異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について   作: ころっくー

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第27話

「ツロフトさんの言う通り、俺だってお前が無事で安心したんだからな!」

 

「皆の為にも、もう二度と死ぬとか言うんじゃないよっ!」

 

 俯きながらに身体を震わせるダルブへと住人達が歩み寄り、各々が声をかけ背中を叩いたりと交流を図る。

 その輪から離れたツロフトが、カイトへと向かう。

 

「カイト殿、この度は本当にありがとうございました」

 

 そう言って頭を下げれば、慌てるのはカイト。

 

「い、いえっ、僕はただ、自分が出来る事をやったというか……何とか上手く行ったというか……」

 

 どこか遠慮がちに本心を述べれば、頭を上げたツロフトが首を横に振る。

 

「いえ、カイト殿はこの村の悪夢を払っただけでなく、この村に幸福を齎してくれました」

 

 目尻の皺を深めて嬉しそうに告げるツロフト。

 その姿を見て、カイトは思わず顔を逸らした。

 

「い、いえ、僕は何も……」

 

 どこか悲し気に表情を歪ませ、そう返したのだった。

 カイトの心は、ツロフトの言葉を素直に受け止める事が出来なかった。

 先程のダルブとツロフトの会話。

 それを聞いていて、カイトの心が痛んだのだから。

 見守る様な優し気な笑みで、自分を見つめラヴィを見てくれた。

 導く様に、諭す様に暖かい言葉をくれたツロフト。

 そんな彼が、自分の背後にいるモンスターによって息子を失っていたなんて。

 カイトの中にその事実が重くのしかかる。

 確かに森に入る前にツロフトから、そして依頼書でもこのモンスターによって殺された住人がいるという事は知らされていた。

 けれどそれがまさか、ツロフトの息子だとは知る由も無かったのだ。

 殺された人がいるという事でも感傷は抱くが、それがツロフトの身内という事実にカイトの心が整理しきれなかった。

 ダルブをどこか自分と重ねて見ていたカイトだからこそ、今こうして優し気に微笑みを浮かべるツロフトを直視する事が出来なかった。

 何故悲しみを隠して、ここまで他者を思いやれるのか。

 ツロフトがカイトへと与えた言葉の数々。

 それを正に体現しているかの様な姿が眩しく、カイトは見る事が出来なかった。

 カイトの様子を見たツロフトが、口を開く。

 

「このモンスターによって命を落としたのは、息子ただ一人のみ。他は無事なのですから、それ以上を望むのは欲張りというもの」

 

 その言葉を聞いても、カイトの表情が晴れる事は無い。

 微笑みを浮かべたままに、ツロフトは続ける。

 

「先程も申し上げましたが、当然ながら悲しみはあります。ですが、悲しみとはいつでも思い悩めるもの。そして喜びとは……その瞬間を皆と共有するものだとは、思いませぬか?」

 

 ツロフトの言葉に、カイトは思わず顔を向けた。

 

「喜びを分かち合い喜びに包まれれば、それは幸福とも呼べるでしょう」

 

 笑顔のままに、ツロフトは身体を逸らした。

 そして向けた先。

 ダルブを囲み、寄り添い合う住人達の姿。

 それを見たツロフトの目が、嬉しさで細められた。

 

「ならば儂は、息子が死んだという悲しみや後悔よりも……多くの者が生き残れたという喜びが自分の中で大きくなれる様に、言動して()きたい」

 

 住人達を見つめるツロフトを、カイトは見つめる。

 カイトよりも背が低いツロフトだが、その背中はあまりにも大きく見えた。

 その姿に、カイトの中で漠然とした思考が生まれる。

 こんな大人になりたい。

 そう、思った。

 具体的な事はまだ分からない。

 けれども、こんな背中を見せられる大人になりたい。

 そう思ったのだ。

 ツロフトが再び、カイトへと身体を向ける。

 

「受注頂きましたクエストは当然達成ですので、後で依頼書に完了のサインを致しましょう」

 

 そう微笑むツロフト。

 

「え? あ、ああ……ありがとう、ございます」

 

 その言葉に、多少どもりながらも礼を述べたカイトだった。

 クエストの達成。

 その事実を忘れる程に、カイトはこれまでの出来事に感情を移入していた。

 ツロフトが口を開く。

 しかし表情はどこか、申し訳無さを含んだ笑み。

 

