助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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 第二章の後半、スタート!


第二章(10)人造の魔道士

「カーランはなんの役にも立たなかったな……」

 

 椅子に腰掛けながらスパールは吐き捨てた。

 カーランが消えてからはや一ヶ月。

 メイガスや魔法少女を倒すどころか、大した被害も与えられずに消えていったカーランを思い出すと、いまだにイライラが(つの)る。

 

「そんな奴のことはとっとと忘れろよ、親父(・・)

 

 イライラを聞いて、向かい側に座っていた少女が口を開いた。

 

 黒髪のショートヘアーに紫の瞳。

 紫のシャツに黒いジャケット。紺色のショートパンツに黒いニーソックスといった活発な服装。

 

 ナイフのような鋭い瞳には好戦的な雰囲気が漂っているが、『父』であるスパールに対しては柔らかな雰囲気も向けていた。

 

「役立たずの分までオレがやってやるから安心しろよ」

 

「ふっ……期待しているぞ、ミア(・・)

 

 ミアと呼ばれた少女はニヤッ、と笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「早速だが、貴様にやってもらいたい事がある。

 ……調査――ではあるが、隙あらば殺してしまって構わない」

 

「殺す……となると、調査するのは人間か?」

 

 ミアからの返しにスパールは頷き、

 

「あぁ――メイガスと行動を共にしている、紫の髪のガキだ(・・・・・・・)

 

          ◆

 

 カーランとの決着がついてから一ヶ月が経った。

 私立(しりつ)色彩(しきさい)中学校(ちゅうがっこう)の校舎は修復作業が終わり、そこに通う生徒はかつての学校生活の感覚を取り戻しつつある。

 

 リナもカーランを失ってからしばらくの間は部屋に閉じ(こも)っていたが、嵜渡や菜雪が寄り添い続けた事によって、かつての天真爛漫(てんしんらんまん)さを取り戻していた。

 

 久しぶりにも思える穏やかな日常……その中で――

 

「はぁ……ッ! はぁ……ッ! はぁ――ッ!」

 

 影宮(かげみや)嵜渡(さきと)は学校の廊下を鬼の形相で全力疾走していた。

 なぜこんな事をしているのか……理由は背後にある。

 

 

 

「影宮ぁぁぁぁぁぁぁーッ!! お前が連れ歩いてるっていう幼女は何処の誰なんだ! すげぇ可愛いって噂だぞ!?」

 

「目覚めたのか……? ついに目覚めたのか“ロリ”に!! ようこそ――ようこそこちら側の世界へ!!」

 

「影宮君! あなたが風紀(ふうき)を乱し始めていることはわかっているわ! あなたが道を外す前に私があなたを止めてみせる……!

 ――――ちなみに何処の幼女ちゃん……? お年は? 住んでるところは!? 知ってるなら教えてぇぇぇぇぇーッ!!」

 

 

 

 興味。ロリコン。風紀委員(の皮を被ったロリコン)。

 

 三者三様(いや、一様?)の彼らに追われている嵜渡は、自分の脚力(きゃくりょく)が新たなステージへと上っていくのを感じていた。

 

(しつこ過ぎるだろコイツら!? ってか朱坂(あかさか)は? アイツは無事なのか!?)

 

 どうしてこうなったか……それは数分前。

 放課後の教室で『嵜渡と菜雪が、白髪(はくはつ)の幼女を連れて街で遊んでいた』という噂が広まったのだ。

 

 ……確かに落ち込んでいたリナを励ますために二人で色んなところに連れていっていたが、まさかこんな噂になるとは思っていなかった。

 

 その幼女とはどういう関係なんだ? 教えてくれ! としつこく迫られ、最終的に、

 

『――See you again』

 

 やけに良い発音と共に、ぴょん、と二階の教室のベランダから菜雪は飛び下り逃げた(……この()ホントに人間?)。

 そこから逃走劇が始まった。嵜渡は怪人との戦闘で(つちか)った回避スキルで以てアクロバットな逃走を繰り返している。

 

「うおおおおおおおおーッ!」

 

 神速の早業で上履きと下履きを履き替え、ばびゅーん! と駆け出していく。

 物陰や死角を利用し、いざ校門から脱しゅ――

 

「そこまでだあぁぁぁーッ!!」

 

「なあ――ッ!?」

 

 自分ではなく、菜雪を追っていったはずの生徒に校門を塞がれる。

 (きびす)を返そうとするも、

 

「見つけたぞ!」

 

