助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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 幕間の一話目です。
 霧原絵美が魔法少女になった時のお話。


幕間 彼女たちの『始まり』
幕間(1)魔法少女の誕生/霧原絵美


 ……わたしは卑怯者だ。ずっとそう思っている。

 

 小学校低学年の頃、捨てられた子猫を見たことがある。

 汚れた段ボールの中で、雨に打たれて震えていた子猫。

 

『……どうしよう――』

 

 わたしの家はペット禁止。

 お母さんもお父さんも、ペットはダメだと言っている。

 ……だから、助けてあげたいけど、連れて帰れない。

 ――両親の事を抜きにしても、親から隠れて子猫を飼うのは難しい……子供心ながらにそう思った。

 

『…………にゃー…………』

 

 力を振り絞るような、か細い鳴き声。

 

『っ――。……ごめんね……っ!』

 

 助けを求める子猫から逃げるようにその場を去った。

 

 

 

 ……三日後、

 両親の目を盗んでミルクとお皿を手に子猫の元へ向かった。

 一度も止まらず子猫の元へ走った……そして、

 

『………………ぁ…………』

 

 ……もう手遅れである事を知った。

 体から力が抜け、持ってきたミルクもお皿も手から滑り落ちる。

 

『…………ねこ、ちゃん……』

 

 手の中にあるのは、息を引き取ってから数日は経過した、子猫の亡骸(なきがら)

 

 三日前に聞いた、助けを求めるか細い鳴き声。

 多分……あの後に……。

 …………あれが……この子の、最期の――――。

 

『わたしの……せいだ……』

 

 冷たく固くなった子猫を抱きながら、

 

『……わたしが……死なせたんだ(・・・・・・)…………』

 

 ……『殺した』のが捨てた飼い主なら、

 ……『死なせた』のは、わたしだ……。

 

 助けられたのに……あの時なら、まだ(・・)助けられたのに……ッ!

 

 両親がダメだと言っているから、バレずに飼う事はできないから――そんな下らないことばかり考えて、わたしは自分の意志を貫こうとしなかった……。

 

 誰かの言葉に従って、理屈を並べて……一番大事なのは、自分がどうしたいか(・・・・・・・・・)だったのに……ッ!!

 

『ごめん……ごめんね…………ごめん、ね――――』

 

 ――――だから、わたしは誓った。

 自分の意志を貫くと。

 もし、『次』があるのなら……必ず助けてみせると――。

 

          ◆

 

 入学式が終わった。

 

「今日から中学生、か……」

 

 校門は自分と同じ、私立色彩中学の新一年生の生徒で溢れている。

 他の生徒と同じく、両親が車に乗って帰ろうと言ってくるが、

 

「自分の足で歩いて帰りたい! これから毎日登下校する道なんだから!」

 

 そう言って、桜に祝福されながら絵美(えみ)はルンルン♪ と通学路(つうがくろ)を歩いていく。

 

「――ん?」

 

 視界の端で何かが光った気がして立ち止まる。

 その方向へ顔を向けると、そこには路地裏が広がっていて……その奥に、

 

「え――えぇ!?」

 

 銀の髪を持つ女の子が倒れていた。

 体も服もボロボロで、手首から『赤』『青』『黄』の宝石を紐でぶら下げている……どうやら先ほど光ったのはこの宝石らしい。

 

「大丈夫!? しっかりして!」

 

 走り寄り、絵美が銀髪の少女を揺らすと、

 

「う……うぅ……」

 

 銀髪の少女はゆっくりと目蓋(まぶた)を開けた。

 

「よかった、気がついた……!

 ねぇ、あなた大丈夫? これ何本に見える!?」

 

 指を四本立てて、少女の目の前に近づける。

 

「……、よ、四本……?」

 

「よかった、ちゃんと見えてるね!」

 

 いきなりの事に困惑している銀髪の少女に対し、絵美は意識と視界が正常であることに安堵の息を吐く。

 

「あなた、名前は?」

 

「っ……、さ、サヤ……」

 

「サヤちゃんだね……待ってて、すぐに手当てを――」

 

「い、いえ……早く逃げて……!」

 

「え……?」

 

「早く逃げないと、アイツに――、!?」

 

 急に起き上がり、上空に向かって手を(かざ)す。

 銀髪の少女、サヤが手を翳した先に光の壁が出現し――直後に飛来した()の一撃を防ぐ。

 