「事後説明で恐縮ですが……こうして捕獲頂けなくとも、討伐であったりこの地から遠ざける様にして頂くだけでも、クエストは達成とするつもりでした」

 

「え……?」

 

 ツロフトの言葉に、カイトは目を丸くする。

 捕獲として依頼されていたクエスト。

 それがまさか捕獲以外の方法でも達成になるとは、予想外だった為。

 ツロフトが続ける。

 

「カイト殿にも、お伝えしておきましょう」

 

 ラヴィ殿には既に伝えてあります、とツロフトが告げた。

 いまいち要領を得ない言葉に僅かに首を傾げつつも、カイトは聞く姿勢を整える。

 

「"王立魔法研究所"という名前はご存知ですかな?」

 

 訊ねるツロフトに、やや間を開けてカイトが頷く。

 その名前は、カイトも知っていた。

 王立魔法研究所。

 カイト達が今居るこの国の直轄である、魔法を研究する機関。

 そしてその成果は、生活を豊かにする魔道具という形で庶民にも多くの恩恵を齎していた。

 故に殆どの人がその名を知る、有名な機関なのだ。

 カイトの反応を受けたツロフトが頷きを返し、再び口を開く。

 

「王立魔法研究所は、研究の為に生きたモンスターの買い取りを行ってもいるのです」

 

 ツロフトが告げた内容に、カイトは驚きを示した。

 その様な事実は、初めて聞いたのだ。

 ツロフトが続ける。

 

「ですがどのモンスターでも良いという訳ではなく、珍しいモンスターや特異な場所に発生したモンスター等、ある程度の希少性を持つモンスターが買い取りの対象となります」

 

 そう告げたツロフトの視線が、カイトの背後へと向けられた。

 

「この地域では見た事の無い、名前も知らぬモンスター。どこから現れたとも知れぬ素性。それ故、王立魔法研究所に買い取って貰えるのではと思い、捕獲として依頼を出しておりました」

 

 ツロフトの言葉を聞くカイト。

 告げられた内容に驚き言葉を返す事は出来ないが、思考は徐々に理解を始めていた。

 王立魔法研究所では希少性のあるモンスターを、研究の為に買い取っている。

 カイトとて名前すら知らぬこの、未知のモンスターならばもしかしたら買い取ってくれる可能性がある。

 だからこそ、捕獲を依頼したのだと。

 思考でその様に理解を深めていくカイト。

 ツロフトが再び顔を逸らした。

 辺りを見渡す様に、ゆっくりと顔を動かす。

 

「ご覧の通り、この村は小さく……住んでいる者も、近隣の村と比べても多くはありませぬ」

 

 ツロフトにつられる様に、カイトもまた周囲を見渡した。

 暗い景色だが、それでも分かる閑散とした村の佇まい。

 決して栄えているとは言えない光景。

 

「村の者がそれぞれ役割を持って、日々の生活を何とか営んでいる状況です」

 

 カイトの故郷の村よりも小さく、人数が少ないと思われるこの村。

 一帯が深い森に囲まれており、出来る事も大分と限られる。

 

「ですがこのモンスターの出現により、それもままならなくなりました」

 

 カイトの視線が、ツロフトへと戻る。

 村の光景を見ながら、どこか悲し気な横顔。

 

「このモンスターに怯えた他のモンスター達が餌を取れなくなり、村の畑へと出てきては食い荒らす様になりました。そして離れた所に身を隠す様になり、今まで通りの狩りも行えない状況にも、なってしまったのです」

 

 ツロフトが、カイトへと顔を向ける。

 

「今のままでは、来年の収穫まで村の食料が持つかすら危うい状態なのです」

 

 そこに浮かぶのは、どこか自嘲的な笑み。

 

「ですので、このモンスターを王立魔法研究所に買い取って貰えれば……少しでも食料を買える蓄えに出来るやもしれぬ、そう考えていた次第です」

 

 そして「クエストに向かわれる前に、捕獲以外でも達成という旨をお伝えせず申し訳ありませんでした」と、カイトに深く頭を下げた。

 

「い、いえ! だ、大丈夫ですので、頭を上げてくださいっ!」

 

 思わずカイトは片腕でツロフトの肩を掴み、頭を上げさせる。

 再びカイトの視界に入った、ツロフトの表情。

 それは罪悪感、そして後悔。

 申し訳無さを入り交ぜた表情だった。

 その姿に、カイトは思わず息を呑む。

 そして、思った。

 

