『6月17日』
・ミッドナイトでの会話に少し変更点を加えました。
「みんなに集まってもらったのは他でもない……」
自宅のリビングでショートの赤髪の魔法少女、
「リナの側にいた紺色パーカー
「……仮にとはいえ名称それでいいの?」
絵美の言葉にソファーに座っていたポニーテールの青髪の魔法少女、
「いーんじゃない? 紺色パーカーってこと以外、目立った特徴がないし~」
茉優の向かいのソファーにぐで~と、思いっきり寝転がっている黄色い長髪の魔法少女、
「アンタ寝ようとしてない?」
「うにゃ~、このソファー気持ちいいね~」
「……絵美、今日ってゴミの日だったっけ?」
「――捨てようとしてるッ!?」
茉優の発言に絵美が声を上げるも、香梨は依然としてぐでっている。
茉優が話し合いにと買ってきた飲み物と、一つ一つが梱包されているバームクーヘンを取り出すと、
「茉優、あたしにバームクーヘン取って~」
はいはい、と返しながら梱包されているバームクーヘンを一つ取ると、
「――あいたッ!?」
香梨の横顔目掛けてぶん投げた。
「か、香梨ちゃん!?」
「ちょっと茉優、何すんのさ~!」
「ちゃんと会議に参加しなさいぐーたら魔法少女」
は~い……と間延びした返事を返した香梨が姿勢を変えると、
「会議の前に聞いておきたいんだけど……茉優、体の具合は大丈夫なの? 血とか吐いてたでしょ……」
急に真面目な目つきでそう問いかけてきた。
そんな香梨に一瞬キョトンとした後、表情を柔らかくしながら問いに返す。
「体はもう大丈夫。魔法少女の体は治りやすいの知ってるでしょ? 一日安静にしてたら元通りになったわ」
「――そう。それならいいんだ。
ごめんね、会議前に急に聞いちゃって」
安心したと言わんばかりのホッとした表情を浮かべる香梨を見て、つい微笑んだ茉優は、先ほどよりも明るい様子で話を始める。
「さて――絵美曰く、紺色パーカー人と呼称された人物と出会ってから、今日ではや三日。依然として正体のわからない謎の人物。
唯一わかっているのは、ミッドナイトの幹部、リナと一緒にいるということだけ」
あの学校での戦いから三日。
戦いの後、魔法少女たちが声をかけるより先に二人は去ってしまった。
おかげで正体はわからずじまい、何故助けてくれたのかも理由を聞けず、魔法少女たちは今も混乱していた。
ただ――
(あの力……)
紺色の――
彼の纏っていた服装や武器からは魔力を感じ、それらは自分たち魔法少女のものと非常に似通っていた。
「あの人、味方なのかな……?」
「……助けてくれたことは事実だけど、断言はできないわね。
まだあの人に対して、私たちは何も知らないんだもの」
「魔法少女の力と
マジックワールドからやってきた
バームクーヘンを食べながら香梨が話を纏める。
すると、
「うぅぅ~……面目ない……」
絵美の隣に座っていた、三人よりも背の小さい銀髪の少女が身を縮めながらそう言った。
銀髪の少女の名前はサヤ。
今しがた会話の中に出てきた、
「え? あ――いやその、せ、責めてるわけじゃなくて」
「むぅ……香梨ちゃん」
サヤの肩に手を置きながら絵美は香梨を見る。
現在、絵美の家にサヤは居候として住ませてもらっているため、絵美にとってサヤは妹のような存在だ。
「だ、だから違うってば~!」
「はぁ……みんな落ち着いて。絵美も過保護過ぎよ。香梨はもう少し言葉を優しくしてね」
一瞬で丸く収めた魔法少女たちの頭脳担当は、今までの話を統合して口を開いた。
「次に会えた時に、話せたらいいんだけど……」
◆
……ミッドナイトの本拠地にて、
「どう? ラオン。何か情報は手に入ったかしら?」
「悪いが全くだ。その様子だともお前も同じみたいだな、カーラン」
ミッドナイトの幹部が勢揃いし、会議を開いていた。
会議といっても幹部は三人……いや厳密には四人だが、ここにいるのは三人だけだ。
一人目は、カーラン。
二人目は、今しがたカーランに話かけられている、ライオンのような特徴を持った怪人、ラオン。
そして、
「それにしても――
三人目は、頬杖を付きながらため息を吐く、蜘蛛のような特徴を持った怪人、スパール。
「その様子じゃ、スパールも収穫無しらしいな、ハッハッハ!」
――
魔法少女たちが嵜渡を『紺色パーカー人』と名付けている中、ミッドナイト内にて、嵜渡に付けられた
こことは別の世界、マジックワールドにて魔力や魔法を行使する者は『魔道士』と呼ばれる。
先日の嵜渡は紺色の外套を纏っていたため、ミッドナイト内にてそう呼ばれるようになったのだが……、
「……紺衣の魔道士って奴は、本当にマジックワールドから来たのか?」
「? どういう事だ?」
「今のマジックワールドは、魔女様の命でカーランが魔力を吸い上げた事によって、魔道士どもは衰弱しきってるだろ?
