異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について 作: ころっくー
「……え……友人……?」
思わずと呟いたカイトの声を拾ったラヴィの目付きが更に鋭くなる。
「……なに? あたしが友人じゃ不満だっての?」
彼女らしからぬドスの利いた低音に、カイトは慌てて首を横に振った。
「い、いやっ、違うって! 俺の事、友人って思ってくれてるって思わなくて……!」
「……ふーん、それじゃあたしだけが勝手に君の事、友人って思ってたんだー」
あーあたしって何て可哀想な女の子なんだろっ、不貞腐れた様に呟きその顔を両手で覆った。
それを見て焦るはカイト。
「だ、だからっ、その、俺もラヴィの事……えっと、ゆ、友人だって思ってるよ! でも」
慌てて言葉を連ねるカイトが、不意に言葉を止めた。
それは前方のラヴィによって。
釈明の様に告げるカイトの耳に、ラヴィが噴き出し笑い始めた声が聴こえたのだ。
顔から離した両手で腹を抱えて笑うラヴィを、唖然とした表情で見つめるカイト。
「ざんねーん! 泣いてませんでしたー! 君が必死過ぎて笑いを堪えられなかったよ……!」
そう言って楽し気に再び笑い出したラヴィ。
彼女の言葉が、態度が、カイトを徐々に冷静へと戻していく。
そして彼の中に芽生えた感情。
それは、安堵だった。
怒りでも悔しさでも虚しさでも無い、安堵のみがカイトの中に広がったのだ。
泣かせずに済んだ、嫌われずに済んだ。
その思いだけが、カイトの心境を埋めたのだった。
やがて笑い終えたラヴィが大きく息を吐く。
「あー、おもしろかったっ」
そう言って再び天井を見上げたラヴィ。
「もしかしてさ、さっきの言葉の後に自分の事を卑下する内容でも言うつもりだった? こんなにも卑しい自分が、聡明で美しい天才のラヴィ様の友人等とは滅相もありませんっ、とかさ」
そこまで自分を下げるつもりは無かったカイトだが、思わず目を逸らす。
もっとマイルドにオーソドックスな言葉を言おうとしたが、内容としては彼女の言葉が概ね的外れとは言えなかったから。
俺なんかがラヴィの友人なんて言っていいのか分からなかった。
その様な事を、続けようとしていた。
ラヴィが溜息を吐く。
「他の人には勝手にして良いけど、あたしにはそんな風にうじうじすんのはやめてよ、鬱陶しいからさ」
冷淡といった声色で告げる少女に、カイトは俯く。
ラヴィは構わずに続けた。
「あたしは卑屈な人を友達だって思いたくないし、自分を卑屈だって思ってる人に友達だって思ってほしくない。だってつまんないもん」
その言葉は、カイトの心臓を貫くには余りある内容だった。
カイトの記憶が呼び起こされる。
ツロフトと話した時、カイトは何を思った。
胸を張って友達と呼んでくれない人を、胸を張って友達と呼べるだろうか。
それに対してカイトが出した答えは、否。
そう思ったのではないか。
なのにまた自分が、胸を張れない自分になってしまっている。
「だからあたしには卑屈な姿は見せないで。自己満足は他所でやって」
ラヴィの言葉は、カイトを納得させるだけ。
卑屈を受けて、それで楽しいと思えるのだろうか。
少なくともカイト自身が、卑屈な相手と話していて愉快な気持ちになる事はなかった。
ラヴィが、カイトを見つめる。
「それに…………むかつく」
「……え?」
不意に声色を変えたラヴィに、カイトが思わず声を上げる。
冷淡なものから変質した彼女の声色。
それは静かでありながら、どこか強い感情を感じた。
二人の視線が交差する。
ラヴィは、カイトを睨み付けた。
「……一個前のクエストも、助けられたし……今回も……助けられた」
