助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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第二章(4)朱坂菜雪の正体

影宮(かげみや)くん、大丈夫かな……)

 

 物陰から外の様子を見れば、魔法に支配された人たちが見境なく暴れているのがわかる。

 

「……」

 

 ――出るべきだ(・・・・・)。と思った。

 暴れている人たちを見てそう思う……魔法の影響を受けているとしても、魔力による強化を受けているとしても――動きは明らかに素人だし、正気を失っているならば魔力による強化も宝の持ち腐れ……少なくとも菜雪の目から見ればそう写った。

 

 ならば制圧しよう(・・・・・・・・)……。

 ……そっと、物陰から出て――

 

「――――っ」

 

 ――ビルの屋上から女の子の声を聞いた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 普通ならば聞こえない距離。声量(せいりょう)

 だが菜雪は、その僅かに響いた悲鳴を聞き逃さなかった。

 

「……」

 

 物陰から顔を出す。

 視線の先に(そび)え立つ、一〇階建てのビル。……女の子の悲鳴はその屋上からだ。

 躊躇(ためら)いはない。

 今いかないと助からない命があると確信し、彼女は駆け出した。

 

 屋上まではおよそ三〇メートル。

 おそらく正当な方法では手遅れになる。

 だから――

 

「ふ――ッ!」

 

 一息で一〇メートルを跳ぶ(・・・・・・・・・・・・)

 斜めに跳び、ビルの側面を蹴り、反対側に聳え立つマンションの壁まで跳ぶ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 斜めに。ジグザグに。

 それを繰り返し、一〇秒もかからずに菜雪は屋上へと到達した。

 

 屋上に広がっていた光景は、赤髪の魔法少女が狂人と化した大人たちに体を抑えられ、首を絞められている光景だった。

 

「ッ――!」

 

 手刀や拳、蹴りを用いて魔法少女に群がる者たちを気絶(一掃)する。

 

「大丈夫……?」

 

 魔法少女に手を伸ばせば、彼女は困惑した様子で、

 

「あ……は、はい……ありがとう、ございます……」

 

 何が起きたか理解できていないのか、言葉を途切れさせたまま菜雪の手を取る。

 

「ちょっとごめんね」

 

「……へ?」

 

 いきなり絵美をお姫様抱っこした菜雪は、そのままビルから飛び降りる。

 

「――いぃぃぃぃやあああああああああーッ!?」

 

 絵美の絶叫を空中に残しながら、菜雪は向かいのマンションのベランダのフェンスに一瞬足をかけ、次は向かいのビルの窓枠にまで跳び……それを数回繰り返して、無事に地面に着地する。

 

「――っと。大丈夫……?」

 

「あ……あ、ぁ……あ、の……、」

 

 突然披露(ひろう)されたイカれた降り方に絵美は涙目で菜雪に抱きついている。

 菜雪からすれば大したことはないのだが……腕の中で落下を味わった絵美にとってはたまったものではない。

 

「ご、ごめんね……取り敢えず、ここにいて」

 

 いまだにガクガク震えている絵美をそっと下ろし、菜雪は駆け出した。

 

「――――」

 

 周囲の光景が乗り物にでも乗っているかのように流れていく。

 普通ならば異常……だが菜雪には見慣れた光景。

 辺りに(たむろ)している者たちは彼女が間を走り抜けた事に気づけない。

 

 ――当然だ。

 気配を消すなど、■■■にとっては当然の技術。

 それに加えこの異常なまでの身体能力だ。気づく方が無理という話。

 

 ギュオオオッ!! ……鼓膜を振るわせる風の悲鳴。

 最近聞いたのは、学校に忍び込んでいたリナに近寄った時か。

 

(……(はち)人……いや一二(じゅうに)人か――)

 

 戦場に到着する。

 やるべき事を頭に叩き込む。

 

 ……二人の魔法少女を襲っている狂人。片方に四人、もう片方にも四人――計八人。

 ……嵜渡と対峙しているカーランが人質にしている狂人が四人。

 ――――制圧すべき数は、合計一二人。

 

 問題ない。

 数も距離も、大した問題ではない。

 ほら――三秒かからずに制圧できた。

 

「は……?」

 

 戸惑いの声はカーランからだった。

 盾にしていた人質が瞬く間に崩れ落ちていく。

 

 ――呆けるな怪人。この女に隙を見せたら終わりだぞ?

 

「――――」

 

 気づかぬうちに槍を取り上げられ、

 

「ごは……ッ!?」

 

 横凪に振るわれぶっ飛ばされる。

 彼女の細腕のどこにそんな力があるのか……カーランは窓を貫き建物の奥へと消えていく。

 

「――あ、朱坂……!?」

 

 ここで初めて菜雪を認識した嵜渡が目を見開きながら名前を叫ぶ。

 無駄な事は言わない。カーランの槍を適当に投げ捨て、いま必要な事だけを告げる。

 

「街の人は私に任せて。君はカーランを」

 

「ッ――。あぁ、わかった……!」

 

          ◆

 

 一瞬、何が起きたか理解できなかった。

 気づいたら人質が倒れていて、気づいたら菜雪が目の前にいた。

 

「街の人は私に任せて。君はカーランを」

 

