助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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 菜雪の過去。


第二章(5)雨鳴(あまなり)菜雪(なゆき)

 ――雨鳴(あまなり)菜雪(なゆき)

 それが菜雪の旧名(きゅうめい)だ。

 

          ◆

 

 雨鳴(あまなり)家は現代まで続く殺し屋。

 菜雪(なゆき)はその家に産まれた子であり、最後の生き残り(・・・・・・・)

 

 殺し屋の家系というだけあって、雨鳴家の教育は過酷そのものだった。

 善悪の区別がついていない四歳の頃から『殺し』の技術を学ばせ、それを最大限に生かす特訓をさせられる。

 

 ……その特訓は並大抵の人間が耐えられるものではない。

 仮にその特訓に耐えられない、ついていけないと見なされた場合、その場で殺される(・・・・・・・・)

 

 そして次の子どもを産み(・・・・・・・・・・・)、教え、ダメと見なせば殺し……そんな地獄が特訓に耐えられる子どもが産まれるまで(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)繰り返され……耐えられたものが新たな殺し屋となり、後継者となっていく。

 

 五歳となった頃に『人』を殺させ、違和感を抱く前に引き返せないようにする(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)……そこまでして、ようやく“立派な”後継者が誕生する…………。

 

 

 

 ――――ある日、殺し屋の両親は歓喜を上げた。

 特訓に耐えられる“子ども”が産まれたのだ。

 それもただの子どもじゃない……反応速度、身体能力、成長スピード、どれをとっても雨鳴家の歴史に並ぶ者などいない、まごうことなき最強の殺し屋(・・・・・・)

 

 ――雨鳴(あまなり)菜雪(なゆき)

 何十人目かの(・・・・・・)子作りの果てに産まれた、雨鳴家の最高傑作。

『殺し』の技術を学び、それらを僅か数ヶ月でマスターし、歴代を上回る才能を見せた正真正銘の天才。

 

 ……だが、彼女はその才能を一度も披露することなく殺し屋の道から外れることとなった。

 

          ◆

 

 その日、父が出掛けていった。

 用事は口封じとのことだった……なんでも殺し(仕事)の現場を一般人に見られてしまったらしい。

 

 ……でも、父は帰ってこなかった。

 別に驚きはしなかった。

 ……仕事上、帰らぬ人となる可能性があることは学んでいたし……私の母も、その日の一ヶ月ほど前に『仕事』で命を落としたからだ。

 

 そして、私は五歳になった。

 父と母が亡くなり、雨鳴家の人間は私ひとり……五歳になっても誰も殺さず、天涯孤独(てんがいこどく)となった私は孤児院へと入った。

 

 ――私の世界が変わったのはそれからだった。

 孤児院での勉強の時間……そこで学んだのは『殺し』のことじゃない――(いのち)(とうと)さ。

 

 家で両親から学んでいた事とは真逆の事に面食らったけれど……すぐに家で教えられていた事が間違った事であることに気づいた。

 

 手を繋いだ事でわかる人の温もり。

 一緒に遊ぼうと声をかけてくれる同じ孤児の子どもたち。

 ――無感情だった私は、少しずつ笑うようになっていった。

 ――鉄のように冷たかった心は、少しずつ溶けて、温かく、晴れやかになっていった。

 

 朱坂(あかさか)家の人たちに引き取られてからは、それがもっと大きなものになっていった。

 

 ……だが同時に、心には(わだかま)りもできた。

 それは、自分が『殺し屋』の家系の子どもだったという事実……もはや人生の重荷にしかならないその事実を少しでも紛らわす為に、勉学(べんがく)に狂ったように没頭(ぼっとう)した。

 

 ……だが、どれだけ頭がよくなろうが心は苦しいままだった……。

 そんな時――

 

『魔法少女に……怪人?』

 

 突如として街に現れた、魔法少女という存在に、人を脅かす怪人。

 ……それと、魔法少女と同じく怪人を倒そうと奮闘している影宮嵜渡(クラスメイト)リナ(女の子)

 だから、

 

『――殺し屋(この力)を……正しく使える(・・・・・・)――?』

 

 彼らの仲間になれば、今まで自分の人生の重荷にしかなっていなかった『殺し屋としての力』を『正しく使える』んじゃないかと思って――

 

『君たちの荷物ならここにあるよ』

 

 ――二人(きみ)たちに近づいたんだ。

 

          ◆

 

 菜雪の話が終わる。

 場所は変わって嵜渡の家。細かい話をする為に嵜渡の家まで移動し、菜雪から語られた『正体』に関する話は想像を超えるものだった。

 

 菜雪は殺し屋の家系の産まれで……『最強の殺し屋』。

 確かにそれなら、今までの現象にも説明がつく。

 

 殺し屋ならターゲットに気づかれない為に『気配を消す』なんて雑作もないことだろうし、

 仕留める為に『身体能力』や『反応速度』なども鍛えている……だとしても銃弾を見てから避けるというのは人間がどうかを疑うレベルだが……。

 

「その、二人とも……今の話を聞いて、どう思った?」

 

 怯えるように菜雪が聞いてくる。

 

「やっぱり……人を殺めていないとはいえ、殺し屋の家系の者とは、一緒に居たくはない……?」

 

 それが昨日言い淀んだ理由だった。

 力になりたい理由は先ほどの通りだが、自分が殺し屋の家系から産まれた者だと知れば冷めた目で見られると思ったから。

 

「嫌なら、嫌って言って……私も見聞きしたことは忘れて、この事から手を引くから」

 

 ゆっくりと、顔色を伺うように言う。

 ……しかし目の前の二人は、菜雪が思っていたような目は向けていなかった。

 

「……俺は嫌じゃないし、居たくないとも思わないよ」

 

 むしろ優しい笑みを向けていた。

 

「どんな力も使い方次第だ。

 お前の両親は『人を殺める』事に使ったけど、お前は『人を助ける』事に使っただろ?

 なら、お前はいつも通りの優しい女の子だよ。

 一緒に居たくないなんて、俺は思わない」

 

「えぇ、その通りよ。

 あんたの両親は悪い事をしたけど、あんたは良い事しかしてないじゃない。そんな人を拒む理由なんて何処にもないわ。

 ――むしろ、心強い仲間が増えて嬉しいと思ってる」

 

「二人とも……」

 

「――だから」

 

 何の躊躇いもなく、受け入れるように手を差し出す。

 

「これからよろしくな、朱坂」

 

「――――」

 

          ◆

 

“――そんなに緊張するなよ。お前の正体がなんだろうと、俺のお前への接し方は変わらない。今みたいな友だちのままだ。だから肩の力は抜いてくれ――”

 

          ◆

 

 本当に、そのままだね――――。

 

「うん――よろしくね、二人とも」

 

 彼の手をとる。

 差し出された君の手は、殺し屋(むかし)をほんの一瞬忘れさせるほどに暖かかった。




朱坂(あかさか)菜雪(なゆき)
(旧名・雨鳴(あまなり)菜雪(なゆき)

 その正体は、日常に潜む“裏”の世界を知る(殺し屋)、雨鳴家に産まれた女の子。

 雨鳴家の歴史の中でも類を見ない才能の持ち主であり、五歳を迎えた頃に人を殺し、殺し屋としての道を歩む筈だったが……菜雪が四歳の頃に菜雪以外の雨鳴家の者たちが亡くなったため、事実上、雨鳴家は壊滅し、一度も人を殺める事なく生きてきた。

 ……それ故に『最強の殺し屋』ではあるが、実戦を行ったことがないため、そのなり損ない(・・・・・)
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