 自分を追っていた生徒たちに退路を塞がれる。

 嵜渡は両方の生徒(かべ)を見ながら、

 

「ど、どういうことだ……お前らは朱坂を追ってた奴らだろ? 何で俺のところに……あ、朱坂はどうしたんだ!?」

 

 嵜渡からの問いに、菜雪を追っていた組は顔を見合わせ、

 

「朱坂さんがさ――」

 

          ◆

 

『影宮くん、その幼女さんと同棲(どうせい)してるよ』

 

          ◆

 

「――って」

 

「――朱坂ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッッッ!!」

 

          ◆

 

 見事(?)な手段で追跡を振り切ったイタズラっ子……いや小悪魔っ子、朱坂菜雪ちゃんは帰路(きろ)についていた。

 

「……っ、あの子たち」

 

 帰り道で見かけたのは三人の魔法少女。そしてマジックワールドのお姫様。

 

「カーランが倒されてからというもの……ミッドナイトの動きが嘘みたいに途絶えたね」

 

「確かに気になるね……でも安心してサヤちゃん! いつ動きがあっても対抗できるようにわたしたち備えてるから!」

 

「備えるのはいいけど……アンタいつから体育会系になったのよ――ほぼ毎日、山で模擬戦とか……」

 

「……ねぇ、絵美。あたしが運動苦手なの知ってるよね? なんで山にいく時、毎回走ってくの? 自転車でいいじゃん……」

 

「だからこそだよ香梨ちゃん。体力付けないと!」

 

「最初っからハードル高すぎるんだって……! 泳ぎできない人の最初のステージがプールじゃなくて海みたいなもんだよ!?」

 

 ドーナッツ屋さん前の椅子とテーブルを使い楽しげな会話をしている魔法少女とお姫様。

 菜雪との距離は数メートルもない。

 ……ましてや菜雪は戦闘の際に顔を見られている。このまま通りすぎるのはマズイ……。

 だが――

 

(元気そうで安心したよ……)

 

 菜雪は足を止めない……四人のすぐ横を通り過ぎる。

 なのに四人は菜雪に気づいた様子はない(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ……菜雪には、たとえ顔を見られても大丈夫だという自信があった。だからこそ、戦闘の際にも顔を隠すことはしなかったのだ。

 

 菜雪は殺し屋の家系の子。

 ――殺し屋は自分の気配を消せる(・・・・・・・・・)

 今のように、菜雪が気配を()てばすぐ横を通ったところで気づかれる事はない。

 ……しかし(・・・)

 

「――アイツだな?」

 

 ……それはあくまで、菜雪が魔法少女たちに対して気配を絶っているからこそであり、

 

「親父が言ってた紫の髪のガキって奴は――」

 

 菜雪を尾行しているミッドナイトの少女――ミアからはその存在を認識されている。

 

          ◆

 

 スパールの話だと、紫髪の少女は突然現れた謎めいた存在だという。

 謎めいた存在ならばメイガスが挙がるが、紫髪の少女は、

 

『魔力を用いていない』

『魔法少女や怪人に並ぶ身体能力』

『メイガスやリナと行動を共にしている』

 

 ……などと、並べれば並べるほど謎が深まる存在。

 

 スパールが警戒を抱くのも当然だった。

 だからこそ正体を掴むためにミアに尾行をさせた……隙あらば殺せというのも、危険因子になりかねない存在は排除しろ、という事だ。

 

 ……(くだん)の紫髪の少女は人気のない道へと入っていき、今しがた路地裏へと曲がった。

 

(路地裏か……遮蔽物(しゃへいぶつ)がないのが厄介だな)

 

 誰にも聞かれないようにため息を吐き、路地裏を覗く。そこには、

 

(……っ――)

 

 ……そこには誰もいなかった(・・・・・・・・・・・)

 人の気配すら皆無だ……路地裏へと入るが、やはり人の姿はない。

 

 

 

 

 

「――――動くな(・・・)

 

 

 

 

 

 ――スチャ、と。

 後頭部に銃剣(じゅうけん)を突きつけられる。

 剣の切っ先が触れ、そのすぐ後ろには銃口が構えられている。

 

「っ……、」

 

 ――いつの間に背後を。

 生まれて間もない(・・・・・・・・)とはいえ、ミアにとっては生まれて始めての動揺。

 

 しかしその動揺も一瞬だ。ニヤリと口角を上げると、ため息と共に声を鳴らした。

 

「はっ。まさか気づかれてたとはな」

 

「……」

 

 引き金に力が込められる。

 

