第二章(1)少女の目的は……
……目の前にいるのはクラスメイトだ。だから何の緊張もする必要はない。
しかし、
「まずは
今の
「――止まって」
リナが声で歩みを制止させる。
「袋はそこに置いて、下がって」
怪人であるリナさえも彼女の『異常性』に汗を流していた。
リナの言う通りに袋を置き、後ろに下がる。
「……何か誤解されてるみたいだけど、私は別に、君たちの敵ってわけじゃないよ。私はただ、君たちと話をしにきたの」
「話?」
警戒を解かぬまま、リナが問いかける。
すると菜雪は『うん』と僅かに頷き、
「
第三勢力として暗躍する嵜渡とリナ。誰にも正体を明かしてはいないが……目の前の菜雪に正体がバレてしまっているらしい。
「……っ、」
一瞬はぐらかそうとも考えたが……菜雪の目は確固たる自信に満ちている。確信にも近い推測がある、といった感じだ。
……嵜渡のみならず、リナもそれを感じ取ったのだろう。諦めたように息を吐く。
「……どうしてわかったの?」
リナは下手にはぐらかさずにそう返した。
……リナも嵜渡に負けず劣らずの観察眼の持ち主だった。
――そして、それ以上の観察眼の持ち主が、目の前にいる。
「……今から四日前、色彩中学校で起きた魔法少女と怪人の戦闘の時……。
みんな先生からの誘導で逃げてたけど、私は魔法少女や怪人が気になって戦闘が行われている場所へ向かった……といっても、近くの瓦礫から見てたくらいだけど」
一つ一つ、丁寧に説明をしだした。
「……その時に、戦場に魔法少女と怪人以外の、二人の人がやってきた。
片方はフードを被ってたけど……片方は君だった」
「……」
リナを見ながら一度言葉を切り、続いて嵜渡の顔を見る。
「でも、もう片方のフードの人物の顔も私は見ていてね……一瞬だけだったけど、フードの隙間から見えたのは君の顔だったよ、影宮くん」
静かに、落ち着いた、しかし耳に残る声は更に言葉を続ける。
「確信を持ったのはついさっき……ホントに偶然だったけどね。
さっきのショッピングモールに買い物に来てた私は君たちを見かけて声をかけようとしたんだ。
……でも、その時にあの暴風が起きた。
魔法少女と怪人の戦いが行われているところに向かおうとしている影宮くんが『紺色の外套』を纏ったのを見て……確信したよ。
学校で見た時の二人――魔法少女や怪人とも違う、第三勢力ともいえる活動をしている二人だってね」
簡単に纏まった説明を聞いて、二人は負けを認める。
嵜渡に至っては『いつも学校で隣にいた朱坂にこんな一面が……』と、見事なまでの観察眼に感心してしまっていた。
「……お見事、その通りよ。
――で、その事をわざわざ本人たちに言いに来たあんたの目的は? ……脅し、ってわけじゃない事を祈るけど……」
「もちろんそんなつもりはないし、誰にも言うつもりはないよ。
……今こうやって話したのは、君たちが何者なのかを知っているから、腰を据えて話をしたいって理由からだから。
……本題に入るね……」
二人を見据えたまま、菜雪は二人に会いに来た目的を告げた。
「――
◆
「……なるほどね。大体わかったよ」
場所は変わり、嵜渡の家。
――仲間に入れてほしい。
あの言葉を受けてから、一時間が経過していた。
「……一度しか説明してないのに、よく理解できたわね」
仲間になるからには情報共有をと、
名前に魔法少女にミッドナイト、マジックワールドから魔力に魔法など、常人ならば聞いても頭にハテナを浮かべるワードを並べても、菜雪は困惑一つせずに受け入れていた。
菜雪曰く、
――『魔法少女やカーランの起こした超常現象を見てるから、今さら困惑したりしないよ』とのこと。
ちなみに、仲間になるという事について、最初こそは躊躇していた二人だが、
『……俺はいいぞ。
覚悟が決まってる“目”をしてるし……生半可な気持ちで頼んでなさそうだからな』
『正直、わたしはまだ納得してないし、巻き込むのは心苦しいけど……拒否したら、腹いせにバラまかれるかもしれないし……』
それぞれの理由で承諾し、今に至る。
「ありがとう、教えてくれて」
