助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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第一章(3)敗北の魔法少女

「消えた……?」

 

 呟きながら、跡形もなく消滅したカーランの跡を見ていると、

 

分身(・・)

 

 足音と共にリナが近づいてきた。

 

「カーランの魔法の一つよ。本体(・・)は今、校庭で三人の魔法少女と戦ってるわ」

 

 傷が癒されたからか、先ほどのような苦しそうな途切れを感じさせない流暢(りゅうちょう)な喋り方で説明してくる。

 

「……お前、動いても大丈夫なのか?」

 

「……えぇ、傷は癒えたわ。あんたのお陰でね」

 

 確かに傷は癒えている……だが、

 

「っ!?」

 

 先ほどまでミキサーに掻き混ぜられたような有り様だった腹部は元に戻ったが……服はそのままだ。

 リナは今……腹部を丸見えにした状態で嵜渡の元へと歩いてきている。

 

「? なに?」

 

 気づいていないのか、首を傾げながらリナが問いかけてくる。

 

「そ、その~……」

 

 顔を()らしながら丸見えの腹部を指差す。

 

「? …………/~~~っっっ!?」

 

 数秒の遅れがあって、バッ! とリナは腹部を覆い隠した。

 

「そ、そうね! まずは服をなんとかしないと……!」

 

 頬を紅潮(こうちょう)させたリナは『え~と、え~っと!』と辺りをキョロキョロしていたが、

 

「――もういいや!」

 

 パチンッ、と指を鳴らした。

 するとリナの体に光が纏われ――数秒後には、この学校、私立色彩(しきさい)中学校の女子生徒の制服を身に纏っていた。

 

「ふぅ……もう見てもいいわよ」

 

「ん……。って、それ、この学校の……」

 

「何回か見てたし、細部は異なるけど九割方同じでしょ」

 

 初めて着たのであろう制服を、体を動かしたりしながら見るリナ。

 だが不意に、

 

「ぅ――っ」

 

「――と。大丈夫か?」

 

 ふらついたリナを支える。

 リナは『あはは……』と苦笑しながら嵜渡の肩を借りる。

 

「……まだ油断できないわね……倒れそう」

 

 まだ多少息が荒いリナを、数秒の(あいだ)、見つめた後……

 

「……なあ、この状態のお前に言うのもアレなんだけど――」

 

「――――魔法少女の事とか、わたしの事とかを教えて欲しい、でしょ?」

 

 言葉の先を取るようにリナが口を開いた。

 嵜渡がリナの顔を見ると、『わかってるわよ』という風に苦笑を浮かべていた。

 

「構わないわ……もう組織は抜ける(・・・・・・・・)つもりだったし……全部話すわよ」

 

「あぁ、ありがとな」

 

          ◆

 

 ……色彩中学校の校庭にて、

 

「くっ……、あ……」

 

「か……香梨(かおり)、ちゃん……っ」

 

 異世界――『マジックワールド』より来た存在から魔法石(まほうせき)を受け取り、魔法少女となった三人の少女たちは、初めての敗北を(きっ)していた。

 

 ……中でも変身解除にまで追い込まれた香梨(かおり)絵美(えみ)に、もう立ち上がる力は残っていない。

 

「ここまでね、魔法少女ちゃん♪」

 

 カラスのような特徴を持った女性の怪人が近づいてくる。

 右手には槍を持ち、風の魔法を行使するこの怪人が、三人を追い詰めた張本人。

 

「さようなら♪」

 

 敵組織――『ミッドナイト』の幹部の一人、カーランが槍を振り下ろす。

 標的となった絵美は反射的に目を伏せた……だが、鳴ったのは肉を裂く音ではなく、金属音。

 

「こ……のッ!」

 

「あら? まだ動けたのね」

 

 絵美を守ったのは、今にも消えそうな魔法少女としての服装に身を包んだ茉優(まゆ)だった。

 得物(えもの)の剣でカーランの槍を防いでいる。

 

「茉優ちゃん……!」

 

「随分頑張るわね……お姉さん、そういう()嫌いじゃないわ」

 

「ぐっ……!」

 

「……でもね、」

 

 カーランの周囲の風が唸る。

 風は次第に巨腕(きょわん)となり、茉優の体を捕らえた。

 

「……しつこい娘は殺したくなっちゃうわ」

 

 ――ドガァッッッ!! と。

 