どこか絞り出す様な口調で、静かにカイトへと言葉をぶつける。
「あたしを二回も助けてるくせに……最初だって、あたしが逃げるしかなかったキマラを、易々と倒したくせにっ……」
何かを堪える様に唇を嚙みしめる。
そしてその唇が、解放された。
「……あたしより強いくせに、弱がるなッ!」
カイトの目が大きく見開かれる。
正しく怒号。ラヴィの言葉が、カイトの心を突き抜けた。
「あたしより強いくせに卑屈になるなッ! そんな君を見る度にむかつくんだよ! 強いのに卑屈になってるなら、君より弱いあたしはどうしたらいいのさッ!」
カイトへと投げつけられる言葉。
だがその全てがカイトに向かっている訳ではなかった。
「……え……あ、ごめ」
「謝るなッ!」
反射的に謝罪を口にするカイトを、ラヴィの叫びが遮る。
「……え、えっ、と……その」
謝罪すら禁じられたカイトは、返す言葉が思い付かない。
その姿に、ラヴィの目線が強まる。
「ありがとうって言えッ!」
「……え?」
ラヴィの言葉に、カイトが声を漏らす。
「ありがとうって、言えよぉッ!」
再びの言葉。
それを受けたカイトは、徐々に理解し始める。
真意は分からない。
だが、ありがとうと言わなければいけないのだと。
睨み付けるラヴィに臆しながら、カイトの口が静かに開かれた。
「……えっと、その……ありが、とう?」
「もっと! ちゃんとありがとうって言えッ!」
再度の怒号に、カイトの肩が震えた。
だがすぐに、慌てて口を開く。
「……あ、ありがとう」
「もっとちゃんと!」
「……ありがとう」
ラヴィの怒号に、感謝を述べるカイト。
状況が理解出来ないカイト。
だが、ラヴィがそれを待つ事は無い。
「君はあたしより強い!」
「……ありがとう」
けれど、カイトにも一つだけは分かっていた。
「君はもう弱くない!」
「……ありがとう」
自分が、ラヴィに何と声を掛ければ良いのかを。
「君は成長した!」
「……ありがとう」
自分が、何を思えば良いのかを。
「魔力無限や魔力提供に、破裂とバリアまで使える君は強いっ!」
「……ありがとう」
「君は間違いなく、村の人達を救った!」
「……ありがとう」
「君はあたしの命を救った!」
「……ありが、とう?」
そしてラヴィは言った。
「君はっ、あたしの友人だ! それを誇れバカヤローッ!」
その言葉が、カイトの心に届く。
今までとは違う叫び。
ラヴィの言葉を受けたカイト。
「ありがとう」
気付けば、そんな言葉を彼女に伝えていた。
ラヴィの顔を見て、心に何の憂いも無く、カイトは口に出していた。
それを聞いたラヴィは「ふんっ」と鼻で強く息を吐き、腕を組んで窓の方へと顔を向ける。
つられてカイトも顔を向ければ、既に夕方は終わりを迎えかけており夜の帳が辺りを包み始めていた。
だがカイトの心は景色に逆らい、一点の闇も無いように思えた。
外の景色から僅かに視線を逸らし、車内に残るもう一人へとその目線を向ける。
「……何?」
景色を眺めたままの彼女が、どこかぶっきらぼうに呟く。
その姿を見たカイトは何となく、言葉を伝えたくなった。
「ありがとう、ラヴィ」
結局カイトには、先程のラヴィの真意を掴む事が出来なかった。
でも、それでもいいと思えた。
ツロフトは言っていた。
人間関係とは難しいもの、悩み続けるもの。
だがいつでもその人を想い言動をする事さえ忘れなければその想いに応えてくれる事でしょう、と。
応えて欲しいと思う事は特に無い。
けれども、カイトにはこう思えた。
自分を成長させてくれた、認めてくれた人達には、ずっとその感謝の気持ちを忘れずに、彼らの想いに応え続けられる自分になりたいと。