「……べ、別に……こ、こんなモンスターくらい余裕で捕獲出来たんでっ、ツロフトさんが心配する事なんか全く無いですよっ!」

 

 ほらっこの通りっ、そう言ってモンスターを掴む腕を左右に振れば、それにつられてモンスターも無抵抗で左右に振られる。

 その行為がまるで心外だと言わんばかりにカイトへと攻撃するが、一切の影響を及ぼさない。

 

「寧ろ余裕で捕獲した事に、申し訳ないって思ってるくらいですしっ!」

 

 そう言ってどこか乾いた笑い声を上げるカイトを、ツロフトが見つめる。

 やがて、ツロフトが口を開いた。

 

「……ありがとうございます」

 

 告げた言葉と共に浮かぶは、笑み。

 嬉しさ、そして感謝を込めた表情で、ツロフトは礼を述べて頭を下げたのだった。

 再びのお辞儀を、カイトは止める事はしなかった。

 それを見て、只小さく息を吐いたのだ。

 カイトは、嫌だと思った。

 ツロフトが浮かべた表情を見るのが。

 憧れた背中を見せた彼が後悔した顔を浮かべている現実を、消したかった。

 それが自分のせいだという事実を、許せなかった。

 だからわざとらしくも、気丈に明るく振る舞う事にしたのだ。

 態度はラヴィの姿を思い浮かべれば、容易に実行出来た。

 自分のせいで、ツロフトの中で後悔の方が大きくなるのは駄目だ。

 自分のせいで、ツロフトが悩んでいい訳が無い。

 だからこそ、道化と思われようが鼻につく物言いをしてみたのだ。

 捕獲以外でもクエスト達成は、確かに驚いた。

 だが、驚いただけだ。

 それでツロフトを責める気持ち等、微塵も生まれなかった。

 依頼には捕獲という条件があったのだから、それに従ったまで。

 寧ろ倒してしまってそれでもクエスト達成と言われた方が、ずっと思い悩んだ可能性すらある。

 それに本命が捕獲ならば、捕獲したいという理由があるのだろうから、それに極力応えたいという思いの方が強い。

 だから、何とも思ってない。

 自分の心を再確認し、カイトはその様な行動に出たのだった。

 モンスターを捕獲出来たという喜びを分かち合う。

 それを優先する為にも。

 ツロフトが頭を上げる。

 

「……やはり、お二人は仲がよろしいですな」

 

 唐突に告げられた言葉に、カイトは思わず首を傾げる。

 その姿を、ツロフトは微笑みながら見つめる。

 そして言葉を続けたのだった。

 

「カイト殿が森へと向かわれてからラヴィ殿にも謝罪をしましたが、その際に言われてしまいました」

 

 ツロフトがラヴィへと同様の説明と謝罪をした際、「実際に相手すんのはあたしじゃないし、別にどっちでもいいよ。それに多分だけど、それ聞いてもカイトは意地でも捕獲しようとすると思うけどなー。真面目クンだし」と告げ、彼へ飲み物のおかわりを催促したのだった。

 ラヴィの発言を聞いたカイトは目を見開く。

 彼女がその様な回答をするとは、予想だにしていなかった。

 そして思わず笑みが浮かんでしまう。

 先程、ツロフトから言われた言葉。

 ――ええ。この老い耄れから見れば、随分と互いに信頼を寄せている様に思えましたな。

 その言葉の意味が、何となく理解出来た様な気がして。

 果たしてラヴィがカイト自身の力量を信頼しての言葉かは分からない。

 けれども、少なくともカイトの中にある何かを理解して、その発言をしたのだとは分かった。

 そこに、別の声が聴こえる。

 

「この度は、ありがとうございました」

 

 声に反応したカイトが顔を向ければ、テイゴラが立っていた。

 

「え? え、えっと……」

 

 突然の感謝の言葉に思わず同様するカイト。

 だがテイゴラは構わずに続けた。

 

「あなたのお陰で、村が救われた。本当に、心から感謝している」

 

「あっ、あの、ちょっとっ」

 

 言葉と共に頭を下げたテイゴラに慌てるカイト。

 咄嗟に頭を上げさせようと腕を上げたカイトだが、再び別の声が耳に届いた事により中断された。

 

「冒険者の人! ほんとに助かったよ! ありがとう!」

 

