助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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第二章(2)屈辱と狂気の果てに

『カーラン、最近の貴様の行動は目に余るものがある……魔力の収集はどうした?』

 

『まぁまぁ、カーランも疲れてんだよ。ちょっと休ませてやろうぜ。

 ほら、行くぞカーラン』

 

『……………………わかったわ』

 

          ◆

 

 あの会話から三〇分。

 自室に引きこもったカーランは、ストレスからか頭を掻きむしっていた。

 

「あぁぁぁぁぁー!! ――クソッ!!」

 

 スパールの言い分はもっともだ。

 魔女より生み出された怪人は『人々から魔力を収集し、魔女に与える』ことが使命。

 カーランは忠誠を誓っていると言っても過言ではないレベルで、誰よりも魔女の為に働いてきた。

 

 ……しかし最近――もっと言えば嵜渡たちに妨害された日から――彼女の行動は『魔力を奪う』ということより、『奴らを倒す』という思いに指針(ししん)が定められている。

 

 二度戦い、二度も敗北を味わっている。

 ……今まで魔法少女と戦い、勝利ばかりを納めてきていたカーランにとって、いきなり現れた見ず知らずの存在に二度もやられるというのは、これ以上ないほどの屈辱だった。

 

「メイガス……! メイガス……ッ! メイガスゥゥゥゥゥーッ!!」

 

 生まれて初めての感覚に、カーランは怪人としての使命を忘れるほどの怒りに支配されている。

 

「アイツだ……全ては、アイツが――ッ!!」

 

 血走った目。頭を掻きむしり過ぎたのか、爪が自分の血に染まっている。

 

「…………は……ふ、はは……ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 ……初めて聞いた。

 乾きに乾いた自分の笑い声。

 

「アァーハッハ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 気づけば立ち上がっていた。

 ……気づけば外に出ていた。

 

「――いィーこと思いついちゃった♡」

 

 自らの血になぞられた狂気の笑みのまま……。

 

          ◆

 

 校門から出た嵜渡と菜雪は、共に影宮家を目指す。

 

「ありがとね、影宮くん。わがままを聞いてもらって」

 

「気にするなよ。話しやすい環境の方がいいに決まってるだろ?」

 

 菜雪の正体については、嵜渡の家で話すことになった。

 本人曰く、他の人には聞かれたくない話らしい。

 

「そんなに緊張するなよ。お前の正体がなんだろうと、俺のお前への接し方は変わらない。今みたいな友だちのままだ。だから肩の力は抜いてくれ」

 

「……うん。ありがとう」

 

 嵜渡の言葉がありがたいのか、菜雪の顔が(ほころ)ぶ。

 そんな会話のキャッチボールをしながら都会の大通りを歩いていると、

 

『!?』

 

 突然、頭を揺れ動かされる感覚に襲われた。

 その感覚を感じたのは二人だけではない……他の街の人たちも頭を抑えながら膝をついている。

 

(これは……魔法、か?)

 

 嵜渡は、未だに謎ではあるが自身に発現した力のお陰か、少し気合いを入れればその感覚から解き放たれる。

 ……だが、

 

「朱坂……!」

 

「う……、く……っ」

 

 菜雪や周りの人はそうはいかない。

 揺れ動かす感覚は、じきにぐるぐると頭をかき混ぜられる感覚へと変わり……魔法の支配下に堕ち――

 

「――んッ!!」

 

 グチッ! と。菜雪の下唇が()み潰される。

 ……噛み潰したのは菜雪自身。

 魔法の支配下に堕ちる前に、唇を噛み潰す激痛によって意識を取り戻した。

 

「朱坂、大丈夫か!?」

 

「う、うん……何とか……」

 

 だが、助かったのは咄嗟に唇を噛み潰した菜雪だけ……他の街の人たちは魔法の支配下に堕ち――

 

『ぐ――ふへ♪ ふへへへハハハハハハハ――!!』

 

