助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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幕間(3)魔法少女の誕生/空下香梨

「?」

 

 学校からの帰り、大きなおもちゃ屋さんで放課後を過ごしていた香梨(かおり)は、先にいる少女に目が止まった。

 

「えーと……ここは……」

 

 (ぎん)の髪と、手首から下げた『黄色の宝石』が特徴的な少女は、困ったように辺りを見回している。……ひょっとして、

 

「キミ、どうしたの? 大丈夫?」

 

「あ……、えっと……その……」

 

「大丈夫だから、落ち着いて」

 

 フワッとした笑顔を浮かべながら、膝を折って銀髪の少女と目線を合わせる。

 

「もしかして迷子?」

 

「っ……は、はい……お恥ずかしい話ですが……」

 

「全然恥ずかしくなんかないよ。このお店広いからね。

 キミは一人で来たの?」

 

「いえ、友だちと来たんです……でも、別行動をとったら迷子になってしまって」

 

 銀髪の少女は恥ずかしそうに頬をかく。

 ふふっ、と微笑みながら安心させるように少女の頭を撫でる。

 

「大丈夫だよ。お姉さんが一緒にその友だちを探してあげるから。二人で探せばすぐ見つかるよ!」

 

「い、いいんですか? ありがとうございます……!」

 

 ペコリ、と頭を下げる少女に、

 

「頭を下げなくていいって。お礼を言われるほどのことじゃないよ」

 

 そう返し、両手で少女の手を握る。

 

「じゃあ、探そっか。

 あたし、空下(そらもと)香梨(かおり)。キミは?」

 

「サヤです。よろしくお願いします、カオリさん」

 

           ◆

 

 一緒に来たサヤの友だちは二人おり、香梨と変わらないくらいの身長に同じ学校の制服。

 そして『赤い髪』と『青い髪』が特徴らしい。

 

「サヤはこの辺りに住んでるの?」

 

「はい……最近まで海外に住んでいたんですけど、今は日本の親戚のお(うち)に住んでるんです」

 

 はぐれてしまった友だちを探している最中、香梨はサヤとの雑談を楽しみながら、彼女の事を聞いていた。

 

「最近まで海外にいたんだ。それならなおさら迷っちゃうよね。

 ――けど大丈夫だよ。この街にはあたしがいるし、あたしの友だちも優しい子だから、サヤもすぐに打ち解けられて毎日が楽しくなるよ。必ずね!」

 

「カオリさん……」

 

「あと、カオリ『さん』、なんて付けなくていいよ?

 敬語もいらない。堅苦しいのはなしでいこっ」

 

 高いコミュニケーション能力を活かし、一瞬でリナの会話の(ふところ)に入り込む香梨。

 この一瞬で友だちの輪に()れるコミュニケーション能力の高さが、香梨の魅力だ。

 

「その方が、キミも話しやすいでしょ?」

 

「えっと……そ、それじゃあ――よろしく、カオリ」

 

「うん! よろしくね、サヤ!

 これからたくさん、楽しい思い出を作ろうっ!」

 

 香梨の笑顔(はつげん)に、サヤもつい笑みを溢し、ふたりは共に笑顔になる。

 ――と、

 

「あ、見つけた! サヤー!」

 

 サヤが探していた友だちが、サヤを見つけて駆け寄ってくる。

 言葉を発したのは一人だったが、駆け寄ってくる足音は二人分。

 

「エミ、マユ――!」

 

「え……? エミに、マユ――?」

 

 サヤの視線の先に顔を向ける。……駆け寄ってくる二人の顔に、香梨は見覚えがある。

 同じ学校の制服に、自分の『黄色の長髪』と同じくらい特徴的な『赤』と『青』の髪。

 

「よかったよ見つかって……! ごめんねサヤちゃん、はぐれちゃって……」

 

「私の方こそごめん……すぐに会えるって油断しちゃってた……」

 

 目の前でのサヤと“友だち”との会話を見ていると、その後ろに立っていたもう一人の“友だち”が香梨に気づき、

 

「え――香梨っ!?」

 

「やっほー。茉優(まゆ)絵美(えみ)。偶然だね」

 

 霧原(きりはら)絵美(えみ)に、笹波(ささなみ)茉優(まゆ)

 香梨と同じ学校に通うクラスメイトで、友だちの二人。

 サヤの友だちとは、香梨の友だちでもある二人の事だった。

 

「香梨ちゃん、こんなところで会うなんて奇遇だね!」

 

「……いや、アンタが知らないだけで、この()結構な頻度(ひんど)でこのお店に来てるわよ……」

 

 茉優が苦笑いしながら言う。

 サヤは小首を傾げながら、

 

「え、二人ともカオリの知り合い?」

 

「うん。クラスメイトで友だちなんだ!」

 

「……この様子だとアンタ、サヤと仲良くなったわね? 流石は底なしのコミュニケーション能力」

 