 思わずカイトが顔を向ければ、ダルブに寄り添っていた住人達が駆け寄ってくる姿が見えた。

 その先頭に居た中年の女性が、カイトへと声をかけたのであった。

 それに続く様に、他の面々もまたカイトへと思い思いの声をかける。

 

「ありがとよ! 英雄様のお陰で村に平穏が戻りそうだ!」

 

「こんなデカいモンスターと対峙してやっつけるなんて、冒険者って凄いんだねえ」

 

「あんたのお陰でまた、ちゃんと狩りが出来る様になるんだ!」

 

「英雄様がいれば、こんなモンスターなんてもう怖くねえよ!」

 

 その言葉、笑顔で叩かれる背中の衝撃。

 全てを、カイトは呆然とした表情で受け流した。

 その姿を見たツロフトが、笑い声を上げる。

 

「ほっほっほ、流石のカイト殿も村の者達の活発さには圧倒されましたかな」

 

 カイトが呆然と顔を動かし、ツロフトを見た。

 微笑みを浮かべたツロフトが再び口を開く。

 

「態度はあれかもしれませぬが皆、カイト殿に心から感謝しているのです」

 

 許してやっては頂けませぬか、そう告げたツロフトにカイトはぎこちなく頷いた。

 そして再び、周囲を見渡す。

 笑顔の住人達が、カイトを見ている光景。

 

「あんたのお陰だよ! ほんとにありがとう!」

 

 そう言って一人が頭を下げれば、続く様に各々が感謝の言葉を告げては頭を下げていく。

 只呆然と見やるカイト。

 そこに、声がかかる。

 

「……なあ! 冒険者の人!」

 

 カイトが顔を向ければ離れた位置で一人佇む、ダルブの姿。

 既に涙が消えたその顔で、ダルブはカイトを見つめた。

 再びダルブが口を開く。

 

「トロフトの仇を取ってくれてありがとな! この恩は、一生忘れねえ!」

 

 そう言って勢い良く、頭を下げた。

 カイトの目が見開かれる。

 ダルブが言葉を続けた。

 

「散々情けねえ姿見せちまったけど、トロフトには負けるが俺だって狩りは得意なんだ! 夜も遅えし今日は泊まってくんだろっ? 明日狩りで上手い肉取ってくっから、それを食わしてやるよ!」

 

 その言葉に、頭を下げていた住人達の中から数人が顔を上げて「おう! 最高の肉を用意してやっから期待して待ってろよ!」等と思い思いに、ダルブの言葉へと賛同したのだった。

 それを受けたカイトは只、固まり続ける。

 この光景が、出来事が理解しきれなかった。

 そこにまた、別の声が届く。

 

「カイトだけじゃなくて、あたしにも感謝しなさーい! あたしがこのクエスト選んであげたんだから!」

 

 ツロフト宅内から、そんな叫び声が響いたのだった。

 それに反応したカイトに、住人達が顔を向ける。

 視線を一身に集めたカイトは、やや間を置いて頷いた。

 ラヴィの言葉の真意。

 それを肯定したのだった。

 カイトの反応を見た住人達が、ツロフト宅へと顔を向ける。

 そして言った。

 

「嬢ちゃんにも勿論感謝してるぜ!」

 

「泣きながら帰って来たから心配してたけど、元気になった様だね!」

 

「英雄様を連れてきてくれたんだ! 感謝しきれねえよ!」

 

 思い思いの言葉が、ツロフト宅へと向けられる。

 そしてツロフトもまた、口を開いた。

 

「ラヴィ殿、この度は本当にありがとうございました」

 

 ツロフトの言葉を最後に、僅かな静寂が訪れる。

 やがて、聴こえてきた声。

 

「何かカイトよりも軽い感じがするけど……一応、受け取っとくよ」

 

 どこかしおらしい口調。

 やや早口で返されたその言葉に、カイトは身体の緊張が解れるのを感じた。

 そして住人の誰かが微かに笑い始め、その笑いが他の住人に伝播していく。

 やがて大きな笑い声に包まれたのだった。 

 

「何で笑ってんの!? 人の返事で笑うなこらー!」

 

 そんな声が再び家の中から聴こえ、外の笑い声が一段と大きくなった。

 カイトもまたその中で、微かに笑ってしまう。

 彼の中ではいまいち想像し辛かったが、先程のラヴィの口調はまるで彼女が照れている様に思えてしまったからだ。

 

