助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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第二章(7)影宮嵜渡(魔道士) リナ(怪人) 朱坂菜雪(殺し屋)

 菜雪との電話から一〇分。

 言われた場所に辿り着いた嵜渡とリナは、眼前に広がる脅威を見る。

 

「アアアアアアアアアアアアーッ!!」

 

 正気を失っているとしか思えない叫び。

 辺りに存在するものを片っ端から(なぎ)払い、人々から悲鳴と絶叫を生み出し続けている。

 

「あれは……」

 

「カーラン……なの?」

 

 リナであっても動揺せずにはいられない。

 目の前にいる全長三〇メートルの怪物にカーランの面影など何処にもない……いや、かろうじてカラスの翼があるくらいだが、それさえも禍々しく変色してしまっている。

 

(……こんな事ができるのは、スパールくらいね)

 

 蜘蛛(くも)の怪人、スパール。

 ミッドナイトの中でも最も冷血な怪人……基本的に誰にでも気さくなあのラオンでさえも、スパールからは距離をとっていた。

 

(カーラン……)

 

 今は敵対しているとはいえ、かつては同じ場所で寝食を共にした仲だ。

 ……その彼女の成れの果てがこの化け物という事実に、リナは歯噛みする。

 

(スパール……! 冷血だとは思ってたけど、まさかここまで……ッ!)

 

 ドォンッ!! と、一際大きな音が鳴った。

 何か(・・)に向かってカーランが腕を振り下ろした音だ。

 

「ッ! 朱坂は……!?」

 

「……大丈夫よ、心配いらないわ」

 

 すっ、とリナがカーランを――正確にはその周囲を飛んでいる何か(・・)を指差す。

 指差した方向へ嵜渡が顔を向けると……パシュ(・・・)! という空気が抜ける音と共に、何かが凄い速度で此方まで飛んできた。

 

 ソレ(・・)は空中でくるりと身を(ひるがえ)すと、嵜渡たちの側に降り立った。

 それは――

 

「朱坂!?」

 

 (くだん)の少女、朱坂菜雪であった。

 

「思ったよりも早かったね、二人とも。

 ……人的被害が出ないように立ち回っていたし、大きな公園まで誘導したから、家とかは壊されていないと思うよ」

 

 戦闘より先に誘導を行ったらしい。

 見れば電柱などは倒されていても、人や建物の被害は出ていない……見事なまでの誘導だ。

 

「早速使いこなしてるわね、ソレ(・・)

 

 リナが菜雪の左手首(・・・)を見ながら言う。

 ……そこには小型の装置が巻くように取り付けられていた。

 

「うん……自在に扱えるし、思った通りの場所に放たれる(・・・・)。……思った以上だよ」

 

「それならよかったわ」

 

          ◆

 

 二人がそれぞれ紺色の外套と、死神のような服装を身に纏う。

 嵜渡がフードを深く被りながら、

 

「……広い公園でも周囲を警戒しながら戦うぞ。逃げ遅れた人がいたら戦うよりも先にその人を助けること、いいな?」

 

『――了解、リーダー』

 

 リナから聞かされていた戦闘時での嵜渡の呼び名。

 二人は同時に答えながらその場から飛ぶ/跳ぶ(とぶ)

 

 リナはその場から跳躍し、

 菜雪は――

 

「――っ」

 

 左手首に取り付けられた装置より――ワイヤー(・・・・)を射出し、空を飛んでいく(・・・・・)

 

 このワイヤーを射出する装置こそが、菜雪がリナに作ってもらった二つのうちの一つ――『機動力を上げる装置』。

 強度は並大抵のものではなく、射程距離に制限はない(・・・・・・・・・・)

 

 菜雪の意志によって射出され、引き寄せられ、巻き取られる。

 これによって菜雪は地上だけでなく、空中での機動力も手に入れた。

 

「オオオオオオオオオオッ!!」

 

 接近に気づいたカーランが拳を穿つ。

 食らえばそこで菜雪の命は終わる。

 ……だけど、

 