「……え? な……な、に……?」

 

 目の前で起きた超常現象と、現実離れした光景に思考が一瞬停止する。

 槍の一撃を放ってきたのは、カラスの特徴を持った女性だった。

 その女性は地面に降り立ち、

 

「へぇー、今の一撃を防ぐだけの魔力は残っていたのね……でも、今のが最後でしょ?」

 

「くっ……! カーラン……ッ!」

 

 カラスの女性、カーランを睨みながら、手首の宝石に手を添え後退りする。

 

「まだ抵抗する気? ――マジックワールドのお姫様(・・・・・・・・・・・・)

 

「……当然よ」

 

「降参したら、お姫様? もう滅ぶしか道はないんだなら」

 

「……滅ばない。マジックワールドは滅ぼさせない! 貴女たちの思い通りになんて絶対にさせないッ!」

 

 未だ状況が飲み込めていない絵美を庇うように立ち、

 

「そこの貴女、逃げて。私が少しでも時間を稼ぐから……!」

 

 状況などわかるわけがない。

 だが一つだけわかるのは、サヤはこのカラスのような女性に命を狙われていて、自分はその現場に居合わせてしまったということ……。

 

「――――、あ……、ま、待って……あ、あなたは? サヤちゃんはどうなるの……!?」

 

「私のことはいいから! 早くっ!!」

 

 恐怖で震えながら問いかけると、力強い声で逃げるように言ってくる。

 

「見ず知らずの人まで助けるの? 流石はお人好しのお姫様ね」

 

 ケラケラと笑いながら槍をサヤへと向ける。

 

「その魔法石(まほうせき)……貴女は素質がなくて使えないんじゃなかった? 持ってても宝の持ち腐れよ?」

 

「……そうよ。だからこっちの世界(・・・・・・)に来た……魔法少女(・・・・)になれる子を探しに」

 

「で、まだ見つかってないんでしょ? 魔力もカラになった現状で魔法少女もいないのなら……貴女はここで終わり」

 

 ギュオオオッ!! と、暴風が槍の先端へと纏われる。

 

「諦めなさい、お姫様。希望は何処にもないわ」

 

 槍が引き絞られる。

 

「――諦めない」

 

 目を逸らさず、カーランの目を真っ正面から見据える。

 

「絶対にマジックワールドを救ってみせる! 最後の一瞬まで足掻いてみせる――私は(・・)自分の意志を貫く(・・・・・・・・)――!」

 

 揺るがない決意と、覚悟の言葉。

 

「――――――あ」

 

 ――覚悟(それ)は、絵美の誓い(決意)を震わせた。

 

「ッ!!」

 

 恐怖で震えていた体が動く。

 サヤを抱きしめ真横へと跳ぶ。

 槍は空を切り、コンクリートへと突き刺さる。

 

「……あ、貴女……!?」

 

「どうしたのお嬢ちゃん? さっきまでビクビク震えてたのに」

 

 嘲笑うようにカーランが言う。

 対するサヤは焦った様子で、覆い被さっている絵美に声を投げる。

 

「な、何してるの! 早く逃げて……!」

 

 ――ポタッ(・・・)、と。

 サヤの頬に(しずく)が落ちる。

 ……それは、絵美の涙だった。

 

「……もう――」

 

「……え――?」

 

 ゆらり、と、絵美の顔を見上げる。

 

「もう……後悔なんてしたくないから――っ!」

 

 大粒の涙を溢す瞳は、あの日(過去)を見ていた。

 

「二度と間違わない。……自分の意志を貫く――」

 

 怖くても、逃げ出したくても、敵わないとわかっていても、

 

「あなたを守る――! 今度こそ、救ってみせる!」

 

 震える足で立ち上がる。敵うはずのない相手を見据える。

 ……サヤの手首から下げられた宝石のうち、『赤』の宝石が静かに光を灯す。

 

「わたしはもう、卑怯者にはならない……ッ!!」

 

 瞬間――赤の宝石が光を放った。

 

『!?』

 

 カーランは後方へと飛び退き、サヤは驚いたように宝石を見ている。

 

「こ、これって……まさか貴女――!」

 

 宝石から絵美へと顔を向ける。

 

「貴女が、魔法少女……!?」

 

「魔法、少女?」

 