「お前は誰だ。人のことつけ回して……ミッドナイトの人間か?」

 

「ご明察。……つか、他に誰がいるんだ?」

 

「……名前は?」

 

「人に名前を訪ねるなら自分から、じゃないのか?」

 

 すぐにでも殺される状況下に(さら)されてもミアから余裕がなくなることはない。

 ……紫髪の少女からすれば未知とも言える存在が放つ余裕が、少女に緊張を奔らせる。

 

「まぁいい、話はゆっくり聞かせてもらう。

 ……両手を上げて(ひざまず)け」

 

「従わなかったら?」

 

「両足首を撃って、顔の皮を引き剥がす」

 

「ひぇえ……お前拷問の心得でもあんの? 命を奪わずに生涯残る傷を残すとか拷問のソレじゃん」

 

「――さっさとしろ」

 

 脅しではない。次に無駄口を叩けば紫髪の少女は本気でやる。

 それは銃剣を突きつけられているミアにも理解できた。

 ……けれど、それを理解してもなお、

 

「ケッヒヒ――やーだね♪」

 

 ミアから余裕がなくなることはなかった――。

 

          ◆

 

「――!?」

 

 直後、ミアの体から突風を思わせる魔力が放たれた。

 後ろに立っていた菜雪が魔力をモロに受け後方へと吹き飛ばされる。

 

「っ――」

 

 空中でくるりと身を回転させ着地する。

 菜雪が着地したと同時――眼前にまでやって来ていたミアが(すみ)のような黒一色の剣を振り下ろす。

 

「ぐ、う……ッ!」

 

 咄嗟に銃剣で受け止めるが、一瞬で押され、刃が額にまで迫ってくる。

 すぐに左手をミアに向け、左手首の装置よりワイヤーを射出する。

 

「おっと――!」

 

 ワイヤーに貫かれるより先に跳躍する。

 跳躍したミアに向かい銃弾を放つが、当たり前のように剣で銃弾を弾き着地する。

 

「チッ――!」

 

 ゴムのようにその場から弾け飛ぶ。

 三度引き金を引いたが、次は弾かずミアは身を(ひね)って避けてみせた。

 銃剣を逆手持ちへと変える。

 攻撃方法を逆手持ちの連撃と体術に切り替え、懐に飛び込む。

 

「速いな――お前、本当に人間かよ」

 

 しかし一撃もミアには届かない。

 全ての連撃を(さば)かれ、体術を受け止められ、お返しとばかりに菜雪の心臓へと切っ先が奔る。

 

 放たれた切っ先を銃剣で弾く――が、

 

「っ! がは――ッ!?」

 

 弾かれた剣をそのまま離したミアが懐に滑り込み、菜雪の胸に拳を穿(うが)つ。

 肺の空気を全て出された菜雪は咳き込みながらもミアから目を離さない。

 

「魔力を使ってるわけでもないのにやるじゃねぇか……さっきの言葉は撤回(てっかい)するぜ」

 

 重力に従い落ちてきた、墨のような剣を取る。

 

「オレの名はミア。人造の魔道士(・・・・・・)だ。

 ……お前は?」

 

 問われ、菜雪は答えた。

 本名ではなく、嵜渡やリナと共に考えた、戦闘の場における自身のコードネームを。

 

「――アサシン」

 

 アサシン――本来の意味とは違うが、『影から命を狙う』という共通点から付けたコードネーム。

 

「ヒヒ……殺し合おうぜ、アサシン。

 お前なら準備体操にはもってこいだ」

 

「……準備体操って、随分と舐めてるな。

 ――――簡単に殺れると思うなよ?」




『朱坂菜雪』

 普段の二人称は『(きみ)』だが、敵に対する二人称は『お前』。

 ミアの尾行に気づいた菜雪は路地裏に入った後、近くの建物の屋上へと飛び、そこからミアの背後へと飛び下りた(……人、間?)。

 ミアと話していた時にもそうだったが、菜雪はたまに『口調が男っぽく』なる時がある。


『ミア』

 スパールの事を『親父』と呼ぶ少女。オレっ()であり、身長はリナと同じくらい。

 自らを『人造の魔道士』と言っているが、どういう意味なのだろうか……?

(※ちなみに『第一章(5)“彼”は何者なのか』においてのミッドナイトの描写の際、

『会議といっても幹部は三人……いや厳密には四人だが、ここにいるのは三人だけだ。』

 ……ここの『四人目』に当たる人物がミアです。
 伏線に入るかわからないほどの小さな伏線、ここで回収!)
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