「……は? 何も無いのに急にお礼言われるとか訳分かんないんですけど? もしかして頭おかしくなっちゃった?」
視線を動かさずに、どこか攻撃的な口調で言葉を返してきたラヴィ。
やや早口に思えるその声に、気付けばカイトは小さく噴き出していた。
ラヴィの目線が、ここで漸く動く。
「なんで、人の言葉で笑うのかな? 何も面白い事言ってないんですけど? あ、やっぱ頭おかしくなっちゃったんだ」
じとっとした半目で睨みつけてくるラヴィに、カイトは遂に小さな笑い声を上げてしまった。
「おいコラ笑ったな? とうとう笑ったなコノヤロー。何で笑ったのか正直に話してみろコラァァッ!」
怒りの感情に乗せてラヴィがカイトへと飛び掛かり、彼の胸倉を掴んでは思い切り前後へと激しく揺する。
それを受けたカイトの笑いが大きくなった。
「……ありがと、う……くふっ……ラヴィ」
「ゴルァァァァッ! 馬鹿にしてるよね!? ぜっっっったいに馬鹿にしてるだろ今の言い方はぁぁぁぁっ!」
ぐわんぐわんと揺すられ続けるカイトは、若干の気持ち悪さを感じつつも心は晴れ渡ったままだった。
カイトは思う。
ああ、これぞ正に友人らしいコミュニケーションじゃないか。
卑屈になるんじゃない。自分を卑下すれば良い訳ではない。
これが出来る関係でいる方がよっぽど大切で、尊いものだろう。
だから俺は、この関係でいられる自分を目指し続ける。
それがきっと、ラヴィの恩に報いるという事だろうから。
「ありがとう」
「今は感謝の時間じゃないんだよぉぉ! 謝罪だッ! 笑われたあたしに謝罪をよこせぇぇぇぇッ!」
笑い声と怒声、その二つが暫く馬車の中から鳴り止む事は無かった。
馬車から降りる。
辺りはすっかりと夜へと切り替わっていた。
「ふぅ、やっと着いたぁ」
隣に立つラヴィが、そう言って両手を上げて伸びをする。
彼女の怒りは馬車が目的地に到着する少し前に、漸く鎮まったのだった。
揺すられ続け流石に酔いが酷くなってきたカイトが、必死に彼女の腕をタップし何度も謝罪という名の懇願を行った結果、漸く許しを貰えた形である。
「今日は何食べよっかなー」
そんな事を言いながら歩き始めたラヴィに続き、カイトも足を動かした。
飯に関しては今日も、ラヴィに金を渡して一人で済ませて貰う予定でいるカイト。
ラヴィはカイトへと顔を向ける。
「君は何食べたい?」
不意の質問にカイトの鼓動が思わず高鳴ったが、すぐに口を開く。
「いや、朝食べさせて貰ったし、とりあえず早めに自分のスキルをもう少し知っとく為にも、ギルドに報告終わったらちょっとトレーニングしてくるよ」
滑らかな口調で淀み無く返す。
若干の緊張を上手く隠し、中々に違和感の無い言い訳ではないだろうかと内心で称賛を送った。
だが、それを聞いたラヴィの目が細められる。
カイトの背中に、嫌な汗が浮かんだ。
「……ふーん」
それは抑揚の無い声色。
カイトの背中に、更に嫌な汗が流れた。
だが、やがてラヴィはカイトから顔を背けた。
「まっ、いいや」
そう言って正面へと向き直ったラヴィに、隠れて息を吐いたカイト。
どうやら怪しまれた様だったが、無事に切り抜けられたらしい。
「下らないうじうじとした理由を言わなかったから、今回は特別に許すだけだからね?」
「あ、はい」
正面を見て僅かに前を歩きながら淡々と告げた少女の言葉に、カイトは脊髄反射的に言葉を返したのだった。
ツロフトやユクマ村の住人達、そしてラヴィによって前向きな思考を持てる様になったカイトだが、それでもまだ他の冒険者達、街の住人達からの視線に対する恐怖が拭いきれなかった。
だからこそ、ラヴィに誘われた食事を断った。
バリアを含めたスキルの解明を進めたいのも事実。
だからこそ、それを理由にしたのだった。