「いつまで笑ってんだー! 謝っても許してやらないぞコンチクショー!」

 

 笑い声に耐えられなかったラヴィの言葉が火に油を注ぎ、住人達はまだ暫くと笑い続けたのだった。

 やがて、一頻りの笑いが収まった後、住人の一人がこのモンスターが果たして幾らになるのかと呟けば、その話題で周囲が持ち切りとなる。

 その内容に、カイトの中でツロフトの言葉が蘇った。

 このモンスターを王立魔法研究所に買い取って貰い、少しでも村の蓄えにしたい。

 少なくとも一年は暮らせるだけの金額になってくれたら嬉しいと口にする住人に、他の住人が頷きを返していた。

 一人の住人が、溜息交じりに呟いた。

 

「せめて農地がもう少し大きければ、不作とはいえもうちょっと収穫は出来たんだろうけどねぇ……」

 

 その言葉に、別の住人が返す。

 

「仕方ねえだろ? うちは森に囲まれてんだ、拓けてるとこでしか育てられねえんだからよ」

 

 言葉を受けた住人が力なく頷く。

 

「そうなんだけどねぇ……森を切り拓いてくれる人でもいりゃ変わるだろうに……」

 

 そう言って再び溜息を吐けば、それにつられた住人全体の雰囲気が暗くなる。

 それはこの村の住人全員の総意だった。

 森を切り拓く。

 それをするにはこの村の人手では、不可能な事だった。

 木々を伐採する者、そしてその間にモンスターから襲われない様に警護する者。

 それらは全て、狩人を生業にしている男達にしか出来ない力仕事なのだ。

 そしてその男達とて、普段狙う獲物以外のモンスターが現れてしまっては、太刀打ち出来なくなる可能性がある。

 動き続けられる狩りと、その場から離れられない防衛では、戦いに必要な能力が全く別。

 普段狩りで狙う獲物だとしても、防衛になれば何か間違えば命を落とす事になるかもしれない。

 力のある男手を減らすという事は、この村にとって何よりの損失だったのだ。

 狩りに行く男が減ればそれだけ、村の近くにモンスターが現れた際に、退治出来る者が減ってしまう。

 食料、防衛の観点からも男達を失う様な動きは出来ず、従来通りの方法で生活を続けるしかなかったのだ。

 人が減り苦しくなる一方、という事は分かっている。

 けれども、新しい事に挑めるだけの余力が残っていないのもまた、事実だった。

 

「まあまあ、無理なものを嘆いても仕方の無い事! 儂らで今出来る事を考えるしかあるまいて!」

 

 ツロフトが明るく振る舞い住人へと声を掛けるが、効果は薄い。

 カイトとしても、何と声を掛ければ良いか分からずに黙るしかない。

 森の開拓。その意味を理解しきれず、漠然と浮かぶ方法はあれども容易に発言が出来る雰囲気では無かった。

 その時だった。

 

「カイト!」

 

 家の中からラヴィに呼びかけられる。

 顔をツロフト宅へと向ければ、再びラヴィの声が聴こえた。

 

「君が開拓してあげれば良いじゃん! ぱんぱーんってすぐ終わるでしょ?」

 

 その言葉を聞いた住人達は揃って首を傾げる。

 だがその全ての顔は徐々に、カイトへと向けられた。

 全員からの視線に思わずたじろぐカイトだったが、内心ではラヴィの言葉の意味を理解してはいたのだった。

 彼女の言葉。先程カイトが漠然と思い付いた方法と同じ。

 それはつまり、木々を破裂させまくれば良いという事。

 一つを破裂させるのに全くと時間は要しない。

 そして範囲内であれば、同時に複数の木を破裂させる事も可能だろう。

 この方法をラヴィは言いたかったのだと、カイトは理解していた。

 ラヴィからの言葉、そして住人達の視線。

 黙り込むカイト。

 だが否定をしないカイトに、住人達の視線が徐々に熱を帯び始める。

 それは期待。

 全体的にその様な雰囲気を纏い始めたと感じたカイトが、やがて静かに口を開く。

 

「……えっと、その……僕に出来る事であれば、やります」

 

 指で頬を搔きながら告げたその言葉にツロフト宅前の路上が、カイトの帰還時とは違う絶叫で包まれたのだった。

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