……その世界からやって来た奴が、カーランを退けるほどの力を発揮できるとは思えねえんだけど?」
「……じゃあ何? 貴方はワタシを退けた奴がこっちの世界に住んでる人間だとでも言いたいの?」
「まさか。こっちの世界の奴らは魔力が『ある』だけで『使える』技術はない。
……ただ、今のマジックワールドから来た奴にしちゃあ随分と強いなと思っただけだ」
ミッドナイト内でも答えは出ない。
いや、今の段階では誰であろうと答えを持ち得ない……たとえ、
「とにかく、次に会った時にも警戒は怠るな。僅かな油断が命取りになるぞ」
◆
「嵜渡ー、飲み物取ってー」
「……(飲み物を渡す)」
「嵜渡ー、何かお菓子あるー?」
「…………(お菓子を渡す)」
「嵜渡ー、今日の夕飯ってなにー?」
「………………あのさ」
「?」
「――自分の部屋で
何で俺の部屋で自由気ままに寝転がってんだよ!?」
影宮家の二階、嵜渡の部屋にてようやくのツッコミが炸裂した。
初めての戦闘から三日が経ち、影宮家が二人の活動拠点となった。
「えぇー、ダメー?」
「別にダメじゃないけど、ずっと部屋にいるってのは、その……流石に……」
「? なんか頬赤いよ、どうしたの?」
「っ! い、いや、何でもない……っ!
と、とにかく。ずっとはダメだ、いいか?」
……わかった~。と、気だるげな声を出しながら立ち上がる。
「……まだ三日くらいだけど、ミッドナイトに動きはないわね。それほどあんたを警戒してるってことだと思うけど」
「俺を?」
「そりゃそうでしょ。
あんたはわたしにとっても、魔法少女にとっても、ミッドナイトにとっても完全なるイレギュラー。
未知のモノに警戒するのは生き物なら当然の事よ」
ずっと横になっていたからか、ん~! と背中を伸ばしながらリナは言う。
「……なぁ、俺たちが第三勢力としてやっていく事はわかってるけどさ、魔法少女たちには伝えてもいいんじゃないのか?」
「それは極力しない方がいいわ。
正体不明で、何処とも繋がっていないからこそ『動きやすいし』、繋がりが『弱点』になることもない。
あくまで別の勢力として活動するからこそ、別のところから『情報が漏れる』心配もない」
「……お前、意外と考えてるんだな?」
「“意外と”は余計よ……だから嵜渡、わたしはともかく、あんたは正体がバレないように気をつけてね。
あんたの紺色の外套、フードが付いてるから、戦闘の際には前みたいに深く被っておいて」
言って、リナは嵜渡の部屋を
「……」
部屋に一人になった後。
嵜渡は机へと向かい、
そこには……嵜渡を含めた三人家族の写真があった。
(父さん、母さん……俺、とんでもない事に首を突っ込んだよ)
(見守ってて……絶対に生きて帰ってくるから)
当時の父も母も家も、全てが失くなった際に、唯一残った
昔の家族への会話が終わると、写真を優しく机に伏せて、嵜渡は夕飯の準備に取り掛かった。
【用語解説】
『マジックワールド』
こことは違う別の世界。
『魔力』
マジックワールドのみならず、こちらの世界の者たちも保有しているエネルギー。
しかしあくまで保有しているだけであり、魔力を感じることも、行使する技術もこちらの世界の者たちは所持していない。
『魔法』
魔力を消費して行使する神秘。
『魔道士』
魔力や魔法を行使する者たち。
マジックワールドには存在しているが、こちらの世界には存在していない。
『過去の家族写真』
嵜渡の部屋に飾ってある写真。
一〇年前、当時の嵜渡が親も家も失った際に唯一残ったもの。
今の自分は、
『昔の家族の写真を見えるように飾っているのは、今の家族に失礼だ』と思い、いつもは見えないように伏せている。
……それでも昔の家族を見たい時には少しだけ起こしている。