「ふ――っ!」

 

 この程度、脅威の内に入らない。

 跳び上がって拳を避け、カーランの巨腕に着地し、タタタッ! と腕を駆け上がっていく。

 

「ヌウ――!?」

 

 一秒後。

 うざったらしく虫を払うように腕を振るう。

 たった一秒……、

 だが菜雪からすれば掛かり過ぎだ(・・・・・・)……。

 

 手首から始まり、すでに(ひじ)にまで到達していた菜雪はパルクールのように肘から飛び降りる。

 そして……右手で何かを握る動作をした(・・・・・・・・・・・・・)

 

          ◆

 

『……どう、注文通りでしょ?』

 

 嵜渡の家でソレ(・・)を受け取った時、(くま)たっぷりのげっそりした顔でリナは言った。

 

『うん――うん! 全部注文通り……というかソレを超えてる出来栄(できば)えだよ!

 ありがとう、リナ!』

 

『……はーい、どーも……失くしたらマジで承知しないからね?』

 

 キラキラした目で『黒光りするソレ』を手元で踊らせながら、菜雪は感嘆(かんたん)の息を漏らす。

 

『あと……ソレと、さっきのワイヤーの装置には、一つサービスがしてあってね』

 

『サービス?』

 

『えぇ。……そのまま持ってたらワイヤーはともかくソレは確実に問題になるでしょ? だから――』

 

          ◆

 

「――――」

 

 ――菜雪の右手に、黒塗りの銃剣が出現する(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

『魔法を用いて、あんたの意志一つで仕舞ったり(・・・・・)取り出したり(・・・・・・)できるようにしてあるわ……魔法少女の武器と同じようにね』

 

 

 

 菜雪の意志によって、仕舞われていたもう一つの武器――銃剣(じゅうけん)が出現した。

 雨鳴家の人間だった時に、殺しの武器として渡されていたのは『ナイフ』と『銃』だった。

 この銃剣は、その二つが組み合わさった武器。

 

 落下していく中……片手で構え、狙いを定め――引き金を引いた。

 

「グウ!? オオオアアアアアーッ!?」

 

 右目を撃たれたカーランが絶叫する。

 悶絶し、暴れるカーランから逃げるようにワイヤーを使い後方へと下がる。

 

『はぁッ!』

 

 入れ替わりになるように嵜渡とリナが飛び込み、右腕と左腕を切りつける。

 

「ルウゥゥゥアアアアアアッ!!」

 

 暴風が巻き起こる。

 ……巻き起こる暴風は、以前対峙した時とは比較にならないほどの威力を誇っている。

 

「ぐ……っ!」

 

「がッ!?」

 

「う……く、あ――ッ!?」

 

 暴風は三人をいとも容易く拐い、

 

「ギエ……ッ! アア――ッ!!」

 

 カーランは以前とは比べ物にならない大きさの槍を片手に出現させ――嵜渡へと振り下ろした。

 

「――ッ!?」

 

 だが当たる寸前で腰に何かが巻き付き、そのまま引っ張られる。先ほどまで自分が浮いていた場所を槍が通過する瞬間を見ながら、

 

「――大丈夫?」

 

 ワイヤーで嵜渡を救出した菜雪の声がすぐ近くから聞こえてきた。

 

「あぁ。ありがとう、朱坂……」

 

 菜雪に抱きしめられ、地面へと風に流されながら着地する。

 嵜渡を逃した槍が、力任せに振るわれ横凪に迫る。

 

「リーダー」

 

「あぁ」

 

 同時に跳び上がる。

 槍を回避した次は巨大な手のひら。嵜渡を潰そうと迷いなく放たれる。

 

「――グ、ヌ!?」

 

 ――だがそれは、瞬時に状況を把握した菜雪に手首を撃たれ怯んだ。

 怯んだ手首を紙一重で(かわ)し、嵜渡は腕を駆け上がる。

 対する菜雪はカーランの右足へと駆ける。

 