 ……狂人(きょうじん)に変わった。

 互いが互いを襲い合い、ある者は壁や地面に頭を叩きつけ、ある者は近くのお店から引っ張ってきた包丁を意味もなく振り回している。

 

「こ、これが……リナの言ってた魔法なの?」

 

 ……一概(いちがい)に頷くことはできない。

 魔法というのは、時に人を助け、時に戦う力をくれるものだ……少なくとも、嵜渡の知る魔法はそうだ。

 

「……これはあくまで魔法の一側面だ。全部がこうって訳じゃない……」

 

 ……その時、

 

「――く、はははははははははははははははははは!!」

 

 地上の惨状(さんじょう)を見下ろしていたカラスの女が、高笑いを上げた。

 嵜渡が菜雪と一緒に物陰に身を隠す。

 

「さぁ……さぁさぁさぁ! 出てきなさい魔法少女! メイガス! リナァァァ!!

 殺す――コロスッ……! ブッ殺してヤるゥッ!!」

 

「カーラン……だよな?」

 

 見た目は変わらない……だが、気が狂ったような笑いと声の絞り具合を聞き、目を細めてしまう。

 とはいえ、このまま野放しにはできない。

 

「朱坂、お前はここにいろ」

 

「影宮くん……」

 

 物陰から出る前にリナに連絡を取ろうとスマホを取り出す……すると、既にメッセージが届いており、

 

 

     『わたしもすぐに向かう』

 

 

 ――まるで嵜渡が既にこの事に気づいている事を知っているようなメッセージがリナより送られていた。

 

「流石――っ」

 

 フッと笑いながらスマホをしまい、『紺色の外套』を纏う。

 そしていつものようにフードを深く被ると――彼方から放たれた炎の矢がカーランに直撃した。

 

          ◆

 

「……来たわね」

 

 片手で炎の矢を弾いたカーランは、建物の屋上を走って接近する魔法少女を見た。

 

 遠距離の絵美(シャイン)

 近距離の茉優(シスター)

 オールラウンダーの香梨(ウィッチ)

 

 放たれた香梨の魔法を(かわ)し、建物の屋上に着地したカーランは茉優()香梨()の連撃を防いでいく。

 

「アンタ! 関係ない人たちまで利用して――ッ!」

 

「許さないッ! 今日こそ倒してやる――お前をッ!」

 

 今まで以上の気迫でカーランに得物を振るう二人。

 カーランは今までのように攻撃を捌いていたが、

 

「む――ぬっ!?」

 

 ――押されている。

 以前まで当然のように防げていた筈なのに、一瞬の隙を狙って剣が滑り込み、こちらから攻撃に転じようとすれば、香梨の槍がその妨害をする――妨害された瞬間、茉優がカーランの脇腹を切り裂いた。

 

「な、ぜ……何故だ……!?」

 

「何故って――」

 

 突き出した槍を躱され、次は二人が同時に攻撃を繰り出す。

 

「――あれだけ戦えば、成長だってする――ッ!」

 

 その通りだ。

 何度も戦えば相手の事だってわかってくる。

 魔法少女たちは何度もカーランと戦う内に、カーランの攻撃と回避――その時に無意識に行う(くせ)を見抜いていた。

 

 魔法石(まほうせき)に選ばれた魔法少女……その彼女たちがやられっぱなしな訳がなかったのだ。

 

「が……っ!?」

 

 否……カーランが押されている理由はそれだけではない。

 

「クソ……ッ、クソ――ッ!」

 

 嵜渡やリナに何度もやられた事による屈辱や焦りといった精神的疲労……それが今のカーランを追い詰めている一番の弱体化の理由だった。

 そして今――あれだけ簡単にあしらっていた魔法少女たちにさえ押されているという事実が、カーランをさらに焦らせていた。

 

 ふと、二人の魔法少女が左右に別れる――

 

「が、ご――ッ!?」

 

 ――飛来した炎の矢がカーランを撃ち抜いた。




 本日の『18時5分』にもう一話を投稿します。
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