「これから一緒にがんばるんだから、これくらいはね……それより、わたしも一つ、あんたに聞きたいことがあるんだけど」
言って、ソファーに腰かけていたリナはスッと、黒タイツに包まれた足を組むと、
「――あんた何者?」
……空気が変わる。
敵意……とまではいかないが、それでも鋭く菜雪という人物の本質を見極めるように見据える。
「前、学校であんたと初めて会った時……わたしと嵜渡のいたところまで来たあの速さ……路地裏の時の気配の抹消……普通の人間にはまず不可能よ。
……なのにあんたはやってみせた――あんたは一体、何者?」
「……っ、私は――、」
……口にしかけて、言い淀む。
それだけでなく、目が泳ぐ菜雪に、リナは怪訝そうな目を向けて、
「言えないの? 自分が何者なのか」
「それ、は……、――っ」
リナの目がより鋭くなっていく。
対する菜雪は、自分が何者なのか
(――)
……声が震えている。
菜雪を見ていた嵜渡は、菜雪がそれを口にするのを
――だから、
「言いたくないなら、いま無理に言わなくていいぞ?」
「――え?」
「……さ、嵜渡!?」
「お前の都合のいい時に話してくれればいい」
その言葉は意外だったのか、彼女にしては珍しく目を見開き……数瞬後、目を逸らしながら心を落ち着かせるように小さく息を吐いた。
「その……ごめん、ね……」
先に謝罪を一言。
次いで覚悟ができたように、
「――明日、話すよ。それでもいいかな?」
「あぁ、お前が大丈夫ならそれでいいよ」
「ちょ、ちょっと嵜渡!」
隣からリナが肩を掴んでくる。
「あんた本気!? 後ろめたい事がないなら自分の正体なんて今すぐ言えるはずでしょ!
それに、これから一緒にやっていくのに問いかけられたら言い淀むなんて信用したくてもできないわ!
お互いの信用のため、多少強引なのはごめんだけど、ここでハッキリさせておかないと!」
「……お前の気持ちもわかるけど……」
……リナから正体を問いかけられていた時の菜雪の顔を思い返しながら、そっとリナを
「……多分
言い淀んだのは、単純に言いづらいからなんだと思う、後ろめたい事があるからじゃなくてな。
……訳ありっぽいし、無理やり聞くのはよそう」
「……何を根拠にそんな事が言えるのよ」
「根拠なんてない。強いて言えば俺の勘だ。
朱坂は悪い奴じゃないよ、絶対に」
……はぁ。と、詰まっていた息を吐くようにリナはため息をついた。
「それに、明日教えてくれるみたいだし、そんなに焦らなくてもいいだろ?」
「はぁ……あんたって、やっぱり……」
もう一度ため息をつきながら出されていたお茶を飲む。
……まだ納得はしていないが、どうやら身を引いてくれたらしい。
「……ありがとな、リナ。
じゃあ、今日は時間も時間だしここまでにするか」
「うん。――本当にありがとう、影宮くん」
言葉ではなく、小さく微笑むことでそれに返す。
「あ――どうする? そろそろ夕飯だし、ウチで食べるか?」
――ぶうぅぅぅぅーッ!! と。
お茶を飲んでいたリナが盛大に吹き出した。
「り、リナ!?」
「げほっ! げほッ!!」
「い、いや、大丈夫……気持ちだけもらっておくね」
また明日、と玄関から出ていく菜雪を見送ると、リナは大きなため息を吐きながら……、
「やっぱり、あんた……超が付くほどのお人好しなのね」
◆
玄関から出て、嵜渡の家を見上げる。
(……優しいね、君たちは)
街を歩いていく。少しして人混みに遭遇する。
(大丈夫……きっと彼らとなら……
菜雪は魔道士ではない。魔法はもちろん、魔力だって使えない……ずっと同じ
……でも、周りを
「――」
人混みの中に僅かに生まれた隙間、しかし一本道ではなく、うねり道――/――
(明日って、約束したからね……必ず話さないと――)
日常に潜む“裏”の世界を知る
――第二章、開幕!!
アンケートにて、少ししか登場していないのにも関わらず、主人公を上回る票数を獲得していた菜雪。
この二章では菜雪もたくさん出てきますので、菜雪好きな読者さんお楽しみに!
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