 相変わらずの香梨の凄さに茉優は感嘆(かんたん)の息を吐く。

 

「香梨ちゃん、サヤの側にいてくれてありがとう!」

 

「えへへ、礼には及ばないよ」

 

「わたしたち、今から三階まで見て回ろうと思ってるんだけど、香梨ちゃんはどう?」

 

「……せっかくのお誘いだけど、今回は遠慮しようかな。今日はこれから両親と外食の予定でね。また今度誘って」

 

 離れていく三人に手を振り、目を輝かせながらあらゆるおもちゃに目移りしていくサヤに振り回される二人を見送る。

 ……自分はいつものようにゲームオタクでここに来たわけではなく、今回は父親が帰ってくるまでの暇潰しで来ただけだが……あの三人は見た限り、サヤがおもちゃを見たいという理由からやって来たのだろう。

 

(それにしてもサヤ可愛かったな~。

 小柄で素直で愛想よくて……もし妹ができるなら、サヤみたいな子がいいな~)

 

 お店の出口へと足を向ける。すると……コツン、と何かが爪先に当たった。

 見ればそこに『黄色の宝石』が落ちていた。

 ……サヤが手首から紐で下げていたものだ。

 

「これってサヤが付けてた……落としちゃったんだ。

 まだその辺りにいるよね?」

 

 宝石を拾い、三人の後を追いかける。

 ――握られた宝石からは、僅かに光が()れていた。

 

          ◆

 

(絵美たち何処に行ったんだろう……三階まで行くって言ってたけど……)

 

 よほどサヤのテンションが上がったのか、すぐに追いかけても三人には追いつけず、結局三階まで来てしまった。

 自分と負けず劣らずの特徴的な髪色だ。もう少し探せば見つかるはず、そう思って一歩踏み出した……その時、

 

「――――え?」

 

 全身から何かに吸い取られる(・・・・・・・・・)ように力が抜け、膝をつく。

 ……それは香梨だけではなく、他のお客も同じようだった。

 

「なに、これ……、っ――!」

 

 さらに力が抜け、(うつぶ)せに倒れ込む。

 理解不能な現象に体の自由を奪われていると、不意に大きな物音――否、戦闘音が香梨の鼓膜に届いた。

 次いで発生した物を薙ぎ倒すような音が一瞬で香梨に到達し……、

 

「あ――――、」

 

 倒れている香梨に追い討ちをかけるように、商品棚が勢いよく倒れ、香梨の体を潰した。

 

 

 

「…………リ――――カオ……、リ……っ!」

 

「…………ぁ…………、」

 

 名前を叫ばれたような気がして意識を取り戻す。

 体が動かない。起き上がれない。……誰かに、体を引っ張られている。

 

「――――カオリっ!!」

 

「…………、サヤ――?」

 

 探していた少女が歯を食いしばりながら香梨を引っ張っている。

 胸から下を商品棚に潰されている体が、少しずつ外に出てきている。

 外に出ている香梨の手を引っ張りながら、

 

「待ってて、すぐに――――」

 

 

 

「――はい、そこまで」

 

 

 

 香梨を助けていたサヤが何者かに拐われる。

 見上げればサヤの体は浮いており、カラスの特徴を持った女性――カーランに首を絞められ持ち上げられていた。

 

「ッ!? さ――、カ、ァ……ッ!?」

 

 商品棚に胸から下を潰されているからか、満足に呼吸ができず声が出せない。

 カーランは苦しそうなサヤを見ながらニヤニヤと笑い、

 

「魔法少女……どんなものかと思っていたけど、本体(・・)のワタシにかかればこの程度ね」

 

 ……香梨からは見えない位置に、魔法少女に変身した状態で打ちのめされ、床に伏している絵美と茉優の姿がある。

 戦闘ではなく、カーランの放った暴風に巻き込まれた人を救うために動いたサヤは、香梨を発見し助けようとしたが、引きずり出すより先にカーランが来てしまった。

 

「ぐ、うぇ゛!? あ、あ゛ァ゛……ッ!?」

 

 首を絞められ、絞り出された声が香梨の顔をしかめさせる。

 カーランの足へと必死に手を伸ばし、力の限り掴む。

 

「ん?」

 

「その、娘を……離せ……ッ!!」

 

 満足に呼吸ができず、何度も咳き込んでしまうが手の力は緩めない。

 

「なによ貴女……邪魔、ねッ!!」

 

「ぐぶぇ……ッ!?」

 

 掴んでいた手を()()け、香梨の顔を蹴る。

 

「カオ、リ……ッ! ……ぅ、か――ッ!?」

 

 サヤの悲痛な声。口の中に広がる鉄の味。何もできない無力感。助けたいという心――。

 

「はぁ……はぁ……、ぅ……――――」

 

 

 

“最近まで海外にいたんだ。それならなおさら迷っちゃうよね。

 ――けど大丈夫だよ。この街にはあたしがいるし、あたしの友だちも優しい子だから、サヤもすぐに打ち解けられて毎日が楽しくなるよ。必ずね!”