 今のはどうやって……? そんな思いが涌き出たが、菜雪の言葉を聞き、すぐに切り替える。

 

「ッ――。あぁ、わかった……!」

 

 カーランの元へと向かうと、翼をはためかせながらカーランが離脱しようとしていた。

 即座に飛び掛かり剣を振るう。

 

「ちっ……!」

 

 紙一重で剣を躱したカーランが右の手のひらを嵜渡へと向けるが、嵜渡が右手を蹴り飛ばした事により暴風は嵜渡ではなく建物の壁を貫いた。

 ――そのまま流れるように体を動かし、がら空きの腹へと一閃する。

 

 バッ! と。カーランは咄嗟にバックジャンプで回避するが、

 

「!?」

 

 追い付くように飛び込んできた嵜渡の左手が(きら)めき、(ほとばし)った魔力がカーランを飲み込んでいった。

 

          ◆

 

 次々に狂人にさせられた人々が倒れていく。

 なぜ倒れていくのか、解放された二人の魔法少女には理解できない。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(残るは……)

 

 もはや風となった自分を感じながら残る人々を確認していく。

 ……残るは一〇人。

 即座に三人を気絶させ、深く息を吐く。

 

「――っ」

 

 不意に殺気を感じ、そちらを向く。

 そこにいたのは魔法の支配下に置かれた警察官だった。

 他の人のように包丁やハサミではなく、拳銃(けんじゅう)を振り回している。

 そして銃口は……自分へと向けられていた。

 

「ウゥ、オ――アアアアアアアアアアアア!!」

 

 獣のような雄叫びと共に引き金が引かれる。……銃弾(じゅうだん)が放たれる。

 

「――――」

 

 ――放たれた銃弾を、見てから回避する(・・・・・・・・)

 

 ……()? という漏れた声が遠くから聞こえた。

 

「ふ――ッ!」

 

 二発目が放たれるより早く相手の(ふところ)に飛び込み拳を放つ。

 

「ご、ほ……!?」

 

 一撃で気絶させ、残る六人を見る。

 だが菜雪が動くまでもなかった――上空から落ちてきた紫の稲妻(・・・・)が六人全員を蹴散(けち)らしたからだ。

 

 スタッ、と死神を思わせる服装の少女が降りてくる。

 

「銃弾を躱すとか……どうなってんのよ、あんた」

 

 降りてきた少女はリナだった。

 先ほど遠くから聞こえた声は彼女のか、と菜雪は一人納得する。

 

「……その辺りの説明も、この戦いが終わってからね」

 

「確かにそうね……でも、この戦いはもうすぐ決着よ――」

 

 確信しているように、側に立つビルを見る。

 ――ビルの壁を破壊しながら、ボロボロとなったカーランが斬り飛ばされてきた。

 

「が……ッ! か、ァ……!」

 

 胸を大きく上下しながら息を整えようとしているカーラン。

 破壊されたビルの壁より剣を払いながら嵜渡が出てくる。

 

「どうして……どうして――どうしてだぁ……!!」

 

 ゴォッ!! と、翼を使い上空へと飛び上がる。

 攻撃の為ではない。身を引く為だ。

 

「どうしてだ! どうして勝てない! どうして上手くいかない! どうして、ドうしテ、ドウシテェ……ッ!!」

 

「……カーラン」

 

 寝返った身であれこれ言える立場ではないことはわかっている……でも、自傷と怨嗟(えんさ)の声が、聞いているこちらの心までもを締め付けてくる。

 だから、哀れみの目を向けてしまった……。

 

「コロす……ッ! ミナ殺し……ッ! 次こそコロしてやるゥゥゥゥゥ!!」

 

 喉が潰れんばかりの金切り声。

 都会全域に響かんばかりの声を(とどろ)かせ、カーランは去っていった。

 

「…………カーラン」

 

          ◆

 

 表から警察や救急隊の声が聞こえてくる。

 三人は巻き込まれる前に路地裏に逃げ込んだ。……さながら昨日の再現のようだった。

 

「間一髪だったな……」

 

「魔法少女たちも上手く離れられたみたいでよかった」

 

「……大丈夫。何も証拠は残してない」

 

「強盗か……っ」

 

 菜雪の言葉にリナがツッコミを入れると、大きく息を吐き、

 

「しっかし……普通じゃないとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったわ。

 魔法に支配された人たちを無力化させた手際のよさ……それだけでなく、銃弾を避けるなんて……あんた本当に何者なのよ――?」

 

 言われ、菜雪は僅かに体を震わせる……そして、緊張の息を吐きながら、正体を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――私は、殺し屋(・・・)だよ……。

 最強の殺し屋(・・・・・・)……そのなり損ない――」




『影宮嵜渡』

 未だに謎が多い主人公。
 何故、これほど高い戦闘能力を持っているのかは不明だが、少なくともカーラン相手に遅れをとることはない。


『リナ』

“紫の炎”だけでなく“紫の稲妻”の魔法も行使できる。
 銃弾を避けた菜雪を見て驚愕した。
 紫の稲妻を用いて魔法に支配されていた人々を気絶させた。殺してはいない。


『朱坂菜雪』

 その正体は『殺し屋』。
“最強の殺し屋”……そのなり損ない――。
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