助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

2 / 26
第一章(2)覚醒

「ぐっ……!」

 

 嵜渡は魔力(ソレ)を紙一重で(かわ)すが、一条の光が床へと突き刺さった際に発生した魔力の余波(よは)に体を凪ぎ飛ばされ、壁へと背中から叩きつけられる。

 

「がはッ……!?」

 

 床へと倒れる嵜渡と、手から転がり落ちるリナ。

 

「……逃げ切れると思っているの?」

 

 カーランが二人の側へと降り立つ。

 

「坊や、鬼ごっこがしたいの? それなら後でお友達とたくさんやるといいわ。だから今はワタシの邪魔をしないでね♡」

 

 表情には笑みが浮かんでいるが、それが心からの感情表現でないことは、嵜渡の顔へと(えもの)の切っ先を向けていることから明らかだ。

 

「に……人、間」

 

 床を転がったリナが苦しそうに嵜渡に声をかけるが、それを遮るようにカーランがリナの前へと歩いてくる。

 

「さて、リナ。――どうして殺されるのかはわかるわよね」

 

「……魔女様(・・・)の、命令?」

 

「いいえ、これは貴女を除いた幹部のみで決めたこと。反乱の意志(・・・・・)を持つ者は、その前に摘んでしまいましょう、ってね」

 

「っ…………あんた、たちの……やり方には……もうついて、いけない。

 あのやり方は――人間の命(・・・・)すら……奪い、かねない」

 

「はっ、なに言ってるのよ? 人間の事なんてどうでもいいじゃない……魔女様も気の毒ね、こんな失敗作を生み出すなんて」

 

 トドメを刺すために、カーランは槍を引き絞る。

 

「……く、そッ!」

 

 壁に叩きつけられた体が重い、起き上がれない……。

 それでも……立ち上がらないと。守らないと。

 ――このままじゃ、一〇年前と一緒だ……。

 

「……やめろ」

 

 生きてるのに動けなくて、助けたいのに助けられなくて、ただ……家族が炎に飲まれていくのを見ていることしかできなかった、あの頃と。

 

「――やめろ」

 

 

   ――覚悟は? / ――ある。

 

   ――体は?  / ――動く。

 

   ――力は?  / ……ない。

 

 

「――やめろッ!!」

 

 覚悟を胸に駆け出す。

 体に鞭打ち足を前へと。

 ――戦え。力がなくても構わない。ここで死ぬことになろうと恐れない――それでも、助けろ……ッ!

 

          ◆

 

 揺るがない覚悟。

 他者のものとはいえ、魔力に触れたことにより呼応した(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ならば――ソレ(・・)は必然であった。

 

          ◆

 

「――なにっ!?」

 

 初めてカーランに動揺が奔った。

 ――繰り出した槍が受け止められたのだ。

 リナではなく……突如として間に割って入ってきた少年によって。

 

「あん、た……」

 

 動揺したのはリナも同じ。

 嵜渡の眼光は目の前のカーランにのみ向けられている。

 

「カラス女――」

 

「ッッッ!?」

 

 底冷えするような声にカーランの背筋が凍る。

 ナイフのように鋭い少年の目は、カーランを真っ正面から突き刺し、

 

「――お前の相手は、俺だ」

 

 瞬間――天を貫くほどの魔力が少年より立ち(のぼ)った。

 

「ごはッ!?」

 

 対峙していたカーランは吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 倒れていたリナはそれには巻き込まれず、突然の魔力に目を伏せる。

 

「な……なに、が……?」

 

 勢いよく立ち上った魔力が静かに収まっていく。

 魔力で覆い隠された光の中心にはあの少年がいる。

 その姿が、ゆっくりと(あらわ)になっていく。

 

 ――黒い線の奔った紺色のジップパーカーが靡く(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 上下共に紺と黒の二色で彩られた衣服を纏い(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)両足は紺色のブーツに納められている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「これ、は……」

 

 何が起こったのか、リナは理解できずにそう漏らす。

 しかし……この変身(へんしん)とも言える変わり様には見覚えがある。

 

魔法(・・)少女(・・)……?」

 

 リナの声を掻き消すように嵜渡の右手に光の粒子が出現する。

 一瞬で光は形を作り、やがて『紺色の剣』が右手に握られた。

 

「待ってろ」

 

 剣を払い、外套(がいとう)(なび)かせる少年は背後のリナに言葉を送った。

 

「――すぐに終わらせる」

 

          ◆

 

 全身に力が(みなぎ)っている。

 未知の事が起きているというのに、まるでコレを知っている(・・・・・・・・)かのように落ち着いている自分がいる。

 

「貴方……何者ッ!?」

 

 問いかけには返さず『()』を送る。

 何故だろうか……『こうすればこうなる』という事が今の自分には理解できていた。

 

「え?」

 

 驚きの声は背後から……リナの体が淡い光に包まれ瀕死の体が癒されていく。

 少しずつではあるが、確実に傷が癒えていくこの魔法(・・)は……、

 

治癒魔法(ちゆまほう)……」

 

 リナが答えを呟く。

 そして、この魔法を行使しているのは間違いなく目の前の――

 

「あんた……本当に何者……?」

 

 誰もが欲しいであろう答えは返されず、嵜渡は剣を片手に駆け出した。

 

「っ……!!」

 

 咄嗟にカーランが槍で防御すると、ガンッ!! という音と共に槍が弾かれ、カーランの腹部に鋭い蹴りが差し込まれる。

 

「ぐほ……!? かっ、――よ、よくも……ッ!!」

 

 完全に頭に血が上ったカーランは槍のような暴風を打ち出すが、ひらりとそれを躱し、続けて放たれる二撃目も当たり前のように避け――床、壁、死角、全てを利用した縦横無尽(じゅうおうむじん)の動きで少年は迫ってくる。

 

「なら……これで――どうッ!!」

 

 暴風を圧縮し、少年など簡単に呑み込む巨大な暴風の球体を放つ。

 だが――、

 

 

 

「邪魔だ」

 

 

 

 ――斬ッッッ(・・・・)!! と。

 ソレを一刀両断し、両断した隙間から滑り込むように嵜渡が飛び込んでくる。

 

「――、なッ!?」

 

 気づいた時には手遅れだ。

 一瞬のうちに六度の斬撃を叩き込まれ、カーランは断末魔を上げる。

 

「カッ、ハ……!? ……こん、な……こんな――」

 

「――終わりだ」

 

 結集(けっしゅう)した魔力が斬撃(ざんげき)となった一閃。

 視界を覆い尽くすその一撃が、この(・・)カーランが見た最期の光景となった。




影宮(かげみや)嵜渡(さきと)

 紺色の髪に、黒い瞳を持つ少年。
 私立色彩中学校の二年生。一四歳。本作の主人公。

 殺されそうになったリナを目の前にして、謎の覚醒を果たした少年。

 覚醒した際の服装を細かく描写すると、

【上半身】

『丈が腰の下くらいまである、黒い線の奔った紺色のジップパーカー。上から羽織っており、前は全開で閉めていない』
『同じく黒い線の奔った紺色のシャツ』

【下半身】

『黒いズボン』
『紺色のブーツ』


【リナ】

 背中まで伸びた白髪(はくはつ)が特徴的な少女。その正体は敵組織の『人の怪人』。
 実は嵜渡よりも頭一個分小さく、いわゆるロリ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。