「ガ、アァッ!?」

 

 巨腕は茉優の体を握り潰し、そのまま振り上げ地面へと振り下ろした。

 その一撃で纏っていた魔法少女の服装は(ちり)となり消えていく。

 

「ぐっ……! ぅ、あぁ……!」

 

 そのままカーランの前にまで引っ張られ、少しずつ……少しずつ巨腕に絞め殺されていく。

 ミシミシミシ……ッ! と、絞められた体が悲鳴を上げる。

 

「やめ、て……っ! ……やめてよぉ――!!」

 

 絵美の悲鳴にも近い懇願(こんがん)は届かず、カーランは巨腕を操り、茉優の体を潰していく。

 

「――ご、ばッ!?」

 

 吐血(とけつ)。……それが引き金になったように、抗うように(りき)んでいた茉優の体から力が抜けていく。

 

「そろそろ終わりにしようかしら……それにしても、」

 

 せめてもの抵抗か、力なく自分を睨む茉優の(あご)をカーランは撫でながら、

 

「魔法石に選ばれた魔法少女がこの程度なんて……拍子抜けだわ」

 

 風の巨腕が更に力を込めていく。

 

「やめて――! 茉優……!」

 

「茉優、ちゃん……!」

 

 動けない体を必死に動かしながら二人は立ち上がろうとし、

 

「貴女たちは(あと)――」

 

『う!? が、あ――ッ!』

 

 体をめり込ませるように、強風が二人の体を上から押さえつけた。

 

「…………絵美……香、梨……」

 

 ……呟かれた名前はまるで遺言のようだった。

 それを最後に茉優の目蓋(まぶた)は落ち、されるがままに巨腕に締め殺さ――――

 

 

 ――――斬ッッッッッ(・・・・・・)!!

 

 

「っ!? な――ッ!」

 

 風の巨腕が一閃される。――カーランが驚愕で意識を逸らした事により、二人を押さえつけていた強風さえも霧散する。

 

「な、なん――ぐおッ!?」

 

 言い切るより先に、風の巨腕を一閃した乱入者(・・・)の蹴りが腹に突き刺さり、カーランは崩壊した学校へと吹き飛んでいく。

 

「……え?」

 

「い、一体、何が……」

 

 風から解放された二人が驚愕の声を発する……戦場には、影が一つ増えている。

 

 ――身長は絵美たちよりも少しだけ高く、紺色のジップパーカーを羽織り、目深(まぶか)にフードを被っている――恐らくは、少年。

 

「う――げほッ、かはっ!」

 

 絞め上げから解放された茉優が、自分を支えている少年を見上げて……、

 

「あ……あな、たは……?」

 

 茉優が問いかけるも、紺色の外套(がいとう)を纏う少年は一言も発さず――

 

「な――何者だ! 貴様!」

 

 恐れと怒りを含めた言葉がカーランより発せられる。

 

 

 

「……さっきも似たような事を聞いたわね、分身(ぶんしん)のあんたから」

 

 

 

 戦場に活発(かっぱつ)さを含んだ声が響く。

 カーランと魔法少女たちがその方向へと顔を向けると、

 

「な……!? り、リナ!?」

 

「不意打ちを放ったぶりね、カーラン。

 いや……分身の事も含めるとさっきぶり、かしら」

 

 倒れている絵美たちと同じ、私立色彩中学校の制服を身に纏ったリナがそこにいた。

 

「分身――まさかあの状態から、ワタシの分身を退けたとでも!?」

 

「いいえ……あんたの分身を倒したのは『彼』よ」

 

『彼』に視線が集まる。

 茉優をそっと地面に下ろした『彼』の右手には、巨腕を一閃した紺色の剣が握られている。

 

「さっきは見てるだけだったけど、今度はわたしも戦えるわ!」

 

 リナは初めて、小柄な見た目相応の、明るく活発な本来の性格を表に出し、

 

「やるわよ――リーダー(・・・・)!」

 

 あぁ――とでも言うように『彼』は頷き、リナと共に地を蹴った。




『彼』――一体何者なんだ!?
 ……まぁ、はい、正体は紺色がイメージカラーの主人公(かれ)です。

 次回は嵜渡の視点から、『リナが共に戦う事になった理由』と『本体のカーランとの戦い』をお送りします。

 では、『第一章(4)第三勢力』でお会いしましょう!
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