせた。

 

「……だ、だから……俺が代わりに、死んでれば」

 

 どこか遠慮がちにダルブが告げれば、

 

「ならぬッ!」

 

 ツロフトが再び、一喝した。

 そしてツロフトの表情から、怒りが消えた。

 

「怒鳴ってしまってすまぬの。お主の言葉に、怒りを覚えてしまってな」

 

 淡々と告げるツロフトに、ダルブが目を伏せた。

 ダルブとて、本心ではありながらも何がツロフトの琴線に触れたのかという自覚はあったのだ。

 だが、ツロフトは言う。

 

「無論、お主にではない……儂自身に対してじゃ」

 

「……え?」

 

 ツロフトの言葉に、思わずダルブが顔を上げた。

 そこには申し訳無さを含んだ表情で、ダルブを見つめるツロフトの姿。

 

「お主がそこまで思い詰めていると知らなかった自分を、儂は許せなくての」

 

 ツロフトが告げた内容。

 ダルブが慌てて口を開いた。

 

「い、いや、ツロフトさんは何も悪くねえだろ!」

 

 しかし、ツロフトは首を横に振る。

 

「それはお主も同じじゃよ」

 

「え……」

 

 ツロフトの言葉に、ダルブは無意識に声を漏らした。

 その表情は驚きに染まり、固まる。

 

「お主は何も悪くないんじゃ……強いて言うならば、運が悪かったのみ」

 

 優しく告げられた言葉。

 ツロフトは続ける。

 

「モンスターとて、生きておる。故に弱い者が負けるのは自然の摂理じゃ。だからこそ、勝てない相手に出会ってしまったのは、運が悪かったというだけの話。失った悲しみはあれども……恨む事は出来ぬよ」

 

 狩りをしているお主には理解出来るであろう? そう問い掛けるツロフト。

 ツロフトの拳が強く握られているのを、ダルブは気付いた。

 その姿に思わず怯むが、やがて口を開く。

 

「で、でも、俺は」

 

 言い淀みながらも話すダルブ。

 狩りをしている身で、生物界の弱肉強食は当然ながら理解していた。

 だからこそ食料となるモンスターを狩る事ができ、生活しているのだから。

 狩れる方法で、狩れる相手を狩る。

 狩れない相手には深追いをしない。何故なら、獲物もまた生きており死にたく無い為に、持ち得る力を発揮して、こちらが手痛いダメージを追う事もある。

 故に狩れないと思える相手には挑まない。

 ダルブにも当然に存在する考え方だった。

 しかし、それで友人の死を受け入れられる程、ダルブは心の割り切りが行えなかった。

 だからこそ反論する。

 けれどそれは、ツロフトが再び首を横に振る事で遮られた。

 

「……確かに、トロフトが死んだと聞いた時は、悲しかった」

 

 だが、とツロフトが続ける。

 

「それ以上に……お主が生きて帰ってきてくれた事への喜びが、大きかったのじゃ」

 

「……え」

 

 呆然と見つめるダルブ。

 それを見るツロフトの表情に微かな笑みが浮かぶ。

 

「トロフトの死は決して、無駄では無かった。何故ならダルブ……お主が無事だったからだ」

 

 お主が生きて帰って来たと知った時の嬉しさが分かるか? そう言ってツロフトは目尻の皺を深めた。

 その姿に、ダルブは目を見開く。

 

「な、何で……」

 

 思わずと呟き、ツロフトを見つめる。

 しかし、ツロフトは表情を変えない。

 

「実際にはどうだったのか、それは分からぬ。咄嗟の出来事だったのかもしれぬ。だが儂は、こう思う事にしたのじゃ……友人を救えた息子が誇らしい、とな」

 

 笑みをそのままに、ツロフトが続けた。

 

「そして何より、お主も……儂にとっては息子同然。息子が無事に帰ってきて、喜ばぬ親は居らぬじゃろうて」

 

「あ……」

 

 ツロフトがダルブから顔を逸らし、辺りを見渡した。

 

「儂にとっては、この村の皆が家族」

 

 テイゴラ、遠目で囲む住人達。

 

「家族を失えば、当然ながらに悲しい」

 

 その全てがツロフトの目に映る。

 その全てを見た、彼の笑みが深まる。

 

「じゃが、家族が無事ならば……何よりも嬉しい」

 

 言葉を聞いた住人達がおずおずと、だがしっかりと頷いたのがダルブの視界の端に映り込む。

 住人達は皆、ツロフトと同じ思いでダルブを想っていたのだ。

 狭い村の少ない住人。

 だからこそ全員が家族の様に接し、喜怒哀楽の全てを共有していた。

 ツロフトの視線が、ダルブに戻る。

 その直前、カイトへと視線を合わせた。

 ツロフトが静かに口を開く。

 

「故にお主には、トロフトが叶えられなかった分も……人を思い行動し、人を思い続けて言動し続け、長く生きて欲しいと願っておる」

 

 ツロフトの言葉にダルブが、カイトが息を呑んだ。

 ダルブの目から、涙が零れ落ちる。

 

「無事に生きて帰ってきてくれた家族を、お主は責めるかの?」

 

 優しい口調で問い掛けるツロフトに、ダルブはやがて力無く首を横に振るのだった。

 それを見たツロフトが、僅かな間の後に再び口を開く。

 

「確かに息子は命を張ってお主を救ったかもしれぬ。じゃが、死んでしまってはそこで終わりにしかならぬ」

 

 ツロフトが続ける。

 

「生き続ける事は最も難しく、それでいて何よりも尊いものじゃ。死ぬのは全てをやり尽くし……笑顔で人生を振り返れる時だと、儂は思っておる」

 

 ゆっくりと周囲を見渡すツロフト。

 

「生き続けていれば、失敗する事もある……じゃが、やり直す事も出来る。失敗したのなら次は失敗しない様に……そうやって人は、後悔という経験を昇華し成長していけるのじゃ」

 

 ツロフトの顔が一点で僅かに止まり、再び動き出す。

 

「後悔とは辛く苦しい事……しかしそれぞれが生きてさえいれば、いずれ後悔したという思い出だけが残る様な関係に戻る事も可能なのじゃ」

 

 だからこそ、とツロフトが続けた。

 

「後悔するならば、生きろ! 生きて、人を思い言動し続け、後悔したから今の自分があると思えるまで成長出来る様に……生き続けろ!」

 

 芯のある、ツロフトの大声。

 誰もが暫く声を発する事が出来ず、辺りは只一つのすすり泣く声だけが響き続けた。

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