どうしてもまだ、堂々と店で食事を出来る程の自信を、カイトは持つ事が出来なかった。
何も言えなくなったカイトは黙ってラヴィの後を歩く。
「あ、そうだ。友人にはなったけど、先に言っとくね?」
何かを思い出した様な声を発し、後ろへと振り返ったラヴィがカイトを見つめる。
突然の言葉に、カイトは只首を傾げるのみ。
何を言われるのか全く想像がつかず、彼女の言葉を待つ事しか出来ない。
後ろ手に組み上体を傾けて上目遣いにカイトを見上げる。
彼女らしからぬ女性らしい仕草に、思わずカイトの心音が僅かに速まった。
ラヴィはそのままに、綺麗な笑みを浮かべる。
「君はさ……あたしの事、好き?」
「……へ?」
不意の言葉に、思わず声を漏らしたカイト。
小首を傾げるラヴィだったが、カイトの反応にその目を細めた。
「……だから、変な勘繰りすんなっ。友人として好きかって事!」
そう告げるラヴィに、カイトは上手く言葉を発せない。
「え、えっと……その……えっと」
しどろもどろとなり、視線も忙しなく右往左往し続ける。
友人として好きか。
その答えは、カイトの中で決まっていた。
無論、好きだと。
恩があり、更には導いてくれる様なラヴィ。
表裏が無い様な言動、明るくさばさばとした態度。
そんな彼女の人間性を、友人として好意を持つのは必然だった。
一緒に居て、先程の馬車の様に馬鹿騒ぎ出来る関係性、嫌いと思える筈が無かった。
だがそうは思えても、言葉にするには何と勇気のいる事か。
好き。
そのたった二文字を伝えるだけなのに、カイトの中では心臓が五月蠅く高鳴り、緊張に身が固まる。
挙動不審となったカイトを見つめるラヴィ。
半目となった表情で、静かに口を開いた。
「好きって言わなきゃ、絶交ね」
「友人として好きですッ!」
冷淡な口調で告げたラヴィに、カイトは反射的に叫んだ。
そこには恥も外聞も無い、心からの叫び。
だがやがて、理性が追い付いてくる。
言ってしまった。
その事実に、カイトの頬が熱を帯びる。
羞恥心のあまり俯いてしまったカイトを尻目に、ラヴィは満足そうに数度頷く。
「ぎりぎりだったけど、特別に許してあげるよ」
そう言ったラヴィにカイトは俯いたままに、蚊の鳴く様な声で「……ありがとう」と呟いたのだった。
カイトの姿を笑顔で見やったラヴィが、再び口を開く。
「君が、あたしの事を好きなのは許してあげる……でも」
次の言葉に、思わずカイトは顔を上げる事となった。
「あたしの事……好きになっちゃダメだよ?」
「……え」
それは、予想だにしない言葉。
カイトは只、驚いた様に声を漏らす事しか出来なかった。
ラヴィがその目を更に細める。
「だってあたし――婚約者いるからさっ」
「…………へ?」
じゃあ先にギルド行ってるねー、そう言って笑みを浮かべカイトへと手を振りながら踵を返した少女。
それをカイトは呆然と見送るしか出来なかった。
突然の宣言に、突然の報告。
脳の処理が追い付かず、既に視界から姿を消した彼女が居た場所を只見つめる。
カイトがラヴィの事を好きなのは許す。
でも、ラヴィの事を好きになってはいけない。
婚約者がいる。
告げられた言葉を反芻する様に、脳内で繰り返す。
そして漸く、理解が追い付いた。
「……ははっ」
そして気付けば、笑っていた。
カイトは思い至った。
ラヴィが告げた言葉。
カイトがラヴィの事を好きなのは許す。
それがどういう意味なのか。
反射的にカイトが叫んだ言葉。
――友人として好きですッ!
それはラヴィが望んだ言葉。
カイトは、ラヴィが好きだと叫んだ。
それは友人として。
そして、ラヴィが言った言葉。
――あたしの事……好きになっちゃダメだよ?