「――――」

 

 菜雪の行く手に幾つもの『風の刃』が出現した。

 ――問題ない(・・・・)

 ……全て躱すだけ――。

 

「ふっ――!」

 

 まるでパルクールのように掠りもせず、全てを回避した菜雪は右足(えもの)へと突き進む。

 

 その中で、菜雪は頭の中で『念』を発した。

 ……銃剣の姿が変わっていく(・・・・・・・・・・・)――菜雪の握っている部分を起点として、順手持ちから(・・・・・・)逆手持ちへと変わった(・・・・・・・・・・)

 

 これも銃剣の能力の一つ。

 持ち主の意志によって、持ち方が瞬時に変わる。

 無論、このような能力が搭載されているのには理由がある。

 ――菜雪のナイフの持ち方は、逆手持ちだからだ。

 

「――――」

 

 懐かしい感覚。純粋に殺しを学んでいた頃を思い出す。

 逆手持ち(かまえて)、駆けて――

 

 ――斬ッ!! と。

 すれ違いざまに右足首を切り裂く。

 

「ふッ!」

 

 そのままアキレス腱へと刃を突き刺し、引き金にかかっている人差し指を動かす。

 バァンッ!! と、カーランの右足首が跳ねるほどの弾丸(威力)が放たれた。

 体勢が崩れると同時に、腕を駆け上がっていた嵜渡がカーランの首に剣を滑らせる。

 

「チッ!」

 

 しかし致命打にはならず舌打ちを鳴らす。

 カーランが嵜渡を追いかけるように顔を動かす――瞬間、紫炎(しえん)を纏った大鎌の連撃がカーランの胸を切り刻んだ。

 

「アオ!? ガ、アアアアアアアアアアー!?」

 

 連撃を刻んだリナが鎌を振るい紫炎の残り火を払う。

 胸を抑えながらカーランは飛び上がる。

 

「……」

 

 ゆらり、と菜雪は銃口を向け、二発発砲(はっぽう)する。

 銃弾はカーランの羽を“殺す”為に放たれたが、羽を穿つ前に暴風に遮られる。

 

「厄介な魔法だ……」

 

 忌々しく菜雪は舌打ちする。

 その時だった。……カーランから、風とは違う魔法が発動したのは。

 

『――ッ!』

 

 ――――息を呑む。

 

 ……そうだった。

 前にも目にしていたというのに、異形と化したカーランを目の前にした驚きにより忘れていた。

 

 ――カーランには風を操る以外にも……もう一つ(・・・・)得意とする魔法があったことを(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……分身(・・)

 

 誰かがそう呟いた。巨人は二体に増えている。

 ……だが予想外だったのは、カーランの『分身』は発動した時の自分をそのまま複製(・・・・・・・・・・・・・・・)するわけではなかったということ。

 

『オオオオオオオオオオオオーッ!!』

 

 三人の頭上には、戦闘により傷ついたカーランと……戦闘能力こそは下がっているものの、無傷のカーラン(・・・・・・・)が飛んでいた。




『朱坂菜雪』

銃剣(じゅうけん)”と“ワイヤー装置”。
 リナに製作を頼んでいた二つの武器。

 銃剣と言っても、大きさや長さは拳銃が元となっているため、片手で扱えるほど。
 菜雪が『念』を送れば『順手持(じゅんても)ち』から『逆手持(さかても)ち』に瞬時に切り替えることができ、その逆もまた同じ。

 ワイヤーは、菜雪の左手首に巻き付くように取り付けられた小型装置から射出され、射程距離に制限はなく、強度も並大抵のものではない。


『カーラン』

“分身の魔法”は、
 ――『発動した時の自分をそのまま複製』するのではなく、
 ――『発動した時の自分を、全快させた複製体(・・・・・・・・)』を出現させるというもの。

 どれだけ傷を負っていようと全快させて複製する、というトンデモ性能を誇る魔法だが、その代わりとして複製体は『弱体化』した存在となっている。
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