 

 

「……っ――」

 

 

“えっと……そ、それじゃあ――よろしく、カオリ”

 

“うん! よろしくね、サヤ!

 これからたくさん、楽しい思い出を作ろうっ!”

 

 

 

「――――そう、だよ……ッ――」

 

 右手の宝石を握り潰さんばかりの力で握り締め、

 

「サヤと……楽しい思い出、たくさん作るんだよ――だから――!」

 

 僅かな宝石の輝きが、確かな光へと変わって――

 

「ここでお前なんかに……サヤを奪われてたまるかぁぁぁーッ!!」

 

 ――右手の宝石より、周囲を照らす光が放たれた。

 

「ッ!? この光は……分身体の言っていた――!?」

 

「カ、オリ……!?」

 

「――――ああああああああああああッ!!」

 

 (みちび)かれるように、右手の……最後の魔法石――『黄色の魔法石』を裂帛(れっぱく)の叫びと共に胸に押し当てる。

 

 体を覆う『黄色の魔力』が香梨の体を潰していた商品棚を吹き飛ばし、立ち上がっていく香梨の体に魔法少女としての服装を纏わせていく。

 

 黄色を基調とした、『魔法使い』を思わせる『ローブ』。

 右手にはカーランのものとは似て非なる、黄色の『槍』が収まり――

 

 バチバチッ(・・・・・)!! と。

 無意識のうちに行使した魔法によって纏われた稲妻(・・)が弾けていた。

 

稲妻(いなずま)――!?」

 

 カーランが防御をとるよりも早く、がら空きの脇腹へと、三人目の魔法少女の稲妻の槍(ひかり)(はし)った――。

 

          ◆

 

 これが空下(そらもと)香梨(かおり)の『始まり』。

 三人目の魔法少女となった日。

 サヤと楽しい思い出を作ると約束し、戦いに身を投じることになった日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ◆

 

 脇腹への一突きを受け、カーランは戦場から離脱する。

 

「ちっ、何人生まれるのよ魔法少女……!」

 

 とはいえ人々から魔力は奪った。後は帰るだけ――

 

「――カーランッ(・・・・・)!!」

 

 その時――怒りの形相(ぎょうそう)でリナがやって来た。

 リナはカーランとお店を交互に見ながら、

 

「あらリナ、どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないわよッ!! あんた、わたしたちの目的を忘れたの?

 ――『わたしたちの目的は人々から魔力を集め、魔女様に献上する』ことであって、こんな風に無闇矢鱈(むやみやたら)に人を傷つけることじゃないッ!

 見た限り、あんたの攻撃は一般人を巻き込んでるでしょ!」

 

「ふっ――それが何? 一般人を攻撃すればお優しい魔法少女は守らざるを得なくなる……そこを突けば、勝ちを拾える確率は上がるわ」

 

「それ、は……そうかも、しれないけど…………。

 そ、それに……! あんたや他の奴らの魔力の奪い方! あれじゃいつか本当に死人がでるわ! 魔力は奪うけど、何も殺す必要は――」

 

「――リナ」

 

 低い声でリナを黙らせ、視線を合わせる。

 

「貴女、二人目の魔法少女(あの一件)から様子がおかしいわよ? 人間を庇うような発言をして……どうしたの?」

 

「……どうも、こうも……わたしは、わたしの意志を……」

 

 どう言うべきか迷い、言葉を発せなくなる。

 

「――――はぁ……帰るわよ」

 

 カーランが未だに俯いたままのリナの横を通り過ぎる。

 ……リナは、崩壊し、人々の叫びに満ちたお店を見ながら、

 

「わたしは……ただ――」




空下(そらもと)香梨(かおり)

 三人目の魔法少女。
 絵美や茉優とは違い、多種多様な魔法を行使する。

 ――今回の戦いの後に、本名を知られない為に魔法少女たちは『コードネーム』で呼び合うことになった。
 …………茉優は、『……今更?』と至極真っ当なツッコミをした。

『眩しいくらいの明るさの持ち主』という理由から、絵美は『シャイン』。

『魔法少女としての服装が修道服』という理由から、茉優は『シスター』。

『魔法少女の服装と、多種多様な魔法を使える』という理由から、香梨は『ウィッチ』。

          ◆

 幕間は次回で最後です。
『彼女たちの始まり』……魔法少女たちの幕間は終わった。
 ――なら、残る『彼女』は……

第一章終了! 好きなキャラは?

  • 影宮嵜渡
  • リナ
  • 朱坂菜雪
  • 霧原絵美〈シャイン〉
  • 笹波茉優〈シスター〉
  • 空下香梨〈ウィッチ〉
  • サヤ〈マジックワールドのお姫様〉
  • カーラン
  • ラオン
  • スパール
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