 手首から下げた『赤』の宝石――魔法石を手首から外し、

 

「貴女、名前は――?」

 

「え、絵美……霧原(きりはら)絵美(えみ)

 

「エミ! これ、を――、」

 

 渡す寸前で踏みとどまる。

 魔法石を渡すという事は、絵美(かのじょ)をこちらの問題に関わらせるということ。

 

「あ、……う……」

 

 魔法少女の素質を持つ者を探しに来たが、半ば強引にこちらの問題に関わらせる事に、抵抗を覚え――

 

渡して(・・・)

 

「――え?」

 

 迷うサヤへと絵美が手を伸ばす。

 

「まだよくわからないけど……魔法石(これ)を受け取ったわたしなら、この場をどうにかできるんでしょ?

 なら、それをわたしに渡して――!」

 

 絵美の瞳に迷いはない。――覚悟だけがある。

 

「なんであろうとやってみせる!

 今度こそ助けてみせる――絶対にっ!!」

 

 魔法石を受け取る。

 決意を示すように胸に押し当てる。

 

 ――魔法石が絵美の胸に吸い込まれ、少女の体を『赤』の魔力が包み込む。

 

「こ、これは――!?」

 

「――――、これが――」

 

 カーランは驚きを、サヤは見惚れるように言葉を溢す。

 

 赤い魔力は絵美を魔法少女へと変えていく。

 超人的な身体能力。体を覆う戦闘服。戦うための武器、魔法。

 

「――――」

 

 魔力が晴れれば……そこには、ヒラヒラとした桃色の服に白のミニスカート、両足を覆う黒いタイツ。

 可愛らしい服装の上から羽織っているのは、桜の花弁が描かれた、彼女の髪色と同じ『赤色の羽織り』。

 

 サヤの探し求めた存在――魔法少女が誕生した瞬間だった。

 

「これが、わたし……?」

 

「魔法少女……! まさかこんな小娘が――ッ!」

 

 厄介(やっかい)な事になる前に排除しようと、カーランが暴風を放ってくる。

 

「――ッ!」

 

 だが、無意識のうちに絵美が片手を上げると炎の壁がそそり立ち、迫る暴風を弾く。

 

(絶対に……サヤちゃんを守る――!)

 

 瞬間、思いに呼応するように左手に『赤い弓』が出現した。

 弓という形状に(うなが)されるように右手で矢を構えるように手を添える――まるで流れるように『矢』が出現し、力の限り引き絞る。

 

「――――なっ!?」

 

 炎の壁が晴れ、直後に矢が放たれる。

 放たれた矢はカーランの右肩を貫いた。

 

「ぐッ!? ……ちっ! これは……本体(・・)に伝えた方がよさそうね――」

 

 肩を抑えながらカーランは飛び去っていく。

 役目を終えた弓と矢が粒子となって消えていく。

 

「凄い……これが、魔法少女――」

 

 前に立つ救世主(きゅうせいしゅ)を見上げる。

 心を落ち着けるように大きく息を吐いた絵美は振り返り、微笑みかけて手を差し伸べた。

 

「――大丈夫? サヤちゃん」

 

          ◆

 

 これが霧原(きりはら)絵美(えみ)の『始まり』。

 魔法少女となった日。新しいサヤ(家族)ができた日。

 過去(まえ)とは違う――ちゃんと助ける事ができた、始まりの日。




霧原(きりはら)絵美(えみ)

 子猫を死なせてしまった過去を持つ少女。
 自身を、『助けを求めていた子猫に手を差し伸べなかった卑怯者』と卑下(ひげ)している。

 ――だが、今度は目の前の『サヤ()』を救うことができたため、僅かながら前向きになっている。
 あの後、住む場所がないサヤを家に連れて帰り、両親を説得したため、現在はサヤと一緒に住んでいる。

 ……あの日、助けられなかった子猫と重なる状況。
 ――だからこそ、サヤに自分の家に来るように提案することに躊躇いはなかった。

第一章終了! 好きなキャラは?

  • 影宮嵜渡
  • リナ
  • 朱坂菜雪
  • 霧原絵美〈シャイン〉
  • 笹波茉優〈シスター〉
  • 空下香梨〈ウィッチ〉
  • サヤ〈マジックワールドのお姫様〉
  • カーラン
  • ラオン
  • スパール
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