それはラヴィが望んだ言葉。
――だってあたし――婚約者いるからさっ。
ラヴィは婚約者がいるから、自分を好きになっては駄目だと言った。
それは、異性として。
つまり友人としての好意は容認するが、異性としての好意は拒絶すると釘を刺したのだ。
「別に、そんなつもりはねえんけどなぁ……」
独り言ちる。
別に、ラヴィの事を異性として好意を抱いていた訳ではない。
彼女は恩人であり、良き友人なのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
なのに何故だろう、告白もしていないのにどこかフラれた様な感情が小さく芽生えるのは。
男って単純ね。自身の心情に、カイトはその様なツッコミを入れる。
特段、異性としての好意を抱いてはいなかったのは間違いない。
それが本心である筈なのに、何故か言い訳の様に感じてしまうのは、未だに彼女の言葉が処理しきれていない証だろうか。
「……まあ、何はともあれ」
この上手く言い表せない感情を吐き出す為に、顔を動かした。
前回は、そうだ。ホテルのベッドの上だった。
その時は果たして、何と言っただろうか。
――……神様転生なら……もっと楽に俺ツエーでイージーモードにさせろってんだよ……クソッ……。
あの時は天井があった。
けれどそれすらも見る事が出来ず、腕で目元を覆っていた。
だが今は。
見上げた夜空には、無数の星々が美しく輝いている。
空は、こんなにも広かったのか。
星は、こんなにも美しかったのか。
この上に、いるのだろうか。
前回とは違う。
今回は、自信を持って言える気がした。
静かに息を吸う。
そして言ってやった。
「……神様転生ならもっと楽に俺ツエーで……イージーモードにさせろってんだよ……この鬼畜……」
何の意味も無い。
だが何とく、カイトは言いたくなったのだ。
星々が瞬く広大な夜空へと。
そして、その先に居るのかもしれない何かへと。
けれども、言い終えたカイトの心はこの大空の様に澄み切っていた。
夜空を見つめながら、思わず笑みを浮かべる。
やはり、自分は英雄でも物語の主人公でも無い。
そのどちらにも、なれない。
カイトが心の中で、そんな事を呟いた。
英雄なら、物語の主人公なら、考えてみればラヴィの様な存在はまるでヒロインみたいではないか。
追放された主人公が、少女のピンチに立ち向かい能力が覚醒する。
少女が殺される瞬間に、英雄が救い出す。
そのどちらもが物語ならば、ヒロインとされるに相応しい少女であろう。
それらの内容だけを切り取れば、カイトとラヴィの関係は同じ様に思える。
けれども、現実は違う。
カイトはラヴィの事をヒロインだと思った事は、一度も無かった。
だがそれは、現実的に考えれば当たり前だった。
命を救われて感謝こそすれども、異性としての好意など基本的に抱く訳が無い。
命を救う方法は余りにも泥臭く、異性としての好意など考えられない程に拙い。
良くて友人となる程度。故に友人なのだ。
カイトにとってもラヴィは恩人であり友人。
それ以上でも、それ以下でもない。
物語では恐らく描かれないであろう、それまでの過程やそれからの流れがカイトに、自分が主人公や英雄では無いのだと自覚させたのだ。
解放された能力も万全に使えない主人公が、いる訳が無い。
誰かの窮地を颯爽と救えない英雄が、いる訳が無い。
強いて言えば、物語のワンシーンに出てくるモブ。良くても、物語の中で一度のスポットしか浴びない、モブ。
力も上手く使えなきゃ、ヒロインもいない。
追放されても、ざまぁすらしない。
現実的に考えれば、こんなものなのかもしれない。
これが現実だ。
だが仮に、それがモブの物語だとすれば。
カイトは再び思い出した言葉を口にする。
「異世界で追放されたからざまぁしてみようと思ったら割とリアルだった件について」
再びと小さく笑い声を上げたカイトは、後頭部を掻きながらゆっくりとラヴィの後を追うのだった。